食事と顎関節症の関係 — 東洋医学と現代栄養学の視点から
こんにちは、常若整骨院院長の冨高誠治です。今回は、顎関節症と日々の食事の関係について詳しくお話ししていきます。私たちが口にする食べ物は、単に栄養を摂取するだけでなく、顎関節の健康に様々な面で深く関わっています。
東洋医学の知恵と現代栄養学の知見を融合させながら、顎関節症と食事の関係性、そして症状改善に役立つ食事法についてご紹介します。
顎関節症と食事の意外な関係性
顎関節症と食事の関係は、一般的に考えられている以上に複雑で多面的です。両者の関わりは大きく分けて以下の側面があります。
1. 物理的な関係 — 咀嚼と顎への負担
顎関節症における最も直接的な食事の影響は、咀嚼(そしゃく)の際の顎への物理的負担です。私たちが食べ物を噛む時、顎関節には大きな力がかかります。
硬い食べ物と顎の負荷
通常の噛む力は平均して70〜80kg/cm²程度ですが、特に硬い食べ物を噛む際には、この2〜3倍の力が顎関節にかかることもあります。顎関節症の方が硬いものを噛むと痛みが増す理由はここにあります。
「フランスパンやせんべいなどの硬い食べ物は、顎関節がすでに炎症状態にある方にとって、さらに刺激となり症状を悪化させることがあります」
咀嚼回数の減少と現代食
現代の食生活では、やわらかく加工された食品が増え、咀嚼回数が大幅に減少しています。伝統的な日本食では一食あたり約600〜800回の咀嚼が必要でしたが、現代の食事では平均200〜300回程度まで減少しています。
これにより、顎の筋肉が十分に発達せず、適切なバランスが保てなくなっています。結果として、顎関節に不自然な負担がかかりやすくなり、顎関節症のリスクが高まっています。
「適度な咀嚼は顎の筋肉をバランスよく鍛え、関節の安定性を高めます。しかし現代人の多くは十分な咀嚼運動が不足しているのです」
2. 栄養学的な関係 — 炎症と修復のバランス
顎関節症は、その多くが関節周囲の炎症を伴います。食事内容は体内の炎症レベルに大きく影響するため、摂取する食品によって症状の悪化や改善が左右されます。
炎症を促進する食品
以下の食品は体内の炎症反応を高め、顎関節症の症状を悪化させる可能性があります:
- 精製糖 — 血糖値の急上昇を引き起こし、炎症性サイトカインの分泌を促進します
- トランス脂肪酸 — 加工食品や揚げ物に含まれ、全身の炎症レベルを上昇させます
- 過剰なオメガ6脂肪酸 — 一部の植物油に多く含まれ、バランスを欠くと炎症を促進します
- グルテンやカゼイン — 特定の個人では、これらのタンパク質が炎症反応を引き起こすことがあります
「隠れた砂糖や添加物を含む加工食品の増加は、現代人の体内炎症レベルを押し上げ、様々な炎症性疾患のリスクを高めています」
抗炎症作用のある食品
一方、以下の食品には抗炎症作用があり、顎関節症の炎症を緩和する可能性があります:
- 生姜 — ジンゲロールなど強力な抗炎症成分を含みます
- ターメリック(ウコン) — クルクミンという抗炎症成分が豊富です
- オメガ3脂肪酸 — 青魚や亜麻仁油などに含まれ、炎症を抑制します
- ベリー類 — アントシアニンなどの抗酸化物質を豊富に含み、炎症を抑えます
- 緑茶 — カテキンなどのポリフェノールが炎症を抑制します
「食事は顎関節症の『原因』にも『治療』にもなり得るのです。何を食べるかによって、炎症レベルが変化するからです」
3. 東洋医学的な観点 — 「気」と「血」への影響
東洋医学では、食べ物はそれぞれ独自の性質と「気」のエネルギーを持つと考えられています。食材の選択によって、体内の気と血の流れが変化し、顎関節の状態にも影響を与えます。
肝気の滞りを改善する食材
東洋医学では、顎関節症は肝の気の滞りと関連していることが多いです。以下の食材は肝の気の流れを改善し、顎の緊張を和らげる効果が期待できます:
- 柑橘類 — 特にレモンやグレープフルーツは肝の気の停滞を解消します
- ミント — 肝の気の流れを促進し、筋肉の緊張を緩和します
- 玄米 — バランスの取れた気を提供し、肝の機能を助けます
- 葉物野菜 — 春の若い緑の野菜は肝の気を調和させます
「東洋医学では『肝は筋を支配する』と言われています。肝の気の流れがスムーズになれば、全身の筋肉、特に顎周辺の緊張も和らぎます」
腎の気を補う食材
長期間の顎関節症や年齢による症状には、腎の気を補うことが重要です:
- 黒豆 — 腎の気を強化し、骨や関節の健康をサポートします
- クルミ — 形が脳に似ていることから脳を養うと考えられ、腎の気も補います
- 黒ごま — 腎の精を補い、骨を強化します
- 魚類 — 特に深海魚は腎の気を補い、関節の潤滑を助けます
「腎は骨を司るため、腎の気が充実すると顎関節の構造的な健康も向上します。これは特に加齢による顎関節症に効果的です」
4. 自律神経と食事の関係
顎関節症は自律神経の乱れとも密接に関連しています。食事内容は自律神経のバランスに直接影響するため、顎関節症の症状にも関わってきます。
交感神経を過剰に刺激する食品
- カフェイン — コーヒー、紅茶、エナジードリンクなどに含まれ、交感神経を興奮させます
- 精製糖 — 血糖値の急激な変動により、自律神経のバランスを乱します
- アルコール — 一時的にリラックス効果があるようにも感じますが、長期的には自律神経を乱します
- 化学添加物 — 特に人工甘味料や保存料は神経系に刺激を与えることがあります
「交感神経が優位になると、顎の筋肉の緊張が高まり、無意識の食いしばりや歯ぎしりが増加します」
副交感神経を促進する食品
- トリプトファンを含む食品 — バナナ、七面鳥、乳製品などはセロトニン産生を介してリラックス効果をもたらします
- マグネシウムが豊富な食品 — ほうれん草、アーモンド、アボカドなどは筋肉の緊張を緩和します
- ビタミンBが豊富な食品 — 全粒穀物、豆類、緑葉野菜は神経系の健康をサポートします
- GABA前駆体を含む食品 — 発酵食品は神経伝達物質GABAの産生を助け、リラックス効果があります
「食事による自律神経の調整は、顎関節症の基盤にある緊張状態を解消するのに役立ちます」
顎関節症の改善に役立つ具体的な食事法
これまでの知見を踏まえて、顎関節症の方に特にお勧めしたい具体的な食事法をご紹介します。
1. 抗炎症食を基本にした食事計画
一日のメニュー例
朝食:
- 自家製グラノーラ(オーツ麦、アーモンド、亜麻仁、シナモン)
- 無糖ヨーグルト
- ブルーベリーやラズベリーなどのベリー類
- 緑茶
昼食:
- 鮭とアボカドのサラダ(オメガ3脂肪酸と良質な脂質)
- 玄米ご飯(適量)
- 季節の蒸し野菜
- 生姜入りの味噌汁
夕食:
- 蒸し野菜と豆腐の温野菜
- 小さめの魚の煮付け(青魚がベスト)
- 玄米または雑穀米(少量)
- ターメリック入りのスープ
間食:
- くるみやアーモンド(少量)
- フレッシュフルーツ
「この食事パターンは炎症を抑え、顎関節の回復をサポートします。特に就寝前の重い食事は避け、消化にエネルギーを使い過ぎないようにしましょう」
2. 東洋医学の視点に基づいた食養生
東洋医学では、体質や症状に合わせた食事法が推奨されます。以下は顎関節症の主な東洋医学的パターンと、それに適した食事法です:
肝気鬱結(かんききつけつ)タイプの場合
- 特徴:ストレスが多く、イライラしやすい、筋肉が緊張しやすい
- 推奨食材:柑橘類、ミント、春菊、セロリ、玄米
- 避けるべき食材:揚げ物、脂っこいもの、アルコール、辛すぎる食品
腎気不足(じんきぶそく)タイプの場合
- 特徴:慢性疲労、腰や膝の弱さ、年齢による顎の症状
- 推奨食材:黒豆、黒ごま、くるみ、ほうれん草、海藻類、魚類
- 避けるべき食材:冷たすぎるもの、生野菜の過剰摂取、アイスクリーム
脾胃虚弱(ひいきょじゃく)タイプの場合
- 特徴:消化不良、だるさ、思考力の低下、顎の筋力低下
- 推奨食材:かぼちゃ、さつまいも、大根、リンゴ(調理したもの)、発酵食品
- 避けるべき食材:冷たい食べ物、生野菜の過剰摂取、乳製品(特に冷たいもの)
「東洋医学では個人の体質に合った食事が最も重要です。同じ顎関節症でも、体質によって適した食材が異なることを理解しましょう」
3. 顎に優しい食事の調理法と食べ方
顎関節症の方は、食事の内容だけでなく、調理法や食べ方にも注意が必要です。
調理法のポイント
- 適度な柔らかさに調整する — 極端に硬くも軟らかすぎもしない、程よい固さが理想的です
- 蒸す・煮る — 食材が自然な柔らかさになり、栄養素も保持されます
- 細かく刻みすぎない — 適度な咀嚼は顎の筋肉のトレーニングになります
- 温かいものを中心に — 体を冷やさない温かい料理が基本です
「極端に柔らかい食事だけを続けると顎の筋肉が弱まり、かえって症状が悪化することもあります。適度な咀嚼は必要なのです」
食べ方のポイント
- ゆっくり、意識的に噛む — 一口30回を目標に、意識的に咀嚼します
- 左右均等に噛む — 片側だけで噛む癖があれば、意識して両側を使います
- 食事中はリラックス — テレビやスマホを見ながらではなく、食事に集中します
- 適切な姿勢で食べる — 猫背や前かがみではなく、背筋を伸ばして食べます
- 規則正しい食事時間 — 不規則な食事は自律神経のバランスを崩します
「食べ方を変えるだけで、顎関節への負担は大きく変わります。特に『意識して噛む』ことは重要です」
顎関節症に関わる栄養素と食品選択
顎関節症の改善に特に重要な栄養素とその食品源をご紹介します。
1. コラーゲンとその前駆体
顎関節の軟骨や靭帯の健康には、コラーゲンが重要です。
- ビタミンC — コラーゲン生成に不可欠(柑橘類、キウイ、パプリカなど)
- プロリン — コラーゲンの主要アミノ酸(卵、乳製品、アスパラガスなど)
- グリシン — コラーゲンの主要アミノ酸(ゼラチン、骨スープなど)
- 銅 — コラーゲン形成に必要なミネラル(カカオ、ナッツ、貝類など)
「特に『骨スープ』は東洋医学でも珍重される食材で、コラーゲンだけでなく、様々なミネラルを含み、顎関節の健康をサポートします」
2. 抗炎症性栄養素
- オメガ3脂肪酸 — 強力な抗炎症作用(青魚、亜麻仁油、チアシードなど)
- クルクミン — ターメリックの主成分で抗炎症作用(カレーやターメリックティーなど)
- ショウガオール — 生姜の成分で抗炎症作用(新鮮な生姜、生姜紅茶など)
- ケルセチン — 抗酸化・抗炎症作用のあるフラボノイド(タマネギ、リンゴ、ブロッコリーなど)
「特に生姜は東洋医学でも『発散』の作用があり、気の停滞を解消して炎症を鎮める効果があります」
3. 筋肉のリラックスに関わる栄養素
- マグネシウム — 筋肉の緊張を緩和(緑葉野菜、ナッツ類、全粒穀物など)
- カリウム — 筋肉の正常な機能に必要(バナナ、アボカド、ジャガイモなど)
- ビタミンB群 — 神経系の健康に必要(全粒穀物、卵、緑葉野菜など)
- GABA — リラックス効果のある神経伝達物質(発酵食品、玄米など)
「特にマグネシウムは現代人に不足しがちなミネラルで、顎の筋肉の緊張緩和に重要な役割を果たします」
4. 避けるべき食品と代替案
避けるべき食品:
- 加工糖 → 代替:ステビア、少量の蜂蜜、果物の自然な甘み
- トランス脂肪 → 代替:オリーブオイル、アボカドオイル
- 過剰なカフェイン → 代替:ルイボスティー、玄米茶
- 精製炭水化物 → 代替:全粒穀物、根菜類
- 過剰なアルコール → 代替:ハーブティー、コンブチャ
「食事から『引き算』するだけでなく、栄養価の高い食品で『足し算』することも大切です」
生活リズムと食事のタイミング
顎関節症の改善には、食事の内容だけでなく、いつどのように食べるかも重要です。
1. 体内時計と食事のタイミング
- 朝食 — 軽めでも良いので必ず摂り、体内時計をリセットする
- 昼食 — 最も消化力が高い時間帯なので、主要な栄養を摂る
- 夕食 — 就寝の3時間前までに済ませ、消化負担を減らす
- 間食 — 規則正しく、糖分の急上昇を避ける内容に
「食事の時間が不規則だと自律神経のバランスが乱れ、顎の筋肉の緊張を高める一因となります」
2. 季節に合わせた食材選択
東洋医学では季節ごとに適した食材があると考えます:
- 春 — 肝の気を調和させる若葉野菜や芽もの(春菊、セリ、新玉ねぎなど)
- 夏 — 熱を冷ます性質の食材(きゅうり、すいか、緑豆など)
- 秋 — 肺と大腸を潤す食材(梨、りんご、さつまいもなど)
- 冬 — 腎を温め補う食材(黒豆、くるみ、羊肉など)
「福岡の気候に合わせた食材選びは、体の調和を保ち、顎関節症の予防・改善に役立ちます」
食事療法の実践と継続のポイント
食事改善を続けるためのアドバイスをお伝えします。
1. 段階的な変化を目指す
- いきなり全ての食習慣を変えようとせず、少しずつ改善していく
- まずは「加える」ことから始め、次に「減らす」ことに取り組む
- 1週間に1つの習慣を変えることを目標にする
「変化は小さなステップから。完璧を求めず、継続できる範囲で改善していくことが大切です」
2. 食事日記と症状の記録
- 食べたものと顎の状態の関連を記録する
- 特に症状が悪化した日の食事内容を振り返る
- 定期的に記録を見直し、パターンを見つける
「多くの患者さんが、食事と症状の関連に気づくことで、より積極的に食事改善に取り組めるようになります」
3. ストレスと食事の関係を理解する
- ストレス時の食べ方(早食い、無意識な過食など)に注意する
- 食事の時間はリラックスする時間と考える
- 深呼吸してからゆっくり食事を始める習慣をつける
「食事中のリラックスした状態は、副交感神経を活性化し、顎の緊張緩和にもつながります」
まとめ — 顎関節症と食事の複合的な関係
顎関節症と食事の関係は、単純な「これを食べれば良い」「これを避ければ良い」というものではなく、多面的で個人差もあります。しかし、以下の原則は多くの方に共通して効果的です:
- 抗炎症食を基本に — 自然な食材中心で、加工食品や精製糖を減らす
- バランスの良い咀嚼を心がける — 極端に柔らかいものだけでなく、適度な咀嚼が必要な食事を
- 個人の体質に合わせる — 東洋医学的な体質診断に基づいた食材選択を
- 食べ方と食べるタイミングにも注意 — リラックスした状態でゆっくり食べる
- 継続可能な食習慣の改善 — 急激な変化より持続できる小さな改善を
「食は医なり」という言葉通り、毎日の食事は顎関節症を含む様々な健康問題に大きな影響を与えます。常若整骨院では、整体施術と並行して、個人に合わせた食事アドバイスも提供しています。
顎関節症でお悩みの方は、まずはご自身の食生活を見直してみてください。そして専門的なアドバイスが必要な場合は、ぜひ当院にご相談ください。東洋医学と現代栄養学の知見を融合したアプローチで、あなたの顎関節症改善をサポートします。
※本記事の内容は、個人の体験や感想に基づいています。効果には個人差があり、必ずしも同じ結果が得られることを保証するものではありません。