こだわりが強い患者さんを怒らせずに伝える方法|良くならない人ほど完璧主義という見立て

初診の問診票を受け取ると、びっしり書いてある。食べ物は無添加、洗剤も化粧品も天然由来のものだけ、水は浄水器を二段にして、寝具も替えた。調べられることは全部調べたし、やれることは全部やったという。何院も回ってきたけれど、まだ良くならない。

「これだけやっているのに、なんでなんでしょう」

患者さんの目は真剣です。ベッドの横に立った先生の頭の中では、言葉が二つ並びます。「こだわりを少し緩めてみませんか」と言えば、否定されたと受け取られて、その場の空気が固くなる。かといって、「それはすごいですね」と流せば、また同じ施術を繰り返すだけになる。

どちらも違う気がして、手が止まる。この場面に覚えのある先生は、少なくないと思います。

この記事では、食にも日用品にもこだわっているのに良くならない患者さんに、怒らせず、否定せず、先生の見立てを渡すための順番を書きます。言い回しのテクニックだけの話ではありません。そもそもなぜ、そういう人ほど良くならないのか。そこから整理します。

食も日用品もこだわっているのに良くならない人は、なぜ多いのですか?

こだわりの中身ではなく、こだわらずにいられない状態のほうが、ずれの本体になっていることが多いからです。

私はこれまで25,000人の患者さんに、のべ11万回の施術をしてきました。その中で、はっきり言えることがあります。食にも日用品にも徹底的にこだわって、何院も回って、それでも良くならない人は、うちにもたくさん来ます。珍しい人ではありません。むしろ、そういう人のほうが多いくらいです。

ある日の施術のあと、セミナーで教えている先生から相談を受けました。アトピーで来られた、食も日用品も徹底してこだわっている患者さんのことです。その先生に、私はこう答えました。

「そういう人が、良くならないんですよ。何かがずれているんです。完璧主義すぎるのかもしれない」

食べ物が悪いわけでも、洗剤が悪いわけでもない。もちろん、それらが関係することはあります。ですが、そこを極めても動かないとき、見る場所を変える必要があります。こだわりが強いこと、そのものが、体の緊張になっていることがあるからです。

完璧主義は、体のどこに出るのですか?

力を抜けない体として出ます。呼吸が浅く、肩が上がったまま、休んでいるはずの時間にも気が張っています。

東洋医学の見方では、きっちりすることや、手放せないことは「金」の性質に近いとされます。金は肺と大腸にあたります。大腸は、受け取って、要らないものを外に出す臓器です。手放すことが苦手な人は、この出す働きが乱れやすい。下痢や便秘、おなかの張り、皮膚の乾燥や炎症として出る人がいます。

もう一つ、気を使いすぎる人は、気が外に向けて張りっぱなしになります。周りに目を配り続けると、内側が空になる。眠りが浅くなる。疲れが抜けない。

ここで大事なのは、これを患者さんの性格の欠点として扱わないことです。真面目で、手を抜かず、自分の体のことをここまで調べられる。本来は強みです。その強みが、いまは体を締めつけるほうに働いているだけです。

先生が最初に決めておくことは、これです。この患者さんは、頑張りが足りない人ではない。頑張りすぎて、緩め方を知らない人です。

「こだわりすぎです」と言うと、なぜ怒らせてしまうのですか?

こだわりは、その人が何年もかけて積み上げた、自分を守る手段だからです。

何院も回って、本を読み、食事を変え、日用品を替えてきた。その時間と労力を、一言で「やりすぎ」と言われたら、否定されたと感じるのが自然です。しかも多くの場合、その人は、これまで誰にも責められずに頑張ってきたわけではありません。家族に「気にしすぎ」と言われ、前の院で「ストレスですね」と言われ、それでも続けてきた。

そこへ施術者が同じ言葉を言うと、「ああ、この先生もか」となります。内容が正しいかどうかは、関係ありません。伝わる前に、閉じてしまいます。

ですから、怒らせないための第一歩は、言い方の工夫ではなく、こだわりを一度、正面から受け取ることです。

こだわりを否定せずに受け取るには、どうすればよいですか?

こだわりをやめる話にせず、頑張ってきた事実を先に認める言葉から入ります。

たとえば、問診で食事や日用品の話が出てきたときに、こう返します。

「ここまで調べて、続けてこられたんですね。大変だったと思います」

評価でも、アドバイスでもありません。受け取っただけの一言です。患者さんの肩が、ほんの少し下がるのが見えることがあります。ここで初めて、次の言葉を聞く準備ができます。

ここで気をつけたいのは、「すごいですね」と持ち上げすぎないことです。持ち上げると、その努力をもっと続けなければならない気持ちを強めてしまうことがあります。受け取る。労う。そこまでで足ります。

初診のとき、私が患者さんにまずやるのは、体を整える前に「ここまでよく頑張ってこられましたね」と労うことです。見立ての話は、そのあとです。

怒らせずに「ずれの場所」を渡すには、どんな順番で話せばよいですか?

「やめて」ではなく「足す」から話します。減らす提案は、余裕が出たあとに回します。

これは、私の現場で何度も確かめてきた順番です。

完璧主義で、仕事がどんなに忙しくても家事をきちんとやってしまう患者さんがいました。睡眠時間が減ってきても止められず、体に症状が出ていました。この方に、最初から「家事を減らしてください」と言っても通りません。余裕がない状態では、減らすこと自体が怖いからです。手を抜いた自分を、許せない。

そこで、私が渡した順番はこうでした。

1. まず、睡眠時間を確保してもらう
2. 寝る前の1時間は、お風呂やヨガで体を温めて、ゆるめてもらう
3. 体が温まり、少し余裕が出てきたところで、「忙しい日は、自分のことを最優先にしてください」と伝える
4. 夜の家事を、忙しいときは減らしてもらう

最初の二つは、足す話です。足す話には、罪悪感が生まれません。やることが増えるだけですから、真面目な人ほど受け取れます。実際にこの方は、体が温まって回復する力が上がりました。そのあとで、減らす提案が初めて通りました。

こだわりの強い患者さんにも、同じ順番が使えます。

食事のこだわりを一つも変えなくて構いません。そのかわり、寝る前に息を長く吐く時間を、5分だけ足してみませんか。そう伝えます。こだわりはそのまま。足すものだけ渡す。これなら、否定されたと感じる場所がありません。

それでも、こだわりそのものに触れたいときは、どう言えばよいですか?

「こだわりが悪い」ではなく、「頑張る力を、休む力にも使ってみませんか」という方向に言い換えます。

体が少し緩んで、患者さんが「少し楽になってきた」と話し始めたら、次の段階に進めます。このときの一言は、たとえばこうです。

「ここまで続けられる力は、本当に強みです。今は、その同じ力を、休むことにも少し回せるといいと思っています」

ポイントは三つあります。

一つめ。強みとして認めること。二つめ。やめる話にせず、向きを変える話にすること。三つめ。選ぶのは本人だと、最後まで残すこと。

「こうしてください」ではなく、「こうしてみるのはどうでしょう」と伝えます。完璧主義の人は、指示されると、その指示を完璧にこなそうとして、また頑張りすぎてしまうことがあるからです。

施術者の側は、何を確認しておけばよいですか?

三つあります。いつから張りっぱなしか。休めている時間があるか。周りに頼れているか。

1つめ。いつから張りっぱなしか。生活の中で、緩む時間が一日のうちにあるのか。休日にも仕事や家事のことが頭を離れないのか。

2つめ。休めている時間があるか。寝ているのに疲れが取れないなら、寝る前の過ごし方を見る価値があります。

3つめ。周りに頼れているか。気を使いすぎる人は、自分の体の状態を周りに伝えることが苦手です。現状を周りに伝えて、手伝ってもらう。この一言を、先生が代わりに背中を押すだけで、楽になる人がいます。

過敏性腸症候群の患者さんの中にも、気を使いすぎで完璧主義、ビビりな傾向の強い人が多くいます。根性で頑張りすぎて、おなかの症状が重くなっている人もいます。そういう人に渡すものは、自分を最優先にすることと、周りに現状を伝えて手伝ってもらうことです。食事や生活のこだわりを増やす方向ではありません。

手技を増やす前に、見る順番を変えるとは、どういうことですか?

こだわりの強い患者さんには、技術を足す前に、どこで止まっているかを確かめる順番が要る、ということです。

何院も回ってきた患者さんは、すでにいろいろな手技を受けています。そこへまた新しい手技を足しても、患者さんの体の中で、緩む場所が増えるわけではありません。

私が教えている先生たちに、いつも伝えていることがあります。技術が悪いんじゃない。見る順番が決まっていないだけです。

こだわりの強い患者さんの順番は、こうです。

まず、体の緊張の状態を見る。次に、休める時間があるかを聞く。そのあと、足せるものを一つだけ渡す。余裕が出てから、減らす話をする。

手技の引き出しを増やすより、この順番を先生の中で決めておくほうが、ずっと効きます。同じ患者さんが次に来たとき、どこまで進んで、どこで止まっているのかが分かるからです。外したときも、どこで外したのかが分かります。

伝えるときに、気をつけたい線はありますか?

病気の診断や、食事の完全な否定をしないことです。体の症状が強い場合は、医療機関との併走をすすめます。

アトピーなどの皮膚の症状では、受診を続けながら整体を併用している患者さんも少なくありません。先生の側が「薬をやめたほうがいい」「この食事は意味がない」と言うのは、守備範囲を越えます。

先生ができることは、体の緊張を見て、緩む余白を一緒に作ることです。患者さんが自分で選んだ食事や日用品は、否定せず、そのまま置いておく。急な悪化、強い痛み、発熱など、気になるサインがあるときは、受診をすすめる。この線を守っているほうが、患者さんの信頼も、先生自身の守りも強くなります。

通ってくれなくなったらどうしよう、という不安はどう扱えばよいですか?

不安は、否定を恐れる気持ちの裏返しです。受け取る順番を守れば、離れにくくなります。

こだわりの強い患者さんは、否定されたと感じると、静かに来なくなることがあります。クレームも言わずに、予約が入らなくなる。それが怖くて、言いたいことを飲み込んでしまう先生も多いと思います。

ですが、否定せず、足す話から入り、選ぶのは本人だと残す。この形で伝えていれば、少なくとも「この先生は分かってくれる」という感覚は残ります。通う理由は、体が少し変わることと、分かってもらえる安心の両方で決まります。

よくある質問

こだわりの強い患者さんには、まず何を言えばよいですか?

まずは「ここまで続けてこられたんですね」と、頑張ってきた事実を受け取る一言です。評価や助言は、そのあとに回します。

完璧主義と判断する目安はありますか?

食事や日用品を細かく管理している、休日も気が抜けない、人に頼るのが苦手、といった話が問診の中に自然に出てくるかどうかを見ます。決めつけず、話の中身から仮説を立てる程度にとどめてください。

「こだわりを緩めて」と言ってはいけませんか?

最初の段階では、おすすめしません。余裕が出る前に減らす話をすると、否定と受け取られやすいです。足す話から入り、体が緩んでから触れるほうが通りやすくなります。

食事や日用品へのこだわりは、まったく意味がないのですか?

意味がないとは言いません。関係することもあります。ただ、そこを極めても動かないときは、緊張の状態や休めているかどうかなど、別の場所を見る価値があります。

患者さんが怒ってしまったら、どうすればよいですか?

その場で説明を重ねず、一度受け止めてください。「そう受け取らせてしまってすみません。頑張ってこられたのは本当に伝わっています」と伝え、話を足す方向に戻します。

足す話として、最初に渡すのは何がよいですか?

睡眠時間の確保と、寝る前の体を温める時間が渡しやすいです。罪悪感が出にくく、実行しやすいので、続きやすくなります。

周りに頼ることを、どう勧めればよいですか?

「今の状態を、ご家族か身近な人に一言だけ伝えてみてください」と、小さな一歩にします。気を使いすぎる人は、頼むことへのハードルが高いので、先生が先に言葉にしてあげると動きやすくなります。

何院も回っている患者さんを、自分の院で受けるのが不安です。

不安は自然です。ですが、技術を足すより、見る順番を決めておくことが先生の支えになります。外れたときにどこで外れたかが分かれば、次の一手を落ち着いて選べます。

症状が重い場合は、整体だけで見てよいですか?

重い場合や、急な変化がある場合は、医療機関への相談をすすめてください。受診と併走しながら、体の緊張を見ていく形が安全です。

現場で使える資料は、どこで受け取れますか?

現場で使う資料を、全部で17本まとめて渡しています。症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文などです。受け取りは公式LINEからどうぞ。

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週に1回、現場の見立てを届けるメルマガ見立てだよりもあります。

こだわりを否定せず、足す話から渡す。余裕が出たら、向きを変える。その順番を決めておくだけで、先生の言葉は届きやすくなります。

この記事は施術者の方に向けたものです。体の症状で困っている方は、医療機関にご相談ください。

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