アトピーに対する東洋医学の考え方 – 症状ではなく人を診る

20年間、気功と東洋医学でアトピーの患者さんと向き合ってきて、つくづく思うことがある。西洋医学と東洋医学、この2つの医学体系は、まるで違う言語で同じ現象を説明しているようなものだ。

根本的な視点の違い

西洋医学では「アトピー性皮膚炎」という病名がついた瞬間、治療のフレームワークが決まってしまう。ステロイド、免疫抑制剤、抗ヒスタミン剤…確かに症状は抑えられるけれど、なぜその人にアトピーが出るのか、なぜ今この時期に悪化するのかという根本的な「なぜ」には答えてくれない。

一方、東洋医学では「アトピー」という病名はあまり重要じゃない。むしろ「その人の体がどういう状態にあるのか」「何が原因でバランスが崩れているのか」を徹底的に探る。

先日来院した中学生の女の子のケースが印象的だった。お母さんは「アトピーを治してください」と言うんだけど、私が最初に聞いたのは「最近、どんなことで悩んでる?」という質問。正直、お母さんは少し戸惑った顔をしていた。

「証」という個別診断の考え方

東洋医学の核心は「証」という概念にある。これは「その人だけの体質・状態」を表す診断名のようなもの。同じアトピーでも、100人いれば100通りの「証」がある。

風熱証(ふうねつしょう) 体に風と熱が侵入した状態。急にアトピーが悪化し、赤みが強く、痒みも激しい。こういう人は大抵、ストレスフルな環境にいることが多い。

血熱証(けつねつしょう) 血に熱がこもった状態。若い人に多く、顔や首に症状が出やすい。夜更かしや辛いものの食べ過ぎが原因になることも。

脾虚証(ひきょしょう) 消化機能が弱っている状態。じくじくした湿疹が特徴で、胃腸の調子も悪いことが多い。

この診断、実は患者さんとの会話の中で見えてくる。「最近、イライラしません?」「お腹の調子はどう?」「夜は眠れてる?」こんな何気ない質問から、その人の「証」が浮かび上がってくる。

気血水理論でアトピーを読み解く

東洋医学の基本概念「気血水」。この3つのバランスがアトピーに深く関わっている。

気(き) 生命エネルギーのようなもの。ストレスで気が滞ると「気滞」という状態になり、イライラや不安感と共にアトピーも悪化する。

25歳のサラリーマンの田中さん(仮名)は典型的な気滞タイプだった。「最近、会社で嫌なことがあって…」と話し始めた途端、首筋を掻き始めた。気の滞りが皮膚症状として現れている瞬間だった。

血(けつ) 血液だけでなく、栄養を運ぶ機能全般を指す。血の流れが悪くなる「瘀血(おけつ)」では、皮膚がくすんで治りにくい湿疹ができやすい。

水(すい) 体液のコントロール機能。水の代謝が悪いと「痰湿(たんしつ)」という状態になり、じくじくした湿疹や浮腫みを伴うアトピーになる。

この3つは相互に影響し合っている。気が滞ると血の流れも悪くなり、水の代謝も落ちる。だから治療では、どこから手をつけるかが勝負どころになる。

五臓六腑とアトピーの関係

東洋医学では内臓の機能をより広く捉える。皮膚のトラブルは特定の臓器と密接に関係している。

皮膚を管理する臓器とされている。呼吸器系が弱い人は、皮膚トラブルも出やすい。実際、喘息持ちの子供にアトピーが多いのは偶然じゃない。

消化吸収を担当。脾が弱ると栄養が皮膚まで届かず、バリア機能が低下する。「胃腸が弱い人はアトピーになりやすい」というのは、東洋医学的には当然の話。

感情とストレスをコントロールする。現代人のアトピー悪化の多くは、この肝の機能異常が関わっている。

免疫力の源。腎が弱ると根本的な治癒力が落ち、アトピーが慢性化しやすくなる。

先ほどの田中さんは、明らかに肝の機能が乱れていた。ストレス→肝気鬱結→気血の流れ悪化→皮膚症状、という典型的なパターン。治療では肝の気を巡らせることから始めた。

陰陽理論から見たアトピーのパターン

陰陽というのは、相対的な概念。体の中でも陰陽のバランスが重要になってくる。

陽証タイプ

  • 炎症が強い
  • 赤みが目立つ
  • 熱感がある
  • 活動的だがイライラしやすい

陰証タイプ

  • 慢性的でじくじくしている
  • 色は白っぽい
  • 冷えやすい
  • 疲れやすく落ち込みがち

面白いのは、同じ人でも状況によって陰陽が変わること。ストレスが強い時期は陽証になり、疲れが溜まると陰証に転じる。だから治療法も状況に応じて変える必要がある。

高校生の佐藤君は受験期に陽証のアトピーが悪化、大学に入って安心したら今度は陰証タイプに変わった。「先生、薬が効かなくなりました」と相談に来た時は、思わず「それは当然だよ」と言ってしまった。

外邪理論 – 外からの影響をどう考えるか

東洋医学では、病気の原因を「内因・外因・不内外因」の3つに分ける。アトピーの場合、特に外因の「風・寒・暑・湿・燥・火」という6つの邪気が重要。

風邪(ふうじゃ) 症状が移動したり、急に悪化したりする特徴がある。「昨日は腕だったのに、今日は顔が痒い」というパターン。

湿邪(しつじゃ) じくじくした湿疹を作る。梅雨の時期に悪化しやすいアトピーは、この湿邪が関わっていることが多い。

熱邪(ねつじゃ) 炎症を強くする。夏に悪化するタイプや、辛いものを食べると悪化するケースがこれ。

現代では、これらの邪気に加えて「情志」というストレス要因が非常に大きくなっている。昔の人が想像もしなかった複雑なストレス社会が、アトピーの病態を変化させているのかもしれない。

時間医学としての東洋医学

東洋医学には「子午流注(しごりゅうちゅう)」という時間医学の概念がある。1日24時間を12の時間帯に分け、それぞれに対応する臓器がある。

  • 午後3時〜5時:膀胱経の時間
  • 午後5時〜7時:腎経の時間
  • 午後7時〜9時:心包経の時間

アトピーの痒みが特定の時間に強くなる患者さんがいる。午後5時頃に決まって痒くなる人は腎機能、夜9時頃なら心包(循環器系)に問題がある可能性が高い。

30代の主婦、山田さんは毎晩11時頃になると猛烈に痒くなって眠れなくなった。この時間は「胆経」の時間。ストレスで肝胆の機能が乱れていたのが原因だった。

季節と体質の関係

東洋医学では季節の変化も重要な要素として考える。

春(肝の季節) 気が上昇しやすく、肝機能が活発になる。この時期にアトピーが悪化する人は、肝の気が過剰になっている可能性がある。

夏(心の季節) 陽気が最高潮に達する。熱証タイプのアトピーが悪化しやすい時期。

秋(肺の季節) 乾燥の季節。肺と表裏関係にある皮膚が影響を受けやすい。

冬(腎の季節) 陽気が内に潜む時期。免疫力が低下し、慢性的なアトピーが悪化することも。

季節の変わり目にアトピーが悪化する人が多いのは、体がその季節の気候変化についていけないから。体質に合わせた季節対策が重要になってくる。

食事と薬膳の考え方

東洋医学では食べ物も薬と同じように考える。「薬食同源」という言葉があるように、毎日の食事が治療の一部になる。

アトピーに良いとされる食材

  • 緑豆:熱を取り除く
  • はと麦:湿を取り除く
  • 黒きくらげ:血を補う
  • 白菜:体を冷やす
  • 梨:燥を潤す

避けたい食材

  • 海老:発疹を起こしやすい「発物」
  • 鶏肉:体を温めすぎる
  • 辛いもの:熱を生む
  • 甘いもの:湿を生む
  • 冷たいもの:脾胃を傷つける

ただし、これも体質によって変わる。冷え性で陰証タイプの人が体を冷やす食材ばかり摂っていたら、逆効果になってしまう。

感情と五臓の関係

東洋医学では感情と内臓が密接に関係していると考える。

  • 怒り → 肝
  • 喜び → 心
  • 思い悩み → 脾
  • 悲しみ → 肺
  • 恐れ → 腎

アトピーの患者さんを診ていると、確かにこの関係性を感じることが多い。怒りっぽい人は肝タイプのアトピー、くよくよ悩む人は脾タイプのアトピーになりやすい。

逆に言えば、感情をコントロールすることで、アトピーの改善も期待できる。これは現代のストレス医学とも合致する考え方だ。

体質改善という長期的視点

西洋医学が「症状を抑える」ことに重点を置くのに対し、東洋医学は「体質を変える」ことを目指す。

これは時間がかかる作業だ。患者さんには「最低3ヶ月、できれば半年は続けてみてください」とお話しする。初めは「そんなにかかるの?」と驚かれることもあるけれど、根本から変わっていく過程を実感してもらえると、納得してもらえる。

20代のOL、鈴木さんは6ヶ月かけて見違えるように変わった。「最初は半信半疑でしたが、今では肌のことを気にせず生活できています」と笑顔で話してくれた時は、正直ウルッときた。

現代社会での東洋医学的アプローチ

現代のアトピー患者さんには、昔にはなかった特徴がある。

  • 情報過多によるストレス
  • 不規則な生活リズム
  • 化学物質への曝露
  • 運動不足
  • 対人関係の複雑化

これらの現代的要因を、古典的な東洋医学理論でどう理解するか。これが我々現代の東洋医学従事者の課題でもある。

私は「現代の邪気」という表現を使うことがある。スマホの電磁波、大気汚染、食品添加物…これらも広い意味での邪気として捉え、対策を考える必要がある。

統合医療としての可能性

東洋医学は西洋医学を否定するものではない。両者の良いところを組み合わせることで、より良い治療ができると考えている。

急性期の強い炎症には西洋薬を使い、慢性期の体質改善には東洋医学を活用する。これが現実的なアプローチだろう。

実際、皮膚科の先生と連携を取りながら治療している患者さんも多い。医療連携が進めば、アトピーで苦しむ人がもっと減るはずだ。

患者さんとの向き合い方

東洋医学的なアプローチで最も大切なのは、患者さんとの対話だと思う。症状だけでなく、その人の生活、感情、環境すべてを理解しようとする姿勢。

「なぜこの人にアトピーが出るのか」「なぜ今この時期に悪化したのか」「この人にとって本当に必要な治療は何か」

これらの問いに答えるためには、その人の人生そのものに向き合う必要がある。時には治療者の枠を超えて、人生相談のようになることもある。

でも、それでいいと思っている。病気は生き方の現れでもあるから。

あなたは自分のアトピーについて、どんな風に感じているだろうか? 😊