アトピーと内臓疲労の密接な関係 – 皮膚は内臓の鏡
20年間、アトピーの患者さんを診てきて確信していることがある。皮膚に現れる症状は、単なる表面的な問題じゃない。むしろ「内臓からのSOS」と考えた方が、治療の糸口が見えてくる。
皮膚と内臓の見えない絆
西洋医学では皮膚科は皮膚科、内科は内科と縦割りで考えがちだけど、東洋医学では体を一つのシステムとして捉える。特に皮膚と内臓の関係は想像以上に深い。
先日、28歳の会社員の佐藤さん(仮名)が来院した。顔全体に赤い湿疹が広がっていて、「もう3年間ステロイドを使っているけど良くならない」と困り果てていた。
問診で分かったのは、毎朝コーヒーを5杯飲む習慣、夜中の2時まで残業、昼食はコンビニ弁当が7日中6日という生活。「先生、これって関係あるんですか?」と聞かれた時、思わず「大ありです」と即答してしまった。
消化器系の疲労とアトピーの関係
東洋医学では消化器系を「脾胃(ひい)」と呼ぶ。この脾胃の働きが落ちると、皮膚トラブルが起きやすくなる。
脾胃が疲れる原因
- 暴飲暴食
- 冷たいものの摂りすぎ
- 不規則な食事時間
- ストレス
- 甘いものの過剰摂取
現代人の生活を見ていると、脾胃に負担をかけることばかりしている。朝は時間がないからパンとコーヒーだけ、昼は急いでかき込むように食べ、夜は遅い時間に重い食事。これでは脾胃が悲鳴を上げても仕方ない。
脾胃が疲れると「湿濁(しつだく)」という老廃物が体内に溜まる。この湿濁が皮膚に現れたのが、じくじくしたアトピーの正体だ。
佐藤さんの場合、明らかに脾胃虚弱タイプだった。舌を見ると白くて厚い苔がびっしり。これは湿濁が溜まっている典型的なサイン。治療では胃腸の機能回復から始めることにした。
肝臓の疲労が引き起こすアトピーパターン
東洋医学でいう「肝」は、西洋医学の肝臓よりもっと広い概念。血液の貯蔵、感情のコントロール、気の巡りの調整など、多岐にわたる機能を担っている。
現代人の肝は本当に疲れている。アルコール、薬剤、化学物質の解毒処理に追われ、さらにストレス処理まで押し付けられている。こんな状況では肝が疲労困憊になるのも当然だ。
肝が疲れると「肝気鬱結(かんきうっけつ)」という状態になる。気の流れが滞って、イライラしやすくなり、皮膚にも影響が出る。
35歳の主婦、田中さんのケースが典型的だった。「最近、子供にすぐ怒ってしまって、その後にアトピーが悪化するんです」と相談に来た。話を聞くと、夫の単身赴任で一人で2人の子育て、義母の介護も重なり、ストレスが限界に達していた。
田中さんの肝は完全にオーバーワーク状態。治療では肝の疲労回復とストレス軽減を同時に進めた。3ヶ月後、「イライラが減って、肌の調子も良くなりました」と笑顔で報告してくれた時は、正直ホッとした。
腎臓系の疲労と慢性アトピー
東洋医学の「腎」は生命力の源とされる。免疫力、ホルモンバランス、水分代謝など、根本的な体力を司っている。
腎が疲れると体の根本的な治癒力が落ちる。だからアトピーが慢性化したり、治療への反応が悪くなったりする。
腎を疲れさせる要因
- 慢性的な睡眠不足
- 過度な性生活
- 長期間のストレス
- 加齢
- 先天的な体質
40代の男性、山田さんは典型的な腎虚タイプだった。IT関係の仕事で毎日終電帰り、睡眠時間は平均4時間。20代の頃からのアトピーが40歳を過ぎて急激に悪化した。
「若い頃は徹夜しても平気だったのに…」と嘆く山田さん。腎の機能低下により、体の修復力が追いついていない状態だった。
治療では腎の機能回復を最優先に、生活習慣の根本的な見直しから始めた。睡眠時間を6時間確保、週2回の軽い運動、腎を補う食材の摂取。半年かけてじっくり取り組んだ結果、アトピーの症状は見違えるほど改善した。
肺の疲労と皮膚バリア機能
東洋医学では肺が皮膚を管理していると考える。肺の機能が落ちると、皮膚のバリア機能も低下する。
現代人の肺は常に過酷な環境にさらされている。大気汚染、タバコの煙、エアコンによる乾燥、ストレスによる浅い呼吸。これらが積み重なって肺の機能を低下させている。
22歳の大学生、鈴木君のケースが印象的だった。東京に出てきてから急にアトピーが悪化したという。話を聞くと、実家は山間部で空気がきれいな環境。東京の空気の悪さと、一人暮らしのストレスが重なって肺の機能が低下していた。
治療では肺の機能回復に重点を置いた。深呼吸の練習、部屋の空気清浄、肺を潤す食材の摂取。「空気のきれいな実家に帰った時のような感覚になってきました」と言ってくれた時は、治療の方向性が正しかったと確信した。
心の疲労とアトピーの悪化
東洋医学の「心」は循環器系だけでなく、精神活動も司る。心が疲れると血液循環が悪くなり、皮膚の新陳代謝にも影響する。
現代社会は心への負担が本当に大きい。SNSによる情報過多、人間関係のストレス、将来への不安。24時間休むことなく心に刺激が与えられている。
30代の看護師、渡辺さんは夜勤が多く、不規則な生活でアトピーが悪化していた。「患者さんのケアで精一杯で、自分のことは後回しになってしまって…」と疲れ切った表情で話してくれた。
心の疲労による「心血虚(しんけっきょ)」の状態。血液の質と量が不足して、皮膚に栄養が届かない状況だった。治療では心の機能回復と、質の良い睡眠の確保を重視した。
内臓疲労のサインを見逃すな
内臓が疲れているサインは、皮膚症状以外にもたくさんある。
消化器系の疲労サイン
- 食後の眠気
- お腹の張り
- 下痢と便秘の繰り返し
- 舌の白い苔
- 口臭
肝系の疲労サイン
- 目の疲れ
- イライラしやすい
- 爪が割れやすい
- 筋肉のこわばり
- 頭痛
腎系の疲労サイン
- 慢性的な疲労感
- 腰痛
- 頻尿または乏尿
- 白髪の増加
- 記憶力の低下
肺系の疲労サイン
- 息切れしやすい
- 声がかすれる
- 鼻水、鼻づまり
- 肌の乾燥
- 悲しい気持ちになりやすい
心系の疲労サイン
- 動悸
- 不眠
- 健忘
- 顔色が悪い
- 胸の苦しさ
これらのサインを早めにキャッチして対処することで、アトピーの悪化を予防できる。
食事による内臓ケアの実践
内臓疲労の回復には、食事療法が欠かせない。
脾胃を労わる食事
- 温かいものを中心に
- よく噛んでゆっくり食べる
- 腹八分目を心がける
- 消化の良い食材を選ぶ(お粥、蒸し野菜、白身魚など)
肝を労わる食事
- 緑色の野菜を多く(ほうれん草、小松菜、ブロッコリー)
- 酸味のある食材(梅干し、酢の物、柑橘類)
- アルコールを控える
- 規則正しい食事時間
腎を労わる食事
- 黒い食材(黒豆、黒ごま、ひじき、きくらげ)
- 温性の食材(羊肉、えび、にら、しょうが)
- 塩分を控えめに
- 冷たい飲み物を避ける
肺を労わる食事
- 白い食材(大根、れんこん、白きくらげ、梨)
- 潤いのある食材(蜂蜜、银耳、ゆり根)
- 辛すぎるものを控える
- 水分をこまめに補給
心を労わる食事
- 赤い食材(トマト、人参、赤身の魚)
- 苦味のある食材(ゴーヤ、緑茶、セロリ)
- 刺激物を控える
- リラックスして食事する
生活習慣での内臓ケア
食事以外でも、内臓疲労の回復に効果的な方法がある。
睡眠の質を上げる 23時には床に就き、7時間は睡眠を確保する。寝室の環境を整え、寝る前のスマホは控える。
適度な運動 激しい運動は逆に内臓に負担をかける。ウォーキング、太極拳、ヨガなどの穏やかな運動が効果的。
ストレス管理 瞑想、深呼吸、好きな音楽を聴くなど、自分なりのリラックス法を見つける。
規則正しい生活リズム 起床・就寝時間、食事時間を一定にして、体内時計を整える。
気功による内臓機能の回復
気功は内臓疲労の回復に非常に効果的だ。特に「内養功(ないようこう)」という気功法は、内臓の気を巡らせる効果がある。
基本的な内養功のやり方
- 楽な姿勢で座る
- 両手を下腹部に当てる
- ゆっくりと腹式呼吸をする
- 息を吸いながら、手から温かい気が内臓に入っていくイメージ
- 息を吐きながら、疲労や老廃物が出ていくイメージ
毎日15分続けるだけで、内臓の機能が改善されていく。患者さんにも必ず指導している方法だ。
漢方薬による内臓サポート
体質に合った漢方薬も内臓疲労の回復に役立つ。
脾胃虚弱には 六君子湯、補中益気湯など
肝気鬱結には 疏肝散、四逆散など
腎虚には 六味丸、八味丸など
肺気虚には 補肺湯、玉屏風散など
心血虚には 甘麦大棗湯、帰脾湯など
ただし、漢方薬は体質診断が重要なので、必ず専門家に相談してほしい。
季節と内臓疲労の関係
季節によって疲れやすい内臓が変わる。
春(肝の季節) 新生活のストレスで肝が疲れやすい。この時期にアトピーが悪化する人は肝のケアを重点的に。
夏(心の季節) 暑さで心に負担がかかる。冷房による冷えにも注意。
秋(肺の季節) 乾燥で肺が疲れやすい。保湿とうるおい補給が大切。
冬(腎の季節) 寒さで腎機能が低下しやすい。温活を心がける。
季節に合わせたケアをすることで、内臓疲労を予防できる。
内臓疲労回復の目安
内臓疲労が回復してくると、様々な変化が現れる。
- 朝の目覚めが良くなる
- 食欲が安定する
- 便通が改善する
- 疲れにくくなる
- 気持ちが前向きになる
- そして、アトピーの症状も軽くなってくる
これらの変化を感じられるまでには、最低でも3ヶ月はかかる。根気よく続けることが大切だ。
予防が最も重要
内臓疲労は一度起こってしまうと、回復に時間がかかる。だからこそ、予防が何より大切。
日頃から内臓に負担をかけない生活を心がけ、疲労のサインを見逃さないこと。そして定期的なメンテナンスを欠かさないこと。
アトピーと内臓疲労の関係を理解して、根本的なケアを始めてみませんか? 😊
あなたの内臓は今、どんな状態だと思いますか?