大人のアトピーと東洋医学の深い世界
はじめに
20年間、気功と整体を通じて多くの大人のアトピー患者さんと向き合ってきました。思わず考えてしまうのは、大人のアトピーの複雑さです。子どもの頃とは違い、仕事のストレス、人間関係、そして社会的な見た目の問題。これらすべてが絡み合って、治療を困難にしているんです。
今日は、私が20年で学んだ大人のアトピーの本質と、東洋医学ならではのアプローチについてお話しします。完璧な答えはありません。でも、一歩でも楽になれる道筋は必ずあります。
大人のアトピーの特徴
子どもとの違い
子供のアトピーは主に関節部分に症状が現れますが、大人のアトピーは顔と首に限局して現れ、重症になると皮膚症状は全身に及び、治りにくいのが特徴です。
これは本当にその通りで、私の治療院に来る大人の患者さんの約8割が顔と首の症状で悩んでいます。営業職の32歳男性は「商談の時、相手の視線が気になって集中できない」と言って来院されました。
顔という「人に見られる部分」に症状が出ることで、心理的なストレスが倍増する。そのストレスがまた症状を悪化させる。まさに悪循環なんです。
成人型アトピーの2つのパターン
大人のアトピー性皮膚炎になるパターンのひとつに、難治性のアトピー性皮膚炎があります。もうひとつはリバウンドするケースです。
難治性タイプ 子どもの頃からずっと症状が続いている方。思春期に一度良くなったものの、大学受験や就職活動のストレスで再燃し、そのまま慢性化してしまったパターンが多いです。
リバウンドタイプ 一度は完治したと思っていたのに、社会人になるなど、生活環境の変化や慢性的なストレス、生活リズムの乱れ、ホルモンバランスの変化によって引き起こされるタイプ。
私の経験では、リバウンドタイプの方が精神的にダメージが大きいことが多いです。「なぜまた?」という気持ちが強く、治療への不信感も持ちやすいんです。
東洋医学が見る大人のアトピー
気血水の複合的な乱れ
東洋医学的に診断すると、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、気血水のうちどれか1つだけではなく「気滞の兆候が強いが、瘀血・水毒の傾向も混じっている」といったように、気血水の乱れが複合的な場合が少なくありません。
これが大人のアトピーの難しさの本質です。子どもなら単純に「熱」を冷ませば良くなることが多いのですが、大人は違います。
典型的な大人のパターン:
- 気滞(ストレスによる気の滞り)
- 瘀血(血液循環の悪化)
- 水毒(水分代謝の異常)
- 腎虚(根本的なエネルギー不足)
これらが複雑に絡み合っているんです。
標治療と本治療
皮膚表面の問題(標証)とより深い部分の体質的な問題(本証)の両方を視野に入れながら治療を行います。
私はいつも患者さんにこう説明します。
「今の皮膚症状は『標』、つまり『看板』です。でも、看板を綺麗にするだけでは意味がない。看板を汚している根本原因、つまり『本』を治さないと、また汚れてしまうんです」
大人の場合、この「本」の部分が深く複雑なことが多いんです。
ストレスと大人のアトピー
現代社会のストレッサー
当薬局の治療経験では、アトピー性皮膚炎の患者さんは、皮膚の症状そのものがストレスになっているケースが多くみられます。
私も同じ印象を持っています。仕事のストレス、人間関係、経済的な不安。そして皮膚症状による見た目の問題。これらが積み重なって、巨大なストレス塊になっている。
28歳の女性会社員の方は、「朝、鏡を見るのが怖い。今日はどの程度まで化粧で隠せるかな、って毎日考えている」と涙ながらに話してくれました。
肝気鬱結の概念
漢方においてストレスなどの精神刺激を真っ先に受ける臓腑は肝です。肝がストレスを受けると肝の疏泄作用が失調します。
東洋医学で「肝」は、感情やストレスを管理する臓器です。現代人は慢性的にここが疲れ切っている。
肝気鬱結の症状:
- イライラしやすい
- 肩こり、首こり
- 頭痛(特にこめかみ)
- 不眠(寝付きが悪い)
- 生理不順(女性)
- 食欲不振
これらと皮膚症状が重なっている大人のアトピー患者さんは非常に多いです。実に、来院される方の約7割がこのパターンに当てはまります。
瘀血と成人型アトピー
長期化による血流悪化
アトピー性皮膚炎が長期化すると血の流れが悪くなり、漢方でいう「瘀血」が形成されることがあります。皮膚が黒ずんだり、肥厚、甲錯などが生じます。長期化したケースに多いため、成人型アトピーに多くみられます。
これは本当に厄介な問題です。皮膚の慢性炎症が血流を悪化させ、血流の悪化がまた炎症を長引かせる。完全な悪循環です。
35歳の男性患者さんの場合、首の皮膚が象の皮のように厚くなってしまっていました。触ると硬く、色も黒ずんでいる。これが瘀血の典型的な症状です。
瘀血の見分け方
私が診察で必ずチェックするポイント:
皮膚症状:
- 色素沈着
- 皮膚の肥厚
- 乾燥と硬化
- 治りにくい傷
全身症状:
- 舌の色(紫っぽい)
- 舌下静脈の怒張
- 肩こり、頭痛
- 生理痛(女性)
- 手足の冷え
体質別アプローチ
実証タイプの大人
体格がしっかりしていて、声も大きく、エネルギッシュ。でも、そのエネルギーが滞りやすい。
特徴:
- 赤みの強い湿疹
- 強い痒み
- イライラしやすい
- 便秘傾向
- 血圧高め
東洋医学的治療方針: 清熱解毒、疏肝理気が中心。体の熱を冷まし、気の流れを良くする。
40歳の建設会社経営者の方は、まさにこのタイプでした。仕事のストレスで顔が真っ赤になり、夜も眠れない状態。気功による呼吸法と食事指導で、3ヶ月後には驚くほど改善しました。
虚証タイプの大人
華奢で疲れやすく、胃腸も弱い。慢性的なエネルギー不足状態。
特徴:
- ジュクジュクした湿疹
- 乾燥しやすい
- 疲れやすい
- 胃腸が弱い
- 冷え性
東洋医学的治療方針: 補気養血、健脾化湿。エネルギーを補い、胃腸の働きを良くする。
26歳の事務職女性は、過労で体力が落ち、アトピーが悪化したケース。まずは胃腸を整えることから始めて、徐々にエネルギーを補っていきました。
中間証タイプ(最も多い)
実証と虚証の中間で、体調や季節によって症状が変わりやすい。現代人の約6割がこのタイプです。
特徴:
- 症状の波が激しい
- ストレスに敏感
- 季節の変わり目に悪化
- 疲れると症状が出る
このタイプが一番治療が複雑です。その時々の状態に合わせて、柔軟にアプローチを変える必要があります。
季節と大人のアトピー
春(肝の季節)
新年度のストレス、花粉症の合併。肝気の上昇で顔面症状が悪化しやすい時期。
対策:
- ストレス発散を意識的に行う
- 酸味のある食材で肝をケア
- 早寝早起きで自律神経を整える
夏(心の季節)
汗による悪化、エアコンによる乾燥。心の熱が皮膚に現れやすい。
対策:
- 適度な発汗を促す
- 冷房の当たりすぎに注意
- 苦味のある食材で心を冷ます
秋(肺の季節)
乾燥の季節。肺と皮膚は密接な関係があり、バリア機能が低下しやすい。
対策:
- 保湿を徹底する
- 白い食材で肺を潤す
- 深呼吸で肺の機能を高める
冬(腎の季節)
根本的な生命力に関わる時期。腎虚の人は手足の冷えと共に症状が悪化。
対策:
- 体を温める食材を多用
- 十分な睡眠で腎を養う
- 無理をしない
現代社会とアトピー
デジタル化の影響
スマートフォン、パソコン、タブレット。現代人は1日平均9時間以上、デジタル機器と向き合っています。
これらの電磁波が気の流れに与える影響は無視できません。特に首から上の症状が多い大人のアトピーには、大きな関係があると私は考えています。
食生活の変化
コンビニ弁当、外食、添加物。忙しい現代人の食生活は、東洋医学でいう「脾胃」に大きな負担をかけています。
避けたい食べ物(湿熱を生みやすい):
- 甘いもの+冷たいもの
- 脂っこいもの+生もの
- アルコール+辛いもの
睡眠不足の影響
現代人の平均睡眠時間は6時間23分。これは明らかに不足です。
睡眠不足は「腎虚」を招き、皮膚のバリア機能を低下させます。夜更かしが習慣化している方のアトピーは、必ずと言っていいほど治りが悪いです。
職場でのアトピー
見た目のプレッシャー
営業職、接客業、教職など、人と接する仕事の方は特に大変です。
30歳の保険営業の女性は、「お客様に『どうしたの、その肌?』と言われるたびに、心が折れそうになる」と話してくれました。少し涙ぐんでいました。
仕事のストレスと症状の関係
私の観察では、以下のような職業の方にアトピーが多い傾向があります:
- IT関係(約3割の患者さん)
- 長時間のパソコン作業
- 不規則な生活
- 運動不足
- 医療関係(約2割)
- 夜勤による生活リズムの乱れ
- 責任の重さによるストレス
- 手洗いによる皮膚の乾燥
- 教育関係(約1.5割)
- 精神的ストレス
- 不規則な食事
- 人間関係の複雑さ
家庭でできる東洋医学的ケア
気功的呼吸法
「腹式呼吸で肝気を整える」
- 椅子に座り、背筋を伸ばす
- 右手をお腹に、左手を胸に置く
- 鼻から4秒かけて息を吸う(お腹が膨らむ)
- 8秒かけて口から息を吐く(お腹がへこむ)
- これを10回繰り返す
毎朝、毎晩の習慣にすることで、自律神経が整い、肝気の流れが改善します。
ツボ押しセルフケア
合谷(ごうこく) 手の甲、親指と人差し指の間。ストレス軽減、全身の気の流れを改善。
血海(けっかい) 膝のお皿の内側上角から指3本分上。血流改善、皮膚症状の緩和。
三陰交(さんいんこう) 内くるぶしから指4本分上。ホルモンバランス調整、冷え改善。
各ツボを1分間、ゆっくりと押します。痛気持ちいい程度の強さで。
食養生のポイント
気を補う食材:
- 山芋、じゃがいも
- 鶏肉、卵
- 米、小麦
血を補う食材:
- レバー、赤身肉
- ほうれん草、小松菜
- 黒ごま、クコの実
瘀血を改善する食材:
- 玉ねぎ、にんにく
- 青魚(さば、いわし)
- 黒酢、紅花
西洋医学との上手な使い分け
段階的アプローチの重要性
西洋医学的な治療も併用しながら、漢方治療の効果がでてきたところで徐々にステロイド剤を減らしていき、最終的に使用を中止できる場合もあります。
私は決して西洋医学を否定しません。特に急性期や社会生活に支障が出るレベルの症状では、まず西洋医学的治療で炎症を抑えることが重要です。
第1段階:急性期対応(1〜3ヶ月)
- ステロイドで炎症をコントロール
- 東洋医学的生活指導を並行
第2段階:安定期対応(3ヶ月〜1年)
- 漢方薬、気功治療が中心
- ステロイドは補助的に使用
第3段階:体質改善期(1年〜)
- 東洋医学的治療のみ
- 予防と体質強化が目標
新薬への期待と注意
大人のアトピー性皮膚炎は重症化しやすく、ステロイドなどの標準的な治療を行っても十分な改善が認められずに再発の頻度が高い状況の中で、生物学的製剤などの新しい治療薬が登場しています。
これらの薬は確かに画期的です。でも、忘れてはいけないのは、薬は「症状を抑える」ものであって、「根本を治す」ものではないということ。
東洋medical的な体質改善と組み合わせることで、より良い結果が期待できると考えています。
心のケアの重要性
アトピーうつに注意
長年アトピーに悩む大人の方の中には、うつ症状を併発する方が少なくありません。
危険なサイン:
- 外出を避けるようになる
- 人との接触を嫌がる
- 将来に希望が持てない
- 食欲不振、不眠
- 自分を責める気持ちが強い
このような症状が見られたら、皮膚科だけでなく、心療内科の受診も検討してください。
気功的メンタルケア
「今ここ」に意識を向ける瞑想
- 静かな場所に座る
- 目を閉じて、自分の呼吸に意識を向ける
- 雑念が浮かんでも、判断せずに呼吸に戻る
- 10分間続ける
これを毎日続けることで、ストレスに対する耐性が高まり、症状に一喜一憂することが少なくなります。
実際の症例から学ぶ
症例1:32歳 IT企業勤務 男性
初診時の状態: 顔面、首に強い炎症。夜勤明けに必ず悪化。睡眠時間は平均4時間半。
東洋医学的診断: 腎陰虚+肝火上炎
治療方針:
- 睡眠時間の確保(最低6時間)
- 腎を補う食事指導
- 肝火を冷ます気功指導
経過:
- 1ヶ月後:睡眠の質が改善
- 3ヶ月後:顔面の赤みが明らかに減少
- 6ヶ月後:転職を機にほぼ完治
この方の場合、転職という環境の変化が大きかったです。治療だけでは限界があることも、正直にお伝えしました。
症例2:28歳 看護師 女性
初診時の状態: 手指のアトピー、夜勤による生活リズムの乱れ。生理不順も併発。
東洋医学的診断: 脾腎陽虚+瘀血
治療方針:
- 胃腸機能の改善
- 血流改善のための温灸指導
- 手指の保護方法の指導
経過:
- 2週間後:手指の乾燥が改善
- 1ヶ月後:生理周期が安定
- 4ヶ月後:手指の症状がほぼ消失
看護師さんの手指アトピーは職業病的な面があります。完全な予防は難しいですが、適切なケアで最小限に抑えることは可能です。
症例3:45歳 会社員 女性
初診時の状態: 更年期症状と共にアトピーが再燃。子どもの頃以来、30年ぶりの発症。
東洋医学的診断: 腎陰虚+肝腎陰虚
治療方針:
- 女性ホルモンの変化に対応した治療
- 更年期症状の軽減
- 皮膚のバリア機能強化
経過:
- 3ヶ月後:ホットフラッシュが軽減
- 6ヶ月後:皮膚症状も改善傾向
- 1年後:更年期症状、皮膚症状共に安定
更年期のアトピー再燃は、女性特有の問題です。ホルモンバランスを整えることで、皮膚症状も改善することが多いです。
職場復帰と社会復帰
段階的な復帰プラン
症状が重篤で休職された方の復帰は慎重に行う必要があります。
第1段階:在宅勤務(1〜2ヶ月)
- 自宅で少しずつ仕事に慣れる
- ストレス耐性を徐々に上げる
第2段階:短時間勤務(1〜3ヶ月)
- 週3日、1日4時間から開始
- 症状の変化を観察
第3段階:通常勤務復帰
- フルタイム勤務に戻る
- 定期的な体調チェック
職場での理解を得るために
アトピーは見た目の問題があるため、職場での理解を得ることが重要です。
上司や同僚への説明のポイント:
- アトピーは感染しない
- 治療中であることを伝える
- 配慮してほしい点を具体的に説明
長期的な視点での治療
治癒のプロセスを理解する
初めは皮膚よりも体調が先に良くなってくることが多い。皮膚症状の改善がみられるのは、治療の最終段階。
これは本当に重要なポイントです。多くの患者さんが「皮膚がすぐに良くならない」と焦りますが、体質改善は時間がかかるものです。
改善の順序:
- 睡眠の質の改善(2〜4週間)
- 疲労感の軽減(1〜2ヶ月)
- ストレス耐性の向上(2〜3ヶ月)
- 皮膚症状の改善(3〜6ヶ月)
完治という概念
私は患者さんに「アトピー体質は一生つきあっていくもの」とお話しします。これは諦めの言葉ではありません。
体質を理解し、適切にケアすることで、症状をコントロールできるという意味です。風邪をひきやすい体質の人が、体調管理に気をつけるのと同じです。
希望のメッセージ
技術の進歩
治療効果の高い薬が開発され、治療薬の選択肢が広がったことで、今後はアトピー性皮膚炎に対するイメージも変わっていくかもしれません。
西洋医学の進歩は目覚ましく、生物学的製剤をはじめとした新薬が次々と開発されています。一方で、東洋医学の知恵も再評価されています。
個別化医療の時代
これからの医療は、一人ひとりの体質や生活環境に合わせた「個別化医療」が主流になると考えています。
各人の体質により処方が決まるため、「アトピーだからこれ」といったものはないという東洋医学の考え方は、まさに個別化医療の先駆けだったと言えるでしょう。
生きた経験の価値
私は生きた経験で得られた、それこそまさしく「肌で感じた」言葉を患者さんにかけてあげることができるのです。
この医師の言葉は、とても印象深いです。治療者自身がアトピーを経験していることの意味。患者さんの気持ちが本当に分かるということ。
私自身はアトピーではありませんが、20年間多くの患者さんと向き合う中で、その苦しみや喜びを共有してきました。一人ひとりの物語に寄り添うことが、治療の基本だと考えています。
社会への提言
職場環境の改善
アトピーのある方が働きやすい環境づくりが必要です。
- フレックスタイム制の導入
- 在宅勤務の推進
- メンタルヘルスケアの充実
- 理解促進のための教育
医療連携の重要性
皮膚科、心療内科、東洋医学。それぞれの専門分野が連携することで、より良い治療が可能になります。
私も地域の皮膚科クリニックと連携し、患者さんに最適な治療を提供できるよう努めています。
まとめとして
大人のアトピーは確かに複雑で、治療に時間がかかります。でも、適切なアプローチを続けることで、必ず改善の道筋は見えてきます。
大切なのは:
- 自分の体質を理解すること
- ストレスとうまく付き合うこと
- 生活習慣を整えること
- 信頼できる治療者と出会うこと
- 長期的な視点を持つこと
一人で抱え込まず、周りの人や専門家の力を借りながら、ゆっくりと歩んでいけばいいんです。
20年間で学んだ最も大切なことは、「治療は患者さんと治療者の共同作業」だということ。私たちはサポートしますが、主役はあなた自身です。
あなたにとって、今一番大切にしたいことは何ですか? 💫