アトピー改善のカギは「呼吸」だった|東洋医学で整える皮膚と心のバランス
アトピーと東洋医学、そして呼吸の深い関係について
20年間この道を歩んできて、アトピーの患者さんを診させていただく中で気づいたことがあります。西洋医学では皮膚の炎症として捉えがちなアトピーですが、東洋医学の視点で見ると、実は体全体のバランスの乱れが皮膚に現れている状態なんです。
特に興味深いのが呼吸との関係。これまで診てきた患者さんの8割以上が、浅い胸式呼吸をしていました。「え、呼吸とアトピーが関係あるんですか?」とよく驚かれますが、実はこれが核心なんです。
気の流れから見るアトピーの本質
東洋医学では、アトピーを「風邪(ふうじゃ)」「湿邪(しつじゃ)」「熱邪(ねつじゃ)」の三つの邪気が体内に停滞した状態と考えます。簡単に言うと、体の中の風・湿気・熱のバランスが崩れている状態です。
私がいつも患者さんに説明するのは、体を一つの家に例えた話。窓を開けて空気を入れ替えないと、湿気がこもってカビが生えるでしょう? 人間の体も同じで、呼吸が浅いと気の流れが滞り、湿邪や熱邪が体内にこもってしまう。それが皮膚に現れるのがアトピーなんです。
呼吸の質がすべてを変える
ある30代の女性患者さんのことを思い出します。彼女は子供の頃からアトピーで、ステロイドを15年間使い続けていました。初回の問診で呼吸を見させてもらうと、1分間に24回という浅い呼吸をしていた。正常は12〜20回程度ですから、明らかに多すぎます。
「ちょっと深呼吸してみてください」とお願いすると、肩が大きく上がる胸式呼吸。これでは肺の下部まで空気が入らず、血液中の酸素量も不十分になります。酸素不足は細胞の代謝を低下させ、結果として皮膚の再生能力も落ちてしまうんです。
東洋医学では、呼吸は「宗気(そうき)」を作り出す重要な働きを担っています。宗気とは、心肺の機能を支える根本的なエネルギーのこと。この宗気が不足すると、全身の気血の巡りが悪くなり、アトピーのような慢性的な症状が現れやすくなります。
腹式呼吸がもたらす奇跡
その女性患者さんには、まず正しい腹式呼吸を覚えてもらいました。仰向けに寝て、お腹に手を置き、吸うときにお腹を膨らませ、吐くときにへこませる。最初は「これで合ってますか?」と不安そうでしたが、3週間続けると明らかな変化が現れました。
夜の睡眠が深くなったんです。「朝起きたとき、こんなにスッキリしたのは何年ぶりだろう」と彼女は目を輝かせて話してくれました。睡眠の質が上がると、成長ホルモンの分泌が正常化し、皮膚の修復力も高まります。
さらに2ヶ月後、彼女の皮膚に大きな変化が。赤みがひき、痒みも以前の3分の1程度まで減っていました。ステロイドの使用頻度も週5回から週2回まで減らすことができたんです。
気功呼吸法の具体的な実践
私がアトピーの患者さんに必ずお教えするのが「三段呼吸法」です。これは気功の基本中の基本で、とても効果的な方法。
まず、鼻から息をゆっくり吸いながら、下腹部(丹田)、胸部、肩の順番で空気を入れていく。まるで風船を下から順番に膨らませるイメージです。そして口から細く長く息を吐きながら、今度は逆の順番で空気を抜いていきます。
最初は1日5分から始めて、慣れてきたら15分程度続けてもらいます。「そんなに長くできません」という方もいらっしゃいますが、無理は禁物。継続することの方が大切です。
この呼吸法を続けると、副交感神経が優位になり、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌が抑制されます。実はアトピーの悪化因子の一つがストレス。呼吸を整えることで、精神的な安定も得られるんです。
五臓六腑と呼吸の関係
東洋医学では、呼吸は「肺」だけでなく「腎」とも深い関係があります。腎は「先天の気」を蓄える臓器で、生命力の源とも言える存在。正しい呼吸は腎気を補い、体全体の免疫力を高めてくれます。
アトピーの患者さんの多くは、この腎気が不足している状態。朝起きるのがつらい、疲れやすい、夜中に何度も目が覚める、といった症状がある方は要注意です。
ある40代の男性患者さんは、仕事のストレスでアトピーが悪化していました。彼の場合、特に「腎陽虚(じんようきょ)」という状態で、体が冷えやすく、エネルギー不足の症状が顕著でした。
そこで通常の腹式呼吸に加えて、「温腎呼吸法」を指導しました。これは息を吸うときに、温かいエネルギーが腰の辺り(腎の位置)に集まるイメージを持ちながら行う呼吸法です。3ヶ月続けると、冷え性が改善し、それに伴ってアトピーの症状も軽減していきました。
季節と呼吸、アトピーの関係
診療を続けていて面白いなと思うのが、アトピーの症状と季節の関係。春は「肝」の季節で、イライラしやすく症状が悪化しがち。夏は「心」の季節で、汗をかきやすくなり皮膚トラブルが増える。秋は「肺」の季節で、乾燥により痒みが強くなることが多い。冬は「腎」の季節で、冷えにより血行が悪くなります。
それぞれの季節に応じた呼吸法を取り入れることで、症状の予防や軽減につながります。例えば春なら、イライラを鎮める「清肝呼吸法」、夏なら心を落ち着かせる「安神呼吸法」といった具合です。
現代医学と東洋医学の融合
最近の研究では、深い呼吸が迷走神経を刺激し、炎症を抑制する効果があることが科学的にも証明されています。東洋医学で昔から言われていた「気の流れ」が、現代医学の「神経系の働き」として理解できるようになってきたんです。
これを知ったときは、正直少し興奮しました(笑)。長年の経験で感じていたことが、科学的にも裏付けられるって、なんだか嬉しいものです。
食事と呼吸の相乗効果
アトピーの改善には、呼吸だけでなく食事も重要。東洋医学では「薬食同源」と言いますが、食べ物も薬と同様の効果を持ちます。
特に呼吸法と組み合わせて効果的なのが、白い食べ物。大根、白菜、梨、白キクラゲなど。これらは「肺」を潤し、呼吸器系の働きを支えてくれます。患者さんには「1日1つは白い食べ物を食べてください」とお話しています。
また、辛い物や油っこい物は控えめに。これらは「熱邪」を生み出し、アトピーを悪化させる可能性があります。「大好きなラーメンを我慢するのはつらいですが…」とこぼす患者さんもいますが、症状が落ち着いてきたら少しずつ楽しんでもらえばいいんです。
心の状態と皮膚の関係
20年間この仕事をしていて最も感じるのが、心と皮膚の深いつながり。ストレスが溜まると、決まってアトピーが悪化する患者さんが多いんです。
「皮膚は心の鏡」なんて言葉もありますが、本当にその通り。不安や怒り、悲しみといった感情は、気の流れを乱し、結果として皮膚に現れてしまいます。
だからこそ、呼吸法は単に酸素を取り入れるだけでなく、心を整える効果も期待できます。深くゆっくりとした呼吸は、自律神経のバランスを整え、感情の安定をもたらしてくれるんです。
実際の改善例をもう一つ
もう一人印象的な患者さんがいます。20代の男子大学生で、就職活動のストレスでアトピーが急激に悪化した方でした。顔全体が赤くなり、夜も眠れないほどの痒みに悩まされていました。
彼の呼吸を観察すると、緊張のせいか息を止めがちで、呼吸のリズムが不規則。まずは「今ここに意識を向ける」ことから始めました。呼吸に集中することで、未来への不安から離れ、現在の自分と向き合えるようになります。
毎朝15分の呼吸法を3ヶ月続けると、就職活動への不安は消えないものの、それに振り回されることが少なくなりました。そして皮膚の状態も徐々に改善し、面接にも自信を持って臨めるようになったんです。
継続の秘訣
患者さんによく「呼吸法を続けるコツはありますか?」と聞かれます。私がお答えするのは、完璧を求めないこと。
「今日は忙しくて5分しかできませんでした」という報告を受けることがありますが、それで十分なんです。毎日15分続けられる人もいれば、週3回しかできない人もいる。大切なのは自分のペースで続けること。
また、効果を感じるまでに個人差があることも理解しておいてください。早い人では1週間で変化を感じますが、3ヶ月かかる方もいらっしゃいます。体質や症状の程度、生活環境によって差が出るのは当然のことです。
最後に
アトピーは確かにつらい症状ですが、体からの大切なメッセージでもあります。「もっと自分を大切にして」「無理をしすぎないで」「心と体のバランスを整えて」そんな声なき声に耳を傾けてみてください。
呼吸法は、そのメッセージに応える一つの方法。道具もお金も必要なく、いつでもどこでもできる、最もシンプルで効果的な自然療法です。
毎日の小さな積み重ねが、やがて大きな変化をもたらしてくれる。私はそれを多くの患者さんから教えていただきました 😊
あなたも今日から、ほんの5分でいいので、深い呼吸を意識してみませんか?