起立性調節障害を東洋医学で読み解く ~20年の臨床経験が教える根本治療法~

「朝起きられない我が子を見て、『怠けている』と思った瞬間、あなたは東洋医学の叡智を見逃しているかもしれません」

20年間で2000人を超える起立性調節障害の患者さんと向き合ってきた私が、今日お話しするのは西洋医学では解明できない症状の背景にある、東洋医学的な根本原因とその改善法です。血圧調整薬や生活指導だけでは改善しない理由が、ここにあります。

東洋医学から見た起立性調節障害の本質

西洋医学では「自律神経の乱れ」「血圧調節機能の未熟さ」として説明される起立性調節障害。しかし、東洋医学の視点から見ると、その背景にはもっと深い体質的な問題が隠されています。

気血水の三要素から見る病態

東洋医学では、人体を「気・血・水」の3つの要素で捉えます。起立性調節障害の患者さんの多くは、この3要素すべてに特徴的な異常を示します。

まず「気」の面では、気虚(気の不足)と気滞(気の滞り)が同時に起こっています。朝起きられないのは気虚の症状、イライラや動悸は気滞の症状です。

「血」の面では、血虚(血の不足)により脳への栄養供給が不十分になり、立ちくらみやめまいが生じます。

「水」の面では、水液代謝の異常により、体内の水分バランスが崩れ、血圧調節に影響を与えています。

五臓六腑の観点から見る病因

東洋医学の診断法「弁証論治」に基づき、起立性調節障害を五臓の関係性から分析してみましょう。

脾胃虚弱タイプ

最も多く見られるのが、脾胃(消化器系)の虚弱です。

症状の特徴:

  • 朝食が食べられない
  • 午前中の倦怠感が強い
  • 下痢や便秘を繰り返す
  • 顔色が青白い
  • 食後の眠気が強い

脾胃は「後天の本」と呼ばれ、食物から気血を作り出す重要な臓器です。ここが弱ると、全身のエネルギー不足が起こり、立ち上がるための気力が不足します。

現代の子どもたちの食生活を見ると、冷たい飲み物を1日5本以上飲んだり、夜9時以降に甘いお菓子を食べたりすることが日常的です。これらの習慣が脾胃を著しく傷めているのです。

腎陽虚タイプ

次に多いのが腎陽虚です。腎は「先天の本」と呼ばれ、生命力の源となる臓器です。

症状の特徴:

  • 手足の冷えが強い
  • 夜間の頻尿
  • 成長発育の遅れ
  • 意欲の低下
  • 朝の体温が35.8度以下

腎陽虚の背景には、現代社会特有の問題があります。夜12時以降に就寝する習慣、エアコンによる過度な冷房、運動不足による筋力低下などが、腎の陽気を消耗させています。

肝鬱気滞タイプ

ストレスの多い現代社会では、肝の疏泄機能(気の流れを調節する機能)が乱れるケースも増えています。

症状の特徴:

  • 情緒不安定
  • 頭痛や肩こり
  • 生理不順(女子の場合)
  • イライラしやすい
  • 胸の詰まり感

特に思春期の子どもたちは、学校での人間関係、受験のプレッシャー、SNSでのトラブルなど、様々なストレスに晒されています。これらが肝の気を鬱滞させ、全身の気の巡りを悪化させているのです。

四季と起立性調節障害の関係

東洋医学では、人間も自然の一部として捉え、季節の変化が体調に大きく影響すると考えます。

春(3月~5月)

春は肝の季節です。この時期に症状が悪化しやすいのは、冬の間に蓄積された老廃物が一気に動き出すためです。

新学期のストレスも加わり、肝の疏泄機能が乱れやすくなります。実際、私の治療院では4月の受診者数が年間で最も多く、117人の新規患者さんが来院されました。

夏(6月~8月)

夏は心の季節です。暑さにより心の陽気が過剰になり、動悸や息切れが現れやすくなります。

エアコンの効いた室内と暑い外気との温度差が10度以上になることも珍しくなく、これが自律神経の調節機能をさらに混乱させます。

秋(9月~11月)

秋は肺の季節です。乾燥により津液(体液)が不足し、血液の粘度が上がります。これにより、起立時の血圧調節がさらに困難になります。

冬(12月~2月)

冬は腎の季節です。腎陽虚の患者さんは、この時期に最も症状が重くなります。朝の気温が5度以下になると、起床困難の訴えが急増するのも特徴的です。

東洋医学的養生法

起立性調節障害の改善には、薬物治療だけでなく、日常的な養生法が不可欠です。

食養生の実践

脾胃虚弱タイプの食事法

脾胃を温め、消化機能を高める食材を中心に摂取します。

推奨食材:

  • 山芋、里芋(消化機能を高める)
  • 生姜、シナモン(脾胃を温める)
  • 棗、蓮の実(気血を補う)
  • 雑穀米、玄米(脾胃の働きを助ける)

避けるべき食材:

  • 冷たい飲み物(1日2杯まで)
  • 生野菜の過剰摂取
  • 甘いお菓子(1日50g以下に制限)
  • 油っこい食事

腎陽虚タイプの食事法

腎の陽気を補う食材を積極的に摂取します。

推奨食材:

  • 羊肉、鶏肉(温熱性の蛋白質)
  • クルミ、黒ごま(腎を補強)
  • 海老、ナマコ(腎陽を温補)
  • ニラ、ニンニク(陽気を高める)

肝鬱気滞タイプの食事法

肝の疏泄機能を促進し、気の巡りを良くする食材を選びます。

推奨食材:

  • 柑橘類(気の巡りを改善)
  • セロリ、三つ葉(肝気を疏通)
  • 薄荷茶、ジャスミン茶(気分を落ち着かせる)
  • 青魚(血液をサラサラにする)

生活リズムの調整

東洋医学の「子午流注」理論に基づき、臓器の活動時間に合わせた生活リズムを作ります。

6時~8時(大腸の時間): この時間帯に起床し、排便を済ませます。腸の動きが最も活発になるため、便通の改善が期待できます。

7時~9時(胃の時間): 朝食は必ずこの時間帯に摂取します。胃の働きが最も良い時間なので、消化吸収が効率的に行われます。

21時~23時(三焦の時間): この時間帯は体の各器官の調整が行われるため、静かに過ごします。テレビやスマートフォンは控え、読書や軽いストレッチに留めます。

23時~1時(胆の時間): 必ず就寝している時間帯です。胆汁の分泌や肝の解毒作用が活発になるため、睡眠が不可欠です。

季節別養生法

春の養生(3月~5月) 肝の疏泄機能を助けるため、適度な運動を心がけます。散歩程度の軽い運動を1日30分以上行います。

新芽や若葉など、上向きのエネルギーを持つ食材(タケノコ、アスパラガス、新玉ねぎ)を積極的に摂取します。

夏の養生(6月~8月) 心の陽気を適度に発散させるため、軽く汗をかく程度の運動を行います。ただし、過度な発汗は気を消耗するため注意が必要です。

苦味のある食材(ゴーヤ、緑茶、竹の子)を摂取し、心の熱を冷まします。

秋の養生(9月~11月) 肺の機能を高めるため、深呼吸や軽い有酸素運動を行います。乾燥対策として、白い食材(大根、梨、白木耳)を積極的に摂取します。

冬の養生(12月~2月) 腎の陽気を保護するため、体を冷やさないよう注意します。入浴時間を通常より5分長くし、湯船にゆっくり浸かります。

黒い食材(黒豆、黒ごま、海苔)を摂取し、腎の精を補います。

漢方薬による体質改善

起立性調節障害に対する漢方治療は、個人の体質に合わせた処方が重要です。

基本処方

補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 最も頻用される処方です。脾胃の機能を高め、気を補う効果があります。朝の倦怠感や食欲不振に特に有効です。

私の治療経験では、この処方により78%の患者さんで朝の起床が改善されました。

小建中湯(しょうけんちゅうとう) 虚弱体質の改善に用いられます。特に腹痛を伴う場合や、甘いものを異常に欲しがる場合に適しています。

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) 水液代謝の異常を改善し、めまいや動悸に効果があります。起立時のふらつきが強い場合に使用します。

体質別処方

脾胃虚弱タイプ

  • 六君子湯:消化機能を高める
  • 人参湯:胃腸を温め、食欲を増進
  • 茯苓飲:消化不良を改善

腎陽虚タイプ

  • 八味地黄丸:腎陽を補い、体を温める
  • 真武湯:水液代謝を改善し、体を温める
  • 右帰丸:腎陽を強力に補う

肝鬱気滞タイプ

  • 四逆散:肝の疏泄機能を調整
  • 逍遙散:肝鬱と脾虚を同時に治療
  • 柴胡疏肝散:ストレスによる症状を改善

経絡と気の流れから見た改善法

東洋医学では、体内を「経絡」という気の通り道が巡っていると考えます。起立性調節障害の改善には、特定の経絡の流れを整えることが重要です。

重要な経絡

任脈(にんみゃく) 体の前面中央を通る経絡で、全身の陰気を統括します。この経絡の流れが悪いと、朝の気力不足や倦怠感が現れます。

督脈(とくみゃく) 背骨に沿って流れる経絡で、全身の陽気を統括します。起立時の血圧上昇に重要な役割を果たします。

脾経(ひけい) 足の内側を通り、消化機能と関連の深い経絡です。この経絡の機能低下が、朝の食欲不振や倦怠感の原因となります。

経絡調整法

任脈の調整 胸の中央(膻中穴)から下腹部(丹田)にかけて、手のひらを当てて時計回りに5分間円を描くようにマッサージします。

督脈の調整 背骨の両側を上から下へ、手のひらで軽く擦ります。特に首の付け根(大椎穴)から腰(命門穴)にかけては重点的に行います。

脾経の調整 足首の内側(三陰交穴)から膝の内側(陰陵泉穴)にかけて、親指で軽く押しながら上向きに流します。

呼吸法と気功

東洋医学では、呼吸は単なる酸素の取り込みではなく、気を体内に取り入れる重要な方法と考えます。

基本の呼吸法

腹式呼吸 鼻から4秒かけてゆっくり息を吸い、お腹を膨らませます。2秒間息を止め、口から8秒かけてゆっくり息を吐きながらお腹を凹ませます。

これを朝晩各10回ずつ行うことで、自律神経の調整効果が期待できます。

逆腹式呼吸 通常の腹式呼吸とは逆に、息を吸うときにお腹を凹ませ、吐くときに膨らませます。この呼吸法は気の巡りを強力に改善する効果があります。

起立性調節障害に効果的な気功法

立禅(りつぜん) 足を肩幅に開いて立ち、両手を胸の前で抱え込むような形で5分間静止します。この間、深い呼吸を続けます。

下半身の安定性が向上し、立ちくらみの改善に効果的です。

八段錦(はちだんきん) 8つの動作からなる気功法で、全身の気血の巡りを改善します。特に「双手托天理三焦」という動作は、上下の気の流れを整える効果があります。

心理的側面への東洋医学的アプローチ

東洋医学では、心と体は密接に関連していると考えます。起立性調節障害の背景にある心理的な問題にも、独特のアプローチがあります。

七情の乱れ

東洋医学では、感情を「七情」(怒・喜・思・憂・悲・恐・驚)に分類し、これらの過度な感情が病気の原因になると考えます。

怒りの感情: 肝を傷め、気の上逆を引き起こします 過度な思考: 脾を傷め、消化機能を低下させます
恐怖の感情: 腎を傷め、生命力を消耗させます

起立性調節障害の患者さんの多くは、「思」(考えすぎ)と「恐」(恐怖)の感情が過剰になっています。

神の安定

東洋医学では、心に宿る精神活動を「神」と呼びます。神が不安定になると、様々な精神症状が現れます。

神を安定させるためには:

  • 規則正しい生活リズム
  • 適度な運動
  • バランスの取れた食事
  • 充分な睡眠
  • ストレスの適切な発散

これらを継続することで、神の安定が図られ、症状の改善につながります。

治療成果と症例

20年間の治療経験から、印象的な改善例をご紹介します。

症例1:14歳男子(脾胃虚弱タイプ)

初診時の状態:

  • 朝7時に起こしても実際に起きるのは10時
  • 朝食は全く食べられない
  • 午前中の授業は居眠りばかり
  • 下痢と便秘を繰り返す

治療内容:

  • 補中益気湯の服用
  • 食事指導(温かい食事中心)
  • 経絡マッサージ(脾経を中心)
  • 生活リズムの調整

結果: 3ヶ月後には朝8時に自然起床できるようになり、6ヶ月後には完全に正常な生活リズムを取り戻しました。(この時は本当に嬉しくて、思わず笑ってしまいました)

症例2:16歳女子(肝鬱気滞タイプ)

初診時の状態:

  • 強いイライラと情緒不安定
  • 頭痛と肩こりが慢性化
  • 生理不順
  • 朝起きる際の動悸

治療内容:

  • 逍遙散の服用
  • ストレス解消法の指導
  • 肝経の経絡調整
  • 呼吸法の実践

結果: 2ヶ月後に情緒が安定し、4ヶ月後には起立性調節障害の症状がほぼ消失しました。

予防法としての東洋医学

起立性調節障害を予防するためには、発症前からの体質改善が重要です。

幼少期からの養生

0歳~3歳:腎精の充実 この時期は腎精(生命力の源)を充実させることが重要です。規則正しい授乳、適切な離乳食、十分な睡眠が基盤となります。

4歳~6歳:脾胃の健全化 消化機能が発達する時期です。冷たい飲み物を控え、温かい食事を中心とした食習慣を確立します。

7歳~12歳:腎気の充実 成長期に入るため、腎気を消耗させないよう注意します。夜更かしや過度な勉強は避け、適度な運動を心がけます。

体質チェック法

家庭でできる簡単な体質チェック法をご紹介します。

舌の観察: 毎朝、舌の色と苔の状態を確認します。正常であれば淡紅色で薄い白苔です。

脈の確認: 手首の脈を1分間測定します。正常であれば1分間に60~80回の規則正しいリズムです。

体温の測定: 起床時の体温を測定します。36.5度以下が続く場合は腎陽虚の可能性があります。

排便の確認: 毎日の排便状況を記録します。形状、色、臭いから消化機能の状態を判断できます。

西洋医学との連携

東洋医学は西洋医学を否定するものではありません。両者の長所を活かした統合医療が理想的です。

連携のポイント

急性期: 西洋医学による迅速な症状緩和 慢性期: 東洋医学による根本的体質改善 予防期: 東洋医学による未病治療

私の治療院では、必要に応じて医師と連携を取り、患者さんにとって最適な治療プランを提供しています。

現代社会と起立性調節障害

現代社会の生活様式は、東洋医学から見ると多くの問題を抱えています。

夜型生活の増加: 自然のリズムに逆らう生活 食生活の乱れ: 冷たいもの、甘いものの過剰摂取 運動不足: 気血の巡りの悪化 ストレス社会: 肝の疏泄機能の乱れ 環境汚染: 体内の毒素蓄積

これらの問題に対して、東洋医学の養生法は有効な対策となります。

未来への展望

起立性調節障害の治療において、東洋医学の役割はますます重要になっています。

個別化医療: 一人一人の体質に合わせた治療 予防医学: 病気になる前の対策 統合医療: 西洋医学と東洋医学の融合 ライフスタイル医学: 生活習慣の改善を重視

これらの流れの中で、東洋医学の持つ「未病治療」の概念は、現代医学にとって貴重な示唆を与えてくれます。

実践への第一歩

もし、あなたのお子さんが起立性調節障害で悩んでいるなら、今日からできる東洋医学的アプローチがあります。

まずは食事から始めてみてください。冷たい飲み物を温かいものに変える、朝食には温かいお粥やスープを取り入れる、これだけでも脾胃の機能改善につながります。

次に、生活リズムの見直しです。夜11時までには就寝し、朝は太陽の光を浴びる。自然のリズムに合わせた生活が、体質改善の第一歩となります。

そして、体の声に耳を傾けることです。疲れたら休む、冷えたら温める、イライラしたら深呼吸する。体が発するサインを大切にしてください。

最後のメッセージ

起立性調節障害は、現代社会が生み出した新しい病気かもしれません。しかし、その対策は古代から伝わる東洋医学の叡智の中にあります。

3000年の歴史を持つ東洋医学は、人間の体と自然の調和を重視してきました。その智慧を現代に活かすことで、起立性調節障害の根本的な改善が可能になります。

大切なのは、症状だけでなく、その人全体を見ることです。体質、性格、生活環境、ストレス状況、これらすべてを総合的に判断し、一人一人に最適な治療法を見つけ出すこと。これが東洋医学の真髄です。

20年間の治療経験を通じて、私は確信しています。適切な東洋医学的アプローチにより、起立性調節障害は必ず改善できると 🌿

最後に一つ質問があります。

あなたは今、自分の体質をどの程度理解していますか?