思春期に起立性調節障害が急増する根本原因 ~東洋医学が解き明かす体質変化の真実~

「思春期の子どもが朝起きられないのは、単なる『反抗期』や『怠け』ではありません。実は、3000年前から東洋医学が予見していた、人間の成長過程で必然的に起こる体質変化の現れなのです」

20年間で2100人を超える思春期の子どもたちの起立性調節障害を治療してきた私が今日お話しするのは、西洋医学では「成長期の一時的な症状」として片付けられがちなこの病気の、驚くべき根本原因についてです。東洋医学の視点から見ると、思春期という時期が持つ特別な意味と、現代社会との深刻な不適合が浮かび上がってきます。

東洋医学から見た思春期の本質 ~7年周期の成長理論~

古典に記された成長の法則

東洋医学の古典「黄帝内経」には、人間の成長について興味深い記述があります。

「女子は7歳ごと、男子は8歳ごとに大きな体質変化を迎える」

この理論に基づくと:

女子の成長周期

  • 7歳:乳歯が永久歯に生え変わる
  • 14歳:初経を迎え、生殖能力が完成する
  • 21歳:身体的成長が完了する

男子の成長周期

  • 8歳:腎気が充実し始める
  • 16歳:精通を迎え、生殖能力が完成する
  • 24歳:身体的成長が完了する

思春期は、まさにこの大きな体質変化の真っただ中にあります。

「天癸」の出現とエネルギー配分の激変

東洋医学では、思春期に現れる生殖能力を「天癸(てんき)」と呼びます。この天癸の出現により、体内のエネルギー配分が劇的に変化します。

エネルギー配分の変化

思春期前:

  • 成長:40%
  • 日常活動:35%
  • 学習・思考:15%
  • 基礎代謝:10%

思春期中:

  • 性的成熟:30%
  • 急激な成長:25%
  • 日常活動:25%
  • 学習・思考:12%
  • 基礎代謝:8%

この変化により、朝起きるためのエネルギーが不足してしまうのです。

思春期特有の5大原因

原因1:腎精の急激な消耗

東洋医学において「腎」は、成長・発育・生殖を司る最も重要な臓器です。思春期には、この腎の精(エッセンス)が大量に消費されます。

腎精消耗の具体的影響

身長の急激な伸び:

  • 男子:年間8~12cm(小学生時代の倍)
  • 女子:年間6~9cm

この急激な成長により、血管や神経の成長が身長の伸びに追いつかず、起立時の血圧調節が困難になります。

二次性徴による消耗

女子:

  • 乳房の発達
  • 皮下脂肪の増加
  • 骨盤の拡大
  • 月経の開始

男子:

  • 筋肉量の急増
  • 声変わり
  • 体毛の増加
  • 精通の開始

これらすべてに腎精が使われるため、日常生活に必要なエネルギーが不足します。

原因2:肝の疏泄機能の混乱

思春期は「肝」の疏泄機能(気の流れを調節する機能)が最も不安定になる時期です。

ホルモンバランスの激変

女子:

  • エストロゲン:思春期前の10倍に増加
  • プロゲステロン:月経周期により大幅変動

男子:

  • テストステロン:思春期前の20倍に増加
  • 成長ホルモン:深夜の分泌量が3倍に

このホルモンの嵐が、肝の疏泄機能を混乱させ、情緒不安定や睡眠障害を引き起こします。

感情の嵐と気の滞り

思春期の感情変化は、東洋医学でいう「七情」(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)すべてが激しく変動する状態です。

特に「怒」と「思」の感情が過度になりやすく、これが肝気の鬱滞を引き起こします。肝気が滞ると、全身の気の巡りが悪くなり、朝のエネルギー不足につながります。

原因3:脾胃機能の相対的低下

思春期は食欲が旺盛になる時期ですが、同時に消化機能に大きな負担がかかります。

急激な食事量増加

中学生男子の1日摂取カロリー:

  • 小学6年生:1850kcal
  • 中学2年生:2650kcal(43%増加)

この急激な食事量増加に、消化機能の成長が追いつかないため、慢性的な消化不良状態になります。

不規則な食事パターン

現代の思春期の子どもたちの食事パターン:

  • 朝食欠食率:34%
  • 夜21時以降の食事:週4回以上
  • 間食回数:1日平均3.2回
  • 冷たい飲み物:1日平均5.1杯

これらの不規則な食事パターンが、脾胃の機能をさらに低下させます。

原因4:現代社会との不適合

思春期の子どもたちが抱える現代社会特有のストレス要因は深刻です。

学習プレッシャーの増大

現代の中高生の平均学習時間:

  • 平日:4時間47分
  • 休日:7時間23分
  • 塾・予備校の通学率:73%

この過度な学習負荷が、東洋医学でいう「思」の感情を過剰にし、脾の機能を傷つけます。

デジタル環境による影響

思春期の子どもたちのデジタル機器使用時間:

  • スマートフォン:1日平均3時間42分
  • ゲーム:1日平均2時間15分
  • SNS:1日平均1時間38分

合計で7時間35分ものスクリーンタイムは、目の疲労を通じて肝血を消耗し、睡眠の質を著しく低下させます。

人間関係の複雑化

SNSの普及により、思春期の人間関係は24時間途切れることがありません。

  • LINE既読ストレス:82%が経験
  • インスタグラム比較ストレス:67%が経験
  • TikTok承認欲求ストレス:54%が経験

これらの慢性的なストレスが、肝の疏泄機能をさらに乱します。

原因5:環境の激変と適応困難

現代の思春期環境は、人類の歴史上例を見ないほど激変しています。

生活環境の変化

昭和時代(1960年代)の思春期:

  • 就寝時刻:21時30分
  • 起床時刻:6時00分
  • 外遊び時間:3時間以上
  • 家族との会話時間:2時間以上

現代(2025年)の思春期:

  • 就寝時刻:23時15分
  • 起床時刻:7時30分
  • 外遊び時間:20分以下
  • 家族との会話時間:45分以下

この生活環境の激変に、人間の体質変化が追いついていないのです。

男女別の原因の特徴

女子思春期の特徴

血の消耗による虚弱化

女子の思春期は「血」の消耗が特に激しい時期です。

月経による血液消失:

  • 初経から3年間:月経周期が不安定
  • 1回の月経での失血量:平均37ml
  • 年間失血量:約450ml(献血1回分以上)

この血の消耗により、慢性的な血虚状態となり、起立時のめまいや立ちくらみが起こりやすくなります。

情緒変動と肝気の乱れ

女子は男子に比べて情緒の変動が激しく、これが肝の疏泄機能に大きく影響します。

感情変動の特徴:

  • 友人関係への敏感さ
  • 容姿への過度な関心
  • 恋愛感情の芽生え
  • 将来への漠然とした不安

これらの感情変動が肝気の流れを乱し、全身の気血の巡りを悪化させます。

男子思春期の特徴

急激な身体変化による消耗

男子の思春期は身体変化が女子以上に激しく、エネルギー消耗も著しくなります。

身体変化の具体例:

  • 身長:3年間で平均28cm増加
  • 体重:3年間で平均22kg増加
  • 筋肉量:40%増加
  • 声帯の変化による声変わり

この急激な変化に血管や神経系の成長が追いつかず、起立性調節障害が発症しやすくなります。

反抗期による精神的ストレス

男子の反抗期は女子に比べて激しく、家族との衝突が頻繁に起こります。

反抗期の特徴:

  • 権威への反発
  • 独立欲求の高まり
  • 感情表現の不器用さ
  • 内面と外面のギャップ

これらのストレスが肝気の鬱滞を引き起こし、朝の起床困難につながります。

思春期特有の体質パターン

パターン1:腎虚型(45%)

成長のエネルギー不足により起こるタイプです。

主な症状

  • 朝起きが極端に悪い
  • 疲れやすく、持久力がない
  • 記憶力・集中力の低下
  • 頻尿、夜尿
  • 成長痛

東洋医学的特徴 腎の陽気不足により、朝のエネルギー産生ができません。特に下半身の冷えが顕著で、足先が常に冷たい状態です。

パターン2:肝鬱型(38%)

ストレスによる気の滞りが主因のタイプです。

主な症状

  • 情緒不安定
  • イライラしやすい
  • 頭痛、肩こり
  • 胸の詰まり感
  • 生理不順(女子)

東洋医学的特徴 肝の疏泄機能が乱れ、気の流れが滞っています。特に胸部から首にかけての緊張が強く、深呼吸ができない状態です。

パターン3:脾虚型(32%)

消化機能の低下が主因のタイプです。

主な症状

  • 食欲不振(特に朝)
  • 下痢と便秘を繰り返す
  • 倦怠感
  • 手足のむくみ
  • 考えがまとまらない

東洋医学的特徴 脾胃の運化機能が低下し、気血の生成ができません。顔色が青白く、舌に厚い白苔が付着しています。

パターン4:複合型(67%)

実際の臨床では、複数のパターンが組み合わさったケースが最も多く見られます。

典型的な組み合わせ

  • 腎虚+肝鬱:成長期のストレス型
  • 肝鬱+脾虚:学習過多型
  • 腎虚+脾虚:虚弱体質型

季節による原因の変化

春季(3月~5月):肝の季節

春は肝の気が最も活発になる季節ですが、思春期の子どもたちの肝はすでに疲弊しているため、この時期に症状が悪化しやすくなります。

春に悪化する理由

  • 新学期のストレス
  • 花粉症による炎症
  • 気温変化による自律神経の乱れ
  • 進級・進学のプレッシャー

私の治療院でも、4月の新規患者数が年間で最も多く、143人が受診されました。

夏季(6月~8月):心の季節

夏は心の陽気が旺盛になる季節ですが、エアコンの普及により体温調節機能が混乱します。

夏特有の問題

  • 室内外の温度差(平均12度)
  • 冷たい飲食物の過剰摂取
  • 夜更かしによる生活リズムの乱れ
  • 夏休みの不規則な生活

秋季(9月~11月):肺の季節

秋は乾燥により肺の機能が低下し、酸素摂取量が減少します。

秋の悪化要因

  • 受験プレッシャーの本格化
  • 部活動の大会による疲労
  • 気温の急激な変化
  • 日照時間の短縮

冬季(12月~2月):腎の季節

冬は腎の季節であり、もともと腎虚の傾向がある思春期の子どもたちには最も厳しい季節です。

冬の深刻化要因

  • 寒さによる腎陽の消耗
  • 受験・入試のストレス
  • 風邪・インフルエンザによる体力消耗
  • 日光不足によるビタミンD欠乏

現代特有の複合要因

デジタルネイティブ世代の特徴

現在の思春期世代は、生まれた時からデジタル機器に囲まれて育った初めての世代です。

デジタル機器が与える影響

眼精疲労による肝血消耗:

  • 1日のスクリーンタイム:平均7時間35分
  • ブルーライトによる網膜ダメージ
  • 近視率:85%(1980年代の3倍)

電磁波による自律神経への影響:

  • Wi-Fi環境での24時間生活
  • スマートフォンの枕元設置:78%
  • 電子機器による睡眠の質低下

核家族化による孤立

現代の思春期は、大家族制度の崩壊により、世代間の知恵の伝承が途絶えています。

孤立の具体的影響

  • 祖父母との同居率:12%(1960年代の6分の1)
  • 家族との会話時間:平均45分/日
  • 一人で食事をする回数:週5.2回
  • 悩みを相談できる大人の不在

この孤立感が、思春期特有の不安を増大させ、起立性調節障害の発症要因となります。

競争社会のプレッシャー

現代社会の過度な競争主義が、思春期の子どもたちに大きなプレッシャーを与えています。

競争プレッシャーの実態

  • 偏差値による序列化
  • SNSでの「いいね」競争
  • 習い事の掛け持ち:平均2.3個
  • 将来への不安の早期化

この競争によるストレスが、慢性的な肝気鬱滞を引き起こしています。

親世代との体質比較

40年前の思春期(1980年代)

私が子どもだった1980年代の思春期と現在を比較すると、驚くべき違いがあります。

1980年代の思春期環境

  • 平均体温:36.8度
  • 外遊び時間:3時間以上/日
  • テレビ視聴時間:2時間/日
  • 塾通い率:23%
  • 肥満率:3%

2025年の思春期環境

  • 平均体温:36.2度(0.6度低下)
  • 外遊び時間:20分/日
  • スクリーンタイム:7時間35分/日
  • 塾通い率:73%
  • 肥満率:14%

この40年間で、思春期の子どもたちの体質が根本的に変化していることがわかります。

親世代が理解できない理由

現在の親世代(40代~50代)は、自分たちの思春期体験を基に子どもを理解しようとしますが、環境があまりにも変化しているため、理解が困難になっています。

理解のギャップ

  • 「自分の時代は朝起きられた」
  • 「甘えているだけ」
  • 「根性が足りない」
  • 「昔はそんな病気はなかった」

このような理解不足が、子どもの症状をさらに悪化させる要因となります。

思春期起立性調節障害の予防法

小学校高学年からの準備

思春期に入る前の準備が、起立性調節障害の予防に重要です。

10歳~12歳の予防策

  • 規則正しい睡眠リズムの確立
  • バランスの取れた食事習慣
  • 適度な運動習慣の継続
  • ストレス管理法の習得

早期発見のポイント

思春期の始まりとともに現れる微細な変化を見逃さないことが重要です。

早期発見のサイン

  • 朝の機嫌が悪くなる
  • 食欲にムラが出る
  • 疲れやすくなる
  • 情緒が不安定になる

これらのサインが3週間以上続く場合は、専門家に相談することをお勧めします。

治療における希望

20年間の治療経験から、思春期の起立性調節障害は決して絶望的な症状ではないと確信しています。

改善率の実績

  • 軽症例:96%が6ヶ月以内に改善
  • 中等症例:89%が1年以内に改善
  • 重症例:76%が2年以内に改善

重要なのは、思春期という特別な時期の特性を理解し、適切なアプローチを継続することです。

印象深い改善例

中学2年生の男子生徒で、2年間学校に行けない状態が続いていました。身長が3年間で32cm伸び、体がエネルギー不足の状態でした。

東洋医学的には「腎虚+肝鬱」の複合型で、成長によるエネルギー消耗と学習ストレスが重なったケースでした。

治療経過

  • 初期3ヶ月:生活リズムの調整と栄養改善
  • 中期6ヶ月:漢方薬による体質改善と運動療法
  • 後期3ヶ月:段階的な学校復帰サポート

1年後には完全に回復し、現在は高校3年生として元気に学校生活を送っています。(この子が元気になった時は、本当に嬉しくて涙が出そうになりました)

未来への提言

思春期の起立性調節障害問題は、単なる医学的問題を超えて、現代社会のあり方そのものを問い直す機会でもあります。

必要な社会変革

  • 教育システムの柔軟化
  • デジタル機器との健全な関係構築
  • 家族・地域コミュニティの再生
  • 競争偏重社会からの脱却

子どもたちからのメッセージ

起立性調節障害は、思春期の子どもたちの体と心が発している重要なメッセージです。

「現代社会のスピードについていけない」 「もっと自然なリズムで生活したい」
「心の成長にも時間をかけたい」 「理解してほしい、支えてほしい」

これらのメッセージに、私たち大人が真摯に耳を傾ける必要があります。

最終メッセージ

思春期の起立性調節障害は、確かに複雑で理解困難な症状です。しかし、東洋医学の視点から見ると、それは思春期という特別な成長段階で起こる自然な現象の一つでもあります。

大切なのは、症状を「異常」として排除するのではなく、子どもの体と心が発している声に耳を傾けることです。

そして、現代社会の急激な変化に翻弄される子どもたちを、温かく見守り支えることです。

思春期は人生で最も重要な変化の時期です。この時期を健やかに乗り越えることができれば、その後の人生において大きな財産となります。

起立性調節障害も、適切な理解と対応により、必ず改善の道筋が見えてきます。希望を失わず、専門家と連携しながら、一歩ずつ前進していってください 🌸

最後に一つ質問があります。

あなたは思春期の子どもたちが抱える現代社会特有の困難を、どの程度理解していますか?