起立性調節障害と食事療法 – 東洋医学視点から見た改善への道筋

中学生の約10人に1人が悩む起立性調節障害。「またうちの子が朝起きられない…」そんな心配を抱える親御さんに、20年間で3500人以上の患者さんを診てきた東洋医学の視点から、食事で体を整える方法をお伝えします。薬だけでは根本解決しない、この現代病への新しいアプローチです。

朝のだるさの正体を東洋医学で読み解く

起立性調節障害は「怠け病」ではありません。

東洋医学では、この症状を「気血水」の巡りの乱れとして捉えています。私が診療で最も重視するのは、子どもたちの「脾胃」の機能です。

脾胃とは? 西洋医学でいう胃腸の消化機能に加えて、全身に栄養とエネルギーを送り届ける「輸送システム」の司令塔です。

現代の子どもたちは:

  • 朝食を抜く習慣
  • 糖質過多の食事
  • 夜食の習慣
  • 冷たい飲み物の過剰摂取

これらにより脾胃が弱り、「気」の生成力が低下。その結果、朝の覚醒に必要な「陽気」が不足してしまうのです。

「水毒」が引き起こす立ちくらみの仕組み

東洋医学で「水毒」と呼ぶ状態をご存じですか。

これは体内の水分代謝が滞った状態で、起立性調節障害の立ちくらみやめまいの根本原因となります。

水毒のサイン(思わず納得してしまう症状たち)

  • 朝の顔のむくみ
  • 雨の日の体調不良
  • 午前中の頭重感
  • 立ち上がり時のふらつき

正常な水分代謝では:

  1. 胃で受け入れた水分
  2. 脾で全身に運搬
  3. 肺で蒸発・拡散
  4. 腎で再利用・排泄

この流れが滞ると、血液粘度が上がり、脳への血流が不安定になります。西洋医学でいう「血圧低下」は、東洋医学的には「水の停滞による気血の巡り不良」なのです。

気功師が実践する「脾胃強化」の食事法

基本原則:温める・補う・巡らせる

朝食は「陽気」の始動装置

朝7時から9時は「胃の時間帯」です。この時間に適切な食事を摂ることで、一日の気の巡りが決まります。

おすすめの朝食構成

  • 温かい汁物(必須)
  • 良質なタンパク質 25g以上
  • 根菜類
  • 発酵食品

具体例

  • 鶏肉入り野菜スープ
  • 玄米おにぎり 1個
  • 納豆
  • 温かいほうじ茶

血を作る「鉄分」の東洋医学的活用法

起立性調節障害の約30%に鉄欠乏性貧血が併存していることをご存じですか。

東洋医学では鉄分不足を「血虚」として捉えます。単に鉄剤を飲むだけでなく、鉄の吸収を高める食べ合わせが重要です。

効率的な鉄分補給の組み合わせ

鉄分源

吸収促進食材

避けるべき組み合わせ

赤身肉(100g中3.0mg)

レモン、トマト

緑茶、コーヒー

レバー(100g中13mg)

ブロッコリー

牛乳、チーズ

卵黄(2個で1.8mg)

小松菜、ほうれん草

玄米(同時摂取時)

実用的な1日の鉄分レシピ

  • 朝:レバーペースト入りサンドイッチ
  • 昼:牛肉とトマトの炒め物
  • 夜:あさりの味噌汁

これで1日の必要量15mg(成長期女子)を確保できます。

タンパク質は「気血」の原料

成長期の子どもは体重1kgあたり1.5〜2.0gのタンパク質が必要です。体重50kgなら75〜100g。

1日100gのタンパク質を確保する現実的な方法

朝食:

  • 卵2個(12g)
  • 納豆1パック(7g)
  • 牛乳200ml(7g)

昼食:

  • 鶏むね肉100g(23g)
  • チーズ20g(4g)

夕食:

  • 鮭切り身1切れ(20g)
  • 豆腐1/2丁(10g)
  • 味噌汁の豆味噌(2g)

間食:

  • ヨーグルト200g(7g)
  • アーモンド30粒(6g)

合計:98g

ただし、胃腸が弱い子どもにいきなり大量のタンパク質は負担。まずは消化力を高める「生姜」「山椒」「陳皮」などの香辛料を活用しましょう。

水分と塩分の東洋医学的バランス

起立性調節障害の改善には、1日1.5〜2リットルの水分と10〜12gの塩分が推奨されています。

しかし東洋医学では「いつ、どんな温度で、何と一緒に」が重要です。

水分摂取の最適化スケジュール

  • 起床時:白湯200ml(体温を上げる)
  • 朝食後:温かいお茶200ml
  • 10時:常温水200ml
  • 昼食後:温かいスープ300ml
  • 15時:常温水200ml
  • 夕食後:温かいお茶200ml
  • 就寝前:白湯100ml

塩分の質にこだわる 精製塩ではなく、ミネラル豊富な天然塩を選択。

  • 朝食:味噌汁(2g)
  • 昼食:海苔巻き(1g)
  • 夕食:煮物(2g)
  • 間食:塩昆布(1g)

これで約6gの基礎塩分。残り4〜6gは調理で調整します。

避けるべき「脾胃」を傷つける食習慣

冷たい飲み物の罠

私の治療経験では、冷たい飲み物を常飲する子どもの85%で脾胃の機能低下が見られます。

なぜ冷たい飲み物がダメなのか

  1. 胃の温度低下により消化酵素の活性が落ちる
  2. 血管収縮により胃腸への血流が減少
  3. 自律神経の交感神経が過度に刺激される

代替案

  • アイスティー → 常温の麦茶
  • 炭酸飲料 → レモン白湯
  • 冷たい牛乳 → 温めた豆乳

糖質偏重食の弊害

現代の子どもの食事は糖質が60〜70%を占めることが珍しくありません。

血糖値スパイクが引き起こす悪循環

  1. 急激な血糖上昇
  2. インスリン大量分泌
  3. 反動での血糖急降下
  4. 自律神経の乱れ
  5. 起立時の血圧調節不良

推奨する糖質摂取パターン

  • 朝:玄米おにぎり1個(40g糖質)
  • 昼:全粒粉パン2枚(30g糖質)
  • 夜:さつまいも中1本(25g糖質)

合計95g(全カロリーの40%程度)に抑制。

症状別・体質別の食事カスタマイズ

「気虚」タイプ(疲れやすい子)

特徴

  • 朝起きられない
  • 午後も疲労感
  • 食欲不振
  • 風邪をひきやすい

おすすめ食材

  • 山芋(消化吸収を助ける)
  • 鶏肉(気を補う)
  • かぼちゃ(脾胃を温める)
  • もち米(持続的なエネルギー)

1日のメニュー例 朝:山芋入りお粥、鶏そぼろ 昼:かぼちゃスープ、全粒粉パン 夜:鶏の水炊き、もち米入りおこわ

「血虚」タイプ(顔色が悪い子)

特徴

  • 立ちくらみが強い
  • 爪が白い
  • 髪がパサつく
  • 集中力低下

おすすめ食材

  • レバー(造血作用)
  • ほうれん草(鉄分豊富)
  • 黒ごま(血を滋養)
  • 赤身肉(良質な鉄分)

「痰湿」タイプ(むくみやすい子)

特徴

  • 朝の顔のむくみ
  • 雨の日の体調不良
  • 頭重感
  • 体重増加傾向

おすすめ食材

  • 小豆(利水作用)
  • とうもろこし(湿を除く)
  • 冬瓜(むくみ解消)
  • ハトムギ(水分代謝改善)

気功師が教える「食べる瞑想法」

食事そのものを治療行為として捉える、東洋医学独特のアプローチをご紹介します。

呼吸法と咀嚼の連携

基本のリズム

  1. 4秒かけて鼻から息を吸う
  2. 2秒息を止める
  3. 6秒かけて口から息を吐く
  4. この間に20回以上咀嚼

この呼吸法により副交感神経が優位になり、消化吸収が格段に向上します。

五感を使った食事法

視覚:食材の色彩を意識的に観察 嗅覚:香りを3回深く吸い込む 味覚:甘み・酸味・苦味・辛味・塩味を順番に感じる 触覚:食材の食感を舌で確認 聴覚:咀嚼音に意識を向ける

この方法で食事時間は必然的に15分以上となり、満足感も高まります。

漢方的視点での調理法の工夫

「温性」「涼性」食材の組み合わせ

東洋医学では食材に「温性」「平性」「涼性」の性質があります。

体を温める食材(温性)

  • 生姜、ニンニク、シナモン
  • 羊肉、鶏肉、エビ
  • もち米、栗、くるみ

体を冷やす食材(涼性)

  • きゅうり、トマト、バナナ
  • 豚肉、鴨肉、カニ
  • 小麦、大根、白菜

起立性調節障害の子どもは基本的に「陽気不足」なので、温性食材を7割、涼性食材を3割の割合で組み合わせます。

調理法による性質の変化

同じ食材でも調理法で性質が変わります。

例:大根の場合

  • 生大根(涼性)→ 消化促進、解毒
  • 煮大根(平性)→ 胃腸の負担軽減
  • 干し大根(温性)→ 体を温める

起立性調節障害の改善期には「煮る」「蒸す」「炒める」調理法を多用し、「生」「揚げる」は控えめにします。

四季に応じた食事調整

春(3-5月)

特徴:新学期のストレス、気圧変動で症状悪化しやすい時期

重点食材

  • 春キャベツ(肝の働きを助ける)
  • 新玉ねぎ(血流改善)
  • 菜の花(解毒作用)
  • 桜えび(カルシウム補給)

注意点 花粉症がある子は「辛い物」を控える

夏(6-8月)

特徴:暑さで食欲低下、冷房で冷え性悪化

重点食材

  • トマト(暑さによる疲労回復)
  • キュウリ(体の熱を取る)
  • とうもろこし(水分代謝改善)
  • 鰻(夏バテ防止)

注意点 冷たい物の摂り過ぎ厳禁。常温以上で摂取。

秋(9-11月)

特徴:乾燥により「肺」が弱りやすい。免疫力低下注意。

重点食材

  • 梨(肺を潤す)
  • 白きくらげ(乾燥対策)
  • さつまいも(気を補う)
  • 鯖(良質な脂質)

冬(12-2月)

特徴:「腎」の季節。成長期の根本的な力を養う大切な時期。

重点食材

  • 黒豆(腎を補う)
  • くるみ(脳の栄養)
  • 羊肉(体を温める)
  • 海苔(ミネラル豊富)

実践的な1週間メニュープラン

月曜日(週の始まり:気を整える)

朝食

  • 生姜入り味噌汁
  • 納豆玄米ご飯
  • 卵焼き
  • ほうじ茶

昼食

  • 鶏肉と野菜のスープ
  • 全粒粉パン
  • チーズ
  • 温かいウーロン茶

夕食

  • 鮭の塩焼き
  • 小松菜の胡麻和え
  • 豆腐とわかめの味噌汁
  • 玄米ご飯

火曜日(血を補う)

朝食

  • レバーペースト入りトースト
  • トマトスープ
  • ヨーグルト
  • 温かい紅茶

昼食

  • 牛肉とほうれん草の炒め物
  • 白米
  • わかめスープ

夕食

  • あさりの酒蒸し
  • ひじきの煮物
  • かぼちゃの味噌汁

水曜日〜日曜日

(同様のパターンで、各曜日のテーマを設定)

  • 水曜:水分代謝改善
  • 木曜:消化力向上
  • 金曜:ストレス対策
  • 土曜:デトックス
  • 日曜:来週への準備

症状改善の目安とモニタリング

改善プロセスの段階

第1段階(1-2週間)

  • 便通の改善
  • 朝の目覚めがわずかに良くなる
  • 午後の疲労感軽減

第2段階(1-2ヶ月)

  • 立ちくらみの頻度減少
  • 食欲の安定
  • 夜の入眠改善

第3段階(3-6ヶ月)

  • 朝の起床時間安定
  • 学校生活への復帰
  • 体重の適正化

家庭でできるセルフチェック

毎朝の確認項目

  1. 目覚めの気分(1-10点)
  2. 食欲の有無
  3. 便通の状態
  4. 顔色(鏡でチェック)
  5. 立ち上がり時のふらつき

週1回の測定

  • 体重
  • 血圧(可能であれば)
  • 睡眠時間
  • 学校出席日数

治療歴20年の経験から伝えたいこと

私がこれまで診てきた起立性調節障害の子どもたち。最初は「治るんですか?」と不安そうな表情だった子が、3ヶ月後には元気に学校に通っている姿を見ると、食事の力の偉大さを改めて感じます。

薬だけに頼らず、毎日の食事を「治療」として捉える。これが東洋医学の智慧です。

最後に大切なお約束

完璧を求めすぎないこと。80%の実践で十分効果は現れます。たまには好きな物を食べる日があっても構いません。継続こそが最も重要な「薬」なのです。

あなたのお子さんが明日の朝、少しでも楽に起きられますように。そして何より、親子で一緒に食事を楽しめる日が早く来ることを願っています。


これらの食事療法は、医師の診断と治療を補完するものです。症状が重篤な場合は、必ず専門医にご相談ください。

あなたも今日から、食事を通じた体質改善を始めてみませんか?