スマホの画面を見つめたまま、気がつくと午前3時。また今夜も眠れない…そんな現代人の悩みを、私は治療院で毎日のように耳にします。

情報過多の時代に生きる私たちは、まるで24時間営業のコンビニのように、脳が休むことを忘れてしまったのかもしれません。東洋医学の視点から見ると、この不眠の根っこには「心神不安」という状態が潜んでいるんです。

現代の不眠は「情報中毒」が原因

治療歴20年の中で、最近特に増えているのが「情報疲労型不眠」の患者さんです。朝起きてすぐにニュースをチェック、通勤中はSNS、仕事中もメール対応、帰宅後はYouTubeやNetflix…

一日に処理する情報量は、江戸時代の人が一生かけて得る情報量を上回るとも言われています。想像してみてください。脳というコンピューターが、毎日テラバイト級のデータを処理し続けているようなものです。

東洋医学では「心は神を蔵す」と言います。心臓が血液を送り出すポンプであるように、「心」は精神活動の中枢なんです。情報過多により心が疲弊すると、神（精神）が安らぐ場所を失ってしまう。

これが現代人の不眠の正体です。

東洋医学が教える「情報デトックス」の智慧

古代中国の医学書『黄帝内経』には、こんな一節があります。「恬淡虚無、真気従之、精神内守、病安従来」

現代語に訳すと「心を穏やかに保ち、無欲であれば、真の気が巡り、精神が内に安定し、病気はどこからやってくるだろうか」という意味です。

2000年以上前の人々が、すでに心の平静さと健康の関係を理解していたんですね。思わず感心してしまいます。

現代に置き換えるなら、情報の洪水から一時的に離れ、心を静める時間を意識的に作ることが必要です。

気功的アプローチで情報疲労を解消する

私が患者さんによくお話しするのは「情報の断食」という考え方です。

食べ物の断食と同じように、情報も意図的に断つ時間を作る。1日のうち、たった30分でも構いません。スマホを別の部屋に置き、何も情報を入れない時間を作ってみてください。

最初は落ち着かないかもしれません。まるで禁煙初日のように、無意識に手がスマホを探してしまう。でも、これこそが情報依存の証拠なんです。

気功の基本概念に「調身・調息・調心」があります。

調身：体の姿勢を整える 調息：呼吸を整える
調心：心を整える

この順番が重要です。まず体の緊張をほぐし、次に呼吸を深くゆっくりにし、最後に心を静める。現代人は逆順序で考えがちですが、体から入るのが東洋医学の智慧です。

具体的な「情報断食」の実践法

私が20年間の臨床で編み出した、簡単で続けやすい方法を3つご紹介します。

1. 夜8時以降のデジタルデトックス

夕食後はスマホ、パソコン、テレビを見ない時間を作る。最初は1時間から始めて、慣れてきたら就寝まで続けてみてください。

東洋医学では、夜の時間帯は「陰の時間」とされ、体が自然と休息モードに入る時期です。この時に強い光や刺激的な情報を浴びると、体内リズムが狂ってしまいます。

2. 朝の15分間瞑想

起床後、すぐにスマホをチェックするのではなく、15分間静かに座る時間を作る。何も考えなくていいんです。ただ呼吸に意識を向けるだけ。

古代の人々は、朝日と共に起き、自然のリズムに合わせて生活していました。現代の私たちも、一日の始まりを情報ではなく、自分の内側との対話から始めてみませんか。

3. 週末の「情報安息日」

土日のどちらか半日、完全に情報を断つ日を作る。ニュースもSNSも見ない。緊急連絡以外は電話にも出ない。

最初は「世の中で何が起きているか分からなくて不安」になるかもしれません。でも考えてみてください。1日情報を見なかったからといって、本当に困ることってありますか？

東洋医学が捉える「情報」の性質

東洋医学では、全ての現象を「陰陽五行」で分類します。情報も例外ではありません。

陽の情報：明るい、活動的、刺激的な情報（ニュース、SNS、エンタメ） 陰の情報：静か、内向的、深い情報（読書、瞑想、自然との触れ合い）

現代人は圧倒的に陽の情報を摂取しすぎています。陰の情報も意識的に取り入れることで、情報のバランスが整うんです。

私の患者さんの中に、毎晩30分間、好きな詩集を読む習慣をつけた方がいます。3週間後、「久しぶりにぐっすり眠れた」と報告してくれました。

気の流れから見る情報処理能力

気功の世界では、人間の体には「気の流れ」があると考えます。情報過多の状態は、この気の流れを滞らせる大きな要因なんです。

特に現代人に多いのが「頭部の気滞」。頭に気が上がりすぎて、下半身に気が降りてこない状態です。これが不眠の直接的な原因になります。

頭がパンパンに張って、足は冷たい。心当たりありませんか？

気を下に降ろすには、物理的に下を向く動作が効果的です。ゆっくりと前屈するだけでも、頭部に溜まった気が下に流れていきます。

情報の「質」を見極める東洋医学的視点

全ての情報が悪いわけではありません。問題は情報の「質」と「量」のバランスです。

東洋医学には「薬食同源」という考え方があります。食べ物も薬も、適量であれば体に良いが、過剰になれば毒になるという意味です。

情報も同じです。適度な情報は脳を活性化させ、人生を豊かにしてくれます。しかし過剰になると、心神不安を引き起こし、不眠の原因となる。

私が患者さんにお勧めしているのは「情報の断捨離」です。本当に必要な情報だけを選び、それ以外は思い切って手放す。

SNSのフォローを100人から20人に減らした患者さんは、「情報に振り回される感覚がなくなった」と喜んでいました。

季節と情報摂取の関係

東洋医学では、季節に応じて生活リズムを変えることを推奨しています。情報摂取も例外ではありません。

春：新しい情報を積極的に取り入れる季節 夏：活動的な情報、明るい情報を好む時期 秋：情報を整理し、不要なものを手放す季節 冬：情報摂取を控え、内省的に過ごす時期

現代人の多くは、一年中「夏モード」で情報を摂取し続けています。季節のリズムに合わせて情報との付き合い方を変えてみると、自然と心身のバランスが整ってきます。

不眠解消のための「情報ヨガ」

私が独自に開発した「情報ヨガ」という概念があります。体を動かすヨガではなく、情報との向き合い方をヨガのように意識的に行う方法です。

呼吸を意識して情報を読む ニュースやメールを読むとき、無意識に息を止めていませんか？情報を読みながら、ゆっくりと深呼吸を続けてみてください。

情報の「消化時間」を作る 食事の後に消化時間が必要なように、情報も摂取後に消化時間が必要です。重要な情報を読んだ後は、5分間何も考えずにぼーっとする時間を作る。

情報の「味わい」を意識する 急いで情報を詰め込むのではなく、一つ一つの情報をじっくりと味わう。まるで高級料理を楽しむように、情報も丁寧に摂取してみてください。

東洋医学的「良い情報」の選び方

20年間の臨床経験から、不眠改善に役立つ「良い情報」の特徴をお伝えします。

1. 時間の流れがゆっくりした情報 急を要さない、のんびりした情報。自然に関する記事、歴史的な話、芸術作品について等。

2. 深みのある情報 表面的でない、考えさせられる情報。哲学書、詩集、古典文学など。

3. 心を落ち着かせる情報 争いや対立を煽らない、平和的な情報。癒やしの音楽、美しい風景写真、穏やかな人々の話など。

逆に避けたい情報は、緊急性を煽るもの、不安や怒りを増大させるもの、表面的で刺激的なものです。

現代版「養生法」として情報管理を

古代中国には「養生法」という概念がありました。日常生活の中で健康を保つための具体的な方法論です。

現代の養生法として、私は「情報養生」を提案しています。

毎朝の情報チェックは朝食のように適量を。昼間の情報摂取は仕事に必要な分だけ。夜の情報は軽めの夕食程度に抑える。

そして週に1日は「情報断食日」を設ける。これだけでも、多くの患者さんの不眠が改善されています。

実際に、この方法を3ヶ月続けた会社員の方から「10年ぶりに朝までぐっすり眠れた」という報告をいただきました。少し誇らしい気持ちになりました。

まとめ：情報時代の新しい「眠り方」

情報過多による不眠は、現代病の代表格です。しかし、東洋医学の智慧を活用すれば、必ず改善の道筋が見えてきます。

大切なのは、情報を完全に断つことではありません。情報との付き合い方を見直し、心身のバランスを取り戻すことです。

毎日少しずつでも構いません。スマホを置く時間を作り、深呼吸をし、自分の内側に意識を向けてみてください。

あなたも今夜から、新しい「眠り方」を始めてみませんか？