【不眠×甲状腺×東洋医学】眠れない夜の原因は“ホルモン”と“気の乱れ”?根本改善のヒント
私はこの道20年の整体師、冨高と申します。長年の臨床経験の中で、不眠というお悩みを抱える方がいかに多いか、痛感しております。特に、女性の場合、更年期やそれに伴うホルモンバランスの乱れと不眠が複雑に絡み合っていることも少なくありません。今日は、そんな不眠の深層に東洋医学の視点から迫り、特に甲状腺との関連性、そして私が長年実践してきた気功の知見を交えながら、皆さまの眠りを取り戻すための一助となれば幸いです。
不眠の根本原因を探る:東洋医学の視点
不眠と一言で言っても、その原因は十人十色。寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう、ぐっすり眠った気がしないなど、症状も様々です。現代医学では、ストレスや生活習慣の乱れ、精神的な問題などが挙げられますが、東洋医学ではもう少し深く、身体全体のバランスに目を向けます。
東洋医学では、不眠を「心神(しんしん)が安らかでない状態」と考えます。心神とは、精神活動を司る機能のことで、これが乱れると、魂の居場所である「血(けつ)」や「陰(いん)」が不足したり、あるいは「気(き)」の巡りが滞ったりすることで、眠りが妨げられると捉えます。
具体的には、以下のようなタイプに分けられます。
- 心脾両虚(しんぴりょうきょ)タイプ: 思い悩みすぎたり、過労が続いたりすると、消化器系を司る「脾(ひ)」の働きが低下し、血液を作る力が弱まります。その結果、「血」が不足し、心神を養うことができずに不眠となります。食欲不振や倦怠感を伴うことが多いですね。
- 肝鬱化火(かんうつかか)タイプ: ストレスや怒り、イライラといった感情が長く続くと、「肝(かん)」の気の巡りが滞り、それが熱に変化して心神を乱します。寝つきが悪く、夢が多く、口が苦く感じるなどの症状が出やすいです。まるで心が燃えているような状態、とでも言いましょうか。
- 心腎不交(しんじんふこう)タイプ: 加齢や過度の性生活、慢性的な疲労などで「腎(じん)」の陰が消耗すると、心神を落ち着かせる「陰」が不足し、相対的に「陽(よう)」が強くなりすぎて不眠となります。寝汗をかきやすく、めまいや耳鳴りを伴うこともあります。
これらのタイプは単独で現れることもあれば、いくつかが複合的に絡み合っていることも珍しくありません。問診の際には、細かくお話を伺い、脈や舌の状態を診て、その方の体質や今の状態を丁寧に探っていくわけです。これはまるで、複雑に絡み合った糸を一本一本丁寧に解きほぐしていくような作業ですね。
甲状腺と不眠:見過ごされがちな東洋医学的な関連
さて、ここからが本題の一つ、甲状腺と不眠の関連性についてです。現代医学では、甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)では動悸や発汗、イライラと共に不眠が、甲状腺機能低下症(橋本病など)では倦怠感や気力の低下と共に過眠や質の悪い睡眠が見られることがあります。
では、東洋医学ではどのように捉えるのでしょうか?
甲状腺は、首の喉仏の下あたりにある小さな臓器ですが、東洋医学的には「肝(かん)」や「腎(じん)」、「心(しん)」の機能と深く関連していると私は考えています。
例えば、甲状腺機能亢進症の場合、過剰な代謝亢進は東洋医学でいう「陰虚火旺(いんきょかおう)」や「肝陽上亢(かんようじょうこう)」の状態と非常に似ています。体の潤いである「陰」が不足し、相対的に熱がこもり、気が頭にのぼりやすくなる状態です。これにより、イライラや動悸、そしてもちろん不眠といった症状が現れやすくなります。夜中に体が熱くなって目が覚める、寝汗をかくなども典型的な症状ですね。
一方で、甲状腺機能低下症の場合、代謝の低下は「脾腎陽虚(ひじんようきょ)」の状態と関連が深いと考えられます。「脾」と「腎」の「陽気(ようき)」、つまり体を温め、活動させるエネルギーが不足している状態です。これでは、身体全体が冷え、倦怠感が強く出て、活動する気力がわかず、結果として日中の眠気や、夜間の睡眠の質の低下につながることがあります。
長年の経験から言えるのは、甲状腺の不調を抱える方は、東洋医学的な体質診断でも、上記のいずれかの傾向が強く出ていることが多いということです。特に女性の場合、ホルモンバランスの変動が大きい時期と重なると、甲状腺の不調が顕在化しやすく、それに伴って不眠が悪化することも多々あります。思わず「なるほど」と膝を打つような症例にも何度も遭遇しました。
気功が導く、深い眠りへの道
私が長年実践し、皆さまにお伝えしているのが「気功」です。気功というと、何だか特別なもの、と思われがちですが、決してそうではありません。呼吸と姿勢、そして意識を合わせることで、私たちの体の中に流れる「気」を整え、心身のバランスを取り戻すための、非常にシンプルな、しかし奥深い養生法です。手技は一切使いませんが、その効果は計り知れません。
不眠でお悩みの方にとって、気功はまさに心強い味方となってくれます。
- 自律神経の調整: 現代人の不眠の大きな原因の一つに、自律神経の乱れがあります。交感神経が優位になりすぎて、心身が常に興奮状態にあると、なかなか寝付けません。気功のゆったりとした呼吸法や動作は、副交感神経を優位に導き、心身をリラックスさせる効果があります。これにより、自然と眠りにつきやすい状態を作り出すことができます。
- 気の巡りの改善: 東洋医学では、「気滞(きたい)」、つまり気の滞りが不眠の原因となることがあります。気功の動きは、体内の気の巡りをスムーズにし、滞りを解消する助けとなります。特に「肝鬱化火」タイプの不眠には、気の巡りを良くすることが非常に効果的です。
- 心神の安定: 気功は、単に体を動かすだけでなく、意識を集中させる瞑想的な側面も持ち合わせています。これにより、雑念が消え、心が穏やかになり、心神が安定します。不安や心配事が頭から離れず眠れない方には、この心神を安定させる効果が特に大きく作用します。
- 体質の改善: 継続的に気功を行うことで、その方の体質そのものが良い方向へと変化していきます。「心脾両虚」の方であれば、気の生成が促され、「陰虚火旺」の方であれば、相対的に不足していた「陰」が補われるような効果も期待できます。これは、地道な努力が実を結ぶ瞬間とも言えるでしょう。
もちろん、一朝一夕に効果が出るわけではありません。しかし、毎日少しずつでも続けることで、その変化を実感できるはずです。私自身、多くの患者さんが気功を続けることで、薬に頼らずとも深い眠りを取り戻していく姿を目の当たりにしてきました。
例えば、ある50代の女性の患者さんは、長年、甲状腺機能低下症による不眠と倦怠感に悩んでいらっしゃいました。朝起きるのが辛く、日中も常に眠気が襲うという状態でした。病院での治療は受けていらっしゃいましたが、なかなか改善しないということで当院にいらっしゃいました。私は彼女に、体質改善のための食養生のアドバイスと共に、自宅でできる簡単な気功の型をいくつか指導しました。
最初は半信半疑だったようですが、毎日朝晩15分ずつ、真面目に続けてくださいました。2週間ほど経った頃、彼女は「先生、少しずつですが、朝、体が軽くなってきた気がします」と嬉しそうに報告してくださいました。さらに1ヶ月もすると、「夜中に目が覚める回数が減りました。以前は3回以上目が覚めていたのに、今は1回か2回です」と。半年後には、ぐっすり眠れる日が増え、日中の倦怠感も大きく軽減されました。病院の数値も安定し、担当医も驚いていたそうです。
彼女のように、ご自身の内なる力を引き出すことで、本来持っている治癒力を高め、不眠を克服された方は枚挙にいとまがありません。
日常でできる養生と気功のヒント
では、具体的に日常生活でどのようなことに気をつければ良いのでしょうか。そして、どのような気功を取り入れれば良いのでしょうか。
食養生で心身を整える
食事は、私たちの体を作り、気を生み出す源です。不眠改善のためには、消化に良いものを中心に、体を冷やさない温かい食事を心がけましょう。
- 「血」を補う食材: ほうれん草、人参、プルーン、レーズン、黒豆など。特に女性は意識して摂りたいですね。
- 「陰」を補う食材: 百合根、クコの実、豚肉、鴨肉、豆腐など。体の乾燥やほてりが気になる方に良いでしょう。
- 気の巡りを良くする食材: ミカンや柚子などの柑橘類、セロリ、春菊など。香り高い野菜や果物は、気の滞りを解消する助けになります。
- 避けるべきもの: 寝る前のカフェインやアルコールの摂取は控えめに。刺激物や脂っこい食事も、消化器系に負担をかけ、不眠を悪化させる可能性があります。特に寝る前のカフェインは、たとえ日中に12杯飲んでいたとしても、夜は避けたいものです。
心身のリラックスを促す習慣
- ぬるめのお風呂: 就寝の1時間前くらいに、38〜40℃くらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かりましょう。湯船に浸かることで副交感神経が優位になり、リラックス効果が高まります。
- 寝室の環境整備: 寝室は暗く、静かで、適度な温度を保ちましょう。スマートフォンやパソコンのブルーライトは、睡眠を妨げる原因となりますので、寝る2時間前からは使用を控えるのが理想です。
- 規則正しい生活: 毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる。これはシンプルですが、体内時計を整える上で非常に重要です。週末の寝だめは、かえってリズムを崩してしまうことがあります。
気功で気を巡らせる
ここでは、ご自宅で簡単にできる気功のヒントをいくつかご紹介します。難しい型を覚える必要はありません。大切なのは、呼吸と意識を集中させることです。
- 「臥位気功(がいきこう)」: 仰向けに寝て、全身の力を抜き、深呼吸を繰り返します。息を吸うときはお腹を膨らませ、吐くときはお腹をへこませます。呼吸と共に、全身の緊張が抜けていくのを感じてみてください。まるで、大地に体が溶け込んでいくような感覚です。
- 「立禅(りつぜん)」の簡易版: 足を肩幅に開き、膝を軽く緩め、腕を軽く前に出して抱えるように立ちます。まるで大きな木を抱いているようなイメージです。目線は遠くを見て、呼吸は自然に任せます。数分間、この姿勢を保つだけでも、体の中心に気が集まり、安定感が増します。
- 「吐納法(とんほう)」: 鼻からゆっくり息を吸い込み、口から「ハァー」と細く長く息を吐き出す呼吸法です。息を吐き出す時に、体の中の不要なもの、ストレス、不安などが全部出ていくイメージで行います。これを10回程度繰り返すだけでも、心が落ち着き、穏やかになります。
不眠は、ただ単に「眠れない」という症状だけでなく、体全体のバランスの乱れを示しているサインです。特に甲状腺の不調を抱えている方にとっては、東洋医学的な視点から身体全体を整え、ご自身の「気」を養うことが、根本的な改善への近道となり得ます。
気功は、薬のように即効性があるわけではありませんが、続けることで確実に体質を改善し、ご自身の治癒力を高めてくれます。私も日々、皆さまがご自身の力で健康を取り戻される姿を拝見し、この仕事の喜びを噛み締めております。
ご自身の眠りの質を高めるために、今日から何か一つ、始めてみてはいかがでしょうか?