「感情を抑えすぎると強迫症状が悪化する?」東洋医学が読み解く心のサインと整え方
今回は、強迫性障害、そしてその背景にある感情抑制という、非常にデリケートで深いテーマについて、東洋医学の視点から深く掘り下げていきましょう。私がこの道に入って20年、気功の指導者として、また東洋医学のプロの整体師として、数えきれないほどのクライアントさんの心と体に向き合ってきましたが、強迫的な思考や行為に苦しむ方の多くが、実はご自身の感情を無意識のうちに抑え込んでいることを痛感しています。感情を抑制し続けることは、心身に計り知れない負担をかけ、強迫性障害の症状を悪化させる大きな要因となります。今日は、なぜ感情を抑制すると強迫性障害を呼び、その悪循環をどう断ち切り、心身を穏やかな状態へと導けるのかを、私の経験も交えながら詳しくお伝えしますね。
強迫性障害と感情抑制:東洋医学が捉える心身のサイン
「感情抑制」とは、怒り、悲しみ、不安、不満といった様々な感情を、表に出さずに心の中に閉じ込めてしまうことです。私たちは社会生活を送る中で、感情をコントロールすることが求められますが、度を超した抑制は心身に大きな歪みを生み出します。強迫性障害を抱える方の中には、真面目で責任感が強く、周囲に気を遣いすぎるあまり、自分の感情を押し殺してしまう傾向が見受けられます。
西洋医学的には、感情抑制はストレス反応の一つであり、これが心身症や精神疾患につながる可能性が指摘されています。特定の神経伝達物質や脳の領域が関わることも考えられます。
一方、東洋医学では、感情は私たちの「気(き)」の流れと密接に関わると考えます。感情を抑制し続けることは、この「気」の流れを著しく滞らせ、体内のバランスを崩し、それが強迫性障害の症状として現れると捉えます。特に、肝(かん)、心(しん)、脾(ひ)といった臓腑の働きが深く関わっているんです。
具体的なメカニズムを、東洋医学の視点からいくつか見ていきましょう。
1. 肝(かん)の気の滞り(肝気鬱結):感情の抑圧が気の流れを阻害する
東洋医学において、「肝」は気の巡りをスムーズにする、いわば「気の交通整理役」です。また、感情のコントロール、特に「怒り」や「イライラ」の感情と深く関わります。
- 感情を抑制し続けることは、肝の気の流れを直接的に滞らせ、「肝気鬱結(かんきうっけつ)」という状態を引き起こします。この滞りは、全身の気の巡りを悪くし、様々な不調の根源となります。
- 症状としては、胸や脇腹の圧迫感、ため息が多い、喉に何かが詰まったような感覚(梅核気ばいかくき)、イライラ、怒りっぽい、憂鬱な気分、そして漠然とした不安感や強迫観念の悪化につながります。感情を抑圧することで、心身が緊張し、その緊張が強迫的な思考や行為へと現れることも多いでしょう。
- 例えるなら、交通整理をする肝が機能不全を起こし、感情というエネルギーが渋滞して、体内にストレスとして蓄積され、それが強迫的な思考や行為として溢れ出ているようなものです。
2. 心(しん)の神(しん)の不寧(ふねい)と心火亢盛(しんかこうせい):感情の消耗と心のざわつき
「心」は精神活動や意識を司る最も重要な臓腑の一つで、心には「神(しん)」が宿るとされ、この神が安定している時に私たちは心が穏やかで、安心して過ごすことができます。
- 感情を抑制し続けることは、常に心のエネルギーを消耗させることにつながります。自分の感情を押し殺し、周囲の期待に応えようとすることは、心が休まらない状態を招き、心の働きを乱し、「心神不寧」という状態になります。
- また、この状態が長く続くと、心に熱がこもり、「心火亢盛(しんかこうせい)」という状態になることがあります。
- 症状としては、動悸、胸のざわつき、息苦しさ、不眠(特に寝つきが悪い、眠りが浅い)、そして常に心がざわつき、漠然とした不安感や焦燥感、強迫観念が頭から離れないといった症状が現れます。感情を抑制しようとするほど、これらの症状が強く現れることもあります。
- 例えるなら、心の部屋が常に明るく、騒がしく、神様が安心して休めず、夜間も活動を続けているようなものです。
3. 脾(ひ)の過労と消耗(脾気虚):尽きない思い悩みとエネルギー不足
「脾」は消化吸収を司り、食べ物から体に必要な「気」と「血(けつ)」を生成する「エネルギー工場」です。また、感情の中でも特に「思い悩み」や「思考」といった活動と深く関わるとされます。
- 感情を抑制することは、それを内側で処理しようと過度に思考を巡らせることに繋がります。この過度の思い悩みは、脾の働きを著しく消耗させます。
- 脾が弱ると、体に必要な気血が十分に生成されず、全身のエネルギーが枯渇してしまいます(脾気虚ひききょ)。
- 症状としては、慢性的な疲労感、だるさ、食欲不振、胃もたれ、お腹の張り、集中力の低下、そして過度な思考が止まらない、物事が決められないといった精神症状が現れます。体がガス欠状態なのに、頭だけが過剰に活動しているようなものです。
- 例えるなら、工場の電力(気血)が不足しているのに、思考という機械をフル稼働させ続けているため、生産性が落ちるどころか、誤作動(強迫観念)を繰り返すようなものです。
このように、感情抑制という習慣は、肝、心、脾といった五臓に大きな負担をかけ、それが気の不足や滞り、そして精神的な消耗へとつながり、結果として強迫性障害の症状を悪化させてしまうのです。
東洋医学が強迫性障害の「感情抑制」の根本改善に推奨するアプローチ
東洋医学は、強迫性障害を「単なる精神的な問題」としてではなく、「感情抑制による心身のバランスの乱れ」として捉え、その根本原因にアプローチすることで改善を目指します。治療歴20年の私の経験から、東洋医学が推奨するこの状態の改善に向けた主なアプローチをご紹介しましょう。
1. 肝(かん)の気の滞り解消:感情の適切な表現とストレスの解放
感情抑制による肝の気の滞りを解消し、感情をスムーズに流すことが最優先です。
- 感情を適切に表現する方法を学び、ストレスをため込まないようにします。
- 肝の気を巡らせるストレッチや運動を取り入れ、体のこわばりを和らげます。
2. 心(しん)の養生と精神の安定:心の消耗を防ぎ、神を安らがせる
感情抑制による心の消耗を防ぎ、精神を安定させることが重要です。
- 心に過度な負担をかけない生活習慣(十分な休息、睡眠の確保)を徹底します。
- 心を穏やかに保つための習慣を取り入れ、過剰な興奮を鎮めます。
3. 脾(ひ)の機能を回復し、気を補う:思考の過剰を鎮め、エネルギーを養う
感情抑制に伴う思い悩みやエネルギー消耗を改善するため、脾の働きを強化し、体に必要な気血を十分に生成することが重要です。
- 消化に良い食事を摂り、暴飲暴食を避け、脾に負担をかけないようにします。
- 過度の思考や思い悩み、完璧主義的な傾向を減らし、心を休ませることが大切です。
4. 全身の気の巡りをスムーズにする:心身の緊張を解放
気がスムーズに巡らないと、心身に様々な緊張が生じ、感情をさらに抑制したり、強迫観念や行為への衝動を強めてしまったりします。
- 滞った気を動かし、全身の血流を改善します。
- 身体的な緊張を解放し、リラックスできる状態へと導きます。
気功が東洋医学的なアプローチを具体化し、感情抑制による強迫性障害を軽減する助けとなる
気功は、呼吸、姿勢、そして意識(意念)を統合することで、これらの東洋医学的な診断に基づき、ご自身の力で心身のバランスを整えるための最も有効な方法の一つです。私が気功を20年間指導してきた中で、その奥深さと、感情抑制による強迫性障害の症状軽減を目の当たりにしてきました。
気功は、体内の「気」の流れを調整し、五臓六腑のバランスを取り戻し、深いレベルから感情を解放し、強迫観念や強迫行為への衝動を軽減し、穏やかな日常を取り戻すことを目指します。手技を用いるものではありませんから、ご自宅で無理なく始められますよ。何よりも、ご自身のペースで、小さな一歩から始めることが大切です。
1. 肝(かん)の気を流し、感情を解放する「伸び伸び運動」と「感情解放の呼吸」
感情を抑制しがちな方、イライラや不満を内にため込みやすい方には、肝の気の滞りを解消する動きと、感情解放の呼吸が効果的です。
- 立位で、両腕を頭上に持ち上げ、指を組み、手のひらを天井に向けます。
- 息を吸いながら、体をゆっくりと左右に傾け、脇腹から腕、指先までを気持ちよく伸ばしましょう。この時、心に溜め込んだストレスや不満、抑圧された感情が、体の側面から解放されていくイメージを持ちます。
- 息を吐きながら、元の姿勢に戻ります。これを左右それぞれ3回から5回繰り返してください。
- さらに、今感じている抑制された感情(怒り、悲しみ、不満など)を意識し、深く息を吸い込み、その感情を体の中に一度取り込むようなイメージを持ちます。そして、息を吐く時に、その感情を濁った空気のように「ハァー」と声に出しながら体外へ吐き出すイメージを持ちます。これを何度か繰り返しましょう。感情を感じきってから手放すことが大切です。
2. 心の神(しん)を安らがせる「心の掃除」瞑想と「慈悲の瞑想」
感情抑制による心の消耗や精神的なざわつきがある方には、心を静める瞑想と、自己肯定感を高める瞑想が非常に有効です。
- 仰向けに寝るか、静かに座り、目を閉じます。
- 自分の頭の中や胸の中を、まるで部屋の中を見るように観察します。散らかった思考や、不安な感情、自己批判の言葉、抑圧された感情が、そこに埃やゴミのように散らばっていることを想像します。
- ゆっくりと息を吐くたびに、その思考や感情が、風に吹かれて遠くへ飛んでいく、あるいは、掃除機で吸い取られていくようなイメージを持ちます。
- 息を吸う時には、新鮮でクリアな空気が頭や胸、そして全身に満ち、心が穏やかになるのを感じます。
- その後、「慈悲の瞑想」を行います。自分のハートチャクラ(胸の中心)に意識を集中し、そこから温かい光が放たれ、まず自分自身(「私が幸せでありますように、私が苦しみから解放されますように、私が自分自身を許し、受け入れられますように」)を優しく包み込むイメージを持ちます。
- これらを寝る前や、感情が抑制されていると感じた時に5分から10分行うことで、思考の過剰な活動が鎮まり、心がスッキリし、自己受容が進むでしょう。
3. 脾(ひ)を養い、思考の過剰を鎮める「丹田呼吸(たんでんこきゅう)」
感情抑制に伴う思い悩みや思考の過剰が強い方には、丹田呼吸が非常に有効です。丹田は、気を集め、脾の働きを助け、心を安定させる場所です。
- 仰向けに寝るか、椅子に楽な姿勢で座り、片手を丹田(おへその下約9cm)に置きます。
- 息を吸う時にお腹が大きく膨らみ、丹田に温かい空気が満ちるのを感じます。同時に、頭の中のぐるぐる回る思考や強迫観念、不安が、足元へ、あるいは大地へとスーッと降りていくイメージを持ちましょう。
- 息を吐く時にお腹がゆっくりとへこみ、心身の緊張や不安、過度な思考が体外へ排出されていくイメージを持ちます。特に吐く息を長く、ゆっくりと行うことで、副交感神経が優位になりやすくなります。例えば、吸うのに3秒かけたら、吐くのに6秒から9秒かける、といった具合です。
- これを毎日、朝晩5分ずつ、あるいは感情が抑制されていると感じた時に10回ほど行いましょう。心が落ち着き、頭がスッキリし、自然な安らぎへと誘われるでしょう。
4. 全身の緊張を解放する「体のスキャン」瞑想
感情抑制によって無意識のうちに全身が緊張していることが多いです。
- 仰向けに寝て、目を閉じます。
- 意識を足のつま先から頭のてっぺんまで、ゆっくりと移動させていきます。
- 意識が移動した部分の筋肉を、「フゥーッ」と息を吐きながら、意識的に緩めていきます。例えば、「つま先の力が抜けていく」、「足首の力が抜けていく」、「ふくらはぎの力が抜けていく」といったように、体の各部位の力を順番に抜いていきましょう。
- 全身の力が抜けたら、そのまま呼吸に意識を向け、心身が完全にリラックスしていくのを感じます。 この瞑想は、体の緊張を解放し、自律神経をリラックスモードへと切り替えるのに非常に効果的で、寝る前の実践に最適です。
日常生活で感情抑制による強迫性障害を軽減するためのヒント
気功的なアプローチだけでなく、日常生活の中で意識することで、感情抑制による強迫性障害の症状を軽減し、穏やかな日常を取り戻すヒントもたくさんあります。
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「完璧主義」を手放し、「適当さ」を受け入れる: 感情を抑制しがちな人、強迫性障害に囚われる人の多くは、真面目で完璧主義な傾向があります。完璧を目指しすぎると、常に自分を追い込み、感情を抑制し、それが強迫症状につながります。 完璧を目指すのではなく、「今日はできる範囲でやろう」、「完璧でなくても大丈夫」と自分に優しく語りかけることを意識しましょう。私も若い頃は、全てを完璧にこなそうとして、いつもストレスで胃を壊していました。その時、先輩から「もうちょっと適当でいいんだよ」と言われた時、思わず笑ってしまいました。その言葉で、どれだけ心が軽くなったことか。
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「〜すべき」思考を手放す: 「〜すべき」、「〜しなければならない」という思考は、自分を縛りつけ、感情を抑制する原因となります。これを「〜してもいい」、「〜しなくてもいい」といった柔軟な思考に変えていく練習をしましょう。
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感情を「感じる」ことを自分に許す: 感情に「良い」「悪い」という判断を下さず、ただ「今、自分はこれを経験しているんだな」と、感情そのものをありのままに感じてみましょう。感情を抑圧するのではなく、まず受け入れることが解放の第一歩です。
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感情を「適切に表現する」練習をする: 信頼できる人に話す: 心にため込んだ感情は、誰かに話すことで解放されやすくなります。信頼できる友人、家族、あるいは専門家など、安心して話せる相手を見つけて、自分の気持ちを言葉にしてみましょう。 ジャーナリング(書き出し): ノートに自分の感情を思いつくままに書き出すことも有効です。誰に見せるわけでもないので、自由に書き出しましょう。書き出すことで、感情が整理され、心が軽くなることがあります。
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規則正しい生活リズムと質の良い睡眠の確保: 心身が疲弊していると、感情のコントロールが難しくなり、強迫観念にとらわれやすくなります。 早寝早起きを心がけ、質の良い睡眠を確保しましょう。睡眠は、消耗した気血を回復させる最も大切な時間です。
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食事による脾胃のケアと気血の補充: 思い悩むことや、感情抑制は脾を消耗させます。 温かく消化に良い食事を摂り、脾胃の機能を助けましょう。冷たいもの、甘いもの、油っこいものは控えめにし、三食規則正しく摂ることが大切ですし、気血を補充することにもつながります。
私の経験から思うこと
20年間、整体師として多くの方の心身と向き合ってきましたが、強迫性障害に悩む方の多くが、その根底に「感情抑制」という心の癖を抱えていることを目の当たりにしてきました。特に、真面目で責任感が強く、他人の期待に応えようと頑張りすぎる方ほど、その傾向が強いように感じます。感情を抑制し続けることは、本当に心身を追い詰めてしまうのです。しかし、決して諦める必要はありません。東洋医学と気功の知恵は、必ず皆さんの力になります。
以前、ある若い女性のクライアントさんが、職場の人間関係に気を遣いすぎ、自分の意見や不満を言えずに我慢し続けた結果、強い不安と強迫観念(常に仕事のミスがないか確認する)に悩まされていました。感情を表に出さないため、常に笑顔でしたが、実際は胃の痛みや不眠も抱えていました。まさに「肝気鬱結」と「脾気虚」、「心神不寧」が同時に起きているような状態でしたね。私は彼女に、毎日朝晩5分ずつ伸び伸び運動と丹田呼吸を行うこと、そして、心に溜め込んだ感情を日記に書き出すジャーナリングを勧めることから始めました。最初は「感情を出すのが怖い」と半信半疑だったようですが、2ヶ月ほど経った頃、「以前より感情の波が穏やかになった」、「自分の意見を少しずつ言えるようになった」、「強迫観念が湧いても、以前より早く消えるようになった」と、驚いたように話してくれました。その時、私も心の中で「感情は、感じて解放するものなんだ」と深く納得したものです。感情を適切に処理することで、こんなにも心身が変化するのかと、東洋医学と気功の奥深さを改めて実感した瞬間でした。
あなたの心は、感情の自由と安らぎを求めていますか?
強迫性障害と「感情抑制」という悩みは、単なる気の弱さではありません。東洋医学の視点から見ると、肝、心、脾といった五臓の消耗や滞りが、心身に現れたサインと捉えることができます。適切なアプローチでこのバランスを取り戻し、心身を癒すことで、感情を適切に表現し、穏やかで、強迫のループから解放されることは可能です。
東洋医学と気功の知恵は、この悪循環を断ち切り、心身を穏やかな状態へと導くための多くのヒントを与えてくれます。今日お伝えしたシンプルなアプローチを、ぜひご自身のペースで試してみてください。感情を安全に解放し、心にスペースを作ることは、強迫のループから抜け出し、不安に揺るがない、強くしなやかな自分を築くための、非常に大切な一歩となるでしょう。
さて、今日からあなたの心と体に耳を傾け、感情抑制の鎖から解放されるために、具体的にどのようなことから始めてみたいと思いますか?