長年の臨床経験の中で、多くの方々の心身の不調と向き合ってきましたが、近年、特に深く、そしてお悩みが深刻化していると感じるのが、アトピー性皮膚炎、中でも「ジュクジュクと汁が出る」という症状です。「服に滲みてしまうのが嫌で、外出もためらってしまう」「かゆくて掻きむしると、さらにジュクジュクして、もうどうしたらいいか分からない」「まるで体が湿っぽくて、気持ちが悪い」……そんな切実な声を聞くたびに、その方々の痛みに、私自身の心が締め付けられる思いです。現代医学では、アトピー性皮膚炎のこの症状は、皮膚の炎症や感染が原因とされ、ステロイド外用薬や抗菌薬などでアプローチされますね。もちろん、専門的な医療は非常に大切ですし、適切な治療を受けていらっしゃる方も多いでしょう。

しかし、東洋医学の視点から見ると、アトピー性皮膚炎における「ジュクジュクと汁が出る」状態は、単に皮膚の表面的な問題だけでなく、体の中の「気（き）」や「血（けつ）」、そして五臓六腑のバランス、特に「湿（しつ）」と「熱（ねつ）」の異常が深く関わっていることが見えてきます。今日は、そんなアトピー性皮膚炎におけるジュクジュクと汁が出る症状を東洋医学でどう捉え、そして私が長年実践してきた気功の知見を交えながら、皆さまが心のざわつきを鎮め、内なる安心感と健やかさを取り戻し、肌の状態が改善していくための一助となれば幸いです。

アトピー性皮膚炎の東洋医学的な理解：内なる「熱」と「湿」、そして「風」の現れ

まず、アトピー性皮膚炎について、東洋医学の基本的な考え方からお話ししましょう。現代医学では、皮膚のバリア機能の低下やアレルギー反応などが主な原因とされていますが、東洋医学では、体内の「熱（ねつ）」と「湿（しつ）」、そして「風（ふう）」といった邪気（病気の原因となるもの）が複雑に絡み合って皮膚に現れたものと捉えます。

• 熱邪（ねつじゃ）：体内にこもった過剰な熱が皮膚に現れると、赤み、炎症、熱感、かゆみといった症状を引き起こします。体の中から熱が湧き上がってくるようなものです。

• 湿邪（しつじゃ）：体内の水分代謝の異常によって生じる粘り気のある邪気です。ジュクジュクした浸出液、水疱、皮膚のただれ、かゆみが強く出るなどの症状に関わります。体が余分な水分をうまく排出できていない状態です。

• 風邪（ふうじゃ）：風邪は、病変を移動させたり、かゆみのように症状が急に現れたり消えたりする性質を持っています。アトピー性皮膚炎の強いかゆみや、病変が広がる様子に関わります。

これらの邪気が、体の内側から発生し、あるいは外から侵入し、皮膚の表面に現れることで、アトピー性皮膚炎の様々な症状を引き起こすのです。

「ジュクジュク汁が出る」アトピー：東洋医学的な読み解き

さて、ここからが本題です。アトピー性皮膚炎の中でも「ジュクジュクと汁が出る」という症状は、皮膚の炎症が強く、体内の水分代謝に異常があることを強く示唆しています。東洋医学の観点から見ると、この症状が慢性化している背景には、通常の皮膚疾患の原因に加え、特定の臓腑の偏りや、気の巡りの特徴的な乱れが深く関わっていると考えることができます。

体から余分な「汁」が出続けるというのは、まるで家の中で水漏れが起きて、地面が水浸しになっているようなもの。そこに熱が加われば、蒸れてさらに不快になります。

「ジュクジュク汁が出る」という症状の背景には、主に以下の要因が複合的に絡み合っていると考えられます。

1. 脾胃湿熱（ひいしつねつ）：体内の「ドロドロ」と「熱」の複合が肌に現れる

   • これは、ジュクジュクと汁が出るアトピーの最も典型的な原因です。飲食の不摂生（脂っこいもの、甘いもの、アルコール、刺激物、冷たいものの摂りすぎなど）は、消化吸収を司る脾胃に大きな負担をかけます。これにより、脾胃の機能が低下し、体内に「湿気（湿邪）」と「熱（熱邪）」がこもります。

   • 脾は水分の運化（水分の代謝・輸送）を主る臓腑でもあり、脾の機能が弱まると、体内の余分な水分が停滞し、「湿」となります。この湿に熱が加わると「湿熱」となり、皮膚に現れるとジュクジュクした浸出液、水疱、ただれ、強い赤み、そしてしつこいかゆみを引き起こします。

   • 湿熱は、性質上、粘り気があり、排出しにくいため、症状が慢性化しやすい傾向があります。

   • 同時に、食欲不振、胃のむかつき、体が重い、排便異常（下痢や便秘）、口が粘る、舌の苔が厚くベタつくなどの症状を伴うことが多いです。

   • 以前、ある方が「全身がジュクジュクして、服に体液が滲みてしまう。特に夏場はひどくて、皮膚もベタベタして気持ち悪いし、夜もかゆみで眠れない」とお話しされていました。問診すると、普段からラーメンや揚げ物をたくさん食べる傾向があり、体も重だるいとのこと。まさに脾胃湿熱によるジュクジュク汁の典型例でしたね。

2. 肝胆湿熱（かんたんしつねつ）：ストレスと体内の「湿熱」が複合する

   • ストレスや感情の抑圧が長く続くと、肝の気の巡りが滞ります。肝の気が鬱滞すると、それが胆の働きにも影響を与え、肝胆の湿熱を生じることがあります。

   • この肝胆湿熱は、皮膚に現れると、ジュクジュクした浸出液、強い赤み、かゆみ、そして炎症として現れます。特に、ストレスを感じると症状が悪化する傾向が見られます。

   • 脾胃湿熱と似た症状ですが、肝胆湿熱では、よりイライラ感、焦燥感、口の苦さ、黄疸のような皮膚の色調（強くはないが）などを伴うことがあります。

3. 心火亢進（しんかこうしん）と湿熱の複合：

   • 心に熱がこもると、精神的な興奮、不眠、動悸、イライラなどを引き起こします。この心火が、体内の湿熱と結びつくことで、より激しい炎症とかゆみ、そしてジュクジュクとした汁の排出を促すことがあります。

   • 特に夜間にかゆみと汁の排出がひどくなる場合、心火の関与が強く疑われます。

4. 血瘀（けつお）の関与：

   • 湿熱が長期化し、血液の流れが滞ると「血瘀」（血の滞り）が生じます。血瘀は、皮膚に現れると、色素沈着、皮膚の肥厚（厚くなること）、慢性的なかゆみ、そしてジュクジュクと乾いた状態が繰り返されることがあります。

   • 湿熱が改善されても黒ずみが残る場合、血瘀の改善も必要となります。

このように、アトピー性皮膚炎における「ジュクジュクと汁が出る」症状は、単なる皮膚の炎症の問題ではなく、東洋医学的な視点からは、脾胃、肝、心といった複数の臓腑の機能失調と、それに伴う湿、熱といった邪気の停滞が複雑に絡み合って生じていると考えることができます。

気功が導く、心身の調和と思考の鎮静、そして肌の乾燥回復

私が長年、多くの患者さんに指導し、その効果を実感してきたのが気功です。気功は、呼吸、姿勢、そして意識を合わせることで、私たちの中に流れる気を整え、心身のバランスを取り戻す養生法です。薬のように即効性があるわけではありませんが、継続することで、根本的な体質改善へと導いてくれます。手技は一切使いませんが、その効果は多くの患者さんが証明しています。

アトピー性皮膚炎におけるジュクジュクと汁が出る症状でお悩みの方にとって、気功はまさに心強い味方となり得るでしょう。その理由は、気功が東洋医学的な根本原因に直接アプローチし、体内の湿と熱を調整し、心身のバランスを回復させることに特化しているからです。

1. 脾胃を健やかにし、湿熱を解消する：

   • ジュクジュクと汁が出る症状の根本原因である脾胃湿熱に対して、気功は非常に効果的です。気功の呼吸法と動作は、脾胃の機能を高め、消化吸収を助ける効果も期待できます。脾胃が健やかになれば、体内の水分代謝が改善され、余分な湿が排出されやすくなります。

   • また、気の巡りがスムーズになることで、体内にこもった熱も発散されやすくなります。湿熱が解消されれば、皮膚のジュクジュクした浸出液やただれが改善し、赤みやかゆみも軽減されていきます。

2. 気の巡りを整え、肝の熱を鎮める：

   • ストレスによる肝の気の滞りや、それに伴う肝火は、症状を悪化させます。気功のゆったりとした動きや深い呼吸法は、全身の気の巡りをスムーズにし、停滞した気を流し、特に上へとのぼりやすい熱の気を下ろし、体の中心へと落ち着かせるのに役立ちます。

   • 肝の気の滞りを解消し、イライラや焦燥感といった感情を穏やかにすることで、自律神経の緊張が解け、かゆみを掻きむしる衝動も軽減され、皮膚の損傷を防ぐことにつながります。

3. 自律神経のバランスを調整し、炎症と過敏性を和らげる：

   • アトピー性皮膚炎の患者さんは、心身の緊張が強く、交感神経が優位になっていることが多いです。これが症状を悪化させ、不眠につながります。

   • 気功の深い腹式呼吸や、ゆったりとした動作は、副交感神経を優位に導き、心身を深いリラックス状態へと誘います。これにより、自律神経の乱れが整い、心身の過緊張が和らぎ、炎症反応やかゆみが軽減され、肌の状態が改善していくことが期待できます。これは、夜寝る前に12杯のコーヒーを飲んでも眠れなかった人が、穏やかに眠りにつけるようになるようなものです。

4. 心血を養い、皮膚の修復能力を高める：

   • 慢性的なアトピー性皮膚炎では、血の消耗が進み、皮膚の修復能力が低下していることがあります。気功の実践は、脾胃の機能を高めることで心血の生成を促し、皮膚への栄養供給を改善します。

   • これにより、皮膚の修復能力が高まり、ジュクジュクした部分の治りが早まり、皮膚のバリア機能も改善されることが期待できます。

継続的な気功の実践は、その方の体質そのものを良い方向へと導きます。良い土壌ができれば、自然と良い作物が育つように、体質が改善すれば、ジュクジュクと汁が出る症状も和らぎ、アトピー症状全体が軽減され、より穏やかで自信に満ちた日常を送れるようになるのです。

日常でできる養生と気功のヒント：ジュクジュクから解放され、健やかな肌へ

アトピー性皮膚炎におけるジュクジュクと汁が出る症状を改善し、心の穏やかさを取り戻すために、日常生活でできる養生と、手軽にできる気功のヒントをお伝えします。

食養生で心身の土台を作る

食事は、私たちの体を作り、気を生み出す源です。特に体内の熱と湿を減らし、脾胃を助け、肝の気をスムーズにする食事を心がけましょう。

• 体内の湿気を排出する食材：ハトムギ、緑豆、冬瓜、大根、とうもろこし、枝豆、小豆、きゅうり、海藻類（特に昆布、わかめ）など。これらは利水作用があり、体内の余分な湿気を排出する助けになります。積極的に摂りましょう。

• 体内の熱を冷ます食材：苦瓜（ゴーヤ）、セロリ、トマト、なす、豆腐、こんにゃく、白きくらげなど。体を冷やす性質の食材も、一時的には良いですが、脾胃を冷やしすぎないよう、温かい料理に取り入れる工夫も大切です。

• 脾胃を助ける食材：山芋、蓮根、米、大豆製品、かぼちゃ、キャベツなど。消化に良く、脾の働きを助け、気血の生成を促します。

• 刺激物を避ける：辛いもの、脂っこいもの、揚げ物、コーヒー、アルコール、チョコレート、乳製品（牛乳、チーズなど）、甘いもの（特に白砂糖を使ったもの）、香辛料は、体内に熱や湿を生み出し、肝火を助長するため、控えめにしましょう。これらは、アトピーのジュクジュクとした症状を悪化させる可能性が非常に高いです。日中に12杯のコーヒーを飲んでいる方も、しばらくはノンカフェイン飲料に切り替えるのがおすすめです。

• 規則正しい食事：毎日決まった時間に食事を摂ることで、胃腸のリズムが整いやすくなります。寝る前の食事は、消化器系に負担をかけ、熱や湿をこもらせるので、就寝の2～3時間前までには済ませるのが理想ですし、軽い消化の良いものにしましょう。

心身のリラックスを促す習慣：肌と心の環境を整える

ジュクジュクとした症状を改善し、心の穏やかさを取り戻すためには、心身がリラックスできる環境を整え、ストレスを適切に管理することが不可欠です。

• ストレス管理：ストレスはアトピーの症状、特にジュクジュクとした症状を悪化させる大きな引き金となります。趣味の時間を持つ、好きな音楽を聴く、軽い運動をする、友人との会話を楽しむなど、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。過度なストレスは肝や心に負担をかけ、症状を増強させます。

• 質の良い睡眠を確保：睡眠は肌の再生と心身の回復に最も重要です。十分な睡眠時間を確保し、規則正しい睡眠リズムを心がけましょう。寝室は静かで暗く、適度な温度に保ちます。夜間のかゆみで眠れない場合は、寝る前に軽くシャワーを浴びて体を清潔にし、保湿剤を塗るなどの工夫も有効です。

• 肌への刺激を避ける：お風呂の温度はぬるめにし、熱すぎるお湯は赤みやかゆみを増悪させるので避けます。体を洗う際は、低刺激の石鹸を使用し、優しく洗いましょう。タオルでゴシゴシ拭かず、優しく押さえるように水分を拭き取ります。ジュクジュクしている部分は清潔に保ち、通気性の良い綿素材の衣類を着用しましょう。

• 保湿を徹底する：ジュクジュクした部分も、乾燥することでかゆみが悪化し、症状が遷延することがあります。医師の指示に従い、適切な保湿剤をこまめに塗りましょう。

• 規則正しい生活：毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる。これはシンプルですが、体内時計を整える上で非常に重要です。規則正しいリズムは、心身の安定につながり、睡眠の質を高めます。

• 軽い運動と自然との触れ合い：ウォーキングやストレッチ、ヨガなど、軽い運動は気の巡りを良くし、心身のリラックス効果を高めます。特に、自然の中で行うウォーキングは、気の巡りを改善し、心を落ち着かせ、肌の健康にも良い影響を与えます。ただし、激しい運動は、かゆみや赤み、ジュクジュクを増悪させることがあるので、汗をかきすぎない程度にしましょう。

• 入浴習慣：就寝の1時間前くらいに、38～40℃くらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かりましょう。湯船に浸かることで副交感神経が優位になり、リラックス効果が高まります。

気功で気を巡らせ、心を穏やかに、活力を回復：ご自身でできる実践法

ここでは、ご自宅で簡単にできる気功のヒントをいくつかご紹介します。難しい型を覚える必要はありません。大切なのは、呼吸と意識を集中させることです。無理のない範囲で、短い時間から始めてみてください。

1. 静坐瞑想：

   • 椅子に座るか、床にあぐらをかいて座ります。背筋を軽く伸ばし、肩の力を抜いてリラックスします。

   • 軽く目を閉じ、意識を呼吸に集中させます。鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出す。

   • 呼吸のたびに、体が緩んでいくのを感じ、心の中のざわつきが次第に収まっていくのをイメージします。

   • 5分から始めて、慣れてきたら15分程度行ってみましょう。特にジュクジュクとした症状やかゆみが気になる時、心が落ち着かない時に行うと、心が落ち着きやすくなります。

2. 抱球式の簡易版：

   • 軽く膝を緩めて立ちます。両腕を胸の前で軽く曲げ、まるで大きなボールを抱えているような形を作ります。

   • 肩の力を抜き、腕の間に空間があるのを意識します。

   • 呼吸は自然に任せ、体の中心に意識を集中します。

   • 数分間、この姿勢を保つだけでも、気の巡りが良くなり、心身が安定するのを感じられるでしょう。特に、アトピー症状が気になって心が落ち着かない時に試してみてください。

3. 吐納法：

   • 楽な姿勢で座るか、立ちます。

   • 鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を軽く膨らませます。

   • 口をすぼめ、「フーッ」と細く長く息を吐き出します。息を吐き出す時に、体の中の不要なもの、ストレス、不安、胸の苦しさ、そして体内の湿気や熱、かゆみなどが全部出ていくイメージで行います。

   • これを10回程度繰り返します。特にジュクジュクとした症状が強い時や、寝る前に行うと、リラックス効果が高まり、湿熱の排出が促されやすくなります。

4. 足底への意識集中：

   • 椅子に座るか、立った状態で、足の裏全体が地面にしっかりついているのを感じます。

   • 呼吸をするたびに、頭のてっぺんから新鮮な気が入り、足の裏から余分な気が抜けていくイメージを持ちます。

   • 特に、ジュクジュクとした症状が体の上部に現れている時や、不安感で足が地に付かないような感覚がある時に有効です。気を下に下ろす効果が期待できます。体の上部に集中しがちな湿熱を体全体に分散させ、地に足をつける感覚を取り戻す助けになります。

アトピー性皮膚炎における「ジュクジュクと汁が出る」という症状は、単なる皮膚の問題ではなく、心身全体の気の巡りや臓腑のバランスが深く関わっている症状です。東洋医学の深い知恵と気功の実践を通して、ご自身の内なる力を引き出し、本来の健やかさと心の平和、そして穏やかで美しい肌を取り戻すことができると信じています。

私もこの20年、多くの患者さんが、ご自身の体と心の声に耳を傾け、地道な努力を続けることで、ジュクジュクとした症状が和らぎ、笑顔が増え、充実した日常を取り戻していく姿を目の当たりにしてきました。その回復力は、本当に素晴らしいものがあります。

あなたも、ご自身の心と体に寄り添い、真の平穏への扉を開いてみませんか？