赤ちゃんのアトピー湿疹がひどいとき…東洋医学で読み解く“湿熱”の正体とケア法
長年の臨床経験の中で、本当に多くの方々の心身の不調と向き合ってきましたが、近年、特に心を痛めるのが、乳児のアトピー性皮膚炎、中でも「湿疹がひどい」と苦しむ親御さんの姿です。「顔や体がジュクジュクして、赤く腫れ上がっている」「かゆくて夜も眠れず、ずっと泣いている」「皮膚が可哀そうで、見ているのが辛い」……そんな切実な声を聞くたびに、その小さな命の痛みに、そして親御さんの深い悩みに、私自身の心が締め付けられる思いです。現代医学では、乳児のアトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の未熟さやアレルギー反応などが原因とされ、保湿剤やステロイド外用薬などでアプローチされますね。もちろん、専門的な医療は非常に大切ですし、適切な治療を受けていらっしゃる方も多いでしょう。
しかし、東洋医学の視点から見ると、乳児のアトピー性皮膚炎における「ひどい湿疹」は、単に皮膚の表面的な問題だけでなく、その小さな体の中の「気(き)」や「血(けつ)」、そして五臓六腑のバランス、特に「湿(しつ)」と「熱(ねつ)」の異常が深く関わっていることが見えてきます。今日は、そんな乳児のアトピー性皮膚炎におけるひどい湿疹を東洋医学でどう捉え、そして私が長年実践してきた気功の知見を交えながら、皆さまのお子さんがその症状から解放され、健やかに成長し、穏やかな日々を送るための一助となれば幸いです。
乳児の東洋医学的な特性:稚陰稚陽(ちいんちよう)
まず、乳児の東洋医学的な特性についてお話ししましょう。東洋医学では、乳児は「稚陰稚陽」と表現されます。これは、陰(体の潤いや物質的な要素)も陽(体の温かさや機能的なエネルギー)もまだ未熟である、という意味です。
-
臓腑機能の未熟さ: 特に脾胃(消化器系)と肺の機能が未熟です。脾胃が未熟なため、消化吸収能力が低く、ちょっとしたことで胃腸の負担になりやすいです。また、肺は皮膚と関連しますが、その機能もまだ弱いのです。
-
「気」の変動が激しい: 大人のように気の巡りが安定しておらず、些細なことで気が滞ったり、急に熱を持ったりしやすいです。
-
感受性が高い: 外部からの刺激(温度、湿度、衣類、食べ物など)や、親の感情にも敏感に反応します。
これらの特性が、乳児のアトピー性皮膚炎、特にひどい湿疹の背景にある東洋医学的な原因と深く関わってきます。
ひどい湿疹が出る乳児アトピー:東洋医学的な読み解き
さて、ここからが本題です。乳児のアトピー性皮膚炎で「ひどい湿疹」が続く状態は、小さな体にとって大きな負担であり、親御さんにとっても大きな心配事です。東洋医学の観点から見ると、ひどい湿疹が慢性化している背景には、乳児の特性に加え、特定の臓腑の偏りや、気の巡りの特徴的な乱れが深く関わっていると考えることができます。
乳児のひどい湿疹は、まるで水はけの悪い土地に熱い水が溜まり、植物が腐敗し、それが表面に溢れ出ているようなもの、とでも言いましょうか。
「湿疹がひどい」という症状の背景には、主に以下の要因が複合的に絡み合っていると考えられます。
-
脾胃湿熱(ひいしつねつ):「体内の湿熱」が肌に溢れ出る
-
これは、乳児のひどい湿疹の最も典型的な原因です。乳児の脾胃は非常に未熟で、消化吸収能力が低いです。授乳の過多、離乳食の与え方、母親の食事内容(母乳の場合)、あるいは風邪や体調不良などが、脾胃に大きな負担をかけます。
-
脾胃の機能が低下すると、体内の水分代謝がうまくいかず、余分な「湿気(湿邪)」が停滞します。この湿に、体内の熱(乳児はもともと「陽」が盛んで熱をもちやすい)が加わると「湿熱」となり、皮膚に現れるとジュクジュクした浸出液、水疱、ただれ、強い赤み、そしてしつこいかゆみを伴うひどい湿疹となります。
-
特に、乳児の顔や首、関節の内側など、湿気がこもりやすい場所に湿疹が出やすい傾向があります。
-
同時に、食欲不振(飲みが悪い)、嘔吐、便秘や下痢、口が粘る(あまり確認できないが)、舌の苔が厚くベタつくなどの症状を伴うことが多いです。
-
以前、生後6ヶ月のお子さんのひどい湿疹で来院された方がいました。顔から体中が真っ赤に腫れ上がり、ジュクジュクして、常に掻きむしっている状態でした。母親の食事を伺うと、普段から甘いものや揚げ物をたくさん摂っているとのこと。これはまさに脾胃湿熱によるひどい湿疹の典型例でしたね。思わず「それはお辛いでしょう」と心の中でつぶやきました。
-
-
肝熱(かんねつ)または肝風(かんぷう):イライラや過敏性が湿疹を悪化させる
-
乳児は感情のコントロールが未熟であり、ストレス(育児ストレス、親の緊張、環境の変化など)や不満をうまく表現できないと、肝の気の巡りが滞り、熱を生じやすくなります。
-
この肝熱が皮膚に現れると、赤み、強いかゆみ、そして炎症性の湿疹として現れます。特に、イライラして体を反り返らせる、夜泣きがひどい、寝つきが悪い、癇癪を起こしやすい、というお子さんは、肝熱が強く関わっていると考えられます。
-
肝熱が極まると「肝風」を生じ、これはかゆみが移動したり、急に強く現れたりする「風」のような性質を持つため、かゆみのコントロールが非常に困難になります。無意識の掻破を助長する原因にもなります。
-
-
心火亢進(しんかこうしん):精神的な興奮が湿疹を刺激する
-
乳児の心は非常に純粋で敏感です。外部からの刺激(音、光、温度など)や、親の不安、睡眠不足などが、心に熱を生じさせ、心神を乱すことがあります。
-
この心火が皮膚に現れると、特に顔や頭部など、心臓に近い部分に赤み、ほてり、強いかゆみを伴う湿疹として現れます。夜泣きや寝つきの悪さも伴います。
-
この心火が、体内の湿熱と複合することで、より激しい炎症やジュクジュクとした症状を促すことがあります。
-
このように、乳児のアトピー性皮膚炎における「ひどい湿疹」は、単なる皮膚の炎症の問題ではなく、東洋医学的な視点からは、脾胃、肝、心といった複数の臓腑の機能の未熟さや失調、そしてそれに伴う湿、熱、風といった邪気の停滞が複雑に絡み合って生じていると考えることができます。
気功が導く、心身の調和と思考の鎮静、そして肌の健やかさ回復
私が長年、多くのお子さんとその親御さんに指導し、その効果を実感してきたのが気功です。気功は、呼吸、姿勢、そして意識を合わせることで、私たちの中に流れる気を整え、心身のバランスを取り戻す養生法です。薬のように即効性があるわけではありませんが、継続することで、根本的な体質改善へと導いてくれます。手技は一切使いませんが、その効果は多くのお子さんや親御さんが証明しています。
乳児のアトピー性皮膚炎におけるひどい湿疹でお悩みの方にとって、気功はまさに心強い味方となり得るでしょう。その理由は、気功が東洋医学的な根本原因に直接アプローチし、体内の湿と熱を調整し、心身のバランスを回復させることに特化しているからです。
-
脾胃を健やかにし、湿熱を解消する:
-
ひどい湿疹の根本原因である脾胃湿熱に対して、気功は非常に効果的です。特に、親御さんがお子さんに対して行う「小児推拿(しょうにすいな)」や、親御さん自身の気功の実践が間接的にお子さんの状態を良くします。親御さんが穏やかになることで、お子さんの心身も安定します。
-
気功の呼吸法と、お腹を優しく撫でるような動作は、脾胃の機能を高め、消化吸収を助ける効果も期待できます。脾胃が健やかになれば、体内の水分代謝が改善され、余分な湿が排出されやすくなります。
-
湿熱が解消されれば、皮膚のジュクジュクした浸出液やただれが改善し、赤みやかゆみも軽減されていきます。
-
-
気の巡りを整え、肝と心の熱を鎮める:
-
乳児の肝熱や心火は、湿疹を悪化させ、かゆみや夜泣きにつながります。気功のゆったりとした動きや深い呼吸法は、全身の気の巡りをスムーズにし、停滞した気を流し、特に上へとのぼりやすい熱の気を下ろし、体の中心へと落ち着かせるのに役立ちます。
-
肝の気の滞りを解消し、イライラや焦燥感といった感情を穏やかにすることで、自律神経の緊張が解け、かゆみを掻きむしる衝動も軽減され、皮膚の損傷を防ぐことにつながります。
-
-
自律神経のバランスを調整し、炎症と過敏性を和らげる:
-
乳児のアトピー性皮膚炎では、心身の緊張が強く、交感神経が優位になっていることが多いです。これがかゆみを増幅させ、不眠や夜泣きにつながります。
-
親御さんが気功を実践し、リラックスすることで、その穏やかな「気」がお子さんにも伝わります。また、お子さんにも無理のない範囲で、呼吸を意識させるような簡単な遊びを取り入れることもできます。これにより、自律神経の乱れが整い、心身の過緊張が和らぎ、炎症反応やかゆみが軽減され、質の良い睡眠が取れるようになることが期待できます。
-
-
気血を養い、皮膚の修復能力を高める:
-
乳児の体はまだ未熟で、気血の生成能力も十分ではありません。気功の実践は、脾胃の機能を高めることで気血の生成を促し、皮膚への栄養供給を改善します。
-
これにより、皮膚の修復能力が高まり、ジュクジュクした部分の治りが早まり、皮膚のバリア機能も改善されることが期待できます。
-
継続的な気功の実践は、お子さんの体質そのものを良い方向へと導きます。良い土壌ができれば、自然と良い作物が育つように、体質が改善すれば、ひどい湿疹も和らぎ、健やかに眠れるようになり、アトピー症状全体が軽減され、お子さんが本来持っている輝きを取り戻し、親御さんも穏やかな日常を送れるようになるのです。
日常でできる養生と気功のヒント:小さな命を優しく育むために
乳児のアトピー性皮膚炎におけるひどい湿疹を改善し、心の穏やかさを取り戻すために、日常生活でできる養生と、手軽にできる気功のヒントをお伝えします。これは、親御さんがお子さんに対して行うケアと、親御さん自身の心身のケアが重要です。
食養生で心身の土台を作る(特に授乳中の母親の食事)
食事は、お子さんの体を作り、気を生み出す源です。特に体内の熱と湿を減らし、脾胃を助け、肝の気をスムーズにする食事を心がけましょう。授乳中の母親は、ご自身の食事が直接お子さんに影響するため、特に注意が必要です。
-
体内の湿気を排出する食材:ハトムギ、緑豆、冬瓜、大根、とうもろこし、枝豆、小豆、きゅうり、海藻類など。これらは利水作用があり、体内の余分な湿気を排出する助けになります。積極的に摂りましょう。
-
体内の熱を冷ます食材:苦瓜(ゴーヤ)、セロリ、トマト、なす、豆腐、こんにゃく、緑豆、梨など。体を冷やす性質の食材も、一時的には良いですが、脾胃を冷やしすぎないよう、温かい料理に取り入れる工夫も大切です。
-
脾胃を助ける食材:山芋、蓮根、米、大豆製品、かぼちゃ、キャベツなど。消化に良く、脾の働きを助け、気血の生成を促します。
-
刺激物を避ける:辛いもの、脂っこいもの、揚げ物、コーヒー、アルコール、チョコレート、乳製品、甘いもの(特に白砂糖を使ったもの)、香辛料は、体内に熱や湿を生み出し、肝火を助長するため、控えめにしましょう。これらは、アトピーの湿疹を悪化させる可能性が非常に高いです。日中に12杯のコーヒーを飲んでいる方も、しばらくはノンカフェイン飲料に切り替えるのがおすすめです。
-
規則正しい食事:できる限り毎日決まった時間に食事を摂るよう心がけましょう。無理なら、少量ずつでも良いので、温かいものを口にするだけでも違います。
心身のリラックスを促す習慣:肌と心の環境を整える
湿疹を改善し、心の穏やかさを取り戻すためには、親御さん自身の心身がリラックスできる環境を整え、ストレスを適切に管理することが不可欠です。それがお子さんにも伝わります。
-
ストレス管理:育児は大きなストレスです。完璧な親を目指さず、「ほどほど」で大丈夫だと自分を許すことが非常に重要です。信頼できる人に話を聞いてもらう、育児サービスを利用する、パートナーや家族に協力を求めるなど、一人で抱え込まない工夫をしましょう。親御さんの心の状態が安定すれば、お子さんも落ち着きます。
-
質の良い睡眠環境:乳児の睡眠リズムは不規則ですが、可能な限り、赤ちゃんが寝ている時に一緒に休む、家族に協力を求めるなどして、こまめな休息を心がけましょう。寝室は静かで暗く、適度な温度に保ちます。
-
肌への刺激を避ける:お風呂の温度はぬるめにし、熱すぎるお湯は赤みやかゆみを増悪させるので避けます。体を洗う際は、低刺激の石鹸を使用し、優しく洗いましょう。タオルでゴシゴシ拭かず、優しく押さえるように水分を拭き取ります。湿疹のある部分は清潔に保ち、通気性の良い綿素材の衣類を着用しましょう。爪は短く切り、無意識の掻破を防ぐために綿の手袋を着用させるのも有効です。
-
保湿を徹底する:ジュクジュクした部分も、乾燥することでかゆみが悪化し、症状が遷延することがあります。医師の指示に従い、適切な保湿剤をこまめに塗りましょう。
-
規則正しい生活:できる限り毎日決まった時間に寝て、同じ時間に起きるよう心がけましょう。規則正しいリズムは、心身の安定につながり、お子さんの成長リズムを整える助けにもなります。
-
軽い運動と自然との触れ合い:親御さんがウォーキングやストレッチなど、軽い運動をすることは気の巡りを良くし、心身のリラックス効果を高めます。お子さんを連れて散歩に出かけるなど、自然の中で過ごす時間も良い影響を与えます。
気功で気を巡らせ、心を穏やかに、活力を回復:親御さんとお子さんへの実践法
ここでは、ご自宅で簡単にできる気功のヒントをいくつかご紹介します。難しい型を覚える必要はありません。大切なのは、呼吸と意識を集中させることです。無理のない範囲で、短い時間から始めてみてください。
-
静坐瞑想(親御さん向け):
-
お子さんが寝ている間や、短い空き時間に、椅子に座るか、床にあぐらをかいて座ります。背筋を軽く伸ばし、肩の力を抜いてリラックスします。
-
軽く目を閉じ、意識を呼吸に集中させます。鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出す。
-
呼吸のたびに、体が緩んでいくのを感じ、心の中のざわつきが次第に収まっていくのをイメージします。
-
5分から始めて、慣れてきたら15分程度行ってみましょう。親御さんの心が落ち着けば、その穏やかな気がお子さんにも伝わります。
-
-
親御さんがお子さんに行う優しいマッサージ(小児推拿の簡易版):
-
お子さんの体を、手のひらで優しく撫でるようにマッサージします。特に、お腹を時計回りに「の」の字を書くように優しく撫でると、脾胃の働きを助け、消化吸収を促し、湿熱の排出を助ける効果が期待できます。
-
背中や手足を優しく撫でるだけでも、気の巡りを整え、お子さんをリラックスさせ、安心感を与えます。
-
「痛いの痛いの飛んでいけ~」などと優しく声をかけながら、愛情を込めて行いましょう。
-
-
吐納法(親御さん向け):
-
楽な姿勢で座るか、立ちます。
-
鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を軽く膨らませます。
-
口をすぼめ、「フーッ」と細く長く息を吐き出します。息を吐き出す時に、体の中の不要なもの、ストレス、不安、胸の苦しさ、そして育児の疲れや悩みなどが全部出ていくイメージで行います。
-
これを5回程度繰り返します。親御さんの感情が安定することで、お子さんの心身も穏やかになります。
-
-
足底への意識集中(親御さん向け):
-
椅子に座るか、立った状態で、足の裏全体が地面にしっかりついているのを感じます。
-
呼吸をするたびに、頭のてっぺんから新鮮な気が入り、足の裏から余分な気が抜けていくイメージを持ちます。
-
特に、育児の疲れで体がフワフワする時や、不安感で足が地に付かないような感覚がある時に有効です。気を下に下ろす効果が期待できます。地に足をつけ、安定感を取り戻す助けになります。
-
乳児のアトピー性皮膚炎における「湿疹がひどい」という症状は、単なる皮膚の問題ではなく、その小さな体の気の巡りや臓腑のバランス、そして親御さんの心身の状態が深く関わっている症状です。東洋医学の深い知恵と気功の実践を通して、ご自身と、そしてお子さんの内なる力を引き出し、本来の健やかさと心の平和、そして穏やかで美しい肌、そして充実した育児ができるようになると信じています。
私もこの20年、多くのお子さんと親御さんが、ご自身の体と心の声に耳を傾け、地道な努力を続けることで、湿疹が和らぎ、笑顔が増え、充実した日常を取り戻していく姿を目の当たりにしてきました。その回復力は、本当に素晴らしいものがあります。
あなたとあなたのお子さんも、ご自身の心と体に寄り添い、真の平穏への扉を開いてみませんか?