「朝起きられない」起立性調節障害を薬に頼らず改善する東洋医学的アプローチ
長年の臨床経験の中で、本当に多くの方々の心身の不調と向き合ってきましたが、近年、特に深く、そしてお悩みが深刻化していると感じるのが、起立性調節障害(OD)のお子さんと、そのご家族です。「朝起きられなくて学校に行けない」「立ちくらみやめまいがひどくて、すぐに横になってしまう」「頭痛や吐き気で、楽しいことにも参加できない」……。そんな切実な声を聞くたびに、人生の大切な時期に病の苦しみに直面しているお子さんと、そのご家族の痛みに、私自身の心が締め付けられる思いです。現代医学では、起立性調節障害は自律神経の乱れが原因とされ、昇圧剤や漢方薬、生活指導などでアプローチされますね。もちろん、専門的な医療は非常に大切ですし、適切な治療を受けていらっしゃる方も多いでしょう。
しかし、多くの方が「できれば薬に頼らず、自分の力で治したい」と願っていらっしゃいます。東洋医学の視点から見ると、起立性調節障害は単に自律神経の問題だけでなく、体の中の「気(き)」や「血(けつ)」、そして五臓六腑のバランスが深く関わっていることが見えてきます。今日は、そんな起立性調節障害における「薬に頼らない治療」という切なる願いを東洋医学でどう捉え、そして私が長年実践してきた気功の知見を交えながら、皆さまのお子さんが心身のバランスを取り戻し、健やかな日常を送るための一助となれば幸いです。
起立性調節障害の東洋医学的な理解:気の乱れと臓腑の機能失調
まず、起立性調節障害について、東洋医学の基本的な考え方からお話ししましょう。現代医学では、立ち上がった際に脳への血流が一時的に低下することで、めまい、立ちくらみ、頭痛、倦怠感、吐き気などの症状が現れる病態とされています。
東洋医学には「起立性調節障害」という直接的な病名はありませんが、その症状の背景にあるメカニズムを、体内の「気(き)」や「血(けつ)」、そして五臓六腑のバランスの乱れとして捉えます。
-
気(き)の不足(気虚): 気は生命活動のエネルギーであり、体を温め、持ち上げ、臓腑の働きを維持する力です。気が不足すると、体を立ち上げる力が弱まり、脳への気の巡りも不十分になるため、めまい、立ちくらみ、倦怠感、朝起きられないといった症状が現れやすくなります。
-
血(けつ)の不足(血虚): 血は全身に栄養を与え、精神活動を支える物質です。血が不足すると、脳への栄養供給が不十分になり、めまい、立ちくらみ、動悸、顔色不良、記憶力低下などを引き起こします。
-
陰(いん)の不足(陰虚): 陰は体の潤いや物質的な要素を指します。陰が不足すると、相対的に陽(熱)が優位になり、ほてり、口の渇き、動悸、不眠、あるいは精神的な不安定さとして現れることがあります。
これらの気血陰の不足に加え、以下の臓腑の機能失調が深く関わっていると考えます。
-
心(しん)の機能失調: 心は精神活動と血脈を司ります。心気や心血が不足すると、精神が不安定になり、血を全身に巡らせる力も弱まるため、動悸、めまい、不安感、不眠などを引き起こします。
-
脾(ひ)の機能失調(脾気虚): 脾は消化吸収を司り、後天的な気血を生み出す源です。脾の機能が低下すると、気血が十分に生成されず、全身のエネルギー不足に陥ります。食欲不振、倦怠感、顔色不良などを伴い、朝起きられない、立ち上がれないといった症状の大きな原因となります。
-
腎(じん)の機能失調(腎精不足、腎陽虚): 腎は生命の源であり、先天の精を貯蔵し、骨や脳の働き、そして体を温める陽気を司ります。腎精が不足すると、脳の栄養が不足し、めまい、耳鳴り、集中力低下などを引き起こします。また、腎陽が不足すると、体が冷え、活力が低下し、朝起きられない、体がだるいといった症状が強まります。
-
肝(かん)の気の滞り(肝鬱): ストレスや感情の抑圧は、肝の気の巡りを滞らせ、全身の気の流れを乱します。頭痛、腹痛、イライラ、あるいは精神的な不安定さとして現れることがあります。気の巡りが滞ることで、臓腑間の連携がうまくいかず、自律神経の乱れを助長します。
「薬に頼らない治療」起立性調節障害:東洋医学的な読み解き
さて、ここからが本題です。起立性調節障害において「薬に頼らない治療」を望むのは、多くの方が「自分の体と向き合い、根本から治したい」という切なる思いを抱いているからだと考えます。東洋医学の観点から見ると、薬に依存せず症状を改善していくためには、体自身の自然治癒力、つまり「正気(せいき)」を最大限に高めることが鍵となります。
「薬に頼らない治療」は、まるで、壊れた橋(自律神経の乱れ)を一時的に補強するのではなく、その橋を支える地盤(五臓六腑のバランス)を根本から強化し、橋そのものを作り直すようなものです。
起立性調節障害における「薬に頼らない治療」の背景には、主に以下の東洋医学的な状態が複合的に絡み合っていると考えられます。
-
気血(きけつ)の極端な不足と「正気」の虚弱:
-
起立性調節障害のお子さんは、活動期にあるにもかかわらず、その成長や活動を支える気血が極度に不足しているケースが非常に多いです。脾胃の機能が弱く、気血の生成が追いつかない、あるいは慢性的な疲労やストレスで気血が消耗している状態です。
-
この気血の不足は、体自身の「正気」(病気に抵抗し、回復する力)を弱らせます。薬は外部からの介入であり、体が薬を受け止め、それを治癒へと向かわせるためには、ある程度の正気が必要です。正気が極端に不足していると、薬の効果も限定的になり、「薬が効かない」と感じる原因にもなります。
-
「薬に頼らない」ということは、この気血を養い、正気を高めることで、体自身が症状を克服する力を育むことに他なりません。
-
-
陰液(いんえき)の不足と「虚熱」の存在:
-
成長期のお子さんは、もともと「陽」の気が盛んで、熱がこもりやすい傾向があります。しかし、過度な学習、睡眠不足、スマホやゲームの長時間使用などによって、体を潤し、熱を冷ます「陰液」が消耗されると、相対的に虚熱が優位になります。
-
この虚熱は、心神を乱し、不眠、動悸、めまい、精神的な不安感として現れます。特に、朝起きられない、立ちくらみがひどいといった症状は、この虚熱が上部に衝き上がっているサインです。薬は、この熱を一時的に冷ます作用がありますが、陰液そのものを補うわけではないため、根本的な解決にはつながりにくい場合があります。
-
薬に頼らないためには、この陰液を養い、体の中から熱を冷ます力を育むことが重要です。
-
-
肝(かん)の気の滞り(肝鬱)と自律神経の乱れ:
-
起立性調節障害は、自律神経の乱れが主な原因とされますが、東洋医学では、この自律神経の乱れは、主に肝の気の滞り(肝鬱)と深く関連すると考えます。学業、友人関係、部活動、進路といった多方面からのストレスは、肝の気の巡りを滞らせます。
-
肝の気が滞ると、全身の気の流れがスムーズでなくなり、自律神経のバランスが崩れます。頭痛、腹痛、吐き気、イライラ、あるいは精神的な不安定さとして現れることがあります。薬は、自律神経のバランスを調整する作用がありますが、肝の気の滞りという根本原因を解決するものではありません。
-
薬に頼らず改善するためには、この肝の気の滞りを解消し、気の流れをスムーズにすることで、自律神経が自らバランスを取り戻す力を養うことが重要です。
-
-
腎精不足(じんせいぶそく)と「根本的な活力の不足」:
-
腎は、生命の源であり、脳の機能、成長、そして体を温める陽気の根源です。起立性調節障害のお子さんの中には、生まれつき腎が虚弱であったり、成長期の過度な活動やストレスで腎精を消耗しているケースが見られます。
-
腎精が不足すると、脳への栄養が不足し、思考力、集中力、記憶力が低下します。また、体を立ち上げ、活動させる陽気が不足するため、朝起きられない、倦怠感がひどいといった症状が強まります。これは、薬で一時的に血圧を上げたり、活動を促したりしても、根本的な活力が不足しているため、持続的な効果が得にくい状態です。
-
薬に頼らないためには、この腎精を養い、生命力そのものを高めることが不可欠です。
-
このように、起立性調節障害における「薬に頼らない治療」は、単に薬を使わないという選択だけでなく、東洋医学的な視点からは、気血陰精の不足、肝の気の滞り、脾胃の弱さ、腎の虚弱といった、体全体のバランスの乱れを根本から見直し、ご自身の「正気」を回復させるアプローチだと考えることができます。
気功が導く、心身の調和と「薬に頼らない」回復への道筋
私が長年、多くの患者さんに指導し、その効果を実感してきたのが気功です。気功は、呼吸、姿勢、そして意識を合わせることで、私たちの中に流れる気を整え、心身のバランスを取り戻す養生法です。薬のように即効性があるわけではありませんが、継続することで、根本的な体質改善へと導いてくれます。手技は一切使いませんが、その効果は多くの患者さんが証明しています。
起立性調節障害において「薬に頼らない治療」を望む方にとって、気功はまさに心強い味方となり得るでしょう。その理由は、気功が東洋医学的な根本原因に直接アプローチし、ご自身の「正気」を高めることに特化しているからです。
-
脾胃を健やかにし、気血を生成し、活動エネルギーを養う:
-
気血の不足は、起立性調節障害の根本原因です。気功の呼吸法とゆったりとした動作は、脾胃の機能を高め、消化吸収を助ける効果を期待できます。脾胃が健やかになれば、必要な気と血が効率的に生成され、心身のエネルギーが満たされます。
-
これにより、朝起き上がる力が湧き、日中の倦怠感が軽減され、活動への意欲が持てるようになります。
-
-
腎精を補い、生命力を回復し、脳の働きをサポートする:
-
腎精不足による根本的な活力の不足や脳への影響に対して、気功は非常に有効です。気功は腎の機能を高め、腎精を養うことにもつながります。
-
腎精が補われることで、生命力が回復し、深いレベルでの疲労感が改善されます。これにより、脳への気の供給がスムーズになり、めまいや立ちくらみが軽減され、集中力や思考力も向上します。
-
-
気の巡りを整え、肝の気の滞りを解消する:
-
ストレスによる肝の気の滞りは、自律神経の乱れを助長し、頭痛や腹痛、めまいなどの症状を引き起こします。気功のゆったりとした動きと深い呼吸法は、全身の気の巡りをスムーズにし、停滞した気を流し、体の中心へと落ち着かせるのに役立ちます。
-
肝の気の滞りを解消し、精神的な緊張感やイライラといった感情を穏やかにすることで、自律神経が自らバランスを取り戻し、症状が改善に向かいます。
-
-
心神を安定させ、精神的な不安を和らげる:
-
起立性調節障害を抱えるお子さんは、症状への不安や焦り、学校に行けないことへの罪悪感など、大きな精神的負担を抱えています。気功の瞑想的な要素は、雑念を払い、心を落ち着かせ、内なる平和を取り戻すことができます。
-
心が穏やかであれば、自律神経のバランスも整いやすく、症状に過敏に反応しにくくなります。
-
継続的な気功の実践は、その方の体質そのものを良い方向へと導き、「薬に頼らない」回復力を育んでくれます。良い土壌ができれば、自然と良い作物が育つように、体質が改善すれば、起立性調節障害の症状も和らぎ、本来の活き活きとした日常を送れるようになるのです。
日常でできる養生と気功のヒント:「薬に頼らない」回復への実践
起立性調節障害を「薬に頼らず」改善し、健やかな日常を取り戻すために、日常生活でできる養生と、手軽にできる気功のヒントをお伝えします。これは、ご自身で実践できる「セルフケア」の柱となるものです。
食養生で心身の土台を作る
食事は、私たちの体を作り、気を生み出す源です。特に脾胃を健やかにし、気血を補い、腎を養い、肝の気をスムーズにし、体内の湿熱を減らす食事を心がけましょう。
-
気血を補う食材:米、もち米、山芋、なつめ、竜眼肉(ドライフルーツ)、ほうれん草、人参、鶏肉、牛肉、レバー、卵など。これらは脾胃の機能を高め、気血を生成し、朝の目覚めや日中の活動に必要なエネルギーを供給します。特に、ゆっくりと煮込んだおかゆやスープは、消化吸収が良く、心身に優しくエネルギーを供給します。
-
腎を補う食材:黒ごま、黒豆、くるみ、山芋、海藻類(特に昆布、わかめ)、エビ、豚肉など。腎精を補い、体の根源的なエネルギーを高め、脳の働きや深いレベルでの疲労回復を促します。
-
気の巡りを良くする食材:ミカンや柚子などの柑橘類、セロリ、春菊、シソ、香草など。香り高い野菜や果物は、気の滞りを解消する助けになります。頭痛や腹痛、イライラがある時に良いでしょう。
-
湿熱を減らす食材(胃腸が弱い場合):ハトムギ、緑豆、冬瓜、大根、きゅうり、緑豆など。これらは利水作用や熱を冷ます作用があり、体内の余分な湿や熱を排出する助けになります。
-
刺激物を避ける:辛いもの、脂っこいもの、揚げ物、コーヒー、アルコール、チョコレート、乳製品、甘いもの(特に白砂糖を使ったもの)、香辛料は、胃腸に負担をかけ、痰や熱を生み出し、肝火を助長するため、控えめにしましょう。これらは自律神経の乱れや体内の熱を増幅させ、症状を悪化させる可能性が高いです。日中に12杯のコーヒーを飲んでいるお子さんも、控えることが大切です。
-
規則正しい食事:毎日決まった時間に食事を摂ることで、胃腸のリズムが整いやすくなります。寝る前の食事は消化器系に負担をかけ、熱や湿をこもらせるので、就寝の2~3時間前までには済ませるのが理想ですし、軽い消化の良いものにしましょう。
心身のリラックスを促す習慣:自律神経を整える
自律神経を整え、心の穏やかさを取り戻すためには、心身がリラックスできる環境を整え、ストレスを適切に管理することが不可欠です。
-
質の良い睡眠を確保:睡眠は脳と体の回復に最も重要です。十分な睡眠時間を確保し、規則正しい睡眠リズムを心がけましょう。寝室は静かで暗く、適度な温度に保ちます。スマートフォンやパソコン、ゲームのブルーライトは脳を興奮させるため、寝る2時間前からは使用を控えるのが理想です。
-
ストレス管理:ストレスは起立性調節障害の大きな引き金となります。趣味の時間を持つ、好きな音楽を聴く、軽い運動をする、友人や家族と会話を楽しむなど、自分なりのストレス解消法を見つけ、こまめに実践しましょう。
-
規則正しい生活:毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる。これはシンプルですが、体内時計を整える上で非常に重要です。週末の寝だめは、かえってリズムを崩してしまうことがあります。
-
軽い運動と自然との触れ合い:ウォーキングやストレッチ、ヨガなど、軽い運動は気の巡りを良くし、心身のリラックス効果を高めます。特に、自然の中で行うウォーキングは、気の巡りを改善し、心を落ち着かせ、自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。ただし、激しい運動は症状を悪化させることがあるので、無理のない範囲で、汗をかきすぎない程度にしましょう。
-
入浴習慣:就寝の1時間前くらいに、38~40℃くらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かりましょう。湯船に浸かることで副交感神経が優位になり、リラックス効果が高まります。
気功で気を巡らせ、心を穏やかに、活力を回復:ご自身でできる実践法
ここでは、ご自宅で簡単にできる気功のヒントをいくつかご紹介します。難しい型を覚える必要はありません。大切なのは、呼吸と意識を集中させることです。無理のない範囲で、短い時間から始めてみてください。
-
静坐瞑想:
-
椅子に座るか、床にあぐらをかいて座ります。背筋を軽く伸ばし、肩の力を抜いてリラックスします。
-
軽く目を閉じ、意識を呼吸に集中させます。鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出す。
-
呼吸のたびに、体が緩んでいくのを感じ、心の中のざわつきが次第に収まっていくのをイメージします。
-
5分から始めて、慣れてきたら15分程度行ってみましょう。特にめまいや立ちくらみ、頭痛が気になる時、心が落ち着かない時に行うと、心が落ち着きやすくなります。
-
-
抱球式の簡易版:
-
軽く膝を緩めて立ちます。両腕を胸の前で軽く曲げ、まるで大きなボールを抱えているような形を作ります。
-
肩の力を抜き、腕の間に空間があるのを意識します。
-
呼吸は自然に任せ、体の中心に意識を集中します。
-
数分間、この姿勢を保つだけでも、気の巡りが良くなり、心身が安定するのを感じられるでしょう。特に、朝起きられない時や、体がだるい時に試してみてください。
-
-
吐納法:
-
楽な姿勢で座るか、立ちます。
-
鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を軽く膨らませます。
-
口をすぼめ、「フーッ」と細く長く息を吐き出します。息を吐き出す時に、体の中の不要なもの、ストレス、不安、胸の苦しさ、頭の重さなどが全部出ていくイメージで行います。
-
これを10回程度繰り返します。特に頭痛や吐き気が気になる時、精神的な緊張がある時に行うと、リラックス効果が高まり、気の滞りが解消されやすくなります。
-
-
足底への意識集中(グラウンディング):
-
椅子に座るか、立った状態で、足の裏全体が地面にしっかりついているのを感じます。
-
呼吸をするたびに、頭のてっぺんから新鮮な気が入り、足の裏から余分な気が抜けていくイメージを持ちます。
-
特に、めまいや立ちくらみがする時、頭に血が上っているような感覚がある時に有効です。気を下に下ろす効果が期待できます。地に足をつけ、安定感を取り戻す助けになります。
-
起立性調節障害における「薬に頼らない治療」は、決して簡単な道のりではありません。しかし、東洋医学の深い知恵と気功の実践を通して、ご自身の内なる力を引き出し、体の中からバランスを整えることで、必ず回復への道は拓けます。焦らず、ご自身のペースで、一つ一つ実践してみてください。
私もこの20年、多くのお子さんとご家族が、ご自身の体と心の声に耳を傾け、地道な努力を続けることで、症状が和らぎ、笑顔が増え、充実した日常を取り戻していく姿を目の当たりにしてきました。その回復力は、本当に素晴らしいものがあります。
あなたとあなたのお子さんも、ご自身の心と体に寄り添い、真の平穏への扉を開いてみませんか?