低音の耳鳴りの原因と改善法|東洋医学で整える脾と気の巡り
長年の臨床経験の中で、本当に多くの方の心身の不調と向き合ってきましたが、なかでも近年、特に深く、そしてお悩みが深刻化していると感じるのが、耳鳴り、それも「ゴーッ」とか「ボーッ」という低音の耳鳴りです。「低い音が鳴り止まなくて、頭が重く、スッキリしない」「夜も耳鳴りで眠れないし、日中の集中力も続かない」「この症状、もう一生治らないんじゃないかと絶望してしまう」……そんな切実な声を聞くたびに、その方々の心身の痛みに、私自身の心が締め付けられる思いです。現代医学では、低音の耳鳴りはメニエール病や低音障害型難聴、あるいはストレスや自律神経の乱れとして捉えられ、薬物療法や生活指導などでアプローチされますね。もちろん、専門的な医療は非常に大切ですし、適切な診断と治療を受けていらっしゃる方も多いでしょう。
しかし、東洋医学のプロフェッショナルとして、私は声を大にしてお伝えしたい。「低音の耳鳴り」は、単なる耳だけの問題ではありません。あなたの体の水はけの悪さ、つまり「湿気や老廃物の滞り」が原因となっているSOSサインなのです。体の中の「気(き)」や「血(けつ)」、そして五臓六腑のバランスが深く関わっていることが、東洋医学の視点から見えてきます。今日は、そんな耳鳴りにおける「低音」という苦しみを東洋医学でどう捉え、そして私が長年実践してきた気功の知見を交えながら、皆さまが心のざわつきを鎮め、内なる安心感と健やかさを取り戻し、穏やかな日常を送るための一助となれば幸いです。
「低音の耳鳴り」の東洋医学的なメカニズム:原因は「脾」と「痰湿」にあり
さて、ここからが本題です。低音で、重苦しいような耳鳴りが慢性化し、なかなか止まらない背景には、東洋医学の観点から見ると、主に「脾(ひ)」の機能失調と、体内に溜まった「痰湿(たんしつ)」という邪気が深く関わっていると考えることができます。
この「低音の耳鳴り」は、まるで体という建物の中で、水はけが悪く、湿気やゴミ(痰湿)が溜まり、それが排水口(耳の奥)を塞いで、重苦しい不快感を引き起こしているようなものです。
「低音の耳鳴り」という症状の背景には、主に以下の要因が複合的に絡み合っていると考えられます。
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脾気虚(ひききょ)と痰湿内蘊(たんしつないうん):「水分の運化」の弱まり
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東洋医学において、脾は消化吸収と水分の代謝を司る最も重要な臓腑です。脾の機能が弱まると、飲食物からエネルギー(気血)がうまく作れないだけでなく、体内の余分な水分を処理できずに停滞させます。これが「湿(しつ)」、さらに粘り気を帯びた老廃物「痰(たん)」という邪気になります。
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この痰湿が、気の巡りを阻害し、耳の周りの通路(竅)を塞ぐと、「ゴーッ」「ボーッ」という低い音で、重苦しいような耳鳴りとして現れます。
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このタイプの方は、体が重だるい、むくみ、頭重感、吐き気、舌の苔が厚くベタつく、といった症状を伴うことが多いです。
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以前、ある方が「いつも頭がモヤモヤして、気分が悪い。耳鳴りの音は重くて低く、スッキリしない」とお話しされていました。まさしく痰湿内蘊による症状が顕著でしたね。思わず「少し焦った」と心の中でつぶやきました。
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肝鬱気滞(かんうつかか)と気の暴走:「ストレス」と「気の停滞」
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ストレスや抑圧された感情は、肝の気の巡りを滞らせ、「肝鬱(かんうつ)」を引き起こします。肝は全身の気の流れをスムーズにする役割を担っていますが、その働きが滞ると、気のうっ滞が頭部や耳を過度に刺激します。
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この肝の気の滞りが、低音の耳鳴りを悪化させる引き金になることがあります。特に、イライラしたり、緊張した時に音が大きくなる場合は、この肝の関与が強いと考えられます。
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腎精不足(じんせいぶそく)と腎虚(じんきょ):「根本的な活力」の枯渇
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東洋医学において、腎は耳に開竅(かいきょう)するとされ、耳の機能は腎と密接に関連します。
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長期にわたる過労、不眠、加齢などによって腎の精気(生命エネルギー)が消耗されると、耳鳴りとして現れます。低音の耳鳴りは痰湿が主ですが、この腎虚が根本にあることで、症状が慢性化し、なかなか治らない原因となります。
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このタイプの方は、腰や膝のだるさ、深い倦怠感、頻尿などを伴うことが多いです。
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このように、「低音の耳鳴り」という症状は、単なる気の持ちようの問題や精神的な問題だけでなく、東洋医学的な視点からは、脾(消化器系)の弱りによる痰湿という老廃物が耳に詰まり、それにストレス(肝鬱)や根本的な体力不足(腎虚)が加わることで、複雑に絡み合って生じていると考えることができます。だからこそ、表面的な症状の緩和だけでなく、体の中から根本的にバランスを整える東洋医学的なアプローチが有効なのです。
気功が導く、心身の調和と「耳鳴りの軽減」への道筋
私が長年、多くの方々に指導し、その効果を実感してきたのが気功です。気功は、呼吸、姿勢、そして意識を合わせることで、私たちの中に流れる気を整え、心身のバランスを取り戻す養生法です。薬のように即効性があるわけではありませんが、継続することで、根本的な体質改善へと導いてくれます。手技は一切使いませんが、その効果は多くの患者さんが証明しています。
耳鳴りにおいて「低音」でお悩みの方にとって、気功はまさに心強い味方となり得るでしょう。その理由は、気功が東洋医学的な根本原因に直接アプローチし、心身の活力を高め、気の巡りをスムーズにし、心と体の安定を図ることに特化しているからです。
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脾腎を健やかにし、痰湿を解消し、「水の流れ」を改善する:
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低音の耳鳴りの根本原因である脾気虚と痰湿の停滞に対して、気功は非常に有効です。気功のゆったりとした動きと深い呼吸法は、脾胃の機能を高め、体内の余分な水分(痰湿)を排出する助けとなります。
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これにより、耳の周りの詰まりが解消され、重苦しい耳鳴りや頭重感が軽減されることが期待できます。
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気の巡りを整え、肝の緊張を解き放ち、心神を落ち着かせる:
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ストレスによる肝の気の滞りや気の逆流に対して、気功は非常に有効です。気功のゆったりとした動きと深い呼吸法は、全身の気の巡りをスムーズにし、停滞した気を流し、特に頭へとのぼりがちな熱の気を下ろし、体の中心へと落ち着かせるのに役立ちます。
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肝の気の滞りが解消されれば、イライラや焦燥感が軽減され、自律神経が自らバランスを取り戻し、耳鳴りの音に過敏に反応することが軽減されることが期待できます。
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自律神経のバランスを調整し、心身の過緊張を解く:
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耳鳴りや動悸といった症状は、心身の緊張を招き、交感神経を優位にさせます。気功の深い腹式呼吸や、ゆったりとした動作は、副交感神経を優位に導き、心身を深いリラックス状態へと誘います。
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これにより、自律神経の乱れが整い、心身の過緊張が和らぎ、耳鳴りの音に過敏に反応することが軽減されることが期待できます。
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継続的な気功の実践は、その方の体質そのものを良い方向へと導き、「低音の耳鳴り」という状態を改善してくれるでしょう。良い土壌ができれば、自然と良い作物が育つように、体質が改善すれば、本来の活き活きとした日常を送れるようになるのです。
日常でできる養生と気功のヒント:耳鳴りから解放され、健やかな日常のために
低音の耳鳴りにおける「つらさ」を改善し、心の穏やかさを取り戻すために、日常生活でできる養生と、手軽にできる気功のヒントをお伝えします。これは、ご自身で実践できる「セルフケア」の柱となるものです。
食養生で心身の土台を作る:脾を労り、湿気を排出する食事
食事は、私たちの体を作り、気を生み出す源です。特に脾(胃腸)を労り、余分な湿気を体外に出す食事を心がけましょう。
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湿気を排出する食材:ハトムギ、冬瓜、大根、きゅうり、緑豆、小豆など。これらは利水作用があり、体内の余分な水分や老廃物を排出する助けになります。頭が重い、耳鳴りの音が低い時に特に意識しましょう。
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脾胃を健やかにする食材:米、もち米、山芋、蓮根、大根、かぼちゃ、キャベツなど。これらは消化に良く、脾胃の機能を高め、気血の生成を助けます。特に、ゆっくりと煮込んだおかゆやスープは、消化吸収が良く、心身に優しくエネルギーを供給します。
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肝の気をスムーズにする食材:ミカンや柚子などの柑橘類、セロリ、春菊、シソ、香草など。香り高い野菜や果物は、気の滞りを解消する助けになります。イライラがある時に良いでしょう。
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刺激物を避ける:辛いもの、脂っこいもの、揚げ物、コーヒー、アルコール、乳製品、甘いもの(特に白砂糖を使ったもの)、香辛料は、脾胃に負担をかけ、痰湿や熱を生み出し、症状を悪化させる可能性が高いです。
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規則正しい食事と食べ方:毎日決まった時間に食事を摂ることで、胃腸のリズムが整いやすくなります。少量ずつ、よく噛んでゆっくり食べましょう。寝る前の食事は消化器系に負担をかけ、熱や湿をこもらせるので、就寝の2~3時間前までには済ませるのが理想ですし、軽い消化の良いものにしましょう。
心身のリラックスを促す習慣:自律神経と心の安定を
耳鳴りの苦しみを改善し、心の穏やかさを育むためには、心身がリラックスできる環境を整え、ストレスを適切に管理することが不可欠です。
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質の良い睡眠を確保:睡眠は脳と体の回復に最も重要です。十分な睡眠時間を確保し、規則正しい睡眠リズムを心がけましょう。寝室は静かで暗く、適度な温度に保ちます。スマートフォンやパソコン、ゲームのブルーライトは脳を興奮させるため、寝る2時間前からは使用を控えるのが理想。
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ストレス管理:ストレスは耳鳴りの大きな引き金となります。趣味の時間を持つ、好きな音楽を聴く、軽い運動をする、友人との会話を楽しむなど、自分なりのストレス解消法を見つけ、こまめに実践しましょう。
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軽い運動と自然との触れ合い:ウォーキングやストレッチ、ヨガなど、軽い運動は気の巡りを良くし、心身のリラックス効果を高めます。特に、自然の中で行うウォーキングは、気の巡りを改善し、心を落ち着かせ、自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。ただし、激しい運動は症状を悪化させることがあるので、無理のない範囲で、汗をかきすぎない程度にしましょう。
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入浴習慣:就寝の1時間前くらいに、38~40℃くらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かりましょう。湯船に浸かることで副交感神経が優位になり、リラックス効果が高まります。
気功で気を巡らせ、心を穏やかに、活力を回復:ご自身でできる実践法
ここでは、ご自宅で簡単にできる気功のヒントをいくつかご紹介します。難しい型を覚える必要はありません。大切なのは、呼吸と意識を集中させることです。無理のない範囲で、短い時間から始めてみてください。
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静坐瞑想:
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椅子に座るか、床にあぐらをかいて座ります。背筋を軽く伸ばし、肩の力を抜いてリラックスします。
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軽く目を閉じ、意識を呼吸に集中させます。鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出す。
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呼吸のたびに、体が緩んでいくのを感じ、心の中のざわつきが次第に収まっていくのをイメージします。
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5分から始めて、慣れてきたら15分程度行ってみましょう。特に耳鳴りが気になる時や、心が落ち着かない時に行うと、心が落ち着きやすくなります。
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揉腹(じゅうふく)法:
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仰向けに寝て、膝を軽く立てます。
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両手のひらを重ねておへそに置き、ゆっくりと時計回りに円を描くように優しくお腹をマッサージします。
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呼吸は自然に任せ、お腹の温かさや、手のひらから伝わる「気」を感じるように意識します。
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5分~10分程度行います。これは、脾胃の機能を高め、気の流れを整え、腹部の張りの軽減と便通をスムーズにする効果が期待できます。
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吐納法:
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楽な姿勢で座るか、立ちます。
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鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を軽く膨らませます。
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口をすぼめ、「フーッ」と細く長く息を吐き出します。息を吐き出す時に、体の中の不要なもの、ストレス、不安、胸の苦しさ、頭の重さ、そして耳鳴りや体の不快感などが全部出ていくイメージで行います。
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これを10回程度繰り返します。特に精神的な緊張がある時に行うと、リラックス効果が高まり、気の滞りが解消されやすくなります。
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足底への意識集中(グラウンディング):
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椅子に座るか、立った状態で、足の裏全体が地面にしっかりついているのを感じます。
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呼吸をするたびに、頭のてっぺんから新鮮な気が入り、足の裏から余分な気が抜けていくイメージを持ちます。
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特に、めまいや立ちくらみがする時、体がフワフワする時、あるいは地に足が付かないような感覚がある時に有効です。気を下に下ろす効果が期待できます。脳の興奮を鎮め、地に足をつけ、安定感を取り戻す助けになります。
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耳鳴りにおける「低音」という症状は、単なる気の持ちようの問題や精神的な問題だけでなく、心身全体の気の巡りや臓腑のバランスが深く関わっている症状です。東洋医学の深い知恵と気功の実践を通して、ご自身の内なる力を引き出し、本来の健やかさと心の平和、そして穏やかな日常を取り戻すことができると信じています。
私もこの20年、多くの患者さんが、ご自身の体と心の声に耳を傾け、地道な努力を続けることで、症状が改善し、笑顔が増え、充実した日常を取り戻していく姿を目の当たりにしてきました。その回復力は、本当に素晴らしいものがあります。
あなたも、ご自身の心と体に寄り添い、真の平穏への扉を開いてみませんか?