「何回で良くなりますか」と聞かれて答えられない先生へ
初診の会計の前、少し言葉に詰まる。
目線が一瞬泳ぐ。
「何回くらい通えば、良くなりますか」
その一言に、うまく言葉が出てこない。
私にも、そういう時期がありました。
自信がなかった頃、この質問をされるたびに寒気がしました。今なら分かります。あのとき怖かったのは、質問そのものではありません。答えられない自分でした。
なぜこの質問だけ答えに詰まるのか
結論から言います。技術がないからではありません。見通しを言葉にする準備ができていないからです。
「何回で良くなりますか」という質問は、腕を疑って聞かれているのではありません。患者さんは、自分がこれからどこに向かっているのかを知りたいだけです。ゴールが見えない道を、人は不安なまま歩き続けられません。だから聞くんです。
答えに詰まると、患者さんの不安はさらに育ちます。分からないことを分からないと言うのは構いません。ただ、そのあとに何もつなげられないまま黙ってしまうと、患者さんの頭の中には「この先生も分かっていない」という結論だけが残ります。
初診で聞かれる怖い質問に共通しているのは何か
結論を先に言うと、すべて同じ一つの願いから出ています。
初診でよく聞かれる質問を並べてみます。
「いつまでこの反応が続きますか」
「前より不安になりました」
「本当に良くなるんですか」
「何回通えば良くなりますか」
一つずつ言葉の裏側を読むと、聞かれていることは違って見えます。反応がいつまで続くかは、見通しを示してほしいという言葉。前より不安になりましたは、何が起きているか説明してほしいという言葉。本当に良くなるんですかは、あなたは分かっているのかという確認。何回で良くなりますかは、終わりがあるのかを知りたいという言葉です。
けれど、四つとも根っこは同じです。腕を疑っているのではなく、先が見えないことを恐れているんです。
怖い質問を避ける方法を探しても意味がないのはなぜか
結論は、質問はどれだけ経験を積んでも来るからです。
私は昔、この質問をされない初診の進め方を探していました。聞かれる前に先回りして話をそらしたり、雑談で話題を変えたり。今思えば、遠回りでした。
質問は来ます。何年やっても来ます。20年、25,000人の患者さんを診てきた今でも、初診で似たようなことを聞かれます。変わったのは、質問が減ったことではありません。答えられる自分に変わったことです。
避ける工夫にかけていた時間を、答えを用意する時間に回していれば、もっと早く変われたと思います。遠回りをした分だけ、この記事で少しでも近道を渡せたらと思って書いています。
見通しを渡せるようになるために何を変えればいいか
結論から言うと、原因の場所ではなく順番を伝えることです。
「ここが痛いのは、ここが原因です」で終わると、患者さんの中には点の情報しか残りません。点では見通しになりません。線になって初めて、道筋として伝わります。
私は初診で、カウンセリングと可動域検査で今の状態を一緒に確認したあと、必ずこう伝えます。「今の状態は、こういう順番で整えていきます。まずここ、次にここ」。原因の場所を当てることより、これから何をどの順番でやるかを渡すことのほうが、患者さんの不安を静めます。
順番があるということは、この先生には見通しがある、という証拠になるからです。逆に、原因の場所だけを言われても、患者さんは次の一歩が見えません。見えないから、同じ質問を形を変えてまた聞いてきます。
分からない部分はどう伝えればいいか
結論は、分からないと言ったうえで、次に何を確認するかまで話すことです。
すべての初診で、最初から全部が見えるわけではありません。分からないことを、分かったふりで乗り切ろうとすると、あとで必ず言葉が崩れます。患者さんは、その崩れを敏感に感じ取ります。
「今の段階では、ここまでしか分かりません。次回、この動きの変化を見て、もう少し絞り込みます」
これだけで十分です。分からないことを隠さず、次の一手だけ示す。曖昧なまま終わらせるのと、次につながる言葉で終わらせるのとでは、患者さんの中に残る印象がまったく違います。正直さと、見通しのなさは別ものです。正直に言いながら、見通しは渡せます。
答えられる自分になるには何が要るのか
結論から言うと、経験の年数や症例数ではありません。難しい症例をどれだけ潜り抜けたかです。
自信のなさは、知識の量では埋まりません。私自身、開業してすぐの頃はセミナーやDVDに頼っていましたが、初診で見通しを言い切れるようにはなりませんでした。変わったのは、自分の患者さんで見立てを外し、困って、それでも次に来てもらえて、必死に考え直す。この繰り返しを重ねてからです。
分かりやすい症状ばかり診ていると、この経験が積み上がりません。簡単に楽になる人ばかり相手にしていると、追い詰められる場面そのものが来ないからです。追い詰められて初めて、見通しを言葉にする力がつきます。
見立て塾に来る先生の中にも、同じところでつまずいている方がいます。開業して数年目、保険と筋骨格の施術では結果が出るのに、少し複雑な訴えの患者さんが来ると、会計の場面で言葉が止まってしまう。ある先生は、その理由を「何回で、と聞かれたときに、自分の中で答えが決まっていなかったから」と言葉にしてくれました。技術は持っているのに、聞かれたときに出す答えを、あらかじめ用意していなかっただけなんです。
私がオプチャで、実際にあった初診でのやり取りをもとに「初回で解決策を提示できるか、それだけの話」という配信をしたことがあります。そのときの反応を見て気づいたことがあります。多くの先生が、答えを二択のどちらにするか迷っていました。迷うということは、自分の中に、見通しを渡す型がまだできていないということです。型がないまま現場に立つと、質問一つで足が止まります。
これは見立ての順番を組み立てる話ともつながっています。見立ての順番を一度決めておくと、初診でこの質問をされたときに、迷わず言葉が出るようになります。順番が自分の中で固まっていない先生ほど、質問一つで言葉が止まります。
初診の終わり方で何を変えればいいか
結論は、施術で終わらせず、道筋を渡して終わることです。
施術が気持ちよかった、で初診が終わると、患者さんの頭には何も残りません。「次はここを整えます。次回までに、これをやってみてください」と一言添えるだけで、患者さんは自分がどこに向かっているかが分かります。
見通しを渡すというのは、大げさなことではありません。次回の予告を、一言つけ加えるだけのことです。この一言があるかないかで、会計のときに出てくる質問の重さが変わります。何回で、という質問は、道筋が見えていない不安の表れです。道筋を先に渡しておけば、同じ質問でも軽い確認で済みます。
見通しを渡す言葉の型はどう作ればいいか
結論から言うと、症状の重さごとに、あらかじめ言葉を用意しておくことです。
その場で考えて答えようとすると、詰まります。詰まるのは、頭の中に型がないからです。私は、比較的軽い症状、慢性化している症状、複数の要因が絡んでいる症状の三段階で、話す言葉をあらかじめ決めています。
軽い症状なら「数回で変化を感じてもらえることが多いです。まず一度、体の反応を見せてください」。慢性化している症状なら「生活の積み重ねで今の状態になっているので、少し時間をかけて整えていきます。まずは変化が出始める時期を一緒に確認しましょう」。複数の要因が絡んでいる症状なら「原因が一つではないので、順番に確認しながら進めます。最初の数回で、どこから手をつけるかがはっきりします」。
回数を数字で断言する必要はありません。大事なのは、どのタイプの話し方をするかを、初診の前にすでに決めていることです。決めていれば、患者さんの顔を見てから言葉を探す必要がなくなります。言葉を探している間の一瞬の沈黙が、患者さんには「分かっていない」というサインとして伝わってしまうからです。
まとめ
「何回で良くなりますか」に答えられないのは、技術が足りないからではありません。見通しを言葉にする準備ができていないだけです。
質問を避ける方法を探すのではなく、原因の場所より順番を伝えること。分からないことは分からないと言ったうえで、次に何を確認するか添えること。そして初診の終わりに、次に向かう道筋を一言渡すこと。まずこの三つから見直してみてください。
質問はこれからも来ます。変えられるのは、質問への答え方だけです。
よくある質問
何回で良くなりますかと聞かれたら何と答えればいいですか?
回数を断定するより、今の状態をどういう順番で整えていくかを伝えてください。順番が見えると、患者さんの不安は落ち着きます。
見通しを聞かれるのは経験不足のせいですか?
経験年数とは直結しません。難しい症例をどれだけ潜り抜けたかのほうが、答えられる自信につながります。
分からないことを聞かれたら正直に言ってもいいですか?
構いません。分からないと伝えたうえで、次に何を確認するかまで話せば、患者さんの信頼は下がりません。
初診で何を優先して伝えるべきですか?
原因の場所そのものより、これからどう整えていくかという順番を優先してください。
いつまでこの反応が続きますかと聞かれたときはどうすればいいですか?
反応が起きている理由を説明したうえで、次回までに確認するポイントを一つ添えてください。それだけで見通しが伝わります。
怖い質問をされないようにする方法はありますか?
ありません。質問は来るものだと考えて、答えられる自分に変えていくほうが近道です。
初診の最後は何で締めればいいですか?
施術の感想で終わらせず、次に向かう道筋を一言添えて締めてください。
難しい症例と向き合うのが怖いときはどうすればいいですか?
危険なサインが疑われる場合は無理をせず医療機関の受診をすすめてください。そうでなければ、向き合った経験の分だけ答えられる言葉が増えていきます。
見通しを渡す説明は初診の何分くらいで伝えればいいですか?
時間の長さより、カウンセリングと可動域検査で情報を集めきってから話すことが大事です。情報が足りないまま話し始めると、途中で言葉に詰まります。
ここまで読んでくださった先生へ。
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この記事は施術者向けに書いたものです。体の症状で困っている方は、まず医療機関を受診してください。









