施術の見立てで大事なのは、技術ではなく順番だ

「学校で解剖学や生理学を勉強しても、実際の患者さんを目の前にすると、どうしていいか分からなくなる」

これは、私が2019年に出した本の読者の方が実際に書いてくださった感想です。
学校で学ぶことと、目の前の一人に対応することのあいだに、大きな段差がある。
この段差の正体を、ずっと考えてきました。

結論から言います。
段差の正体は、技術の量ではありません。
見る順番が決まっていないことです。

手技を何種類持っていても、いつ、どれを、どの順で出すかが決まっていなければ、目の前の患者さんの前でまた迷います。
迷いは、技術の数を増やしても消えません。
順番を持ったときだけ消えます。

見立てに順番が必要なのは、なぜか

同じ技術を使っても、順番によって結果が変わるからです。

体は、いくつもの不調が同時に重なっています。
冷えている場所もあれば、詰まっている場所もある。
気を張っている場所もあれば、力が抜けきっている場所もある。

すべてに同時に触ることはできません。
どこから触るかで、体の反応が変わります。
先に触るべきところを後回しにすると、施術のあいだ体がずっと緊張したままになり、何をしても緩みにくくなります。

技術そのものは、正しく使えば効きます。
問題は、正しい技術を、正しい場所に、正しい順で出せているかどうかです。
ここが揃っていないと、良い技術を持っていても、患者さんの前で手が止まります。

たとえば、冷えと詰まりが同時にある方に、詰まりを取る手技から入ると、体は防御反応でさらに固くなることがあります。
先に冷えを緩めてから詰まりに触ると、同じ手技でも体の受け取り方が変わります。
手技を変えたわけではありません。
出す順番を変えただけで、結果が変わります。

現場で迷いが出るのは、たいてい技術が足りないときではなく、この順番が体系として自分の中にないときです。
順番があれば、初めて診る症状でも、どこから手をつけるかの見当がつきます。
順番がなければ、経験を積んでも、症状が変わるたびにまた一から手探りになります。

可動域検査は、何のためにやるのか

体の中で、いま何から手をつけるべきかを見つけるためです。

私は開業してからずっと、施術の最初に可動域検査をしています。
腕を上げてもらう。首を回してもらう。前に屈んでもらう。
どこで止まるか、どちらに傾くか、どこで痛みが出るかを、まず全部見ます。

これをやらずに、訴えのある場所だけを診ると、順番を間違えます。
腰が痛いと言われて腰だけを診ると、腰を庇っている本当の場所を見落とします。
可動域検査は、体全体の地図を先に作る作業です。
地図がないまま歩き出すと、遠回りになるか、同じ場所に戻ってきてしまいます。

この考え方は、書籍『気・エネルギーを整える!自律神経療法の教科書』(BABジャパン)にもまとめました。監修したDVD『自律神経整体!』の第1巻は「改善の80%を担う可動域検査編」という題です。
可動域検査を最初にしっかりやるだけで、その後の展開の8割が決まる、という実感がそのままタイトルになっています。

本を読んだ方から「キネシオロジーや可動域検査の説明はあるが、施術のやり方が書かれていない」という声もいただきました。
正直な感想だと思います。
ただ、これは書き忘れたのではありません。
緩まない本当の理由は、手技の精度ではなく、緩める場所が違うことがほとんどだからです。
やり方だけを渡しても、順番が伴わなければ、現場では同じ迷いが起きます。

見立てが外れたとき、何を疑えばいいか

見立てそのものより先に、伝えたことが実行されたかどうかを疑います。

初回の施術で変化が出たのに、2回目に来た患者さんの状態が思ったほど変わっていない。
このとき、多くの施術者はまず自分の見立てを疑います。
私も長い間、そうしていました。

でも、変わらない理由は二つあります。
一つは、見立てそのものが外れていた場合。
もう一つは、見立ては合っていたのに、伝えたセルフケアが実行されていなかった場合です。

実行されていないものを「外れた」と判定することはできません。
だから2回目の問診で、必ずこう聞きます。
「初回のあと、お伝えしたことはどんな感じでしていただけましたか」

この一言で、見立てを疑う前に、届いたかどうかを確認できます。
順番を間違えると、合っていた見立てまで、自分で捨てることになります。

同じ患者さんの中でも、順番を間違えると届かない

一つの症例の中でも、何から足すかという順番があります。

以前、強迫性障害と頻尿の症状がある方を診たことがあります。
背景には完璧主義がありました。
仕事がどれだけ忙しくても、家事だけはきちんとやってしまう。
睡眠時間を削ってでもやり切ってしまう方でした。

このとき、いきなり「家事を減らしてください」とは伝えませんでした。
まず睡眠時間の確保を伝え、次に、寝る前の1時間はお風呂やゆるいストレッチでリラックスしてもらいました。
冷え切っていた体が温まり、それだけで回復力が上がっていきました。

余裕が出てきてから、はじめて「忙しいときは、ご自分を優先してください」と伝え、夜の家事を減らしてもらいました。
そこから、回復がさらに早まりました。

完璧主義の方に、最初から「減らしてください」と伝えても、たいてい実行されません。
余裕がないときに減らすことは、手を抜いた自分を許すことになり、罪悪感が先に立つからです。
先に足す。余裕ができてから、減らす。
この順番を逆にすると、正しい提案でも届きません。

見立ての順番は、症状を大きく捉える段階だけでなく、一人の患者さんに何をどの順で渡すか、という細かい段階にも同じように存在します。

なぜ手技を増やしても、順番の悩みは消えないのか

引き出しが増えるほど、選ぶ場面が増えて、迷う回数も増えるからです。

新しい手技を学ぶこと自体は、悪いことではありません。
私自身、多くの技術を学んできました。
ただ、学んだ数だけ迷いが減るかというと、そうではありませんでした。

持っている手技が3つのときより、10のときの方が、選択の場面は増えます。
順番という軸がないまま手技だけを増やすと、選択肢が増えるほど、現場での判断は重くなります。

逆に、順番という軸を先に持っていれば、新しく学んだ手技は、その順番のどこに置くかがすぐに決まります。
順番があるかないかで、同じ量の技術が、負担にも武器にもなります。

順番は、どうやって身につくのか

読んで分かるものではなく、外して直した経験の積み重ねで磨かれます。

本やセミナーで、順番の考え方の骨格は伝えられます。
でも、目の前の一人に合わせて微調整する感覚は、読んだだけでは体に入りません。

自分の患者さんを診て、うまくいかなかったところを振り返り、次はどこから触るかを変えてみる。
この繰り返しの中で、少しずつ精度が上がっていきます。
のべ11万回の施術を重ねてきましたが、いまでも毎回、順番を微調整しています。
完成された順番があるのではなく、更新し続けるものだと思っています。

全国での技術セミナーでお会いする先生方にも、同じことを伝えています。
順番の考え方そのものは教えられますが、その先の精度は、それぞれの現場で磨いていくしかありません。

順番を記録すると、何が変わるか

記録すると、感覚だったものが、次に使える形に変わります。

うまくいった施術も、うまくいかなかった施術も、その場では感覚として流れていきます。
記憶だけに頼っていると、似た症状に当たったときに、また一から考え直すことになります。

私はカルテに、その日どこから触ったか、どの順で進めたか、何が変わって何が変わらなかったかを短く残しています。
特別なことではありません。
1行で十分です。
振り返ったときに、うまくいった回に共通する順番が見えてきます。

記録がないまま数だけをこなしても、経験は積み上がりません。
同じ失敗を、形を変えて何度も繰り返すことになります。
記録は、経験を経験のままで終わらせず、次の順番に変える作業です。

患者さんへの説明も、順番で変わる

何を先に伝えるかで、患者さんの受け取り方が変わります。

体の変化を、施術のあとにまとめて説明すると、患者さんの中には理由が残りにくくなります。
先に「ここが硬いのは、こういう理由です」と伝え、施術のあとに「だから、こう変わりました」と結びつけると、同じ内容でも伝わり方が違います。

説明の順番も、見立ての順番と同じ構造です。
何を先に置くかで、同じ言葉が届いたり、届かなかったりします。

危険なサインが混ざっているときは、順番より先に見るべきものがある

急な麻痺や、これまでにない激しい痛み、急激な体重減少などがあるときは、見立ての順番より先に、医療機関につなぐ判断が優先されます。

見立ての順番は、あくまで施術の範囲の中で有効な考え方です。
体からの警報が、施術で扱える範囲を超えていると感じたときは、順番を組み立てる前に、受診をすすめてください。
ここだけは、経験年数に関係なく、迷わず優先する場面です。

よくある質問

見立ての順番は本を読めば身につきますか

考え方の骨格は本やDVDで伝えられますが、精度は現場でしか磨かれません。
自分の患者さんで試し、外して、直す経験が必要です。

可動域検査は毎回すべての部位をやる必要がありますか

初回は全体の地図を作るために、できるだけ広く見ることをおすすめします。
2回目以降は、前回との変化がある部位を重点的に確認する形で十分です。

見立てが外れたと感じたとき、まず何を確認すればいいですか

見立てそのものを疑う前に、伝えたセルフケアが実行されたかどうかを確認してください。
届いていないだけのことは、思っているより多くあります。

順番を間違えると、施術そのものが逆効果になりますか

逆効果というより、緩まない、あるいはすぐ戻ってしまう、という形で出ることが多いです。
先に緩めるべき場所を後回しにすると、体が緊張したままになりやすくなります。

手技を増やすことと、順番を持つことはどう違いますか

手技は道具の数、順番はその道具をいつ出すかの設計図です。
道具だけ増えても、設計図がなければ現場での迷いは減りません。

患者さんに見立ての順番を説明する必要はありますか

すべてを専門用語で説明する必要はありません。
ただ、何を先に見て、何をあとに見たかを、日常の言葉で一言添えると、患者さんの理解と信頼につながります。

危険なサインがある場合、順番はどう変わりますか

見立ての順番を組み立てる前に、医療機関につなぐ判断が優先されます。
急な麻痺や激しい痛み、急激な体重減少などは、この対象です。

経験年数が浅くても順番は作れますか

作れます。
最初から完璧な順番を持っている先生はいません。
一つひとつの症例で、うまくいった順番、いかなかった順番を記録していくことが、いちばんの近道です。

順番は症状ごとに変える必要がありますか

大きな型は同じでも、その方の体質や生活背景によって、細かい順番は変わります。
同じ症状名でも、足すべきものが違う方には、違う順番を使います。

順番の話をここまで書きましたが、実際の現場では、症状ごとの見立ての設計図がないと、毎回ゼロから考えることになります。
私が現場で使っている資料を、見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文など、全部で20本にまとめています。
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この記事は、施術者向けに書いたものです。
体の症状で強い不安がある方、急な麻痺や激しい痛みなどがある方は、まず医療機関を受診してください。