技術を安売りしない料金設計の考え方|単価を上げる前に決める3つのこと
施術台の横で、会計の話になると声が小さくなる。そんな経験はありませんか。
施術は丁寧にできた。患者さんの肩も、呼吸も、ゆるんだのが手に伝わっている。それなのに、お会計を伝える段になると、つい「あの、いつもの金額で」と目をそらしてしまう。受付で患者さんが財布を出す間、自分の中で小さく言い訳をしている。
私は、この場面をたくさんの先生から聞いてきました。そして私自身にも、似た時期があります。
結論を先に言います。技術を安売りしてしまうのは、気が弱いからでも、商売が下手だからでもありません。料金で何を決めているのか、決める順番が決まっていないだけです。この記事では、金額の数字には触れず、安売りしない料金設計を考える順番を書きます。
体の症状で困っている方は、まず医療機関にご相談ください。この記事は施術者の方に向けたものです。
料金は、金額の問題ではないのですか?
はい、金額の問題ではありません。料金は、どんな患者さんが来るかを決める装置です。
安い料金を見て来る患者さんと、納得して通う患者さんは、見ているものが違います。もちろん、余裕がなくて安いところを選ぶ方も大勢います。その方を責める話ではありません。ただ、現場にいると、料金がその人の「自分にどれだけ手をかけるか」という姿勢を映してしまう場面に出会います。
自分のことを大事にする方は、セルフケアもきちんとやってくださいます。睡眠を整える、言われた生活の工夫を試す。だから施術の変化が残ります。逆に、自分を後回しにする余裕しかない状態の方は、施術のあとのセルフケアまで手が回りにくい。変化が戻ってしまう。
料金を決めることは、金額を決めることではなく、一緒に変わっていける関係の入口を決めることです。
安売りが、施術者の体を削るのはなぜですか?
安売りは、数でカバーする働き方を呼び、その負担は施術者の体にたまります。
流れはこうなります。
料金を低くする。数をこなさないと成り立たない。1日の人数が増える。1人にかけられる時間が減る。変化が残りにくくなる。患者さんが戻ってくる。さらに数が必要になる。
私は昔、強く押す施術を前提にした職場で働いていました。マニュアルどおりに、何人押したかわからなくなるくらい毎日押して、セルフケアは何もしていませんでした。先輩からは「壊れてからが勝負」と言われました。そのとき、私は何も感じませんでした。感覚が麻痺していたのだと思います。
体が壊れることは分かりました。それで、その職場を離れることにしました。
今は、あの時期を否定していません。無心で数をこなした時間があったから、今の見方があります。ただ、あの働き方を続けていたら、患者さんの前に立ち続けることはできなかったはずです。
安売りは、集客の問題として語られます。でも本当は、施術者自身の体の問題です。ここを先に押さえておくと、値上げの怖さの見え方が変わります。
値上げが怖いのは、どうしてですか?
値上げが怖いのは、値上げの方法を知らないからではなく、変化の理由を自分の言葉で説明できていないからです。
オープンチャットで値上げの恐怖について話したとき、いちばん反応が集まりました。皆さんが止まっているのは、そこです。
ここで、うまくいっている先生とそうでない先生を見比べて気づいたことがあります。値段を上げられないのは、結果であって原因ではありません。原因は、難しい方を診て、外して、直す経験を通ってきていないことです。
その経験が少ないと、何が起きるか。
患者さんが良くなったとき、なぜ良くなったのかを言葉にできません。言葉にできないと、自分の施術に自信が持てません。自信が持てないと、言葉に力が入りません。言葉に力がないと、料金を伝える声が小さくなります。
つまり値上げの怖さは、料金表の前で起きているのではなく、その手前の見立ての段階から始まっています。見る順番については、見立ての順番の記事にまとめています。
料金設計の前に、何を決めればいいですか?
決めるのは、誰に、何を、どこまで責任を持つかの3つです。金額はそのあとです。
1つ目は、誰を診るかです。
全員を診ようとすると、料金は一番来やすい人の基準に引っ張られます。難しい状態の患者さん、本気で変わりたい方に来てほしいのか。そこを先に決めます。
2つ目は、何を渡すかです。
手技だけでなく、問診で見立てる時間、生活で変えてもらうこと、次回までの過ごし方。施術台の上の時間以外に、何を渡しているかを書き出します。意外と多くの先生が、無料で渡していることに気づきます。
3つ目は、どこまで責任を持つかです。
変化が戻ったとき、どこで外したかを一緒に探すのか。生活の聞き取りまでやるのか。責任の範囲を決めると、その分が料金に含まれていると自分で納得できます。納得できていない料金は、声に出すときに必ず小さくなります。
料金を決める時間はどう取ればいいですか?
営業時間の外に、1回だけ、紙に書き出す時間を取ってください。
書き出すのは3つです。今月診た患者さんのうち、変化が残った方の共通点。逆に戻ってしまった方の共通点。そして、自分が一番疲れた日の人数と時間。
この3つを並べると、料金が今の働き方に合っているかが見えます。私も、働き方が体に合っていないと気づいたのは、頭で考えたときではなく、体が教えてくれたときでした。紙に書くことで、体が先に出すサインを、先に拾えるようになります。
患者さんに料金を伝えるとき、何を言えばいいですか?
最初に、料金の理由を1文で伝えてください。金額より先に、含まれているものを言います。
たとえば、問診と見立てに時間をかけること、生活で変えてもらうことも含まれること、次回までの過ごし方を一緒に決めること。そのうえで、金額を伝えます。
大事なのは、言い訳のように前置きをしないことです。「高いと思われるかもしれませんが」という入り方をすると、患者さんは自分で高いと判断し始めます。含まれるものを淡々と言う。それだけで、受け取る側の姿勢が変わります。
値上げを、今の患者さんにどう伝えますか?
今の患者さんには、変える日と理由を先に知らせ、選ぶのは本人にお任せしてください。
押しつけない、が基本です。変更の日を前もって伝える。これまでの施術で見てきたことを、1つか2つ言葉にする。そのうえで、続けるかどうかは本人が決めてよいと伝えます。
何人かが離れていく場合もあります。それは、悪いことではありません。自分の体を壊さずに、見られる範囲で丁寧に見るための、通過点です。
安売りしないことは、高くすることですか?
いいえ。高くしろ、という話ではありません。自分の体を削らない働き方に合わせる、という話です。
私が常に意識しているのは、7〜8割の力を保つことです。全力を毎日出さない。守りを最優先にする。その結果として、患者さんの前に長く立てます。料金は、その働き方を支えるものとして置いています。
誰かの真似をして高くしても、中身が追いつかなければ、また苦しくなります。まず3つを決める。次に、書き出す。そして、体に無理のない範囲で、小さく変えてみる。この順番で十分です。
料金を決めたあと、最初の1か月は何を見ればいいですか?
見るのは売上ではなく、1日の終わりの自分の体の状態と、変化が残った患者さんの様子です。
料金を変えた直後は、数字ばかり気になります。でも最初に見てほしいのは、夕方の自分の疲れ方です。以前より余力が残っているか。1人ひとりの問診に、少し長く聞く時間が取れているか。患者さんの肩や呼吸が、前回より落ち着いているか。
この3つが良い方向に動いていれば、料金の置き方は外れていません。動いていなければ、金額ではなく、渡している中身か責任の範囲に戻って見直します。外したときに、どこで外したかが分かる。それが順番を決めておく意味です。
よくある質問
料金を上げたら、患者さんが減りませんか?
減る場合もあります。ただ、一度に大きく変えなければ、影響は小さくおさえられます。減った分、1人にかけられる時間と余力が戻ることも、現場では起こります。
保険診療と自費は、どう考えればいいですか?
保険だけで続けてきた先生は、料金を変える機会が少なかったぶん、変化の理由を言葉にする経験が少なくなりがちです。まず、変化が残る患者さんの共通点を書き出し、そこから自費の入口を考えてください。
料金表に、何を書けばいいですか?
金額と施術時間に加えて、含まれるもの(問診、見立て、生活の聞き取り)を1行ずつ書くと、料金の理由が伝わります。
他院より安くしないと、新規が来ないのではないですか?
安さで選ぶ方が集まる傾向はあります。ただ、その方向だと数をこなす働き方になり、体にこたえます。誰に来てほしいかを先に決めてください。
自信がなくて、料金を言う声が小さくなるのは、なぜですか?
声の小ささは、見立ての自信の問題であることが多いです。良くなった理由を自分の言葉で言えるようになると、声は自然に落ち着きます。
値上げの案内は、いつ伝えればいいですか?
変更日の1か月以上前が目安です。口頭と書面の両方で、理由と一緒にお伝えください。
量でカバーしてきた働き方から、どう抜ければいいですか?
いきなり人数を減らさず、1日のうち1枠だけ、時間を長めに取る日を作ってください。そこで見える変化が、次の判断材料になります。
今の患者さんが離れるのが怖いときは、どうすればいいですか?
怖さは自然です。選ぶのは本人だと決めておくと、気持ちが少し軽くなります。離れる方がいても、あなたの施術の価値が下がったわけではありません。
無料や割引のお試しは、続けたほうがいいですか?
目的が決まっていれば使えます。ただ、常に割引で入る方が中心になると、数をこなす働き方に戻りやすくなります。期間と対象を決めて使ってください。
料金の考え方は、いつ見直せばいいですか?
半年に1回、紙に書き出す時間を取ってください。変化が残った方の共通点と、自分の疲れ方を見比べると、見直す時期が分かります。
効果を保証するような説明をしてもよいですか?
しないでください。効果の保証は避け、医療的な判断が必要な場面では受診をすすめることも、料金の説明に含めてください。急な麻痺や激しい痛みなど、危険なサインがある場合は、なおさらです。
現場で使える資料は、どこで受け取れますか?
現場で使う資料を、全部で17本まとめて渡しています。症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文などです。受け取りは公式LINEからどうぞ。
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この記事は、施術者の方に向けて書いたものです。体の症状で困っている方は、まず医療機関にご相談ください。









