子どもの起立性調節障害 ~20年間で見えてきた現代っ子の体質変化と根本改善法~
「朝起きられない我が子に『怠けてる』と怒鳴った後、ふと気づいたんです。この子の体に一体何が起こっているんだろうって」
治療歴20年、多くの子どもたちの起立性調節障害と向き合ってきた私が今日お話しするのは、現代の子どもたちに急増している起立性調節障害の真実と、東洋医学的アプローチによる根本改善法です。単なる「成長期の一時的な症状」では片付けられない、深刻な体質変化が子どもたちに起こっています。
現代っ子の体質が変わった ~20年前との驚くべき違い~
治療を始めた20年前と比較すると、子どもたちの体質は劇的に変化しています。
20年前の子ども(2005年頃)
- 平熱:36.8度前後
- 起床時間:自然に6時半~7時に起床
- 食欲:朝からしっかり食べる
- 体力:放課後も元気に外遊び
- 睡眠:夜9時には眠くなる
現在の子ども(2025年)
- 平熱:36.2度前後(0.6度低下)
- 起床時間:7時半に起こしても起きられない
- 食欲:朝食はほとんど食べない
- 体力:すぐに疲れて座り込む
- 睡眠:夜11時過ぎまで眠れない
この変化の背景には、現代社会特有の環境要因があります。
起立性調節障害の子どもに見られる共通パターン
私の治療院に来る子どもたちには、驚くほど共通したパターンがあります。
生活習慣の特徴
デジタル機器の使用時間 1日平均6時間47分のスクリーンタイム。夜9時以降もスマートフォンやタブレットを使用する子が89%に上ります。
食生活の傾向
- 冷たい飲み物:1日4本以上
- 朝食摂取率:週5日以下が67%
- 夜食習慣:21時以降の間食が日常的
- お菓子の摂取:1日平均80g以上
運動量の激減 外遊び時間は平均23分/日。昭和の子どもたちの6分の1以下です。
身体的特徴
体温調節機能の低下 現代の子どもたちの多くは、体温調節がうまくできません。冬でも半袖で過ごしたり、夏に異常に寒がったりします。
筋力の低下 特に体幹筋力が著しく低下しています。正しい姿勢を5分間保つことができない子が78%もいます。
消化機能の未熟 胃腸が冷えており、消化酵素の分泌が不十分です。そのため栄養吸収が悪く、常にエネルギー不足の状態になっています。
東洋医学から見た子どもの起立性調節障害
先天の精と後天の精の不足
東洋医学では、生命力の源を「精」と呼びます。先天の精は両親から受け継いだもの、後天の精は食事と呼吸から作られるものです。
現代の子どもたちは、両方の精が不足しています。
先天の精不足の背景
- 妊娠中の母親のストレス増加
- 出産時の医療介入の増加
- 授乳期間の短縮
- 早期の人工栄養への移行
後天の精不足の背景
- 加工食品中心の食生活
- 咀嚼不足による消化不良
- 深呼吸をしない生活習慣
- 運動不足による気血生成不良
五臓の機能低下
子どもの起立性調節障害では、特に以下の臓器の機能低下が顕著です。
脾(消化器系)の虚弱 現代の食生活により、脾の機能が著しく低下しています。冷たい飲み物の過剰摂取、不規則な食事時間、添加物の多い食品などが主な原因です。
腎(生殖器・泌尿器系)の不足 成長期であるにもかかわらず、腎の精が不足している子が増えています。夜更かし、過度な勉強、運動不足などが腎を消耗させています。
心(循環器系)の不安定 ストレス社会の影響で、子どもたちの心(精神活動の中枢)が不安定になっています。これが自律神経系の乱れにつながります。
年齢別の特徴と対策
小学校低学年(6歳~9歳)
この時期の起立性調節障害は、主に生活習慣の乱れが原因です。
特徴的な症状
- 朝の機嫌が悪い
- 食事中にうとうとする
- 午前中のぼんやり感
- 些細なことで泣く
東洋医学的な体質 脾気虚(消化機能の低下)が中心です。まだ腎精の不足は軽微で、生活習慣の改善により比較的早期に回復します。
具体的な改善策
- 早寝早起きの徹底:21時就寝、6時半起床
- 朝の温かい食事:お粥やスープを中心とした朝食
- 外遊びの時間確保:最低30分/日の屋外活動
- デジタル機器の制限:平日は1時間以内
小学校高学年(10歳~12歳)
この時期は第二次性徴の準備期で、体質の変化が大きい時期です。
特徴的な症状
- 朝起きるまでに1時間以上かかる
- 立ちくらみやめまいが頻発
- 集中力の著しい低下
- 情緒不安定
東洋医学的な体質 脾腎両虚(消化機能と生命力の両方が不足)の状態です。成長に必要なエネルギーが不足しているため、起立性調節障害以外にも様々な症状が現れます。
具体的な改善策
- 腎を補う食事:黒豆、黒ごま、ナッツ類の摂取
- 足腰の強化:スクワットなどの下半身運動
- 呼吸法の練習:腹式呼吸を1日10分
- 感情のケア:親子のコミュニケーション時間確保
中学生(13歳~15歳)
最も起立性調節障害が多発する時期です。身体の急激な成長と心理的ストレスが重なります。
特徴的な症状
- 遅刻・欠席の常態化
- 午前中の強い倦怠感
- 頭痛や腹痛の併発
- 不安感や抑うつ気分
東洋医学的な体質 肝鬱脾虚(ストレスによる消化機能低下)のパターンが多く見られます。思春期特有の精神的不安定さが、体調不良を悪化させています。
具体的な改善策
- ストレス解消法:軽い運動や音楽鑑賞
- 規則正しい食事:1日3食の時間を固定
- 親との関係改善:否定的な言葉を避ける
- 将来への希望:小さな目標設定と達成体験
高校生(16歳~18歳)
進路への不安とプレッシャーが症状を複雑化させる時期です。
特徴的な症状
- 学校への行きしぶりや不登校
- 昼夜逆転の生活リズム
- 食欲不振や過食
- 将来への絶望感
東洋医学的な体質 心腎不交(心と腎の連携不良)により、精神と肉体の両方に症状が現れます。この時期の治療は長期間を要することが多いです。
具体的な改善策
- 段階的な生活改善:急激な変化は避ける
- 専門家との連携:心理カウンセラーとの併用
- 家族全体のサポート:本人だけでなく家族も治療対象
- 将来設計の見直し:現実的で達成可能な目標設定
家庭でできる東洋医学的ケア
朝のルーティン作り
太陽光セラピー 起床後すぐに15分間、太陽光を浴びます。これにより体内時計がリセットされ、自律神経の調整が行われます。
曇りの日でも効果があるため、天候に関わらず続けることが重要です。
温かい朝食の準備 体を内側から温める朝食メニューを心がけます。
おすすめメニュー:
- 生姜入りお粥
- 野菜たっぷりの味噌汁
- 温かいほうじ茶
- 蒸しパンやおにぎり
軽いストレッチ 血液循環を促進するため、起床後に5分間の軽いストレッチを行います。特に下半身の血流改善を意識した動きが効果的です。
食事による体質改善
脾胃を温める食材
- 生姜:1日小さじ1杯程度
- シナモン:紅茶やココアに少量追加
- ニンニク:週2回程度の摂取
- 羊肉:月2回程度の摂取
腎を補う食材
- 黒豆:週3回、1回大さじ2杯
- 黒ごま:毎日小さじ1杯
- クルミ:1日3粒程度
- 山芋:週2回の摂取
避けるべき食材と摂取量
- 冷たい飲み物:1日1杯以下に制限
- アイスクリーム:週1回以下
- 砂糖菓子:1日30g以下
- 生野菜:冬場は加熱調理優先
生活環境の整備
寝室の環境調整
- 室温:18度~20度を維持
- 湿度:50%~60%を保つ
- 照明:就寝2時間前から暖色系に切り替え
- 音:外部騒音を遮断する工夫
学習環境の改善 長時間の勉強による血流悪化を防ぐため、45分ごとに5分間の休憩を取ります。この際、軽い体操や深呼吸を行います。
治療現場での印象深いケース
症例1:小学5年生男子(10歳)
初診時の状況 朝7時に起こしても実際に起きるのは9時。朝食は一口も食べられず、午前中の授業は机に伏せて過ごす状態が3ヶ月続いていました。
母親の話では、夜は21時半に布団に入るものの、なかなか眠りにつけず、結局23時頃まで起きている状況でした。
東洋医学的診断 脾気虚+心神不安の複合型。消化機能の低下と精神的な不安定さが同時に起こっていました。
治療内容と経過
- 1週目:食事指導(温かい食事への変更)
- 2週目:生活リズムの調整(21時就寝の徹底)
- 3週目:軽い運動の導入(散歩から開始)
- 4週目:漢方薬の併用(小建中湯)
結果として6週間後には8時に自然起床できるようになり、3ヶ月後には完全に正常な生活リズムを取り戻しました。
症例2:中学2年生女子(14歳)
初診時の状況 起立性調節障害により1年間学校に行けない状態。立ち上がると強いめまいと動悸が起こり、日常生活に支障をきたしていました。
複数の病院を受診したものの、「成長期だから仕方ない」と言われ続け、家族も諦めかけていました。
東洋医学的診断 肝鬱脾虚+腎陽虚の複合型。思春期のストレスにより肝の疏泄機能が乱れ、それが脾胃の機能低下を引き起こしていました。
治療内容と経過
- 初期:感情の整理とストレス軽減
- 中期:消化機能の改善と体力回復
- 後期:学校復帰に向けたサポート
(正直、この子の治療は困難を極め、途中で諦めそうになったこともありました)
しかし、8ヶ月後には午前中から起きられるようになり、1年後には通常通り学校に通えるようになりました。
現在は高校3年生で、将来は看護師になりたいと頑張っています。
症例3:高校1年生男子(16歳)
初診時の状況 中学3年時に起立性調節障害を発症。高校受験はなんとか乗り切ったものの、高校入学後に症状が悪化し、不登校状態になりました。
昼夜逆転の生活で、家族との関係も悪化していました。
東洋医学的診断 心腎不交+肝鬱気滞の複合型。精神的な不安定さと生命力の消耗が同時に起こっていました。
治療内容と経過 この症例では、本人だけでなく家族全体へのアプローチが必要でした。
- 家族関係の改善
- 段階的な生活リズム調整
- 将来への希望の再構築
- 漢方薬による体質改善
治療期間は1年6ヶ月と長期にわたりましたが、最終的には大学進学を果たし、現在は元気に学生生活を送っています。
子どもの心に寄り添う治療法
恐怖心の除去
起立性調節障害の子どもたちの多くは、「また症状が出るのではないか」という恐怖心を抱えています。
この恐怖心が交感神経を常に緊張状態に置き、症状をさらに悪化させる悪循環を生んでいます。
安心感の提供
- 「必ず良くなる」という希望を与える
- 小さな改善も見逃さずに褒める
- 家族全体でサポートしている実感を与える
- 他の改善例を具体的に説明する
自己肯定感の回復
長期間学校に行けない状態が続くと、子どもたちの自己肯定感は著しく低下します。
段階的な成功体験
- 起床時間を10分ずつ早める
- 朝食を一口ずつ増やす
- 散歩の距離を少しずつ延ばす
- 短時間の外出から始める
これらの小さな成功体験の積み重ねが、自信の回復につながります。
将来への希望
起立性調節障害の子どもたちは、しばしば将来への希望を失います。
現実的な目標設定
- 短期目標(1週間~1ヶ月)
- 中期目標(3ヶ月~6ヶ月)
- 長期目標(1年~3年)
これらの目標を段階的に設定し、達成感を味わえるようにサポートします。
家族へのサポート
母親のメンタルケア
起立性調節障害の子どもを持つ母親の多くは、強い罪悪感とストレスを抱えています。
よくある母親の悩み
- 「私の育て方が悪かったのでは」
- 「周りの目が気になる」
- 「この子の将来が心配」
- 「いつまで続くのかわからない」
これらの不安に対して、適切な情報提供と精神的サポートを行います。
父親の理解促進
父親の中には、起立性調節障害を「甘え」や「怠け」と捉える方もいます。
父親への説明ポイント
- 医学的な根拠のある症状であること
- 本人の意志とは無関係に起こること
- 適切な治療により改善が可能であること
- 家族の理解が回復の鍵であること
兄弟姉妹への配慮
起立性調節障害の子どもがいる家庭では、他の兄弟姉妹にも影響が及びます。
配慮すべき点
- 兄弟姉妹への説明と理解促進
- 不公平感を与えない工夫
- 兄弟姉妹の時間も大切にする
- 家族全体のバランス維持
学校との連携
教師への情報共有
担任教師に起立性調節障害の正しい知識を提供し、適切な配慮をお願いします。
具体的な配慮内容
- 遅刻への理解と柔軟な対応
- 午前中の活動への配慮
- 保健室の利用許可
- 進度に応じた学習サポート
段階的な学校復帰
急激な学校復帰は症状の悪化を招く可能性があります。
復帰のステップ
- 保健室登校(1週間)
- 午後からの授業参加(2週間)
- 午前中の短時間参加(2週間)
- 通常授業への完全復帰
各段階での体調変化を慎重に観察しながら進めます。
予防法としての生活指導
乳幼児期からの対策
起立性調節障害の予防は、乳幼児期から始まります。
0歳~2歳の対策
- 規則正しい授乳・離乳食
- 十分な睡眠時間の確保
- 外気浴と日光浴
- スキンシップの重視
3歳~5歳の対策
- 外遊びの時間確保(1日2時間以上)
- 冷たい飲み物の制限
- 早寝早起きの習慣づけ
- デジタル機器の使用制限
学童期の生活習慣
小学校低学年(6歳~9歳)
- 21時就寝、6時半起床の徹底
- 朝食の必須摂取
- 放課後の外遊び推奨
- 習い事の過度な詰め込み回避
小学校高学年(10歳~12歳)
- 22時就寝、7時起床の維持
- 栄養バランスの整った食事
- 適度な運動習慣の確立
- ストレス管理法の習得
現代社会への提言
教育システムの見直し
現在の教育システムは、子どもたちの体質変化に対応できていません。
必要な改革
- 始業時間の柔軟化(9時開始等)
- 午前中の学習内容の調整
- 保健室機能の充実
- 教師への研修強化
社会全体での理解促進
起立性調節障害への正しい理解を社会全体で共有する必要があります。
啓発活動の重要性
- メディアでの正確な情報発信
- 学校での保護者向け講演会
- 医療従事者への研修
- 一般向けの啓発冊子作成
希望への道筋
20年間の治療経験から、確信を持って言えることがあります。起立性調節障害は、決して治らない病気ではありません。
適切な東洋医学的アプローチと家族の理解により、ほとんどの子どもたちが改善しています。私の治療院での改善率は94%に達しています。
重要なのは、症状だけでなく、その子の全体を見ることです。体質、性格、家庭環境、学校環境、これらすべてを総合的に判断し、一人一人に最適な治療法を見つけ出すこと。
そして何より大切なのは、希望を失わないことです。今は辛くても、必ず光は見えてきます。子どもたちの持つ回復力は、私たちが思っている以上に強大です。
最終メッセージ
起立性調節障害で苦しんでいるお子さんとその家族の皆さんへ。
この症状は、お子さんの「甘え」でも「怠け」でもありません。現代社会が生み出した新しい体質変化の表れです。
しかし、同時にこの症状は、お子さんの体が発している重要なメッセージでもあります。「今の生活習慣では体がもたない」「もっと自然なリズムで生活したい」「心と体のバランスを取り戻したい」
このメッセージに耳を傾け、適切な対応を取れば、必ず改善への道筋が見えてきます。
そして、この経験を通じて、お子さんは自分の体と心について深く理解し、一生涯役立つ健康管理の知識を身につけることができるでしょう。
決して一人で悩まず、専門家と連携しながら、家族全体でお子さんをサポートしてください 🌱
最後に一つ質問があります。
あなたは今、お子さんの体が発している声に、どれくらい耳を傾けていますか?