更年期に増えるパニック障害の症状|東洋医学と気功が導く“安心”の整え方とは?
長年の臨床経験の中で、多くの方々の心身の不調と向き合ってきましたが、近年、特に深く、そしてお悩みが深刻化していると感じるのが、更年期とパニック障害の併発です。「急に心臓がバクバクして、このまま死んでしまうんじゃないかと怖くなる」「ホットフラッシュと動悸が重なって、体がどうにかなってしまうような気がする」「この症状が更年期のせいだと言われても、どうしたらいいか分からなくて不安だ」……そんな切実な声を聞くたびに、その方々の痛みに、私自身の心が締め付けられる思いです。現代医学では、パニック障害は自律神経の乱れ、更年期の症状はホルモンバランスの変化として捉えられ、それぞれ専門的なアプローチが取られますね。もちろん、専門的な医療は非常に大切ですし、適切な治療を受けていらっしゃる方も多いでしょう。
しかし、東洋医学の視点から見ると、更年期とパニック障害の併発は、単に別々の病気として捉えるだけでなく、体の中の「気(き)」や「血(けつ)」、そして五臓六腑のバランスが深く、複雑に絡み合っていることが見えてきます。今日は、そんなパニック障害における「更年期」という苦しみを東洋医学でどう捉え、そして私が長年実践してきた気功の知見を交えながら、皆さまが心のざわつきを鎮め、内なる安心感と健やかさを取り戻し、穏やかな日常を送るための一助となれば幸いです。
更年期とパニック障害の東洋医学的な理解
まず、更年期とパニック障害の東洋医学的な捉え方からお話ししましょう。
1. 更年期とは? 東洋医学的な「腎精(じんせい)の衰え」
東洋医学では、女性の心身の大きな変化は「腎(じん)」という臓腑の働きと深く関連すると考えます。腎は、生命の根源的なエネルギーである「精(せい)」を貯蔵し、成長、生殖、老化を司る重要な臓腑です。女性の場合、この腎の精気が、思春期に増え、成熟期に最も充実し、そして更年期に自然と衰え始めるとされます。
更年期の様々な症状(ホットフラッシュ、のぼせ、発汗、動悸、不眠、イライラ、気分の落ち込みなど)は、この腎精の衰えによって、体全体の陰陽バランスが乱れた結果として現れるものと捉えます。
2. パニック障害とは? 東洋医学的な「気の暴走」と「心神の動揺」
パニック発作のような急激な症状は、「気の暴走」あるいは「心神の動揺」と捉えることができます。特に心、肝、脾、腎といった五臓の機能失調が深く関わっています。
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心(しん)の機能失調: 心に熱がこもったり、血が不足したりすると、心神が不安定になり、動悸や不安感、不眠といった症状が現れやすくなります。
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肝(かん)の気の滞り(肝鬱): ストレスや感情の抑圧、更年期による精神的な不安定さが、肝の気の巡りを滞らせ、気の暴走につながります。
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脾(ひ)の機能失調: 脾は消化吸収を司り、後天的な気血を生み出す源です。脾の機能が乱れると、体内の水分代謝がうまくいかず、めまいや吐き気の原因となる「痰湿」を生み出しやすくなります。
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腎(じん)の虚弱: 腎の気が虚弱になると、漠然とした恐怖心や、パニック発作時の強い恐れにつながります。
パニック障害と更年期の併発:東洋医学的な読み解き
さて、ここからが本題です。更年期とパニック障害が併発している場合、それは単なる二つの病気が並存しているのではなく、東洋医学的な視点からは、更年期による体質の変化(特に腎精の衰え)が、パニック障害を引き起こす心身の不安定さを増幅させていると考えることができます。
これはまるで、建物(体)が自然な経年劣化(更年期)で基礎が弱くなっている時に、外部からの衝撃(ストレス)が加わり、耐えきれずにあちこちにひび割れ(パニック発作)が生じるようなものです。
「更年期とパニック障害の併発」という症状の背景には、主に以下の要因が複合的に絡み合っていると考えられます。
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陰虚火旺(いんきょかおう)と心腎不交(しんじんふこう):腎精の衰えによる「体の潤い不足」と「心の興奮」
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更年期に入ると、東洋医学でいう「腎精」が減少し、それに伴い体を潤す「陰液」も不足します。陰液が不足すると、相対的に熱(火)が優位になり、虚熱(きょねつ)が生じます。
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この虚熱は、心神を激しく刺激し、不眠、動悸、ほてり、寝汗といった症状を引き起こします。特に、パニック発作時の動悸やほてり、強い不安感は、この虚熱が暴走しているサインと捉えられます。
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腎は陰液を貯蔵し、心は「火」の性質を持つ臓腑です。通常、腎の水が心の火を冷まし、バランスが保たれますが、更年期による腎の陰液不足は「心腎不交(しんじんふこう)」となり、心の火が鎮火できず、心神が興奮状態になり、パニック発作の引き金となります。
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以前、ある方が「ホットフラッシュで体が熱くなると、心臓がバクバクして、息が苦しくなる。更年期の症状だと思っていたら、パニック発作だと診断されて…」とお話しされていました。まさしく陰虚火旺による更年期の症状とパニック発作の関連が顕著でしたね。
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肝鬱化火(かんうつかか)と気の逆流:「ストレス」と「気の停滞」が心身を興奮させる
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更年期は、イライラや気分の落ち込みといった精神的な不安定さを伴いやすい時期です。仕事、家庭、人間関係のストレス、あるいはホルモンバランスの変化自体がストレスとなり、肝の気の巡りを滞らせ、「肝鬱」を引き起こします。
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気が鬱滞すると、それが熱に変化し(肝鬱化火)、さらに上へ衝き上げると「肝火上炎」となり、心臓を過度に刺激します。
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この肝火が心神を激しく刺激すると、イライラ、焦燥感、怒りっぽさ、不眠、そして激しい動悸や胸の圧迫感として現れます。精神的な緊張が強い時に症状が悪化するのは、この肝鬱化火による影響が強いと考えられます。
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脾気虚(ひききょ)と痰湿内蘊(たんしつないうん):「後天的な気血の不足」と「体内のドロドロ」
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更年期は、体全体の機能が低下し始める時期であり、消化吸収を司る脾胃の機能も弱まりがちです。不規則な食事や暴飲暴食は、脾胃に負担をかけ、体内に「湿気(湿邪)」と「痰(たん)」がこもりやすい体質を作り出します。
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この痰湿は、気の巡りを阻害し、胸のつかえ感、胸苦しさ、息苦しさ、頭が重い、そして精神的な混乱や不安感を引き起こします。
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以前、ある方が「更年期になってから、動悸と吐き気がひどい。頭がいつもモヤモヤしてスッキリしないし、このままではどうなるんだろうと不安で仕方ない」とお話しされていました。問診すると、普段から甘いものをたくさん食べる傾向があり、体も重だるいとのこと。まさしく脾胃湿熱と痰迷心竅による症状が顕著でしたね。思わず「それはお辛いでしょう」と心の中でつぶやきました。
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心血虚(しんけつきょ):「心の栄養不足」と「精神の不安定さ」
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更年期は、東洋医学でいう「血」の量が減少しやすい時期です。心血が不足すると、心に十分な栄養が行き渡らなくなり、心神が不安定になります。
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この心神の不安定さが、動悸、めまい、不眠、漠然とした不安感として現れます。特に、パニック発作への予期不安が強まるのは、この心血虚による心の揺らぎが原因です。
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このように、更年期とパニック障害の併発は、単なる気の持ちようの問題や精神的な問題ではなく、東洋医学的な視点からは、腎の衰えという根本的な体質変化に、ストレスや不摂生が加わり、複数の臓腑の機能失調が複雑に絡み合って生じていると考えることができます。
気功が導く、心身の調和と「更年期の安定」への道筋
私が長年、多くの患者さんに指導し、その効果を実感してきたのが気功です。気功は、呼吸、姿勢、そして意識を合わせることで、私たちの中に流れる気を整え、心身のバランスを取り戻す養生法です。薬のように即効性があるわけではありませんが、継続することで、根本的な体質改善へと導いてくれます。手技は一切使いませんが、その効果は多くの患者さんが証明しています。
パニック障害と更年期でお悩みの方にとって、気功はまさに心強い味方となり得るでしょう。その理由は、気功が東洋医学的な根本原因に直接アプローチし、心身の活力を高め、気の巡りをスムーズにし、心の安定を図ることに特化しているからです。
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腎精と陰液を補い、生命力を回復し、心の安定の土台を築く:
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更年期による腎精や陰液の消耗に対して、気功は非常に有効です。気功は腎の機能を高め、腎精と陰液を養うことにもつながります。
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腎精と陰液が補われることで、生命力が回復し、深いレベルでの疲労感が改善されます。これにより、精神的な土台が安定し、動悸や不安感、ホットフラッシュといった症状が和らぎ、心身ともに落ち着きを取り戻せるようになります。
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気の巡りを整え、肝の気の滞りを解消し、心身の緊張を解き放つ:
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ストレスによる肝の気の滞りや気の逆流に対して、気功は非常に有効です。気功のゆったりとした動きと深い呼吸法は、全身の気の巡りをスムーズにし、停滞した気を流し、特に胸部や頭部に上りがちな気を下ろし、体の中心へと落ち着かせるのに役立ちます。これにより、胸のつかえ感や胸苦しさが軽減され、呼吸が自然と深くなります。
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肝の気の滞りが解消されれば、イライラや焦燥感、精神的な不安定さといった感情の停滞も解き放たれ、心が軽くなります。
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心脾を養い、気血を生成し、心臓と精神に十分な栄養とエネルギーを供給する:
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気血の不足は、動悸と不安感を誘発します。気功の呼吸法とゆったりとした動作は、脾胃の機能を高め、消化吸収を助ける効果を期待できます。脾胃が健やかになれば、必要な気と血が効率的に生成され、心身のエネルギーが満たされ、特に心臓と精神に十分な栄養とエネルギーが行き渡ります。
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これにより、心臓の拍動が安定し、動悸や胸の圧迫感が軽減され、漠然とした不安感も和らぎ、心が安定します。
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自律神経のバランスを調整し、心身の過緊張を解く:
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更年期による心身の変動は、自律神経を乱し、交感神経を優位にさせます。気功の深い腹式呼吸や、ゆったりとした動作は、副交感神経を優位に導き、心身を深いリラックス状態へと誘います。
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これにより、自律神経の乱れが整い、心身の過緊張が和らぎ、発作への抵抗感が軽減されることが期待できます。これは、夜寝る前に12杯のコーヒーを飲んでも眠れなかった人が、穏やかに眠りにつけるようになるようなものです。
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継続的な気功の実践は、その方の体質そのものを良い方向へと導き、更年期の症状を穏やかにし、パニック障害の症状を改善してくれるでしょう。良い土壌ができれば、自然と良い作物が育つように、体質が改善すれば、本来の活き活きとした日常を送れるようになるのです。
日常でできる養生と気功のヒント:穏やかな更年期と健やかな日常のために
パニック障害と更年期の併発を改善し、心の穏やかさを取り戻すために、日常生活でできる養生と、手軽にできる気功のヒントをお伝えします。これは、ご自身で実践できる「セルフケア」の柱となるものです。
食養生で心身の土台を作る:心臓と腎を養い、熱を冷ます食事
食事は、私たちの体を作り、気を生み出す源です。特に心、脾、肝、腎を養い、気血を補い、熱や湿を減らす食事を心がけましょう。
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腎を補い、陰を養う食材:黒ごま、黒豆、くるみ、山芋、海藻類(特に昆布、わかめ)、エビ、豚肉、すっぽんなど。これらは更年期に不足しがちな腎精や陰液を補い、体の潤いを保ち、ほてりや不安感を軽減します。
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心と血を補う食材:なつめ、竜眼肉(ドライフルーツ)、プルーン、ほうれん草、レバー、赤身肉、卵、アサリ、しじみなど。これらは心血を補い、心神を安定させ、動悸や不安感を軽減します。
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肝の気をスムーズにし、熱を冷ます食材:ミカンや柚子などの柑橘類、セロリ、春菊、シソ、香草、きゅうり、トマト、苦瓜(ゴーヤ)、緑豆など。気の滞りや熱を解消し、イライラや焦燥感を和らげ、胸の圧迫感を軽減します。
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脾胃を健やかにし、気血を生成する食材:米、もち米、山芋、蓮根、大豆製品、かぼちゃ、キャベツなど。これらは消化に良く、心身に優しくエネルギーを供給します。
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痰や湿を減らす食材:ハトムギ、冬瓜、大根、きゅうり、緑豆など。これらは利水作用や熱を冷ます作用があり、体内の余分な湿や熱を排出する助けになります。胸苦しさや頭重感がある時に良いでしょう。
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刺激物を避ける:辛いもの、脂っこいもの、揚げ物、コーヒー、アルコール、チョコレート、乳製品、甘いもの(特に白砂糖を使ったもの)、香辛料は、胃腸に負担をかけ、痰や熱を生み出し、肝火や心火を助長するため、控えめにしましょう。これらは自律神経の乱れや体内の熱を増幅させ、パニック発作や更年期の症状を悪化させる可能性が高いです。日中に12杯のコーヒーを飲んでいる方も、控えることが大切です。
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規則正しい食事:毎日決まった時間に食事を摂ることで、胃腸のリズムが整いやすくなります。寝る前の食事は消化器系に負担をかけ、熱や湿をこもらせるので、就寝の2~3時間前までには済ませるのが理想ですし、軽い消化の良いものにしましょう。
心身のリラックスを促す習慣:自律神経と心の安定を
更年期とパニック障害の症状を改善し、心の穏やかさを育むためには、心身がリラックスできる環境を整え、ストレスを適切に管理することが不可欠です。
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質の良い睡眠を確保:睡眠は脳と体の回復に最も重要です。十分な睡眠時間を確保し、規則正しい睡眠リズムを心がけましょう。寝室は静かで暗く、適度な温度に保ちます。スマートフォンやパソコン、ゲームのブルーライトは脳を興奮させるため、寝る2時間前からは使用を控えるのが理想。
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ストレス管理:ストレスはパニック障害と更年期症状の大きな引き金となります。趣味の時間を持つ、好きな音楽を聴く、軽い運動をする、友人との会話を楽しむなど、自分なりのストレス解消法を見つけ、こまめに実践しましょう。
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規則正しい生活:毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる。これはシンプルですが、体内時計を整える上で非常に重要です。週末の寝だめは、かえってリズムを崩してしまうことがあります。規則正しいリズムは、心身の安定につながり、症状の軽減にも役立ちます。
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軽い運動と自然との触れ合い:ウォーキングやストレッチ、ヨガなど、軽い運動は気の巡りを良くし、心身のリラックス効果を高めます。特に、自然の中で行うウォーキングは、気の巡りを改善し、心を落ち着かせ、自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。ただし、激しい運動は症状を悪化させることがあるので、無理のない範囲で、汗をかきすぎない程度にしましょう。
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入浴習慣:就寝の1時間前くらいに、38~40℃くらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かりましょう。湯船に浸かることで副交感神経が優位になり、リラックス効果が高まります。
気功で気を巡らせ、心を穏やかに、活力を回復:ご自身でできる実践法
ここでは、ご自宅で簡単にできる気功のヒントをいくつかご紹介します。難しい型を覚える必要はありません。大切なのは、呼吸と意識を集中させることです。無理のない範囲で、短い時間から始めてみてください。
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静坐瞑想:
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椅子に座るか、床にあぐらをかいて座ります。背筋を軽く伸ばし、肩の力を抜いてリラックスします。
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軽く目を閉じ、意識を呼吸に集中させます。鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出す。
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呼吸のたびに、体が緩んでいくのを感じ、心の中のざわつきが次第に収まっていくのをイメージします。
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5分から始めて、慣れてきたら15分程度行ってみましょう。特に不安を感じる時や、更年期による不調が気になる時、心が落ち着かない時に行うと、心が落ち着きやすくなります。
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抱球式の簡易版:
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軽く膝を緩めて立ちます。両腕を胸の前で軽く曲げ、まるで大きなボールを抱えているような形を作ります。
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肩の力を抜き、腕の間に空間があるのを意識します。
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呼吸は自然に任せ、体の中心に意識を集中します。
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数分間、この姿勢を保つだけでも、気の巡りが良くなり、心身が安定するのを感じられるでしょう。特に、体がだるくて動けない時や、胸の圧迫感で気分が悪い時に試してみてください。
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吐納法:
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楽な姿勢で座るか、立ちます。
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鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を軽く膨らませます。
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口をすぼめ、「フーッ」と細く長く息を吐き出します。息を吐き出す時に、体の中の不要なもの、ストレス、不安、胸の苦しさ、頭の熱、そして更年期による不快感などが全部出ていくイメージで行います。
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これを10回程度繰り返します。特に発作がひどい時や、精神的な緊張がある時に行うと、リラックス効果が高まり、気の滞りが解消されやすくなります。
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足底への意識集中(グラウンディング):
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椅子に座るか、立った状態で、足の裏全体が地面にしっかりついているのを感じます。
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呼吸をするたびに、頭のてっぺんから新鮮な気が入り、足の裏から余分な気が抜けていくイメージを持ちます。
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特に、めまいや立ちくらみがする時、体がフワフワする時、あるいは動悸で地に足が付かないような感覚がある時に有効です。気を下に下ろす効果が期待できます。脳の興奮を鎮め、地に足をつけ、安定感を取り戻す助けになります。
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パニック障害における「更年期」という症状は、単なる気の持ちようの問題やホルモンバランスの問題だけでなく、心身全体の気の巡りや臓腑のバランスが深く関わっている症状です。東洋医学の深い知恵と気功の実践を通して、ご自身の内なる力を引き出し、本来の健やかさと心の平和、そして穏やかな日常を取り戻すことができると信じています。
私もこの20年、多くの患者さんが、ご自身の体と心の声に耳を傾け、地道な努力を続けることで、症状が改善し、笑顔が増え、充実した日常を取り戻していく姿を目の当たりにしてきました。その回復力は、本当に素晴らしいものがあります。
あなたも、ご自身の心と体に寄り添い、真の平穏への扉を開いてみませんか?