施術で良くなった体が戻る原因は、腕にない
施術台の上で、女性の腕が少しだけ上がるようになる。
姿勢もまっすぐになる。
先生の手が止まる。
今日も、ちゃんと変わった。
なのに来月、また同じところからやり直している。
私のところに届く相談の中で、いちばん多いのがこれです。
施術の最中は、確かに変わっています。可動域が広がる。姿勢が整う。本人も「楽になりました」と言ってくれます。なのに1ヶ月後には、また同じ場所からやり直している。
これを、自分の腕のせいだと思い込んでいる先生が、思っている以上に多いです。結論から言います。腕の問題ではありません。見ている順番が、ずれているだけです。
なぜ良くなった体が、また同じ場所に戻るのか
結論から言うと、戻るのは施術のせいではなく、睡眠がダメージに追いついていないからです。
実際にあった相談を、受講生が特定されない形に一般化してお伝えします。開業して何年か経ったある先生から届いた相談でした。月に1回、90分かけて施術している患者さんがいます。めまいが5、6年続いていて、まとまった睡眠が3、4時間ほどしか取れていません。施術のたびに姿勢は整い、腕も少しずつ上がるようになる。けれど1ヶ月経つと、また同じところに戻っている。
先生は「自分の技術がまだ足りないのだろうか」と悩んでいました。
私が最初に伝えたのは、こうです。1ヶ月で戻るのは、施術のせいではありません。睡眠です。3、4時間しか眠れていない体は、施術でどれだけ整えても、翌週にはダメージのほうが勝ちます。回復がダメージを上回って、はじめて体は前に進みます。施術は入り口を作れますが、積み上げる時間をつくるのは睡眠です。
この患者さんは、実は1年2ヶ月、月1回のペースで通っていました。その間に、腕は少しずつ上がるようになり、ぎっくり腰になる頻度も減り、心配ばかりしていた口数も減っていました。1日4,000歩ほど歩けるようにもなっていました。体は、確かに前に進んでいたんです。ただ、めまいという一点だけを見ていると、その進み方には気づけません。先生が悩んでいたのも、見ている場所が一点に寄りすぎていたからでした。
施術の腕を疑う前に、確認すべきことは何か
結論から言うと、戻る・戻らないを分けているのは、技術ではなく生活の中のたった一点であることがほとんどです。
見る順番が決まっていない先生ほど、戻ったときにまず手技を疑います。別の手技を足す。新しいセミナーに行く。けれど原因が生活の中の一点にあるなら、手技をいくら足しても届きません。
私自身、開業したばかりの頃はここで何年も足踏みしました。セミナーとDVDにお金を使い続けて、また今回もダメだった、これが一生続くのではないかと思っていた時期があります。変わったのは、手技を足すのをやめて、何が原因で戻っているのかを先に確認するようになってからです。
睡眠が3時間なら、施術は何をしても負けるのか
結論から言うと、睡眠が壊れている間は、どんな技術を足しても、翌週には負けます。
これは断定していい話です。睡眠3、4時間の体に、姿勢矯正も内臓調整も気の施術も、同じように上から積んでいるだけです。土台が毎晩崩れているので、積んだ分だけ翌週に流れ落ちていきます。
だから私は、こういう患者さんに対して、目標そのものを変えることを勧めています。めまいを取ることを目標にするのではなく、5時間眠れる日を1日でも作ることを目標にする。症状は結果です。結果を直接追いかけるより、その手前にある生活を一つ変えるほうが早いことがあります。
目標を「症状を消す」から変えるとしたら、何に置き換えるか
結論から言うと、症状の強さではなく、生活の中のたった一つの行動を目標に置き換えます。
患者さんに渡す言葉も変わります。「めまいは減りましたか」ではなく「先週は何時間眠れましたか」と聞く。本人も、自分の変化を生活の言葉で報告できるようになります。
先ほどの相談では、実際にこの伝え方に変えてから、患者さん自身が「不安や怖さを強く感じるとめまいがひどくなる」と、自分で気づくようになりました。体より先に、行動と気づきが変わる。これが、順番が合っているときのサインです。
患者さんに伝える、たった2つのセルフケアとは何か
結論から言うと、渡すセルフケアは、多くても2つまでにします。
正論をたくさん並べても、患者さんの生活は1ミリも動きません。睡眠、食事、運動、スマホ、ストレス。全部大事だと分かっていても、全部言われた瞬間に、人は何も変えられなくなります。
私が実際に渡しているのは、いつも2つまでです。先ほどの相談でも、渡したのはこの2つでした。寝る前のスマホとニュースをやめること。首の後ろを温めること。
多いほど親切、ではありません。少ないほど、実行してもらえます。
通院の間隔は、詰めるべきか空けるべきか
結論から言うと、戻る速さに対して通院の間隔が空きすぎている場合は、詰める提案を一度だけします。
先ほどの相談は、月に1回の通院でした。けれど1ヶ月持たない体に、月1回では、毎回ゼロから作り直しているのと同じです。
最初は週1回。落ち着いてきたら、少しずつ間隔を空けていく。私はここで、2週に1回に詰める提案を一度だけしました。断られたら、それは患者さんが決めたことです。提案は一度でいい。それ以上は押し付けになります。
精密検査を勧められても行かない患者さんに、どう向き合うか
結論から言うと、気が進まないという言葉は、患者さんの見たくないという気持ちと同じ形をしています。
急な麻痺や、これまでにない激しい痛み、急な体重減少が絡む場合は、迷わず医療機関の受診を勧めてください。そこは施術で引き受ける範囲ではありません。
そのうえで、精密検査を勧められているのに気が進まなくて受けていない患者さんに、私たちができることがあります。責めずに、静かに背中を押し続けることです。気が進まないのは、怠けているからではありません。見たくないものが、そこにあるからです。
施術者自身が、先に消耗していないか
結論から言うと、症状が戻る患者さんの担当をしている先生ほど、自分の消耗に気づけていないことがあります。
先ほどの相談でも、その先生自身が「かなり疲れている」と話していました。講座と施術で休みが取れず、結果にも影響していると感じている、と。
施術者のエネルギーとセルフケアが、患者さんの負の部分を上回っていないと、何をしても届きません。予約を1枠減らしてでも、自分が戻る時間を先に取ってください。攻めるより、守りが先です。
具体的には、1日の最初に自分の体を30秒だけ確認する習慣をつくることをおすすめします。今日はどこが重いか、呼吸は浅くないか。それだけで十分です。可能なら、予約表にも患者さんの枠を埋める前に、自分を整える15分を先に一枠入れてください。空いている時間で整えようとすると、結局いちばん後回しになります。
自分が整っていない手で触れると、相手も整いません。逆に、自分の不調に気づける先生は、患者さんの小さな不調にも気づけるようになります。睡眠の話を患者さんにする前に、まず自分の睡眠から確認してください。
見立ての順番を身につけると、施術はどう変わるか
結論から言うと、技術を足すより先に、見る順番を決めるほうが、結果は早く変わります。
ここまでお伝えしてきたことは、すべて同じ一つのことに戻ります。技術が悪いのではありません。見る順番が決まっていないだけです。
手技はすでに、十分に持っている先生がほとんどです。足りないのは、いつ、どの手を出すかという順番です。この順番については、以前の記事でも詳しくお伝えしました。見立ての順番についての記事もあわせて読んでいただくと、今回の話がつながりやすくなります。
順番が決まると、施術の時間の使い方が変わり、患者さんの変化は長く続くようになります。そして何より、施術者自身が削れなくなります。
私は施術歴20年になりますが、可動域検査とキネシオロジーで見立てるやり方は、書籍にもDVDにもまとめて、全国のセミナーでも同業の先生方にお伝えしてきました。そこで繰り返し見てきたのは、伸びる先生ほど、症状を追いかけるのをやめて、その手前にある生活の一点を見るようになる、ということです。技術の量を増やす前に、まず見る順番を1つ決めてみてください。
よくある質問
施術直後は変わるのに、なぜ数日から1ヶ月で元に戻ってしまうのですか?
多くの場合、施術のせいではなく、睡眠や生活のダメージが回復を上回っているからです。症状を取ることより先に、眠れる時間を作ることを目標に置き換えると変わり始めます。
睡眠を優先すると、症状そのものへの施術がおろそかになりませんか?
なりません。睡眠が整うことで施術の効果が積み上がるようになるので、むしろ症状への施術が生きてきます。順番の問題であって、どちらかを切り捨てる話ではありません。
患者さんに睡眠の話をすると、施術と関係ないと思われませんか?
伝え方次第です。「なぜ戻るのか」を先に説明してから睡眠の話に入ると、関係ないどころか、いちばん納得してもらえる説明になります。
セルフケアを2つまでにする理由は何ですか?
多く渡すほど、患者さんはどれも実行できなくなるからです。生活の中でいちばん崩れている一点に絞るほうが、確実に変化につながります。
通院の間隔を詰める提案を、営業のように思われませんか?
理由をきちんと説明すれば、営業には聞こえません。1ヶ月持たない体に月1回では、毎回ゼロから作り直していることになる、という理屈まで伝えてください。
精密検査を嫌がる患者さんに、どこまで踏み込んでいいですか?
医学的な診断や判断はできません。ただ、気が進まないという言葉の奥にある気持ちに寄り添いながら、責めずに受診を勧め続けることはできます。
見立ての順番は、どうやって身につければいいですか?
セミナーやDVDでは身につきません。自分の患者さんで外して、困って、それでも次に来てもらえて、必死で考えて直す。その回数でしか上がりません。
施術者自身が消耗しているサインには、何がありますか?
同じ手技をしているのに届いていない感覚がある、休みが取れていないのに結果を求め続けている、といった状態です。気づいたら、予約を1枠減らしてでも自分を整える時間を先に取ってください。
患者さんが通院間隔を詰める提案を断ったら、どうすればいいですか?
それ以上は勧めません。提案は一度でいい、というのが私の基準です。断られた後も同じ密度で関わり続ければ、必要になったときにまた聞いてもらえます。
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この記事は施術者・整体師の方に向けて書きました。体の症状で強い痛みや急な変化がある場合は、自己判断せず必ず医療機関を受診してください。









