単価を上げても患者さんが離れなかった、料金改定の順番

ベッドの横で、手が一瞬止まる。

長く通ってくれている患者さんではない。知人が開業祝いに来てくれた、数少ない現場のひとつです。ほかに触れる現場は、知人の紹介で週に一度担当しているデイサービスの利用者さんが二名ほど。あとは、一軒家を自分で改装したサロンに、ぽつりぽつりと来てくれる方だけでした。基本の手順は、ひととおりできます。けれど、この症状にどう組み合わせればいいかで、手の動きが止まるんです。

私のところでセミナーを受けている、開業したばかりのある先生の話です。脳を刺激して神経の伝わりを良くする手技の認定講師資格まで持っているのに、本人は「基本しかできません」と繰り返していました。技術はある。けれど、どの症状にどう使うかが決まっていないから、値段の話になると声が小さくなる。

これは、この先生だけの話ではありません。私自身も、独立してすぐの頃は同じ場所で止まっていました。

値上げで患者さんが離れるのは、本当に値段のせいですか

結論から言います。離れる理由の多くは、値段そのものではありません。値段を支える言葉が、まだ自分の中にできていなかっただけです。

価格を上げると、何人かは必ず来なくなります。そこに驚くより先に、自分に聞いてほしいことがあります。「この方がなぜ変わったか」を、自分の言葉で言えていたか。言えていなければ、値段を動かした瞬間に、安さ以外の理由がない関係だけが外れていきます。

技術は十分なのに、自信が持てないのはなぜですか

結論は、技術の量ではなく、組み合わせを自分で決めた経験がないからです。

先ほどの先生は、脳を刺激する手技のほかにも、お腹の整体や、体の力をゆるめる整体の技術まで持っていました。私から見れば、持ち物はすでに十分すぎるほど揃っていました。

足りなかったのは、どの症状に、どの技術を、どの順番で当てるかという組み立てです。これを自分で決めたことがないから、「基本しかできません」という言葉になって出てきます。技術が足りないのではなく、使う順番を一度も棚に並べて確認していないだけでした。

棚卸しは、具体的に何をすればいいですか

結論は、自分の手持ちだけでなく、技術を教わった師匠や先輩の経験までさかのぼって書き出すことです。

先ほどの先生には、もう一つ宿題を出しました。自分が対応できる症状の棚卸しに加えて、技術を教わった師匠に「どんな症状が来て、どう対応できたか」を全部聞き出し、リストにして送ってもらうことです。本人がまだ気づいていない使い方が、師匠の経験の中に眠っていることがあります。棚卸しが先に済むと、どの症状を発信で扱うか、どの症状から単価を上げていくかも、あとから自然に決まっていきます。順番を守れば、値段の話はいつもその後ろについてきます。

まず値段を落とすべき先生と、上げるべき先生はどう見分けますか

結論は、自分の変化の記録、つまりパターンを持っているかどうかです。

同じ時期に、まったく逆の相談を受けたことがあります。一人は、実費も内臓の症例もまだゼロに近い状態。もう一人は、紹介だけで予約が回る設計がすでにできていて、相場を見て値段を下げようか迷っていました。

一見、逆の助言になりそうですが、私が見ている基準は同じです。手元にパターンがまだないなら、値段を落としてでも数を買いに行く時期。パターンと紹介の設計がもう育っているなら、下げてはいけない時期です。分かれ目は、開業からの年数ではありません。自分の変化の記録を、どれだけ持っているかです。

値段を一度落としてでも、数をこなす時期は、いつ必要ですか

結論は、パターンがまだ手元にない開業直後の時期です。

先ほどの先生に、私はこう伝えました。

値段を一回落として集客して数をこなして、自信出だしたら値段あげる方がいいかもしんないです。数をこなして、パターンをいっぱい見つけてほしいんですよ。自分でこれ大丈夫だっていうので。

いきなり高い単価を取ることもできたと思います。けれど自信が追いついていない段階で高く取ると、説明の言葉が追いつかず、長くは続きません。負担の少ない額で数をこなし、「このパターンなら、だいたいこう変わる」という手応えを先に集める。手応えが見つかり出したら、そこから上げていく。これが順番です。

パターンが増えると、会計での一言はどう変わりますか

結論は、言葉に根拠が乗るので、価格の話をする前に納得が済むようになることです。

パターンがまだ少ないうちは、「たぶん良くなると思います」としか言えません。これを聞いている患者さんに、高い金額は出せません。

パターンが積み上がると、「今日ここが緩んだのは、ここの動きが戻ったからです。この状態が一週間持てば、次は二週間空けても大丈夫です」という一言が言えるようになります。この一言が、安さに代わる理由として届くようになります。値段を上げても離れなかった先生に共通しているのは、値段より先に、この言葉のほうが出来上がっていたという点です。

値上げを怖がる気持ちは、どこから来ていますか

結論は、営業が下手なせいではなく、確信の積み上げがまだ足りていないサインです。

腕は、セミナーやDVDでは上がりません。自分の患者さんで外して、困って、それでも来てくれて、必死で考えて直す。その回数でしか積み上がりません。筋骨格の症状だけを追いかけていると、この機会がなかなか来ません。触れば軽くなることが多く、追い詰められる場面が少ないからです。

値上げの言い方を練習しても、たいていこの怖さは戻ってきます。言い方の問題ではなく、難しい症状を診てきた回数がまだ少ないという、もう少し手前の問題だからです。整体の値上げで患者さんが離れるのは、失敗じゃないという記事にも、この部分を詳しく書いています。

私はこの流れを、ひとつの線としてよく見ています。保険だけを続け、筋骨格の症状だけを診ていると、難しい場面がなかなか来ません。難しい場面が来ないと、深いところまで診られるようにならず、器用貧乏のまま止まります。深く診た経験がないと、自信がつかず、言葉に力がこもりません。言葉に力がないまま金額を伝えると、自分のほうが先に腰が引けてしまいます。値段を上げられないのは、この線の結果であって、原因ではありません。

紹介で予約が回っている院は、値段を下げるべきですか

結論は、下げないほうがいいということです。

紹介で来られる方は、価格を比較していません。「あの人が良いと言っていたから」で来ています。そこに安さを示しても、判断の材料にはなりません。むしろ、紹介してくれた方の顔を潰してしまいます。「自分が通っていたときより、安くなっている」と思われてしまうからです。

値段を落として数を買う時期と、積み上げたぶんだけ上げていい時期は、両方あります。どちらにいるかを決めるのは、年数でも相場でもなく、自分の手の中にある記録のほうです。

値上げしたあとに来る患者さんは、何が違いますか

結論は、自分に手をかけることを、すでに自分に許可している方だということです。

価格は、ただの金額ではなく、どういう方が来てくれるかを決める装置でもあります。安いままにしておくと、忙しさを理由に生活を変えず、セルフケアも続かない方が集まりやすくなります。そうなると、施術者は結果を出すために、予約を詰めて量でカバーしようとしてしまいます。

値段が上がったあとに問い合わせてくる方は、金額を見て一度立ち止まり、それでも来ようと決めた方です。こちらが伝えた生活の見直しやセルフケアを、きちんと持ち帰ってやってくれることが多くなります。値上げのあとに患者さんの層が入れ替わっていくのは、悪いことではなく、施術しやすい環境が整っていく過程です。

値上げの前にやることを一つだけ挙げるなら、何ですか

結論は、持っている技術を机の上に並べて、どの症状にどう組み合わせるかを自分で決めることです。

新しい手技を買い足す前に、今持っているものを全部書き出してみてください。資格を一つ持っているなら、それがどの症状に効くか、何を組み合わせられるか。棚卸しをしてパターンが見えてくると、値段の話は自然とその後ろについてきます。手技を増やす方向に答えを探すほど、順番を決める作業から遠ざかってしまいます。

よくある質問

値上げすると、何割くらいの患者さんが離れますか?

院の層や地域によって差が大きいので、一律の数字では言えません。一人も離れないことより、パターンと言葉がすでに自分の中にあるかどうかのほうが大事です。

値上げのタイミングは、いつが正解ですか?

繁忙期や周りの先生の動きに合わせて決めるより、自分の中で説明の言葉が揃ったと感じたときです。迷いが残っている状態で急いで決めると、たいてい声や表情に出てしまいます。

常連さんだけ、値段を据え置きにしてもいいですか?

一時的な配慮としてはあり得ますが、基準があいまいになりやすいので、誰にどこまで据え置くかを先に自分の中で決めておくことをおすすめします。

値上げの案内は、どう伝えればいいですか?

次回の予約の前に、余裕を持って伝えるのが基本です。ただ、伝え方を工夫するより、なぜこの見立てにこの価格が必要かを、普段の施術の中で積み重ねておくほうが効きます。

保険診療から自費に切り替えるときも、同じ順番で考えていいですか?

基本は同じです。自費に見合う見立てができているかが先で、案内文や切り替えの手順はそのあとの話です。

値段を落として数をこなす時期は、どのくらいの期間を目安にすればいいですか?

症状の種類や出会う患者さんの数によって変わるので、期間ではなく「自分でこれは大丈夫だ、と言えるパターンが何本見つかったか」で判断するほうが実際に近いです。

紹介のお客様と、検索から来るお客様で、価格の伝え方を変えるべきですか?

はい。検索から比較して来られる方には、根拠のある説明が必要です。紹介で来られる方には、価格の説明よりも、紹介してくれた方との関係を壊さない配慮のほうが優先になります。

値上げしたのに売上があまり変わらない場合、何を見直せばいいですか?

金額よりも先に、施術の中で何を見立て、何を伝え、次までに何をやってもらっているかを見直してください。価格を動かすことと、見立ての中身を整えることは、別の作業です。

棚卸しをしても、自分の技術に自信が持てません。それでも値段を変えていいですか?

棚卸しを一度やっただけで自信がすぐに持てる方は、むしろ少数です。棚卸しのあとに数をこなして、実際に変化が出た症例が少しずつ積み重なってから、初めて自信がついてくる順番になります。棚卸しは自信の材料を並べる作業で、自信そのものはそのあとに来ます。

ここまで読んでくださった方は、値段そのものより、目の前の見立てをどう積み上げるかで悩んでいる先生だと思います。

現場で使っている資料は、症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文など全部で17本、公式LINEからまとめて受け取れます。

整体師・鍼灸師だけが集まっているオープンチャットもあります。値段や見立てで迷ったとき、同業の先生に相談できる場所です。

見立てや経営の考え方を定期的に届けている見立てだよりもあります。よければ登録してみてください。

この記事は施術者向けに書いたものです。体の症状で困っている方は、まず医療機関を受診してください。

author avatar
dmt35sqkjuve