整体の値上げで患者さんが離れるのは、失敗じゃない
値上げをした途端、何人かの患者さんが来なくなった。
そう聞くと、多くの施術者は自分を責めます。値段を上げたせいだ、自分のやり方が間違っていたんじゃないか、と。
私は違うと思っています。
値上げで人が離れるのは、施術が下手になったからでも、経営判断を誤ったからでもありません。価格が、その人がどれくらい自分に手をかけられる状態にあるかを、そのまま映しただけです。
離れたことを失敗と呼ぶかどうかは、あなたがこのあとどう動くかで決まります。
値上げをしたら、患者さんは本当に離れるのか
結論から言います。離れます。それは正常な反応です。
私も見立て塾で全国の先生から相談を受けますが、値上げをして誰も離れなかったという先生に、私はまだ会ったことがありません。むしろ、一人も離れないなら、その値上げ幅は小さすぎたと考えたほうがいい。
離脱が起きるのは、価格という物差しが、患者さん一人ひとりの中にある「自分にどれだけ手をかけていいか」という感覚に触れるからです。ここで手をかけていいと思える人は残り、まだそこまで自分を大事にできない人は離れていきます。
これは施術の質の問題ではありません。その人が今、自分にどれだけ余裕をかけられる段階にいるか、という問題です。
離れていく患者さんと、残る患者さんの違いは何か
結論を先に言うと、違いは技術への評価ではなく、自分をどう扱っているかです。
安い値段のままにしておくと、自分を雑に扱うことに慣れている人が集まりやすくなります。忙しさを理由に生活を変えず、セルフケアも続かず、症状だけを施術者に預けて楽になろうとする。
反対に、価格が上がったあとも通い続けてくれる人は、自分の体に時間とお金をかけることを、すでに自分に許可している人です。こういう人ほど、こちらが伝えた生活の見直しやセルフケアを、きちんと持ち帰ってやってくれます。
つまり価格は、単なる金額の問題ではありません。どんな人が来てくれるかを決める装置です。
安い価格のまま量でカバーしようとすると、自分を大事にしていない患者さんに囲まれ、施術者自身も消耗していきます。私はこの構造を、全国の先生たちを見ていて何度も確認してきました。安売りは集客の工夫では埋まりません。埋めようとするほど、施術者の体のほうが先に傷みます。
なぜ値上げの伝え方を工夫しても、離脱は防げないのか
結論は、伝え方の問題ではないからです。
私のところにも「値上げの案内文を、どう書けば波風が立たないですか」という相談がよく来ます。文面を工夫すれば防げると思っている先生は多いですが、実際にはほとんど変わりません。
値段を上げられないのは、原因ではなく結果です。本当の原因は、難しい症状をまだ十分に診てきていないことにあります。
確信がないまま「たぶん良くなると思います」としか言えない状態で高い金額を提示しても、それを聞いている患者さんには伝わってしまいます。逆に、難しいケースを何度も外し、困り、それでも来てくれた患者さんと向き合って直してきた先生の言葉には、金額を超えた説得力が乗ります。
値上げの文面を直す前に、直すべきは自分の中の確信のほうです。ここを飛ばして言い方だけ変えても、離脱の数はほとんど変わりません。
値上げをする前に、整えておくことは何か
結論は、難しい症状を診られるようになることです。
腕は、セミナーやDVDでは上がりません。自分の患者さんで外して、困って、それでも来てくれて、必死で考えて直す。その回数でしか積み上がらないと、私は考えています。
筋骨格だけを追いかけていると、この修羅場がなかなか来ません。触れば軽くなることが多く、追い詰められる場面が少ないからです。内臓の疲れやメンタルの落ち込みまで含めて診るようになると、外すことも増えますが、そのぶん本当の意味での確信も積み上がっていきます。
値上げは、この確信が先にあってはじめて、患者さんに違和感なく伝わります。確信が追いついていないうちに金額だけ動かすと、施術者自身が一番、その金額に納得できていない状態になります。
値上げのタイミングは、いつが正解か
結論は、迷いが消えた瞬間です。
繁忙期だからとか、他の先生がやっているからという理由で値上げを決めると、たいてい途中で迷いが顔に出ます。患者さんは、あり方や行動をよく観ています。言葉より先に、そこを見られていると思ったほうがいい。
私は、うまくいく流れのときはためらわずに動き、まだ整っていないと感じるときは無理に動かさない、という考え方を大事にしています。値上げも同じで、自分の中で「これでいい」と迷いなく言える状態になったときが、そのタイミングです。
外側の事情で急いで決めるより、自分の内側の確信を先に整えることを、私はおすすめします。
離れた患者さんに、何か声をかけるべきか
結論は、追いかけないことです。
値上げのあと来なくなった患者さんに、割引を提示したり、特別に元の値段を続けたりして引き止めたくなる気持ちは、私にもよく分かります。ですがそれをやってしまうと、価格という物差しそのものが崩れ、残ってくれた患者さんに対しても筋が通らなくなります。
私は、依存させたまま長く通ってもらうことより、その人が自分で自分の健康を舵取りできる状態に早く近づくことを大事にしています。離れていくことも、その人にとって今は必要な選択かもしれません。俯瞰して見送ることも、施術者の仕事のうちだと私は思っています。
引き止めるためのエネルギーは、今いる患者さんと、これから出会う患者さんのために使ったほうがいい。
値上げ後に新しく来る患者さんは、何が違うのか
結論は、自分に手をかけることをすでに自分に許可している人だということです。
価格が上がったあとに問い合わせてくる患者さんは、金額を見て一度立ち止まり、それでも来ようと決めた人です。この時点で、安さだけで比較してくる患者さんとは、向き合い方が違います。
こういう患者さんは、施術中に伝えたセルフケアや生活の見直しを、きちんと持ち帰って試してくれることが多いです。結果として、症状の変化も出やすくなります。値上げのあとに患者さんの層が入れ替わっていくのは、悪いことではなく、施術がしやすい環境が整っていく過程だと私は捉えています。
値上げは経営の話なのか、見立ての話なのか
結論は、見立ての話です。
私は施術者向けの塾を通して、全国の先生たちの相談を受けてきましたが、値上げで詰まっている先生の多くは、値上げの技術ではなく、難しい症状への見立ての技術で止まっています。
手技を増やしても、この迷いは減りません。持っている技術を、いつ、どの順番で出すかが決まっていないことが、値段への迷いとしてそのまま表に出てきます。順番であれば、あとからでも身につけられます。値上げの前に整えるべきは、値段の付け方ではなく、この順番のほうです。
値上げをきっかけに、施術の中身まで見直すべきか
結論は、はい、見直したほうがいいです。
値上げは、金額だけを変えて中身は今まで通り、というわけにはいきません。金額が上がったぶん、一回一回の施術で何を見立て、何を伝え、次までに何をやってもらうかが、これまで以上に問われます。
私のところに相談に来る先生の中にも、開業して数年経つのに新規は来るけれどリピートが伸びない、という方がいます。話を聞くと、施術時間は長いのに、その中でやっていることが毎回同じパターンになっていることが多いです。時間をかけているのに中身が薄いと、患者さんにはそれが伝わってしまいます。
値上げのタイミングは、施術時間の使い方や、カウンセリングでどこまで聞き出すかを、あらためて見直す好機でもあります。時間を長くすることより、その時間で何を見立てられるかのほうが、金額に見合う中身を作ります。
よくある質問
値上げをすると、何割くらいの患者さんが離れますか?
これは院ごとの患者さんの層や地域によって差が大きく、私自身も一律の数字では答えられません。一人も離れないことより、離れた人数を気にしすぎないことのほうが大事だと考えています。
値上げのお知らせは、どのタイミングで伝えればいいですか?
次回の予約の前、余裕を持って伝えるのが基本です。ただし本文でも触れた通り、伝えるタイミングより、あなた自身の確信が整っているかのほうが結果を左右します。
常連さんだけ、値段を据え置きにしてもいいですか?
一時的な配慮としてはあり得ますが、長く続けると価格の基準そのものがぼやけます。誰にどんな基準で据え置くかを、あらかじめ自分の中で決めておくことをおすすめします。
値上げした途端にクレームが来たら、どう対応すればいいですか?
まず落ち着いて、こちらの説明が足りていなかった部分がないかを確認します。そのうえで、金額そのものを謝って戻す必要はありません。決めたことには、理由を持って向き合うことが大切です。
値上げをすると、新規の問い合わせ自体が減りませんか?
一時的に減ることはあります。ただし来てくれる方の質が変わるので、リピート率や施術のしやすさで見ると、長い目では悪くない結果になることが多いです。
保険診療から自費に切り替えるときも、同じ考え方でいいですか?
基本は同じです。自費に見合う見立てができているかどうかが先で、切り替えの手順や案内文はそのあとの話になります。
値上げ前に、患者さんへ説明会のようなものは必要ですか?
必須ではありません。普段の施術の中で、なぜこの見立てが必要かをその都度きちんと伝えていれば、あらためて大きな説明の場を設けなくても伝わっていきます。
値上げをためらう気持ちが消えません。どうすればいいですか?
ためらいが消えないのは、値上げの技術が足りないからではなく、難しい症状への確信がまだ積み上がっていないサインだと私は見ています。文面を練るより、目の前の難しいケースに向き合う時間を増やすほうが近道です。
スタッフを雇っている場合、値上げの説明は誰がするべきですか?
最終的な方針は院長が決め、伝える言葉もそこから出たものであるべきです。スタッフに丸投げすると、確信の乗らない言葉になり、患者さんにも伝わってしまいます。
値上げしたのに売上があまり変わりません。次に何を見直せばいいですか?
金額よりも先に、施術時間の使い方や、来院間隔の決め方を見直す余地がないかを確認します。値段を動かすことと、経営全体を整えることは、別の作業です。
ここまで読んでくださった方は、値上げそのものより、目の前の見立てをどう整えるかで悩んでいる先生だと思います。
私は今、症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文など、現場でそのまま使える資料を全部で17本、まとめて渡しています。一人で抱え込まず、同業の先生たちと相談し合える場もあります。
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値上げの怖さについては、以前整体の単価の上げ方が怖いと感じる理由という記事にもまとめています。あわせて読んでみてください。
この記事は施術者向けに書いたものです。体の症状で困っている方は、まず医療機関を受診してください。











