整体師が単価を上げるのが怖いのは、甘えではありません

整体師が単価を上げるのが怖いのは、甘えではありません

単価を上げようとすると、手が止まる。

私にも、その時期がありました。上げた方がいいと分かっていても、指がキーボードの上で固まる。理由を聞かれても、うまく説明できない。「今のままでいいのかもしれない」と自分に言い聞かせて、結局そのままにする。そんな一日を、何度も繰り返してきました。

私は20年、整体師として現場に立ち、ここ数年は整体師さん自身の相談も数多く受けてきました。値段の相談は、その中でもとくに多いテーマの一つです。今日はその怖さの正体を、現場で見てきたことからお話しします。

単価を上げるのが怖いのは、甘えなのですか

甘えではありません。怖いと感じるのは、まっとうな反応です。

値段を上げるということは、これまでより高い金額を、目の前の方に受け取ってもらうということです。受け取ってもらえなかったら、その場に自分一人が取り残されます。怖くて当然です。この怖さを気合いで消そうとするから、余計に苦しくなります。

この怖さを感じているのは、自分だけですか

いいえ。私が関わっている整体師さん・鍼灸師さんの集まりの中でも、値上げの怖さの話は、いつも一番反応が大きいテーマの一つです。

技術には自信があるはずなのに、値段の話になると急に口が重くなる。そういう先生を何人も見てきました。表では強気に振る舞っていても、値段のことになると声のトーンが変わる方もいます。怖さを感じること自体は、決して珍しいことでも、恥ずかしいことでもありません。むしろ、この仕事に真剣に向き合っている証拠だと私は思っています。

この怖さの正体は、金額そのものですか

違います。怖いのは金額ではなく、その金額に見合う自分かどうかという自問です。

数字が上がることそのものは、ただの記号です。怖いのは「この金額を出してもらって、私は本当に応えられるのか」という声が自分の中から出てくることです。値段の話をしているようで、実は自分の腕への確信の話をしています。ここを取り違えると、値上げのテクニックをいくら学んでも変わりません。

値段を上げられないのは、結果ですか原因ですか

結果です。原因ではありません。

私はこれまで、多くの先生を見てきました。繁盛している院の共通点は、身銭を切って自分のパターンを築いてきたことです。自分でお金を出して学び、自分の患者さんで試して、外して、直して、自分の型にしている。借り物のままの人はいませんでした。

一方で、うまくいかない先生に共通していたのは、ずっと保険の範囲でやり続けたこと、筋骨格系以外に手を伸ばさなかったことでした。ある程度まではできる。けれど深いところまでは踏み込まない。だから自信がつかず、言葉に力が出ない。そして最後に、値段を上げられないという形で表に出てきます。

値段を上げられないというのは、この一番最後に出てくる症状です。順番を間違えて、症状だけを先に消そうとすると、また同じところに戻ります。

うまくいかない先生には、他にもいくつか共通点があります。器用貧乏で、ある程度まではやれるけれど深いところまでは踏み込まない。新しいものに適応するのを避ける。「お金がない」を理由にして動かない。言い訳をしながら、結局やらない。厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、これは私自身が10年近くかけて一つひとつ通ってきた道でもあります。他人事として書いているのではありません。

何を通ると、この怖さは薄れるのですか

修羅場を潜り抜けた回数だけ、怖さは薄れていきます。

腕はセミナーやDVDでは上がりません。私自身、セミナー難民をやっていた時期が5年ほどありました。学べば学ぶほど、施術中に迷いが増えていきました。手技の引き出しは増えても、いつ、どれを出すのかが分からない。これが一番つらいところでした。

腕が上がるのは、自分の患者さんで外して、困って、それでも次の予約に来てもらえて、必死に考えて直したときだけです。筋骨格だけを診ていると、この修羅場がなかなか来ません。触ればある程度軽くなるので、追い詰められないのです。難しい症状を診るようになって初めて、外して、直すという経験が積み上がります。この積み上げが、確信になります。確信のない値段は、口に出したそばから萎みます。

安売りは、誰のためにもなっていないのではありませんか

安売りは、患者さんのためのようでいて、実は施術者自身の体を削っています。

価格が低いところには、自分を大事にする余裕がまだない方が集まりやすくなります。余裕がないと、セルフケアも後回しになりがちです。変化が出にくい状態のまま通院が続き、施術者は結果を出そうとして数でカバーしようとします。予約を詰め込み、休みを削り、体を壊していく。これは私自身が、開業して数年の頃にたどった道でもあります。

反対に、適正な価格を守れているところには、自分の体に手をかける余裕がある方が集まりやすくなります。セルフケアにも取り組んでもらえるので、変化が出やすく、施術者も報われます。価格は単なる数字ではなく、どんな関わり方が生まれるかを決める装置です。安売りを続けることは、患者さんのためになっているようで、実は誰も得をしない構造を作っています。

この怖さは、整体師だけの話ですか

いいえ。技術で仕事をしている人全員に、同じ構造があります。

料理人も、美容師も、職人も、デザイナーも、フリーランスも、腕を武器にしている人はみな同じ流れの中にいます。腕があるのに安く出す。安く出すから雑に扱う相手が集まる。雑に扱われるので消耗する。消耗した分を数でカバーしようとする。最後に体か心のどちらかを壊す。整体師の話として読んでいる方も、一度、自分の職業を別の技術職に置き換えて読み直してみてください。同じ形が見えてくるはずです。

高くする前に、先に上げるべきものは何ですか

先に上げるべきは、値段ではなく見立ての精度です。

手技を何種類持っているかではなく、今この方に、どの順番で、何を診ればいいかが分かっているかどうかです。順番が決まっていない状態で値段だけ上げても、施術のたびに迷いが顔に出ます。迷いは、思っている以上に相手に伝わります。

順番については、以前の記事でも詳しくお話ししました。見立ての順番について書いた記事もあわせて読んでみてください。見立ての順番が体に入ると、言葉に迷いがなくなります。迷いのない言葉には、自然と重みが出ます。値段は、その重みが先に生まれてから、あとをついてくるものです。

値段を上げたあと、何が変わるのですか

来てくださる方の層が変わります。これは怖さの先にある、確かな変化です。

価格を適正にすると、一時的に問い合わせは減ることがあります。ここで慌てて元に戻すと、せっかくの変化が止まります。少し経つと、自分の体に手をかける準備ができている方が増えてきます。話を最後まで聞いてくれる、セルフケアを持ち帰ってくれる、変化を一緒に喜んでくれる。そういう方との時間が増えると、施術そのものが以前より楽になっていきます。楽になった分の余力を、また次の修羅場に使えるようになります。

今日から、何をすればいいのですか

今日からできることは、値上げの発表ではなく、断らずに診てきた難しい症例を1つ、自分の言葉で書き出すことです。

いつ、どんな主訴で、何を外して、どう直したか。うまくいった例だけでなく、外して困った例も含めて書いてください。この積み重ねが、値段の裏付けになります。数字を先に決めるのではなく、積み上げた経験の量が、あとから値段にふさわしい形を教えてくれます。

書き出したものは、自分一人で抱え込まずに、誰かに話してみてください。一人で溜め込んで、ある日まとめて発表しようとすると、たいてい伝わり方がこじれます。少しずつ、こまめに声に出していくほうが、自分の中でも整理が進みますし、聞いた相手からの反応が、次の一歩の確信にもなります。

まとめ

単価を上げるのが怖いのは、甘えではなく、確信がまだ体に入っていないというだけの話です。怖さを消そうとするのではなく、怖さの手前にある見立ての精度と、修羅場の数を積み上げていく。それだけで、値段は自然と今の自分にふさわしい場所に落ち着いていきます。

よくある質問

値上げをすると患者さんが離れていきませんか?

一定数は離れます。ただし、自分に手をかける余裕がある方ほど残りやすい傾向があります。

いくらから、いくらに上げればいいですか?

金額の目安はこの記事ではお伝えしていません。自分の見立ての精度と、地域の状況に合わせて考える必要がある領域です。

見立ての精度は、どうやって上げればいいですか?

自分の患者さんで、外して、困って、直すという経験を重ねることです。セミナーやDVDだけでは上がりません。

セミナーに通っても値段が上げられないのはなぜですか?

セミナーには修羅場がないからです。自分の患者さんで実際に外して困った経験がなければ、確信は育ちません。

保険診療から自費に切り替えるだけでも怖さは減りますか?

切り替え自体では減りません。難しい症状を診る経験を積まないまま金額だけ変えても、同じ怖さが形を変えて戻ってきます。

器用貧乏だと言われるのですが、これも関係がありますか?

関係があります。ある程度まではできても深く踏み込まない状態が続くと、自信がつかず、値段にも表れます。

値上げを伝える言葉のテンプレートはありますか?

テンプレートより先に、伝える側の確信が整っているかを見直してください。言葉の型より、腕の裏付けの方が先です。

家族や自分の生活が不安なとき、値段を下げてもいいのですか?

一時的に下げること自体は悪くありません。ただ、下げたままにすることで自分の体を削っていないか、定期的に見直してみてください。

値上げしたあと、また元の値段に戻したくなったらどうすればいいですか?

戻す前に、問い合わせが減った理由が価格そのものなのか、見立ての精度の課題なのかを切り分けてみてください。

開業したばかりでも、値段は適正な水準にしていいのですか?

はい。経験が浅いことと、価格を不当に下げることは別の話です。安く出すほど、腕を育てる機会そのものが遠のきます。

技術職ではない仕事をしている人にも、この話は関係ありますか?

関係があります。腕を武器にして働いている人であれば、料理人でも美容師でもデザイナーでも、同じ構造が起きます。

この記事は、整体師・鍼灸師・柔道整復師など、施術に携わる方に向けて書いています。ご自身やご家族の体の症状でお悩みの場合は、医療機関の受診もあわせてご検討ください。

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