産後の骨盤施術で注意すべきことは、骨盤を触る前に「時期・痛み・睡眠」を確かめることです

赤ちゃんをベビーカーに寝かせたまま、お母さんがベッドに横になる。「骨盤がずれている気がして」と言う。

先生の手は、骨盤のあたりで一度止まります。どのくらいの力で触っていいのか。そもそも、今日触っていい時期なのか。ここで強く入れて、あとで何かあったらどうしよう。

この迷いは、慎重さの表れです。技術が足りないわけではありません。

結論から言います。産後の骨盤施術で最初に注意すべきことは、手技の選び方ではありません。産後からどのくらい経っているか、どこに痛みがあるか、どれだけ眠れているか。この3つを先に確かめることです。この順番が決まると、触る強さも、触らない判断も、自然に決まります。

この記事では、産後の方をみるときに先生が迷いやすい場面を、見立ての順番で整理します。手技を増やす話は書きません。何を先に確かめて、どこで手を止めるか。その話です。

産後の骨盤施術で、最初に確かめるべきことは何ですか

出産からの時間と、医療機関で何か言われていないか。この2つを、手を当てる前に聞くことです。

産後の体は、出産に向けてゆるんだものが、時間をかけて締まっていく途中にあります。この途中という感覚が、すべての注意点の土台です。

私が最初に聞くのは、次のようなことです。

出産からどのくらい経っていますか。出産のかたちは、自然分娩でしたか、帝王切開でしたか。産後の健診で、何か言われたことはありますか。今、出血や強い痛みはありませんか。

聞き方は尋問にしません。「体のことを見る前に、いくつか教えてくださいね」と、ひとこと添えてから聞きます。

ここを飛ばして骨盤に触れると、先生自身が安心して施術できません。手が迷うのは、情報が足りないからです。聞けば、手の迷いは減ります。

産後は、どのくらい経ってから施術してよいのですか

一律の日数は、私からは言えません。医療機関の健診で問題がないと言われているかどうかを、先生の判断の前に置いてください。

産後の経過は、方によって違います。出産のかたちも、出血の残り方も、傷の状態も違います。ですから「産後何日目からOK」と決めてしまうのは、危うい考え方です。

私が大事にしているのは、日数より次の順番です。

1つめ、医療機関の健診を受けているか。2つめ、そこで特に制限を言われていないか。3つめ、本人が「触られても大丈夫」と感じているか。

この3つが揃わないうちは、骨盤に触れる前に、お話を聞く時間にしてもかまいません。何もしないことは、施術の失敗ではありません。迷ったまま触るより、聞く時間にしたほうが、次の来院につながることがあります。

帝王切開のあとは、お腹の傷のまわりに力が入りやすくなります。傷の近くを押さえたり、強くねじったりする姿勢は避けて、本人が楽な向きで、短い時間から始めます。ご不安があれば、かかりつけの産婦人科に確認してもらうよう、すすめてください。

強く押す矯正が、産後の体に合いにくいのはなぜですか

産後の体は、ゆるみきって、これから締まる途中だからです。そこへ強い力を入れると、体が守ろうとして、かえって固くなることがあります。

骨盤矯正という言葉から、押す、ひねる、音を鳴らす、といった強い手技を思い浮かべる先生は多いと思います。患者さん自身も、そうしたイメージを持っていることがあります。

けれど、産後の骨盤まわりは、まだ落ち着いていません。強く入れた手技は、その場では「すっきりした」と言われても、数日後に痛みが出ることがあります。そのとき、患者さんは「あの施術のせいかも」と思い、足が遠のきます。

私は、産後の方には、強い力も音を鳴らす手技も使いません。まず、立った姿勢と寝た姿勢の両方を見ます。骨盤だけでなく、肩、首、手首、足首まで確認します。そのうえで、触れるときはごく軽く、本人の呼吸が止まらない範囲にとどめます。

軽い施術では物足りないのでは、と不安になる先生もいます。でも、産後の方の多くは、自分の体を触ってもらえること自体が久しぶりです。強さではなく、丁寧に聞いてもらえた実感のほうが、次の来院の理由になります。

骨盤だけを見ていると、何を見落としますか

抱っこ、授乳、睡眠の3つです。骨盤の位置より、毎日の動作のほうが、体の状態を決めていることが多いからです。

産後の体は、骨盤だけに起きていることではありません。出産のあと、今までになかった動作が、毎日、何十回も入ってきます。

抱っこは、腕だけで持つものではありません。腰を反らせて、その上に赤ちゃんを乗せる形になります。片側で抱く癖がつくと、左右の使い方に差が出ます。

授乳の姿勢も同じです。下を向いて、肩を内側に入れて、同じ形で長く固まります。それが一日に何度も繰り返されます。

手首も、産後に初めて酷使される部分です。頭を支えるために、手のひらを広げて力を入れたまま持ち上げます。この動きは、妊娠前にはありませんでした。

そして、まとまった睡眠が取れません。眠りが細切れになると、体が回復にあてる時間も細切れになります。日中の疲れが、そのまま翌日に持ち越されます。

だから、骨盤だけを整えても、次の来院までに抱っこと睡眠の負担が上回ってしまうことがあります。ここは、前に書いた施術効果が戻る理由と同じ構造です。足す量より、削られる量のほうが大きいと、変化は残りません。

問診では、次のように聞くと、骨盤以外の場所が見えてきます。どちらの手で抱くことが多いですか。授乳はどんな姿勢ですか。夜はどのくらいまとまって眠れていますか。

答えを聞いてから、骨盤に戻ります。「抱っこの癖が、骨盤の左右差に出ているかもしれません」と、生活と体をつなげて言えるようになると、患者さんの納得度が変わります。

産後のお母さんは、なぜ「つらい」と言えないのですか

自分のことを後回しにする習慣が、すでに身についているからです。しかも、子どもの話のほうが、口に出しやすいからです。

私のところには、こんな型で届くことがあります。最初は、子どもの体の相談として話しはじめる。そのあとで、もう一段深く、自分の話が出てくる。産後ずっと、つらいと言えずにここまで来た、という内容です。しかも、腰の痛みと眠れなさが、同じ時期から続いている。

これは特定の誰かの話ではなく、型として、そういう方がいらっしゃる、ということです。

この型を知っていると、問診の場面で変わることがあります。「お子さんのことで、気になることはありますか」と聞いたあと、少し間を置いて、「お母さんご自身は、どうですか」と聞く。この一言で、話がもう一段深くなることがあります。

腰の痛みと、夜に眠れないことが同じ時期から続いている場合、私は、別々の悩みと見ません。出産で大きく使った部分の疲れが、腰にも眠りにも出ていることがあります。東洋医学の見方で言えば、腎の疲れです。横になっても頭がぐるぐるする方は、体が寝る準備をしていても、上が降りてこないことがあります。みぞおちのあたりの固さを見てください。

決めつけはしません。ただ、骨盤だけを見て終わらせないために、こうした見方を持っておくと、手が迷ったときの拠り所になります。

ご本人が「言えなかった」と話してくれた場合、そこで解決策を急がないでください。まず、「ここまで言わずに来られたのですね」と受け取ります。それだけで、施術の質が変わることがあります。

産後の問診では、何を聞けば順番が決まりますか

時期、痛みの場所、動作、睡眠、受診の有無。この5つを、この順番で聞くことです。

1つめの時期では、出産からの時間と、出産のかたちを聞きます。ここで、触る強さの上限が決まります。

2つめの痛みでは、場所と、いつ強くなるかを聞きます。立ち上がるとき、抱き上げるとき、授乳のとき、夜に寝返りを打つとき。動作と結びついた痛みは、日常の負担から見つかることが多いです。

3つめの動作では、抱き方の癖、授乳の姿勢、赤ちゃんを持ち上げる回数を聞きます。

4つめの睡眠では、まとまって眠れる時間と、寝つきの様子を聞きます。

5つめの受診では、産後の健診で何か言われていないか、気になる症状で受診したことがあるか、を確かめます。

この5つを聞くのに、長い時間は要りません。患者さんの話を全部拾おうとすると、先生のほうが疲れます。この5つを軸にして、あとは引き算で聞いていくと、見立てが落ち着きます。見立てを組み立てる順番については、見立てを組み立てる順番の記事も合わせてお読みください。

赤ちゃん連れの来院には、どう備えればいいですか

抱っこのままでも、寝かせたままでも、施術が成り立つ形を先に決めておくことです。その準備が、産後の方の集客そのものになります。

私が受けた相談の中に、先生からこんな質問がありました。「赤ちゃん連れの方には、どのように対応されていますか」。

私の院では、気功を使っているので、どんな姿勢でも対応できます。抱っこしたままでも、寝かせたままでもかまいません。手技が必要な形だと、そうはいきません。

手技中心の院でも、備えはできます。ベビーカーのまま入れるか。ベッドの横に赤ちゃんを寝かせるスペースがあるか。授乳やおむつ替えのとき、いったん手を止めていいか。こうしたことを、予約の時点で伝えておきます。

預け先を探してから来ようと思っているうちに、何か月も経ってしまう方がいます。「お子さんと一緒でかまいません」と最初に伝えるだけで、来られる方が増えます。

ただし、赤ちゃんが泣いたら施術を中断する、と決めておいてください。お母さんが気にして力が入ってしまうと、施術の意味が薄れます。「泣いたら止めますので、気にしないでください」と、先に言っておく。この一言が、お母さんの肩の力を抜きます。

産後の施術で、受診をすすめるべきサインはありますか

あります。出血が急に増えた、発熱がある、激しい痛みがある、片側の足だけが腫れて痛い、気持ちの落ち込みが続いて日常生活が苦しい。こうしたときは、施術より先に医療機関へ案内してください。

産後の体は、見た目より負担を抱えています。施術の場では、次のようなサインに気を配ります。

出血の量が急に増えた、あるいは、産後しばらく経ってから増えた。発熱や、寒気が続いている。お腹や傷のまわりの痛みが強くなっている。片側のふくらはぎだけが赤く腫れて、痛みがある。胸が痛い、息が苦しい。眠れない状態が長く続いて、気持ちが沈んで、赤ちゃんの世話もつらい。

どれも、私たちの手で判断できる範囲を超えています。「念のため、一度診てもらいましょう」と、責めずに静かに背中を押してください。

お腹の中央が縦に膨らんで見える、骨盤の前のあたりがずっと痛い、尿もれが続く、といった場合も、施術だけで抱え込まないほうがいいことがあります。医療機関や、産後の体を専門に見る方と並んで進めるほうが、結果として患者さんのためになります。

受診をすすめることは、離脱の原因ではありません。むしろ、誠実な対応として次の来院につながります。先生が見極める目を持っている、と伝わるからです。

施術のあと、どんな言葉で締めれば次につながりますか

「今日の体の状態」「これから起こりやすいこと」「次に確かめたいこと」の3つを、短く伝えることです。

産後の方は、自分の体に何が起きているのか分からないまま、毎日を過ごしています。施術のあとに、1つだけでいいので、言葉を渡します。

たとえば、「抱っこの癖が右に偏っているので、骨盤の左右差が出ていました。今日は軽く整えました。2、3日は、いつもより疲れやすいかもしれません。次回は、授乳の姿勢を見せてください」。

こう言えると、患者さんは、何が起きたのかを自分の言葉で誰かに話せます。次に来る理由も、分かります。

ここで気をつけたいのは、約束をしないことです。「これで元に戻ります」「次で痛みが消えます」とは言いません。産後の体は、毎日変わっています。見通しは、幅を持たせて渡してください。「少しずつ楽になる方が多いです」という言い方で十分です。

産後の体を「元に戻す」と伝えてよいのですか

私は、元に戻す、とは伝えません。作り直す、と伝えます。

妊娠前の体に戻そうとすると、うまくいかないことがあります。生活そのものが変わっているからです。抱っこがあり、授乳があり、眠りが細切れになっている。その生活に合う体を、あらためて作っていく。そう考えたほうが、進みやすい方が多いです。

「元に戻る」という期待は、お母さんを焦らせます。戻らないと分かった日に、自分を責める方もいます。「作り直す時期なので、焦らなくていいですよ」と言われた方が、気持ちが楽になります。

この言葉は、先生自身にも効きます。今日の施術で、全部整えなくていい。次の来院までに、少し楽になれば十分。そう思えると、手の力が自然に抜けます。

よくある質問

産後の骨盤施術は、何か月目から始めてよいですか?

日数で一律には決められません。医療機関の健診で問題がないと言われているか、本人が触られても大丈夫と感じているかを確かめてください。迷うときは、お話を聞く時間にして、触れるのは次回からでもかまいません。

帝王切開のあとは、何に気をつければいいですか?

お腹の傷のまわりを押さえたり、強くひねったりする姿勢を避けます。本人が楽な向きで、短い時間から始めてください。傷の状態に不安があるときは、産婦人科に確認してもらってから進めます。

産後の方に、強い矯正は本当に使わないほうがいいですか?

私は使いません。産後の骨盤まわりは落ち着く途中なので、強く入れるとかえって固くなることがあります。軽い手技と、丁寧な問診のほうが、次の来院につながりやすいと感じています。

赤ちゃんが泣いて、施術に集中できないときはどうすればいいですか?

泣いたら止める、と先に伝えておくのが一番です。お母さんが気にして力が入ると、施術の意味が薄れます。最初に決めておくと、先生も落ち着いて進められます。

産後の骨盤の歪みは、どう説明すればいいですか?

「歪み」より、「抱っこや授乳の癖が、左右の使い方に出ています」と伝えるほうが、納得されやすいです。生活と体をつなげて話すと、自分ごととして受け取ってもらえます。

産後の方が「つらい」と言えない場合、どう接すればいいですか?

子どものことを先に聞いて、少し間を置いてから「お母さんご自身は、どうですか」と聞いてみてください。話してくれたときは、解決を急がず、まず受け取ります。

腰の痛みと眠れなさが同時に続いているときは、どう見ますか?

別々の悩みと決めつけず、出産で大きく使った疲れが両方に出ていないかを見ます。東洋医学の見方では腎の疲れです。寝つけない方は、みぞおちの固さも見てください。決めつけず、あくまで拠り所として使います。

産後の方への施術は、料金をどう考えればいいですか?

時間を長く取りすぎないことが大切です。産後の方は話が長くなりやすいので、時間の持ち出しにならないよう、予約の時点で施術の流れと時間を伝えておきます。安売りせず、問診に時間をかける設計にしてください。

受診をすすめたら、離れてしまいませんか?

誠実な対応として、むしろ信頼につながることが多いです。責めずに静かに背中を押すこと。そして、受診のあとにまた来てもらえるよう、「結果が分かったら教えてください」と一言添えておくことです。

鍼灸師でも、産後の方を同じ順番でみられますか?

みられます。時期、痛み、動作、睡眠、受診の確認は、資格にかかわらず同じです。鍼は刺激の量を控えめにして、体の反応を見ながら進めてください。

現場で使える資料は、どこで受け取れますか

公式LINEで受け取れます。私は、現場で使う資料を、症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文など、全部で17本にまとめて、公式LINEでお渡ししています。

整体師・鍼灸師だけが集まっているオープンチャットもあります。産後の方の相談など、現場で手が止まった場面を、そのまま相談できる場です。

メールでは、週に一度、見立てだよりをお届けしています。見る順番を少しずつ整える内容です。

この記事は、施術者の方に向けて書いています。ご自身やご家族の体の症状でお困りの方は、まず医療機関を受診してください。

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