60分の料金で90分かかる整体院は、優しいのではなく時間の値付けが決まっていません
施術が終わって、先生は時計を見る。60分の枠で入れたのに、もう90分近く経っている。
患者さんはベッドの端に座ったまま、帰る気配がない。先生は「そろそろ」という言葉を探している。その間にも、患者さんは先日の出来事を話し続けている。前回と同じ話です。
次の予約までは、あと10分。先生は相づちを打ちながら、頭の中では片づけの順番を数えています。
この場面に覚えのある先生は、少なくないと思います。この記事は、その30分をどう扱えばいいのかを、時間の値付けから整理した記事です。
60分の料金で90分かかるのは、先生の優しさの問題なのでしょうか
優しさの問題ではなく、先生の提供している時間が、どこにも書かれていないことが原因です。
整体師さんの相談の中に、こういうものがありました。60分の料金で、毎回だいたい90分かかる。施術後も患者さんは座ったまま帰ろうとせず、同じ話を何度も繰り返す。追加の料金を言い出せないまま、持ち出しが続いている。
この先生は、技術の面ではとても丁寧に患者さんと向き合っていました。6回ほどの施術で、内臓の冷えや睡眠不足まで見えていたからです。見立てはできている。それでも、時間の扱いだけが決まっていませんでした。
ここで大事なのは、自分を責める方向に行かないことです。優しいから延びるのではありません。延びてもいいことになっているから、延びるのです。
患者さんの側から見ると、先生が何も言わなければ、その時間は「そのコースに含まれているもの」になります。悪意はまったくありません。むしろ、安心できる場所だから、長くいたいだけです。
持ち出しの30分は、先生の何を削っているのでしょうか
削っているのは、その日の夜の体力と、次の患者さんに向けられる集中力です。
30分の持ち出しは、一回だけなら小さな差に見えます。けれど、毎回続くと、一日の流れ全体がずれます。昼の休憩が短くなる。トイレに行く時間がなくなる。次の患者さんを、少し焦った気持ちで迎えることになります。
私はこれを、料金の問題である前に、先生の体の問題だと考えています。
以前、別の相談で、手技が増えるほど一人にかける時間が延びて、夜にいつも疲れ切って帰る先生がいました。その先生は、渡されたのは手技ではなく見立てだったと気づいてから、予約表どおりに終えて、夜も元気に帰れるようになりました。時間が整うと、体も整うのです。
習った技術をどう使えばいいか分からないときという記事にも、手技を増やす方向ではなく、順番を整える方向の話を書いています。
延びた時間は、先生の腰と集中力で支払っています。値札には載っていませんが、毎回、確実に支払われています。
施術後に帰らない患者さんは、何を求めているのでしょうか
多くの場合、求めているのは話の続きではなく、安心して居られる場所です。
同じ話を何度も繰り返す方は、話の内容に意味があるというより、その話をしているあいだ、誰かが聞いてくれていることに意味があります。施術後の体はゆるんでいて、気持ちも開いています。だから、いちばん話しやすい時間帯が、そこに来るのです。
ここを読み違えると、二つの方向に外れます。
一つは、冷たく切ってしまうこと。もう一つは、いつまでも付き合うことです。
どちらも患者さんにとっても先生にとっても、よい形ではありません。大切なのは、安心できる場所であることは守りながら、その時間の使い方に枠をつけることです。
一つだけ、見落とさないでほしいことがあります。同じ話を何度も繰り返す方は、体の見立ての材料も持っています。話の中に、睡眠、食事、人間関係といった、体に影響する生活の断片が混ざっているからです。ただ、それを拾うのは施術の時間の中で行い、延長の時間で聞かされ続けるものではありません。
時間の持ち出しを止めるために、最初に決めることは何ですか
最初に決めるのは、追加料金ではなく、そのコースが何分で終わるのかを、先生自身が一文で言えるようにすることです。
多くの先生は、延長料金を言い出す手前でつまずきます。料金を言うのが怖いからです。けれど、順番が逆です。先に必要なのは、時間の定義です。
たとえば、こう決めます。
60分のコースは、問診と施術と、帰りの声かけまでを含めて60分。
この一文を、先生が自分の中で言い切れるかどうかが分かれ目です。言い切れないと、その場で患者さんに「そろそろ」と言うときに、声が小さくなります。申し訳なさが先に立って、伝わりません。
決めておく内容は、次の三つです。
一つ目は、問診から見送りまでの時間配分です。たとえば、問診に何分、施術に何分、説明に何分、最後の声かけに何分。
二つ目は、終わりの合図です。「今日はここまでです」という言葉を、毎回同じ形で言うことにします。
三つ目は、延びたときの扱いです。延びる場合は、何を基準に延ばすのか。体の状態として必要なのか、お話が長いだけなのか。その線引きです。
この三つが決まると、料金の話は、あとからついてきます。
「そろそろ」を、関係を壊さずに伝えるにはどうすればいいですか
終わりの合図は、患者さんを止める言葉ではなく、今日の見立てを締める言葉にします。
「そろそろ」という言葉は、患者さんには「出て行ってほしい」と聞こえることがあります。そうではなく、施術の最後に、その日の見立てをひとことで返します。
たとえば、こんな形です。
今日は、お腹の冷えと睡眠のところがよく反応していました。次回までは、お風呂に浸かる日を一日だけ増やしてみてください。今日はここまでです。
こう伝えると、会話は終わりではなく、締めになります。患者さんは「今日の話はちゃんと受け取ってもらえた」と感じて、立ち上がりやすくなります。
終わりの合図に使うのは、ねぎらいの言葉と、次にやってほしいことの一言です。それを毎回同じ順番で言うと、患者さんの側にも、それが終わりの合図だと伝わっていきます。
もし、立ち上がってもまだ話が続くようなら、玄関まで一緒に歩きながら聞くという方法もあります。体が動いている間は、話は自然に短くなります。座ったままの時間を、出口に向かう時間に変えるのです。
追加料金を言い出せないのは、なぜなのでしょうか
追加料金を言い出せないのは、時間の値段と、先生の価値を、頭の中で結びつけてしまっているからです。
患者さんに「30分で追加いくらです」と言うと、関係が冷たくなるのではないか。信頼を失うのではないか。そういう怖さが先に立ちます。
けれど、ここで一度、見方を変えてほしいのです。
60分という枠は、先生の優しさを制限するものではありません。先生が最後まで、同じ集中力で患者さんの前に立ち続けるための、守りの枠です。
予約表の隣の患者さんは、その時間に合わせて仕事を調整して来ています。その方にも、先生の十分な集中力を渡す必要があります。延長の分を、後ろの患者さんから引き算していることに、気づいている先生は多くありません。
時間の枠を決めることは、今日の患者さんと、次の患者さんと、先生自身を、同時に守ることです。
料金を変えずに、時間の使い方だけを変えるにはどうすればいいですか
まずは料金を動かさずに、問診と施術の配分だけを見直してみてください。
延びる原因は、施術の最後ではなく、最初の問診に隠れていることがよくあります。患者さんの話を一言一句聞こうとすると、問診の時間が膨らみます。膨らんだ問診は、施術の最後に押し出されて、結局、延長として表に出ます。
別の面談で、ある先生は、全部聞いていたら分からなくなる、と話してくれました。見立ては足し算ではなく、引き算です。先に当たりをつけて、確認したいところだけを聞く。そうすると、問診は短くなり、施術の最後の余白も確保できます。
順番としては、こうなります。
最初に、今日の来院の理由を一つに絞ってもらいます。
次に、その一つに関わる生活の部分、たとえば睡眠、食事、冷えなどを二つだけ聞きます。
そして、施術の中で変化を一緒に確認しながら進めます。
この流れにすると、最後の「話し足りない」を減らせます。患者さんは、施術中にすでに話を聞いてもらえているからです。
見立ての順番を先に決めておくと、時間のずれは、自然に小さくなっていきます。
追加料金を設定するなら、どのような形にすればいいのでしょうか
設定するなら、延長の都度ではなく、あらかじめコースとして用意しておく形がいちばん穏やかです。
その場で請求する形にすると、先生も患者さんも、お互いに気まずくなります。そうではなく、最初から60分と90分のコースを並べておきます。
そうすると、会話は「延ばすかどうか」ではなく、「次回はどちらのコースにしますか」という選択に変わります。選ぶのは患者さんです。押しつけではありません。
長く話したい方は、90分のコースを選べます。短くていい方は、60分でいい。どちらを選んでも、先生は、その枠の中で集中力を出し切れます。
この形には、もう一つの利点があります。90分を選ぶ方は、その時間に価値を感じている方です。持ち出しで延びていた時間が、価値を認めてくれる方との、対等なやり取りに変わります。
金額の決め方は、先生の院の状況や地域によって違うため、ここでは触れません。ただ、考え方の順番は共通しています。時間の定義を決め、終わりの合図を決め、それでも長く必要な方には、選べる形を用意する。この順番です。
話の長い患者さんと、距離を置くことになりませんか
距離を置くのではなく、関係の持ち方を整えることになります。
時間に枠をつけると、患者さんが離れてしまうのではないか。そう心配される先生は多いです。実際には、枠があることで安心する患者さんの方が多くいます。いつ終わるか分からない時間は、患者さんの側にとっても、実は落ち着かないものです。
たとえば、終わりの合図をいつも同じ形で伝えていると、患者さんは「ここまでが先生の時間」と自然に理解します。理解した上で、次回の予約を取ってくれます。
患者さんの価値観や人生の背景は、尊重しながら聞く。けれど、自分の信念や、自分の時間の使い方も、同じように大切にする。この両方を持つことが、長く続けるための条件だと、私は考えています。
先生の時間と体力を守ることは、患者さんのためにもなりますか
なります。先生が消耗しきっていない状態でこそ、見立ての精度が保たれるからです。
整体は、先生の手と集中力でしか届かない仕事です。毎回の持ち出しで集中力が削られていくと、見立てが粗くなります。見立てが粗くなれば、結果が安定せず、リピートにも響きます。
結局、時間を守ることは、患者さんに渡す質を守ることです。優しさと境界は、反対のものではありません。境界があるから、優しさを長く続けられます。
今日からできる、時間の見直しの手順は何ですか
今日からできるのは、実際の施術時間を一週間だけ記録することです。
やることは、それだけです。
一つ目。予約の開始時刻と、患者さんが帰った時刻を、メモに残します。
二つ目。一週間後に、60分のコースが実際に何分かかっていたか、平均を見ます。
三つ目。延びた日に、何が原因だったか、一言だけ添えます。問診が長かったのか、施術後の会話だったのか、体の状態として必要だったのか。
この記録を見ると、持ち出しの正体がはっきりします。多くの場合、原因は一つか二つに絞れます。そこが分かれば、次に手を打つ場所も、自然に決まります。
まずは、記録をつけるところからで十分です。料金を変えるのも、コースを増やすのも、そのあとで構いません。
よくある質問
60分コースが毎回延びるのは、技術が足りないからですか?
技術の不足ではなく、時間の枠が決まっていないことが主な原因です。むしろ、丁寧に向き合う先生ほど延びやすい傾向があります。見立ての順番と終わりの合図を決めると、延びる時間は小さくなります。
追加料金を言うと、患者さんが離れてしまいませんか?
その場で請求する形にすると、気まずくなりやすいです。あらかじめ60分と90分のコースを並べておき、次回の選択肢として示す形にすると、患者さんは自分で選べるので、押しつけには感じにくくなります。
施術後に座ったまま帰らない患者さんには、どう声をかければいいですか?
その日の見立てをひとことで返し、次にやってほしいことを一つ伝えてから、「今日はここまでです」と言います。立ち上がったあとは、玄関まで一緒に歩きながら話を聞くと、自然に会話が短くなります。
同じ話を何度も繰り返す患者さんに、どう向き合えばいいですか?
話の内容より、安心して居られる場所を求めていることが多いです。話の中に睡眠や食事など、体に関わる情報が混ざっていないかを施術の時間の中で拾い、延長の時間で聞き続けることは避けてください。
時間の持ち出しを、まず何から見直せばいいですか?
一週間だけ、予約の開始時刻と患者さんが帰った時刻を記録してください。延びる原因が問診なのか、施術後の会話なのかが分かります。原因が分かってから、手を打つ場所を決めると、遠回りになりません。
60分の定義は、何を含めて決めればいいですか?
問診、施術、説明、最後の声かけまでを含めて決めます。たとえば、問診から見送りまでが60分、という一文を先生自身が言い切れる状態にしてください。ここが決まると、その場での声の出し方が変わります。
後ろに予約がない日は、延びても構いませんか?
構いません。ただし、後ろに予約がない日でも、毎回延ばしていると、それが患者さんにとっての当たり前になります。例外として延ばす場合は、今日は特別であることを、ひとこと添えておくと線が保たれます。
高齢の患者さんで、話が長くなるのは仕方ないのでしょうか?
話が長くなりやすい背景には、施術後の安心感があります。それを否定する必要はありません。高齢の方ほど、終わりの合図を毎回同じ形にすると、安心して立ち上がりやすくなります。
患者さんの話の中に、受診を考えたほうがよい内容が出てきたらどうしますか?
急な麻痺、激しい痛み、急な体重減少などが話に出てきたときは、施術を進めるより先に、医療機関の受診をすすめてください。整体の時間の枠より優先すべき内容です。
時間の話は、料金の話である前に、先生の体と集中力を守る話です。ひとりで抱え込まず、他の先生の工夫も見てみてください。
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