整体の技術を講座にできない理由|できる人との違いは腕ではなく「渡す中身」にあります

セミナーの面談で、ある先生がこう言いました。

「私、基本しかできないんです」

話を聞いていくと、その先生は手技をいくつも修めていて、認定まで取っています。こちらから見れば、十分すぎるほど持っている方です。それでも本人は本気で、使う相手が決まらない、コアになる症状に絞るのが苦手だ、と肩を落としていました。

この手の相談は珍しくありません。技術はある。患者さんにも喜ばれている。なのに「それを講座にしませんか」と言われると、足がすくむ。

結論を先に言います。自分の技術を講座にできる人とできない人を分けているのは、技術の高さではありません。受け取った人が現場で使える形にして渡せるかどうか、つまり渡す中身の違いです。そして渡す中身は、今の手持ちから作れます。

この記事では、私が全国で技術セミナーの講師をしてきた中で見えた、その違いを書きます。体の症状で困っている方は、まず医療機関にご相談ください。この記事は施術者の方に向けたものです。

自分の技術を講座にできない人は、何でつまずいているのですか?

つまずいているのは技術の量ではなく、「何を渡せばいいか」が決まっていないことです。

私にも、そういう時期がありました。修行を終えて店長を任されたころ、寝違えが1回でほとんど楽になるくらいにはなっていました。それでも、重いヘルニアの方や内臓の不調が絡む方が一定の割合でいらっしゃる。「今の自分では、まだ何かが足りない」と思い、いろいろな整体を学びに行きました。技術は確かに増えました。

ところが、「何回通えば良くなりますか」「本当に良くなるんですか」と聞かれると、言葉が詰まりました。寒気がしたのを覚えています。手技の名前は並べられるのに、どの順で何を確かめて、どこで見切るのかは、自分でも言葉になっていなかったんです。

その状態で人に教えようとしても、渡せるのは手技の名前と手の動かし方だけです。受け取った人は「で、いつ使うんですか」で止まります。足がすくむのは、その先を自分でも答えられないと、どこかで分かっているからです。

講座にできる人は、手技ではなく何を渡しているのですか?

講座にできる人が渡しているのは、手技ではなく「見る順番」と「外したときの戻り先」です。

私が教えた先生の変化を、特定されない形で3つ並べます。

1人目は、開業3年目の先生でした。その日は良くなるのに、すぐ元に戻る。手応えがない、という悩みです。渡したのは新しい手技ではなく、元に戻る理由の説明と、戻らないためのセルフケアの伝え方でした。元に戻ることがかなり減り、リピートが増えました。

2人目は、開業2年目の先生です。同じ腰痛でも、良くなる人と良くならない人の違いが分からない、という悩みでした。渡したのは原因のパターンです。どんなパターンの腰痛なのかが分かるようになり、結果が出て、口コミが増えました。

3人目は、開業5年目の先生です。手技は増えたのに結果が出ず、施術時間が長くなり、夜はいつも疲れ切っていました。渡したのは手技ではなく見立てです。予約表どおりに終えて、夜に元気に帰れるようになりました。

3人とも、私が足したのは手技ではありません。順番と、パターンと、説明の言葉です。この3つは、手技と違って、目の前の患者さんで確かめながら人に渡せます。講座になる中身というのは、たぶんこういうものです。

見る順番の考え方は、こちらの記事に詳しく書いています。見立ての順番を先に読んでおくと、このあとの話がつながります。

「基本しかできない」と思っている人は、講座を作れないのですか?

作れます。基本しかできないという感覚は、手持ちを棚卸ししていないサインであって、中身が足りないサインではありません。

冒頭の先生の話に戻ります。面談で資格や習った手技を一つずつ机に並べてもらうと、並べきれないほど出てきました。それでも本人は「基本しか」と言う。その理由は、習った技術がばらばらに置かれていて、どれをいつ使うかの順番がなかったからです。

持っているのに、いつ出すかが分からない。これがいちばんつらい状態です。技術が悪いんじゃない。見る順番が決まっていないだけです。

講座づくりの最初の作業は、新しい何かを足すことではありません。今持っている技術を机に並べて、どの症状の、どの場面で使ってきたかを書き出すことです。ここまでは、1人でできます。

講座にできる人とできない人は、症例の扱い方で分かれるのですか?

はい、分かれます。講座にできる人は、症例を1例で終わらせず、2例並べて見立てにしています。

私の記録に、こういうものがあります。入口は違うのに、同じことを渡して変わった方が複数いたという記録です。たとえば、日々の楽しみを増やしてもらった方が3人いました。症状は全く違うのに、3人とも変わっています。別の例では、祭りで大声を出した方と、言いたいことを言えるようになった方が、どちらも皮膚の様子が軽くなっています。

1例なら偶然に見えます。2例あると見立てになります。3例あれば、人に教えられる形になります。

できない人は、1例ごとに「あの人は特別だった」と閉じてしまいます。カルテの名前を見れば経過は思い出せるはずなので、まず3〜4行で、症状と、渡したことと、その後を書いてみてください。これが講座の材料の最小単位です。

講座にできる人は、外したときのことを話せるのですか?

話せます。外した経験と、そこからどう直したかを言葉にできる人は、受け取る側にとって一番頼りになる先生になります。

私は、腕は修羅場をどれだけ潜ったかで決まると考えています。自分の患者さんで外して、困って、それでも次に来られて、必死で考えて直す。その回数が腕になります。講座で価値になるのも同じところで、うまくいった話より、外したときに何を疑って、どこへ戻ったかの話です。

うまくいった症例だけを並べる講座は、聞いている間は気持ちがいいのですが、現場に戻ると役に立ちません。患者さんの前で最初に起きるのは、外れた場面だからです。

外したとき、まず見立てを疑う前に、お伝えしたセルフケアが実行されていたか、回復への意識はどうだったかを確かめる。2回目の最初に「初回のあと、お伝えしたことはどんな感じでしたか」と必ず聞く。こういう戻り先を持っていることが、そのまま教えられる中身になります。

講座にする動機が「自分の不安」だと、何が起きますか?

教える中身が増え続けて、結局まとまりません。動機が「救える人を増やしたい」にあるかどうかで、講座の形は大きく変わります。

私が講師を始めた理由は、自分だけでは救えるのは地域の方だけでも、講師になれば全国の先生の力になれて、救える人がさらに増えると思ったからです。

もし動機が「自信がないから、教える立場になって安心したい」だったら、全部を詰め込みたくなります。あれも話さなければ、これも足さなければ、と。そうなると、受け取る側は情報の洪水で動けなくなります。

動機が「この先生が、現場で明日から迷わなくなってほしい」にあると、渡すものは自然に絞られます。絞った先に、1回の講座で確かめられる範囲が見えてきます。

無料で全部出してしまうと、講座は成り立たなくなりますか?

成り立ちます。ただし、情報と、できるようになることを分けて考える必要があります。

資料を読んでも、順番の決め方と手の使い方は身につきません。だから私は、情報は出し惜しみしません。出せば信用が積み上がるからです。

ただし、順番を決める作業と、自分の患者さんで外して直す作業は、参加した人にしかできません。無料の場で渡すのは「なぜそれが必要か」まで。実際に手を動かして、外して、直す段階を講座で一緒に踏む。この線引きができている人は、無料で出すことを怖がりません。

逆に、無料で渡すと商品が守れないと考えて出し惜しみする人は、信用が積み上がらず、講座の中身も磨かれません。

講座にできる人になるために、今日から何を始めればよいですか?

今日からできるのは3つです。手持ちを机に並べる。症例を2例ずつ書く。外した場面を1つ言葉にする。

1つ目は、資格と習った技術を全部書き出すことです。紙でも画面でも構いません。足りないものを探さず、あるものだけを並べます。

2つ目は、カルテの名前を見て、似た経過の方を2人選び、それぞれ3〜4行にまとめることです。症状、渡したこと、その後。これだけで、見立てのかたちが見えてきます。

3つ目は、最近外した場面を1つ選び、まず何を疑って、どこへ戻ったかを書くことです。うまく答えられなくても、書こうとした時点で、順番の穴が見えます。

この3つが書けたら、それが講座の最初の1回分の骨組みになります。完成度は問いません。

よくある質問

技術に自信がなくても、講座を始めてよいですか?

はい。自信がないのは、技術が足りないからではなく、順番を言葉にしていないからであることが多いです。手持ちを棚卸しして、症例を2例並べるところから始めると、自信は後からついてきます。

講座にする技術は、何から選べばよいですか?

まず、実際に結果を出してきた症状と、その場面で使っている手技から選んでください。得意な領域がいちばん強い武器になります。手広く見せるより、1つの症状の1つの場面で深く渡す方が、受け取る側は使えます。

症例を講座で使うとき、気をつけることは何ですか?

患者さんが特定されない形にすることが最優先です。実名、地域、職業、家族構成の細部は出さず、症状と経過と渡したことに絞ってください。

受講生が増えない場合、中身を増やすべきですか?

いいえ。増やす前に、受け取った人が現場でどう変わるかを、1行で言えるか確かめてください。言えない場合は、中身ではなく入口の言葉が足りていません。

無料の勉強会から始めてもよいですか?

はい。ただし、無料の場では「なぜ必要か」まで渡し、順番を決める作業や外して直す作業は参加者だけで行う形にすると、価値の線引きが保てます。

講座を作る前に、実績が必要ですか?

大きな実績は必要ありません。1人でも、自分の患者さんで結果が変わった経過を、順を追って話せれば十分に材料になります。作れる人は、実績の大きさより、経過を言葉にしている人です。

教えることで、自分の施術が落ちることはありませんか?

むしろ精度が上がります。人に渡すために順番を言葉にすると、自分でも曖昧だった部分が見えてきます。自分の施術の確認作業にもなります。

教える側になって、最初に注意すべきことは何ですか?

全部を渡そうとしないことです。1回で確かめられる範囲に絞り、外したときの戻り先を一緒に渡してください。受け取る側が現場で止まらないことを優先します。

手技が増えたのに結果が出ないときは、どうすればよいですか?

手技を足す前に、いつ、どの順で使うかを決めてください。迷いの原因は、手技の数ではなく順番であることがほとんどです。

現場で使える資料は、どこで受け取れますか?

現場で使う資料を、全部で17本まとめて渡しています。症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文などです。受け取りは公式LINEからどうぞ。

整体師・鍼灸師だけが集まっているオープンチャットもあります。自分の技術を人に渡す形にするとき、迷ったらそこで気軽に聞いてください。

週に1回、現場の見立てを届けるメルマガ見立てだよりもあります。

講座にできるかどうかは、腕では決まりません。今持っている手を、順番にして渡す。それだけのことです。

この記事は施術者の方に向けたものです。体の症状で困っている方は、医療機関にご相談ください。

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