起立性調節障害の隠された原因は「感情の滞り」?東洋医学が教える心と体の深い関係

「この子は心が弱いから起立性調節障害になったんでしょうか?」

治療歴20年の間に、何百回となく保護者の方から投げかけられた質問です。答えは「YES」でもあり「NO」でもあります。心が弱いのではなく、抑え込まれた感情が体に大きな負担をかけているのです。

東洋医学では「心身一如」という考え方があります。心と体は一つのもので、感情の変化は必ず体に現れる。逆に言えば、適切な感情解放により体の症状も改善していくのです。

今日は、起立性調節障害と感情の深い関係、そして具体的な感情解放ワークをお伝えします。

東洋医学における感情と臓器の関係

五臓と五志の相関関係

東洋医学では、それぞれの臓器に対応する感情があると考えられています。

  • 心:喜(過度の喜びや興奮)
  • 肝:怒(怒り、イライラ、ストレス)
  • 脾:思(思い悩み、考えすぎ)
  • 肺:悲(悲しみ、憂鬱)
  • 腎:恐(恐れ、不安、驚き)

起立性調節障害の子供たちを診ていると、これらの感情が複雑に絡み合って停滞していることが非常に多いのです。

感情の滞りが引き起こす体の変化

感情が適切に処理されずに体内に蓄積されると、「気滞」という状態を引き起こします。気の流れが滞ると、血液循環も悪くなり、栄養や酸素の供給が不十分になります。

特に起立性調節障害では、以下のような感情パターンが見られます:

  • 肝気鬱結:学業や人間関係のストレスによる怒りの蓄積
  • 心神不寧:将来への不安や期待によるプレッシャー
  • 脾気虚:完璧主義による考えすぎ
  • 腎気不足:失敗への恐怖や自信喪失

起立性調節障害の子供に多い感情パターン

完璧主義による「思」の過剰

起立性調節障害の子供の74%が完璧主義的な傾向を持っています。「100点でなければダメ」「失敗は許されない」という思考が、脾の機能を著しく低下させます。

脾は「思」を司る臓器ですが、考えすぎることで脾気が消耗し、消化吸収機能が低下。結果として全身のエネルギー不足に陥り、朝起きられない状態になるのです。

実際の例:中学2年生のA君は、テストで95点を取っても「なぜ100点じゃないのか」と自分を責め続けていました。この思考パターンが続いた結果、食欲不振と朝の起床困難が始まったのです。

周囲への気遣いによる「怒」の抑圧

多くの子供が、周囲に迷惑をかけまいと本音を押し殺しています。この抑圧された怒りは肝に蓄積され、肝気鬱結を引き起こします。

肝気鬱結により気の巡りが悪くなると、朝の気の上昇が阻害され、起立時のエネルギー不足につながります。また、イライラや情緒不安定も現れやすくなります。

将来への不安による「恐」の蓄積

現代の子供たちは、将来への不安を強く抱えています。「良い高校に入れなかったらどうしよう」「将来就職できるだろうか」といった恐れが腎気を消耗させます。

腎は生命力の根源。腎気不足により基礎的な体力が低下し、朝の覚醒に必要なエネルギーが確保できなくなるのです。

期待に応えようとする「喜」の乱れ

親や教師の期待に応えようと頑張りすぎることで、心の「喜」が乱れます。適度な喜びは心を活性化しますが、過度な興奮状態は心神を乱し、安定した血液循環を阻害します。

また、期待に応えられない時の失望感も心気を大きく消耗させる要因となります。

感情解放が体に与える影響

気の流れの改善

抑圧された感情を適切に解放することで、滞っていた気の流れが改善されます。特に肝気鬱結の改善により、全身の気の巡りが良くなり、朝の気の上昇もスムーズになります。

血液循環の正常化

感情の解放により自律神経のバランスが整い、血管の収縮・拡張が正常に機能するようになります。これにより立ち上がり時の血圧調整がスムーズに行われ、立ちくらみが改善します。

消化機能の回復

ストレスによる消化機能の低下が改善され、食欲が回復します。栄養の吸収が良くなることで、全身のエネルギー産生が正常化し、朝の活力も回復してきます。

睡眠の質の向上

感情的な負担が軽減されることで、心神が安定し、質の良い睡眠が取れるようになります。深い睡眠中に体の修復が進み、翌朝の調子が大きく改善します。

具体的な感情解放ワーク

基本の呼吸法(毎日実践)

感情解放の基本は、深い呼吸です。腹式呼吸により横隔膜が動き、内臓がマッサージされて気血の流れが改善されます。

実践方法:

  1. 仰向けに寝て、両手をお腹の上に置く
  2. 鼻から4秒かけてゆっくり息を吸う(お腹が膨らむ)
  3. 2秒間息を止める
  4. 口から6秒かけてゆっくり息を吐く(お腹がへこむ)
  5. これを10回繰り返す

朝起きた時と寝る前に行うことで、1日の感情的な負担をリセットできます。

怒りの解放ワーク(週2〜3回)

抑圧された怒りは、適切な方法で解放する必要があります。ただし、物に当たったり人に向けたりするのではなく、建設的な方法を用います。

「枕叩きワーク」:

  1. 大きめの枕やクッションを用意
  2. 「イライラする!」「もう嫌だ!」など、感じている感情を声に出しながら枕を叩く
  3. 5分間続ける
  4. 最後に深呼吸を3回行い、気持ちを落ち着ける

この時、私は子供たちに「感情に良い悪いはない。大切なのは適切に出すこと」と伝えています(これを理解してもらえた時は、いつも少しホッとします)。

悲しみの解放ワーク(必要に応じて)

悲しみは涙と共に解放されます。無理に我慢せず、泣くことで肺の気が浄化されます。

「感情日記ワーク」:

  1. その日感じた悲しみや寂しさを紙に書き出す
  2. 「なぜそう感じたのか」を掘り下げる
  3. 書いているうちに涙が出てきたら、そのまま泣く
  4. 泣き終わったら、深呼吸をして気持ちを整える

不安の解放ワーク(毎日実践)

将来への不安は、「今この瞬間」に意識を向けることで軽減できます。

「5-4-3-2-1グラウンディング」:

  1. 目に見えるもの5つを言う
  2. 手で触れるもの4つを言う
  3. 聞こえる音3つを言う
  4. 匂い2つを言う
  5. 味1つを言う

これにより意識が現在に戻り、不安による腎気の消耗を防げます。

思考停止ワーク(考えすぎの時)

考えすぎによる脾気の消耗を防ぐためのワークです。

「3-3-3ルール」: 考えすぎている時に:

  1. 3つ数える間に深呼吸
  2. 周りにある3つの物を見る
  3. 体の3箇所の感覚に意識を向ける

これにより思考の無限ループから抜け出せます。

年齢別・症状別の感情解放アプローチ

小学生(6〜12歳)の場合

この年代は言葉で感情を表現するのが難しいため、体を使った表現を中心とします。

推奨ワーク:

  • 大声を出す(屋外で10秒間、思いっきり叫ぶ)
  • 体を大きく動かす(ダンスやジャンプで感情表現)
  • 絵を描く(感情を色や形で表現)
  • 粘土こね(手の動きで感情を解放)

中学生(13〜15歳)の場合

思春期特有の複雑な感情を抱える年代。自分の感情を客観視できるワークが効果的です。

推奨ワーク:

  • 感情の名前付け(今感じている感情を具体的に言語化)
  • 手紙を書く(感情を相手への手紙として書き出す)
  • 音楽を聴きながらの感情解放(好きな音楽で感情と向き合う)
  • 友達との感情シェア(信頼できる友達との感情の共有)

高校生(16〜18歳)の場合

将来への不安が強くなる年代。長期的な視点での感情管理が重要です。

推奨ワーク:

  • 瞑想(10分間の静寂な時間で内観)
  • ジャーナリング(感情と向き合う本格的な日記)
  • 価値観の整理(自分にとって大切なものの明確化)
  • 未来への手紙(10年後の自分への励ましの手紙)

症状別の重点ワーク

朝起きられない子の場合

肝気鬱結による気の上昇阻害が原因。怒りや不満の解放を重視します。

重点ワーク:

  • 朝の怒り吐き出し(5分間の枕叩き)
  • 不満リスト作成(溜まっている不満を書き出す)
  • 境界設定練習(嫌なことに「NO」と言う練習)

立ちくらみが多い子の場合

心血不足と血液循環の問題。不安や恐怖の解放が効果的です。

重点ワーク:

  • 安心感の確認(安全な場所や人を思い浮かべる)
  • 恐怖の言語化(何が怖いのかを具体的に表現)
  • 成功体験の振り返り(過去にうまくいった経験を思い出す)

食欲不振の子の場合

脾気虚による消化機能低下。考えすぎや心配事の解放が必要です。

重点ワーク:

  • 心配事の分類(変えられることと変えられないことを分ける)
  • 完璧主義の緩和(60点でも良いという考え方の練習)
  • 楽しい記憶の想起(美味しい食事の記憶を思い出す)

家族ができる感情サポート

安全な感情表現の場づくり

子供が感情を安心して表現できる環境を作ることが最優先です。

具体的な方法:

  • 感情を否定しない(「そんなこと考えちゃダメ」と言わない)
  • 共感を示す(「そう感じるのは自然なことだよ」)
  • 解決策を急がない(まずは感情を受け止める)
  • 定期的な感情チェック(1日1回「今日はどんな気持ち?」)

感情表現のモデリング

親自身が感情を健康的に表現することで、子供も学習します。

実践例:

  • 親の感情も適度に表現する(「お母さんも今日は疲れているよ」)
  • 感情処理の方法を見せる(「ちょっと深呼吸してから話すね」)
  • 失敗を恐れない姿勢(「うまくいかないこともあるよね」)

専門的サポートの活用

感情解放ワークには限界もあります。以下の場合は専門家の協力を得ることも大切です。

相談のタイミング:

  • 2ヶ月以上ワークを続けても改善しない
  • 感情の起伏が激しすぎる
  • 自傷行為や他害行為が見られる
  • 家族関係が著しく悪化している

感情解放ワークの実践スケジュール

1週間の基本プログラム

月曜日:基本の呼吸法(朝・夜)+ 感情日記 火曜日:怒りの解放ワーク + 基本の呼吸法 水曜日:基本の呼吸法(朝・夜)+ グラウンディング 木曜日:悲しみの解放ワーク + 基本の呼吸法 金曜日:思考停止ワーク + 基本の呼吸法 土曜日:総合的な感情チェック + 好きなワーク 日曜日:休息日(基本の呼吸法のみ)

効果測定の方法

以下の項目を週1回チェックし、改善度を確認します:

  • 朝の起床時間(目標時間との差)
  • 立ちくらみの回数(1日あたり)
  • 食欲の状態(10段階評価)
  • 気分の安定度(10段階評価)
  • 学校生活への参加度(%)

3項目以上で改善が見られれば、ワークが効果的に働いている証拠です。

長期的な感情管理のポイント

感情パターンの認識

自分の感情パターンを理解することで、早期対処が可能になります。

パターン認識の方法:

  • 感情の引き金となる状況を把握
  • 感情が体に現れる部位の確認
  • 感情の持続時間の記録
  • 効果的だった対処法の整理

予防的な感情ケア

症状が出てから対処するのではなく、日常的な感情ケアを心がけます。

日常ケアの例:

  • 毎日5分間の感情チェック
  • 週1回の深い感情振り返り
  • 月1回の感情パターンの見直し
  • 季節の変わり目での感情調整

感情の成長

感情解放ワークを続けることで、感情との付き合い方が上達していきます。

成長の段階:

  1. 感情に気づく(自分の感情を認識できる)
  2. 感情を受け入れる(感情を否定しない)
  3. 感情を表現する(適切な方法で感情を出す)
  4. 感情を調整する(感情をコントロールできる)
  5. 感情を活用する(感情をエネルギーに変える)

まとめ:心と体の調和で根本改善を

起立性調節障害の改善には、体の治療だけでなく、心の治療も不可欠です。感情解放ワークにより、抑圧された感情を健康的に処理することで、体の症状も自然と改善していきます。

重要なのは、感情を敵視するのではなく、大切なメッセージとして受け取ること。怒り、悲しみ、不安、すべてが生きていく上で必要な感情です。それらを適切に表現し、解放することで、心身の調和が取り戻されるのです。

この20年間で学んだのは、「症状の奥には必ずメッセージがある」ということ。起立性調節障害は、子供たちの心からの「助けて」というサインなのかもしれません 💚

あなたのお子さんの心が発している「メッセージ」に、今日から耳を傾けてみませんか?