パニック障害で「倦怠感がずっとある」…東洋医学で見つける根本改善の道
長年の臨床経験の中で、多くの方々の心身の不調と向き合ってきましたが、近年、特に深く、そしてお悩みが深刻化していると感じるのが、パニック障害と、それに伴う「倦怠感がずっとある」という症状です。「パニック発作がない時でも、体が鉛のように重くて動けない」「朝起き上がれないし、何をしてもすぐに疲れてしまう」「この倦怠感が、いつまで続くんだろうと絶望してしまう」……そんな切実な声を聞くたびに、その方々の痛みに、私自身の心が締め付けられる思いです。現代医学では、パニック障害は自律神経の乱れ、倦怠感は疲労や精神的な問題として捉えられ、それぞれ専門的なアプローチが取られますね。もちろん、専門的な医療は非常に大切ですし、適切な治療を受けていらっしゃる方も多いでしょう。
しかし、東洋医学の視点から見ると、パニック障害もそれに伴う「倦怠感」も、単に別々の問題として捉えるだけでなく、体の中の「気(き)」や「血(けつ)」、そして五臓六腑のバランスが深く関わっていることが見えてきます。今日は、そんなパニック障害における「倦怠感」という苦しみを東洋医学でどう捉え、そして私が長年実践してきた気功の知見を交えながら、皆さまが心のざわつきを鎮め、内なる安心感と健やかさを取り戻し、朝から元気に活動できるための一助となれば幸いです。
パニック障害の東洋医学的な理解:気の暴走と心神の動揺
まず、パニック障害について、東洋医学の基本的な考え方からお話ししましょう。現代医学では、予期せぬパニック発作が繰り返し起こり、それに伴う強い不安や恐怖、回避行動を特徴とする精神疾患とされています。動悸、息苦しさ、めまい、しびれ、吐き気などの身体症状を伴うことが多く、死の恐怖を感じる方も少なくありません。
東洋医学では、パニック発作のような急激な症状を、「気の暴走」あるいは「心神の動揺」と捉えることができます。
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心(しん)の機能失調: 東洋医学における心は、精神活動、意識、思考を司る最も重要な臓腑の一つです。心に熱がこもったり、血が不足したりすると、心神が不安定になり、動悸や不安感、不眠といった症状が現れやすくなります。
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肝(かん)の気の滞り(肝鬱): ストレスや抑圧された感情、イライラなどが長く続くと、肝の気の巡りが滞ります。肝は全身の気の流れをスムーズにする役割を担っていますが、その働きが滞ると、気がうっ滞し、精神的な緊張感やイライラ感、焦燥感が増します。
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脾(ひ)の機能失調(脾気虚): 脾は消化吸収を司り、後天的な気血を生み出す源です。脾の機能が低下すると、気血が十分に生成されず、全身のエネルギー不足に陥り、倦怠感の大きな原因となります。
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腎(じん)の虚弱(腎精不足、腎陽虚): 腎は生命の源であり、先天の精を貯蔵し、骨や脳の働き、そして体を温める陽気を司ります。腎精が不足すると、深い疲労感や意欲の低下を引き起こします。
パニック障害における「倦怠感がずっとある」状態:東洋医学的な読み解き
さて、ここからが本題です。パニック障害の患者さんの中には、発作がない時でも「倦怠感がずっとある」と訴える方が多くいらっしゃいます。東洋医学の観点から見ると、この症状が起こる背景には、単なる精神的な問題だけでなく、特定の臓腑の偏りや、気の巡りの特徴的な乱れが深く関わっていると考えることができます。
この「倦怠感がずっとある」状態は、まるで体という車が、ガソリンもバッテリーも足りないまま停滞しているようなものです。動かそうにも動かせない、そんな感覚に近いかもしれません。
「倦怠感がずっとある」という症状の背景には、主に以下の要因が複合的に絡み合っていると考えられます。
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脾気虚(ひききょ)と気血の極端な不足:「気力」の源の枯渇
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東洋医学において、脾は消化吸収を司り、全身のエネルギーである「気」と「血」を生み出す最も重要な臓腑です。パニック発作を抱える方は、発作による心身へのダメージや、発作への恐怖からくるストレス、あるいは不規則な食事や睡眠不足によって、この脾の機能が著しく消耗されます。
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脾の気が虚弱になると、食べ物から必要な気血を十分に作り出せなくなり、全身のエネルギー不足に陥ります。その結果、体が重だるく、倦怠感がひどく、朝起き上がれないといった身体症状が現れます。
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以前、中学2年生のお子さんが「朝起きても体が鉛みたいに重くて、布団から出られない。日中もすぐに疲れて横になりたがるし、何をしてもやる気が出ない」とお話しされていました。彼は偏食がひどく、胃腸も弱く、まさしく脾気虚による気血の枯渇が顕著でした。
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腎精不足(じんせいぶそく)と腎陽虚(じんようきょ):「根本的な活力」の不足
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腎は生命の源であり、先天の精(生命エネルギーの根源)を貯蔵します。パニック障害による長期的なストレス、不眠、過労は、この腎の精気を著しく消耗させます。
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腎精不足や腎陽虚になると、生命力が低下し、深いレベルでの倦怠感、集中力低下、そして「やる気が出ない」という状態がさらに深刻になります。これは、単なる肉体疲労を超えた、生命エネルギーの枯渇状態です。
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眠っても体が回復しないのは、生命の根源的な力が消耗しているためです。朝、体が冷えて起きられない、冬場に症状が悪化しやすい、といった特徴も伴うことがあります。
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以前、ある方が「もう何年もパニック発作に苦しんでいて、体がボロボロ。腰や膝もだるいし、なんだか物忘れもひどくなってきた。何もする気になれないし、この倦怠感がいつまで続くのかと絶望します」とお話しされていました。まさしく腎精不足による深い疲労と倦怠感が顕著でしたね。思わず「それはお辛いでしょう」と心の中でつぶやきました。
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肝鬱気滞(かんうつきたい)と気の停滞:「感情の停滞」が身体を重くする
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パニック発作への恐怖や、人前で症状が出るのではないかという予期不安、あるいは社会活動が制限されることへの不満や怒りといった感情の抑圧は、肝の気の巡りを滞らせ、「肝鬱」を引き起こします。
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肝は全身の気の流れをスムーズにする役割を担っていますが、その機能が滞ると、気が鬱滞し、発散されにくくなります。この気の停滞は、体が重だるい、頭が重いといった身体症状として現れ、倦怠感を増幅させます。
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イライラ、焦燥感、鬱々とした気分といった精神的な停滞感も伴うことが多いです。
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痰湿内蘊(たんしつないうん):「体内の湿気」が体を重くする
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飲食の不摂生(特に脂っこいもの、甘いもの、冷たいものの摂りすぎ、食べ過ぎ)によって、消化器系である脾胃に負担がかかり、体内に「湿気(湿邪)」と「痰(たん)」がこもりやすい体質を作り出します。
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この痰湿は、気の巡りを阻害し、全身に停滞すると「体が重だるい」「鉛のように体が動かせない」といった症状として現れます。体内に余分な水分があると、気血の巡りがさらに悪くなり、回復を阻害します。
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以前、高校生のお子さんが「体が重だるくて、朝起きられないし、何をしてもすぐに疲れる。頭もモヤモヤしてスッキリしない」とお話しされていました。彼は普段から胃腸が弱く、むくみやすいとのこと。まさしく痰湿内蘊による体の重だるさが顕著でしたね。
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このように、パニック障害における「倦怠感がずっとある」状態は、単なる気の持ちようの問題や怠けではなく、東洋医学的な視点からは、脾、腎、肝、心といった複数の臓腑の機能失調と、それに伴う気血精の不足、痰湿、気の滞り、熱といった邪気の停滞が複雑に絡み合って生じていると考えることができます。だからこそ、表面的な症状の緩和だけでなく、体の中から根本的にバランスを整え、活力を育む東洋医学的なアプローチが有効なのです。
気功が導く、心身の調和と「気力の回復」への道筋
私が長年、多くの患者さんに指導し、その効果を実感してきたのが気功です。気功は、呼吸、姿勢、そして意識を合わせることで、私たちの中に流れる気を整え、心身のバランスを取り戻す養生法です。薬のように即効性があるわけではありませんが、継続することで、根本的な体質改善へと導いてくれます。手技は一切使いませんが、その効果は多くの患者さんが証明しています。
パニック障害において「倦怠感がずっとある」ことにお悩みの方にとって、気功はまさに心強い味方となり得るでしょう。その理由は、気功が東洋医学的な根本原因に直接アプローチし、心身の活力を高め、体の重だるさを軽減することに特化しているからです。
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脾胃を健やかにし、気血を生成し、活動エネルギーを養う:
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気の枯渇は、倦怠感の根本原因です。気功の呼吸法とゆったりとした動作は、脾胃の機能を高め、消化吸収を助ける効果を期待できます。脾胃が健やかになれば、必要な気と血が効率的に生成され、心身のエネルギーが満たされ、倦怠感が軽減され、体の中から活力が湧いてくるのを感じられるでしょう。
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これにより、朝起き上がる力が湧き、日中の活動に意欲が持てるようになります。
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腎精と腎陽を補い、生命力を回復し、「根本的な活力」を育む:
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腎精不足や腎陽虚による根本的な活力の不足は、倦怠感を深めます。気功は腎の機能を高め、腎精と腎陽を養うことにもつながります。
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腎精と腎陽が補われることで、生命力が回復し、深いレベルでの疲労感が改善されます。これにより、体が内側から温まり、活動への「根本的なやる気」が育まれます。朝の目覚めが良くなり、日中の集中力も向上します。
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体内の痰湿を解消し、体を軽くする:
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痰湿の停滞は、体の重だるさの大きな原因です。気功の呼吸法と動作は、脾胃の機能を高め、体内の水分代謝を改善し、余分な痰湿を排出する助けとなります。
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湿気や老廃物が解消されれば、体が軽くなり、頭のモヤモヤもスッキリし、倦怠感が改善されることが期待できます。
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気の巡りを整え、肝の気の滞りを解消し、自律神経を安定させる:
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ストレスによる肝の気の滞りは、倦怠感や精神的な停滞感を増幅させます。気功のゆったりとした動きと深い呼吸法は、全身の気の巡りをスムーズにし、停滞した気を流し、体の中心へと落ち着かせるのに役立ちます。
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肝の気の滞りが解消されれば、イライラや焦燥感、鬱々とした気分といった感情の停滞が解き放たれ、心が軽くなります。自律神経が自らバランスを取り戻し、身体の動きがスムーズになります。
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継続的な気功の実践は、その方(お子さん)の体質そのものを良い方向へと導き、「倦怠感がずっとある」状態を改善してくれるでしょう。良い土壌ができれば、自然と良い作物が育つように、体質が改善すれば、本来の活き活きとした日常を送れるようになるのです。
日常でできる養生と気功のヒント:「ダルさ」から解放され、健やかな日常のために
パニック障害における「倦怠感がずっとある」状態を改善し、活力を取り戻すために、日常生活でできる養生と、手軽にできる気功のヒントをお伝えします。これは、ご自身で実践できる「セルフケア」の柱となるものです。
食養生で心身の土台を作る:体を温め、湿気を排出し、栄養を補う食事
食事は、私たちの体を作り、気を生み出す源です。特に脾胃を健やかにし、気血を補い、腎を養い、肝の気をスムーズにし、体内の湿熱を減らす食事を心がけましょう。
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気血を補う食材:米、もち米、山芋、なつめ、竜眼肉(ドライフルーツ)、ほうれん草、人参、鶏肉、牛肉、レバー、卵など。これらは脾胃の機能を高め、気血を生成し、朝の目覚めや日中の活動に必要なエネルギーを供給します。特に、ゆっくりと煮込んだおかゆやスープは、消化吸収が良く、心身に優しくエネルギーを供給します。
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腎を補い、体を温める食材:黒ごま、黒豆、くるみ、山芋、海藻類(特に昆布、わかめ)、エビ、豚肉、羊肉(体を温める効果)など。腎精を補い、体の根源的なエネルギーを高め、深いレベルでの疲労回復を促し、倦怠感を軽減します。
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体内の湿気を排出する食材:ハトムギ、緑豆、冬瓜、大根、きゅうり、とうもろこし、枝豆、小豆など。これらは利水作用があり、体内の余分な湿気を排出する助けになります。体が重だるい時に積極的に摂りましょう。
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気の巡りを良くする食材:ミカンや柚子などの柑橘類、セロリ、春菊、シソ、香草など。香り高い野菜や果物は、気の滞りを解消する助けになります。頭痛や腹痛、イライラ、そして倦怠感がある時に良いでしょう。
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刺激物を避ける:辛いもの、脂っこいもの、揚げ物、コーヒー、アルコール、チョコレート、乳製品、甘いもの(特に白砂糖を使ったもの)、香辛料は、胃腸に負担をかけ、痰湿や熱を生み出し、肝火を助長するため、控えめにしましょう。これらは自律神経の乱れや体内の熱を増幅させ、倦怠感をさらに深める可能性が高いです。日中に12杯のコーヒーを飲んでいる方も、控えることが大切です。
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規則正しい食事:毎日決まった時間に食事を摂ることで、胃腸のリズムが整いやすくなります。寝る前の食事は消化器系に負担をかけ、痰湿をこもらせるので、就寝の2~3時間前までには済ませるのが理想ですし、軽い消化の良いものにしましょう。
心身のリラックスを促す習慣:自律神経と心の安定を
倦怠感を改善し、心の穏やかさを育むためには、心身がリラックスできる環境を整え、ストレスを適切に管理することが不可欠です。
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質の良い睡眠を確保:睡眠は脳と体の回復に最も重要です。十分な睡眠時間を確保し、規則正しい睡眠リズムを心がけましょう。寝室は静かで暗く、適度な温度に保ちます。スマートフォンやパソコン、ゲームのブルーライトは脳を興奮させるため、寝る2時間前からは使用を控えるのが理想。
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ストレス管理:ストレスはパニック障害と倦怠感の大きな引き金となります。趣味の時間を持つ、好きな音楽を聴く、軽い運動をする、友人との会話を楽しむなど、自分なりのストレス解消法を見つけ、こまめに実践しましょう。
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規則正しい生活:毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる。これはシンプルですが、体内時計を整える上で非常に重要です。週末の寝だめは、かえってリズムを崩してしまうことがあります。規則正しいリズムは、心身の安定につながり、倦怠感の軽減にも役立ちます。
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軽い運動と自然との触れ合い:ウォーキングやストレッチ、ヨガなど、軽い運動は気の巡りを良くし、心身のリラックス効果を高めます。特に、自然の中で行うウォーキングは、気の巡りを改善し、体を軽くし、自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。ただし、体が重だるい時やめまいがひどい時は無理せず、横になって休むことも大切です。激しい運動は症状を悪化させることがあるので、無理のない範囲で、汗をかきすぎない程度にしましょう。
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入浴習慣:就寝の1時間前くらいに、38~40℃くらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かりましょう。湯船に浸かることで副交感神経が優位になり、リラックス効果が高まります。発汗を促し、体内の湿気を排出する助けにもなります。
気功で気を巡らせ、心を穏やかに、活力を回復:ご自身でできる実践法
ここでは、ご自宅で簡単にできる気功のヒントをいくつかご紹介します。難しい型を覚える必要はありません。大切なのは、呼吸と意識を集中させることです。無理のない範囲で、短い時間から始めてみてください。
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静坐瞑想:
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椅子に座るか、床にあぐらをかいて座ります。背筋を軽く伸ばし、肩の力を抜いてリラックスします。
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軽く目を閉じ、意識を呼吸に集中させます。鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出す。
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呼吸のたびに、体が緩んでいくのを感じ、心の中のざわつきが次第に収まっていくのをイメージします。
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5分から始めて、慣れてきたら15分程度行ってみましょう。特に体が重だるい時や、心が落ち着かない時に行うと、体が軽くなる感覚を得られるでしょう。
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抱球式の簡易版:
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軽く膝を緩めて立ちます。両腕を胸の前で軽く曲げ、まるで大きなボールを抱えているような形を作ります。
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肩の力を抜き、腕の間に空間があるのを意識します。
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呼吸は自然に任せ、体の中心に意識を集中します。
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数分間、この姿勢を保つだけでも、気の巡りが良くなり、心身が安定するのを感じられるでしょう。特に、体がだるくて動けない時や、パニック発作への不安で心が落ち着かない時に試してみてください。
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吐納法:
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楽な姿勢で座るか、立ちます。
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鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を軽く膨らませます。
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口をすぼめ、「フーッ」と細く長く息を吐き出します。息を吐き出す時に、体の中の不要なもの、ストレス、不安、胸の苦しさ、頭の重さ、そして体の重だるさ、疲労が全部出ていくイメージで行います。
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これを10回程度繰り返します。特に体が重だるい時や、精神的な停滞感がある時に行うと、リラックス効果が高まり、気の滞りが解消されやすくなります。
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足底への意識集中(グラウンディング):
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椅子に座るか、立った状態で、足の裏全体が地面にしっかりついているのを感じます。
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呼吸をするたびに、頭のてっぺんから新鮮な気が入り、足の裏から余分な気が抜けていくイメージを持ちます。
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特に、めまいや立ちくらみがする時、体がフワフワする時、あるいは体が重だるく地に足が付かないような感覚がある時に有効です。気を下に下ろす効果が期待できます。体に溜まった湿気を下ろし、安定感を取り戻す助けになります。
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パニック障害における「倦怠感がずっとある」という症状は、単なる気の持ちようの問題や怠けではなく、心身全体の気の巡りや臓腑のバランスが深く関わっている症状です。東洋医学の深い知恵と気功の実践を通して、ご自身の内なる力を引き出し、本来の健やかさと心の平和、そして疲労に悩まされない穏やかな日常を取り戻すことができると信じています。
私もこの20年、多くの患者さんが、ご自身の体と心の声に耳を傾け、地道な努力を続けることで、倦怠感が和らぎ、症状が改善し、笑顔が増え、充実した日常を取り戻していく姿を目の当たりにしてきました。その回復力は、本当に素晴らしいものがあります。
あなたも、ご自身の心と体に寄り添い、真の平穏への扉を開いてみませんか?