過敏性腸症候群+生理痛に悩む女性へ|東洋医学と食養生で腸と体を整える

長年の臨床経験の中で、多くの方々の心身の不調と向き合ってきましたが、近年、特に深く、そしてお悩みが深刻化していると感じるのが、過敏性腸症候群(IBS)と、それに伴う「生理」の悩みです。「生理前になると、お腹が痛くなって下痢や便秘を繰り返す」「生理の期間中は、体調が悪すぎて仕事や学校に行けない」「この苦しみが毎月来ると思うと、本当に憂鬱で仕方ない」……そんな切実な声を聞くたびに、その方々の痛みに、私自身の心が締め付けられる思いです。現代医学では、過敏性腸症候群は脳腸相関の不調、生理に伴う不調はPMS(月経前症候群)やホルモンバランスの変化として捉えられ、それぞれ専門的なアプローチが取られますね。もちろん、専門的な医療は非常に大切ですし、適切な治療を受けていらっしゃる方も多いでしょう。

しかし、東洋医学の視点から見ると、過敏性腸症候群もそれに伴う「生理の不調」も、単に別々の問題として捉えるだけでなく、女性の体と深く関わる「気(き)」や「血(けつ)」、そして五臓六腑のバランスが深く関わっていることが見えてきます。今日は、そんな過敏性腸症候群における「生理の不調」という苦しみを東洋医学でどう捉え、そして私が長年実践してきた気功の知見を交えながら、皆さまが心のざわつきを鎮め、内なる安心感と健やかさを取り戻し、穏やかな日常を送るための一助となれば幸いです。

過敏性腸症候群の東洋医学的な理解:気の乱れと臓腑の機能失調

まず、過敏性腸症候群(IBS)について、東洋医学の基本的な考え方からお話ししましょう。現代医学では、腸に炎症や病変がないにもかかわらず、腹痛や腹部の不快感を伴う便通異常が慢性的に続く状態とされています。

東洋医学には「過敏性腸症候群」という直接的な病名はありませんが、その症状の背景にあるメカニズムを、体内の「気」や「血」、そして五臓六腑のバランスの乱れとして捉えます。

  • 脾(ひ)の機能失調: 脾は消化吸収を司り、飲食物から気血を生み出す源です。脾の機能が低下すると、消化不良、腹痛、便通異常(下痢や便秘)などを引き起こします。また、体内の水分の運化(代謝・輸送)も主るため、脾が弱ると、余分な水分が停滞し、「湿(しつ)」という邪気(病気の原因となるもの)を生み出します。

  • 肝(かん)の気の滞り(肝鬱): ストレスや抑圧された感情、イライラなどが長く続くと、肝の気の巡りが滞ります。肝は全身の気の流れをスムーズにする役割を担っていますが、その働きが滞ると、気のうっ滞が消化器系にも影響を及ぼし、腹痛や便通異常、吐き気として現れます。

  • 心(しん)の機能失調: 心は精神活動を司ります。心に熱がこもったり、血が不足したりすると、心神が不安定になり、不安感、動悸、不眠などを引き起こし、これが自律神経の乱れを介して腸の不調を悪化させます。

  • 腎(じん)の虚弱: 腎は生命の源であり、体を温める陽気を司ります。腎の陽気が不足すると、胃腸が冷え、消化能力が低下し、下痢を繰り返したり、冷えと腹痛を伴ったりすることがあります。

過敏性腸症候群における「生理の不調」:東洋医学的な読み解き

さて、ここからが本題です。過敏性腸症候群が、特に生理前に悪化したり、再燃したりする背景には、東洋医学的な観点から見ると、女性の生理周期と深く関連する「肝(かん)」と「血(けつ)」の変動が深く関わっていると考えます。

女性の体は、東洋医学では「血」と「肝」に深く関連すると考えます。生理周期は、肝が血を貯蔵し、血の出し入れをスムーズに行うことで成り立っています。この周期に合わせて心身のバランスが変動しやすいのは、自然なことではありますが、そのバランスが崩れると、生理前に様々な不調が現れるのです。

この「生理の不調」は、まるで毎月決まった時期に、体という建物の中で気の流れが滞り、血のバランスが不安定になり、そのひずみが心(精神)と腸にまで影響を及ぼし、不調として表面に現れるようなものです。

「生理の不調」という症状の背景には、主に以下の要因が複合的に絡み合っていると考えられます。

  1. 肝鬱気滞(かんうつきたい)と肝気犯脾(かんきはんひ):「気の滞り」と「怒りの炎」が体調を揺るがす

    • 東洋医学において、肝は感情のコントロールや気の巡りを司ります。生理前は、生理に向けて血が子宮に集まるため、相対的に全身の血が不足し、肝の気が滞りやすい時期です。

    • この肝の気の滞り(肝鬱)に、ストレス、睡眠不足、不満などが加わると、イライラ、焦燥感、怒りっぽさといった精神症状が現れます。気のうっ滞が熱に変化し(肝鬱化火)、心に影響を与え、心神が興奮状態になり、動悸や不安感、不眠へとつながります。

    • この肝の気の滞りは、消化器系を攻撃すると「肝気犯脾(かんきはんひ)」という状態になり、お腹が張る、腹痛、便通異常(下痢と便秘の繰り返し)、吐き気といった過敏性腸症候群の症状を悪化させます。

    • 特に、生理前にイライラしやすい、胸や脇が張る、頭痛、不眠などを伴う方は、この肝鬱気滞が強く関わっていると考えられます。まるで、毎月決まった時期に、体の中で怒りの炎が燃え上がり、それが心臓や腸へと飛び火しているようなものです。

    • 以前、ある方が「生理の1週間前になると、必ず心臓がバクバクするし、お腹が痛くなって下痢をする。イライラもひどくなって、もう生理前が怖くて仕方ないんです」とお話しされていました。まさしく生理前の肝鬱気滞による症状悪化の典型例でしたね。

  2. 血虚(けっきょ)と陰虚(いんきょ):「血の不足」と「潤い不足」による心の不安定さ

    • 生理前は、生理に向けて血が子宮に集まるため、全身の血が相対的に不足しやすい時期です。過敏性腸症候群を抱える方の中には、もともと血が不足している「血虚」体質であることが多いため、生理前は特に血の不足が顕著になります。

    • 血は心を養う大切な物質です。血が不足すると心に十分な栄養が行き渡らなくなり、心神が不安定になります。この心神の不安定さが、漠然とした不安感、不眠、そして動悸やめまいといった症状を悪化させます。

    • また、陰液が不足すると、相対的に熱が優位になり、虚熱が生じ、イライラ、ほてり、寝汗などを伴う不眠につながります。

  3. 脾気虚(ひききょ)と水湿(すいしつ)停滞:「体内の湿気」と「気力の不足」

    • 生理前は、体内に水分が溜まりやすい時期でもあります。脾胃の機能が弱かったり、飲食の不摂生があったりすると、体内に「痰湿」が停滞しやすくなります。

    • この痰湿は、体が重だるい、頭が重い、むくみ、吐き気、胃のむかつきといった症状を引き起こし、過敏性腸症候群の症状を悪化させます。特に、腹部の張りや腹痛、便通異常を伴うことがあります。

    • 以前、ある方が「生理前になると、体がむくんで重だるいし、お腹も張って苦しい。気分も落ち込むし、もうどうしたらいいか分からない」とお話しされていました。まさしく脾気虚と水湿停滞による症状悪化の典型例でしたね。

このように、過敏性腸症候群における「生理の不調」は、単なる生理前の不調や気の持ちようの問題ではなく、東洋医学的な視点からは、肝、脾、心、腎といった複数の臓腑の機能失調と、それに伴う血の変動、熱、湿、気の不足といった邪気の停滞が複雑に絡み合って生じていると考えることができます。特に、女性特有の生理周期における「血」と「肝」のバランスの変動が大きな鍵となります。

気功が導く、心身の調和と「生理前の安定」への道筋

私が長年、多くの方々に指導し、その効果を実感してきたのが気功です。気功は、呼吸、姿勢、そして意識を合わせることで、私たちの中に流れる気を整え、心身のバランスを取り戻す養生法です。薬のように即効性があるわけではありませんが、継続することで、根本的な体質改善へと導いてくれます。手技は一切使いませんが、その効果は多くの患者さんが証明しています。

過敏性腸症候群において「生理の不調」でお悩みの方にとって、気功はまさに心強い味方となり得るでしょう。その理由は、気功が東洋医学的な根本原因に直接アプローチし、女性の体と深く関わる肝と血のバランスを整え、体内の熱や湿、気の滞りを調整し、心身のバランスを回復させることに特化しているからです。

  1. 気の巡りを整え、肝の気の滞りを解消し、心と腸の緊張を解き放つ:

    • 生理前の不調の根本原因である肝の気の滞りや気の逆流に対して、気功は非常に有効です。気功のゆったりとした動きと深い呼吸法は、全身の気の巡りをスムーズにし、停滞した肝の気を流し、特に胸部や腹部に停滞した気を解き放つのに役立ちます。これにより、腹部の張りや腹痛が軽減され、心と腸が同時に落ち着きを取り戻します。

    • 肝の気の滞りが解消されれば、イライラや焦燥感、精神的な不安定さといった感情の停滞も解き放たれ、心が軽くなります。

  2. 脾胃を健やかにし、気血を生成し、腸と心のエネルギーを供給する:

    • 気血の不足は、腹部の不調と共に心の不安定さを誘発します。気功の呼吸法とゆったりとした動作は、脾胃の機能を高め、消化吸収と気血の生成を助ける効果を期待できます。脾胃が健やかになれば、心身のエネルギーが満たされ、特に腸の働きが整い、便通異常や腹痛、心の不安が軽減されます。

  3. 体内の湿熱と血の滞りを解消する:

    • 湿熱内蘊によるお腹の不調に対して、気功は非常に有効です。気功の気の巡りを整える働きは、体内の余分な湿気を排出し、熱を冷ます助けとなります。また、血の流れをスムーズにすることで、腹痛や便通異常が改善に向かいます。

  4. 自律神経のバランスを調整し、心身の過緊張を解く:

    • 生理前の女性は、ホルモンバランスの変動も相まって自律神経が乱れやすい状態にあります。気功の深い腹式呼吸や、ゆったりとした動作は、副交感神経を優位に導き、心身を深いリラックス状態へと誘います。

    • これにより、自律神経の乱れが整い、心身の過緊張が和らぎ、パニック発作の症状や生理前の不調が軽減され、質の良い睡眠が取れるようになることが期待できます。これは、夜寝る前に12杯のコーヒーを飲んでも眠れなかった人が、穏やかに眠りにつけるようになるようなものです。

継続的な気功の実践は、その方の体質そのものを良い方向へと導き、「生理の不調」を改善してくれるでしょう。良い土壌ができれば、自然と良い作物が育つように、体質が改善すれば、毎月のつらい時期を穏やかに過ごせるようになるのです。

日常でできる養生と気功のヒント:毎月の穏やかさと健やかな日常のために

過敏性腸症候群における「生理の不調」という苦しみを改善し、心の穏やかさを取り戻すために、日常生活でできる養生と、手軽にできる気功のヒントをお伝えします。これは、ご自身で実践できる「セルフケア」の柱となるものです。

食養生で心身の土台を作る:心臓と胃腸に優しく、気を巡らせる食事

食事は、私たちの体を作り、気を生み出す源です。特に肝、心、脾、腎を養い、気血を補い、熱と湿を減らす食事を心がけましょう。

  • 肝の気をスムーズにする食材:ミカンや柚子などの柑橘類、セロリ、春菊、シソ、香草など。香り高い野菜や果物は、気の滞りを解消し、怒りやイライラ、感情の停滞を穏やかにする助けになります。生理前には特に意識して摂りましょう。

  • 血を補う食材:レバー、ほうれん草、人参、プルーン、なつめ、竜眼肉(ドライフルーツ)、黒豆、ごま、鶏肉、魚(特に赤身魚)など。これらは血を補い、心の栄養を補強し、肝の機能を助け、気の巡りをスムーズにします。生理前は血の消耗も意識して摂りましょう。

  • 脾胃を健やかにし、気血を生成する食材:米、もち米、山芋、蓮根、大豆製品、かぼちゃ、キャベツなど。これらは消化に良く、心身に優しくエネルギーを供給します。特に、ゆっくりと煮込んだおかゆやスープは、消化吸収が良く、心身に優しくエネルギーを供給します。

  • 湿熱を減らす食材:ハトムギ、緑豆、冬瓜、大根、きゅうり、緑豆など。これらは利水作用や熱を冷ます作用があり、体内の余分な湿や熱を排出する助けになります。生理前のむくみや体が重だるい時に良いでしょう。

  • 刺激物を避ける:辛いもの、脂っこいもの、揚げ物、コーヒー、アルコール、チョコレート、乳製品、甘いもの(特に白砂糖を使ったもの)、香辛料は、胃腸に負担をかけ、痰や熱を生み出し、肝火や心火を助長するため、控えめにしましょう。これらは自律神経の乱れや体内の熱を増幅させ、生理前の不調をさらに強める可能性が高いです。日中に12杯のコーヒーを飲んでいる方も、生理前は控えることが大切です。

  • 規則正しい食事と食べ方:毎日決まった時間に食事を摂ることで、胃腸のリズムが整いやすくなります。少量ずつ、よく噛んでゆっくり食べましょう。寝る前の食事は消化器系に負担をかけ、気の滞りを生み出すので、就寝の2~3時間前までには済ませるのが理想ですし、軽い消化の良いものにしましょう。

心身のリラックスを促す習慣:自律神経と心の安定を

生理前の症状を改善し、心の穏やかさを育むためには、心身がリラックスできる環境を整え、ストレスを適切に管理することが不可欠です。

  • 質の良い睡眠を確保:睡眠は腸の回復と心身の回復に最も重要です。十分な睡眠時間を確保し、規則正しい睡眠リズムを心がけましょう。寝室は静かで暗く、適度な温度に保ちます。スマートフォンやパソコン、ゲームのブルーライトは脳を興奮させるため、寝る2時間前からは使用を控えるのが理想(特に生理前に感情が不安定になる方には必須です)。

  • ストレス管理:ストレスは過敏性腸症候群と生理前の不調の大きな引き金となります。趣味の時間を持つ、好きな音楽を聴く、軽い運動をする、友人との会話を楽しむなど、自分なりのストレス解消法を見つけ、こまめに実践しましょう。

  • 規則正しい生活:毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる。これはシンプルですが、体内時計を整える上で非常に重要です。週末の寝だめは、かえってリズムを崩してしまうことがあります。規則正しいリズムは、心身の安定につながり、症状の軽減にも役立ちます。

  • 軽い運動と自然との触れ合い:ウォーキングやストレッチ、ヨガなど、軽い運動は気の巡りを良くし、腸の動きを促し、心身のリラックス効果を高めます。特に、自然の中で行うウォーキングは、気の巡りを改善し、心を落ち着かせ、自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。ただし、激しい運動は症状を悪化させることがあるので、生理前は無理のない範囲で、汗をかきすぎない程度にしましょう。

  • 入浴習慣:就寝の1時間前くらいに、38~40℃くらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かりましょう。湯船に浸かることで副交感神経が優位になり、リラックス効果が高まります。

気功で気を巡らせ、心を穏やかに、活力を回復:ご自身でできる実践法

ここでは、ご自宅で簡単にできる気功のヒントをいくつかご紹介します。難しい型を覚える必要はありません。大切なのは、呼吸と意識を集中させることです。無理のない範囲で、短い時間から始めてみてください。

  1. 静坐瞑想:

    • 椅子に座るか、床にあぐらをかいて座ります。背筋を軽く伸ばし、肩の力を抜いてリラックスします。

    • 軽く目を閉じ、意識を呼吸に集中させます。鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出す。

    • 呼吸のたびに、体が緩んでいくのを感じ、心の中のざわつきが次第に収まっていくのをイメージします。

    • 5分から始めて、慣れてきたら15分程度行ってみましょう。特に腹部の不快感や、生理前の不調が気になる時、心が落ち着かない時に行うと、心が落ち着きやすくなります。

  2. 揉腹(じゅうふく)法:

    • 仰向けに寝て、膝を軽く立てます。

    • 両手のひらを重ねておへそに置き、ゆっくりと時計回りに円を描くように優しくお腹をマッサージします。

    • 呼吸は自然に任せ、お腹の温かさや、手のひらから伝わる「気」を感じるように意識します。

    • 5分~10分程度行います。これは、脾胃の機能を高め、気の流れを整え、腹部の張りの軽減と便通をスムーズにする効果が期待できます。

  3. 吐納法:

    • 楽な姿勢で座るか、立ちます。

    • 鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を軽く膨らませます。

    • 口をすぼめ、「フーッ」と細く長く息を吐き出します。息を吐き出す時に、体の中の不要なもの、ストレス、不安、胸の苦しさ、頭の重さ、そして生理前の不調やイライラなどが全部出ていくイメージで行います。

    • これを10回程度繰り返します。特に精神的な緊張がある時に行うと、リラックス効果が高まり、気の滞りが解消されやすくなります。

  4. 足底への意識集中(グラウンディング):

    • 椅子に座るか、立った状態で、足の裏全体が地面にしっかりついているのを感じます。

    • 呼吸をするたびに、頭のてっぺんから新鮮な気が入り、足の裏から余分な気が抜けていくイメージを持ちます。

    • 特に、めまいや立ちくらみがする時、体がフワフワする時、あるいは腹部の不快感で地に足が付かないような感覚がある時に有効です。気を下に下ろす効果が期待できます。脳の興奮を鎮め、地に足をつけ、安定感を取り戻す助けになります。

過敏性腸症候群における「生理の不調」という症状は、単なる気の持ちようの問題や精神的な問題だけでなく、心身全体の気の巡りや臓腑のバランスが深く関わっている症状です。東洋医学の深い知恵と気功の実践を通して、ご自身の内なる力を引き出し、本来の健やかさと心の平和、そして穏やかな日常を取り戻すことができると信じています。

私もこの20年、多くの患者さんが、ご自身の体と心の声に耳を傾け、地道な努力を続けることで、症状が改善し、笑顔が増え、充実した日常を取り戻していく姿を目の当たりにしてきました。その回復力は、本当に素晴らしいものがあります。

あなたも、ご自身の心と体に寄り添い、真の平穏への扉を開いてみませんか?