繰り返すめまいの原因と改善法|東洋医学と気功で根本から整える
長年の臨床経験の中で、多くの方々の心身の不調と向き合ってきましたが、近年、特に深く、そしてお悩みが深刻化していると感じるのが、めまいと、その症状が「繰り返す」という苦しみです。「一度は良くなったはずなのに、また急に目が回るようなめまいがする」「フワフワした感覚が癖になって、いつまで続くのかと不安で仕方ない」「この症状のせいで、またいつ倒れるか分からない恐怖に怯えている」……そんな切実な声を聞くたびに、その方々の痛みに、私自身の心が締め付けられる思いです。現代医学では、繰り返すめまいはメニエール病や自律神経の乱れ、あるいは特定の病態として捉えられ、薬物療法やリハビリテーションなどでアプローチされますね。もちろん、専門的な医療は非常に大切ですし、適切な診断と治療を受けていらっしゃる方も多いでしょう。
しかし、東洋医学の視点から見ると、この「繰り返すめまい」は、単に精神的な問題だけでなく、体の中の「気(き)」や「血(けつ)」、そして五臓六腑のバランスが深く関わっていることが見えてきます。そして、そのバランスを整えることが、めまいの再発を防ぎ、根本的な改善へと繋がるのです。今日は、そんなめまいにおける「繰り返す」という苦しみを東洋医学でどう捉え、そして私が長年実践してきた気功の知見を交えながら、皆さまが心のざわつきを鎮め、内なる安心感と健やかさを取り戻し、穏やかな日常を送るための一助となれば幸いです。
めまいの東洋医学的な理解:気の乱れと臓腑の機能失調
まず、めまいについて、東洋医学の基本的な考え方からお話ししましょう。めまいは、単に「目が回る」という現象にとどまらず、私たちの心と体のバランスが崩れているサインだと捉えます。特に、頭部や脳、そして精神活動を司る臓腑の不調が深く関わっています。
東洋医学では、めまいの背景にあるメカニズムを、体内の「気」や「血」、そして五臓六腑のバランスの乱れとして捉えます。
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気(き)の不足(気虚): 気は生命活動のエネルギーであり、体を持ち上げ、臓腑の働きを維持する力です。気が不足すると、頭部への気の巡りが不十分になるため、フワフワするようなめまいが現れやすくなります。
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血(けつ)の不足(血虚): 血は全身に栄養を与え、精神活動を支える物質です。血が不足すると、脳への栄養供給が不十分になり、立ちくらみ、めまい、動悸、顔色不良、記憶力低下などを引き起こします。
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陰(いん)の不足(陰虚): 陰は体の潤いや物質的な要素を指します。陰が不足すると、相対的に陽(熱)が優位になり、ほてり、口の渇き、動悸、不眠、あるいは精神的な不安定さとして現れることがあります。
これらの気血陰の不足に加え、以下の臓腑の機能失調が深く関わっていると考えます。
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肝(かん)の機能失調: 東洋医学において、肝は気の巡りをスムーズにする役割を担っています。肝の働きが乱れると、気のうっ滞や、それが熱に変化した「肝火」、あるいは「肝風」を生み出し、めまい、頭痛、イライラとして現れます。
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脾(ひ)の機能失調: 脾は消化吸収を司り、後天的な気血を生み出す源です。脾の機能が低下すると、気血が十分に生成されず、全身のエネルギー不足に陥り、めまいの大きな原因となります。
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腎(じん)の虚弱: 腎は生命の源であり、先天の精を貯蔵し、骨や脳の働きを司ります。腎精が不足すると、脳への栄養が不十分になり、めまい、耳鳴り、集中力低下などを引き起こします。
「繰り返すめまい」の東洋医学的な読み解き
さて、ここからが本題です。めまいが「繰り返す」のは、単なる気の持ちようの問題として片付けられない、深い心身のバランスの乱れが背景にあると、東洋医学では考えます。
この「繰り返すめまい」は、まるで修理したはずの建物が、新たな負荷や地震で再びひび割れてしまうようなもの。根本的な地盤(体質)がまだ脆弱だったり、外部からの衝撃(ストレス)が強すぎたりした場合に起こりやすくなります。
「繰り返すめまい」という症状の背景には、主に以下の要因が複合的に絡み合っていると考えられます。
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気の滞り(気滞)と気の逆流(気逆)が慢性化している:
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めまいの多くの症状は、気の滞りや逆流によって引き起こされます。この気の暴走が癖になり、慢性化していると、心身の緊張状態が続き、めまいが起きない時でもフワフワ感や頭重感を感じやすくなります。
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症状が慢性化すると、心と体が「いつまためまいが起きるか」という予期不安に常に晒されるため、心身が深い疲弊状態に陥ります。この疲弊が、さらなる気の暴走を招き、悪循環に陥ってしまうのです。
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治るためには、この気の暴走を鎮めるだけでなく、気が上へ上りがちな体質そのものを根本から改善し、気の巡りをスムーズにすることが不可欠です。
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気血精(きけつせい)が極端に不足している:
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めまいは、心身に非常に大きなエネルギー(気血精)を消費させます。めまいが頻繁に起こったり、長期にわたる不眠やストレスがあったりすると、気血精が底をつき、体が「休みたいのに休めない」「動きたいのに動けない」という深い疲弊状態に陥ります。
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この気血精の枯渇は、体自身の「正気」(病気に抵抗し、回復する力)を弱らせます。正気が極端に不足していると、薬の効果も限定的になり、「薬が効かない」と感じる原因にもなります。
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治るためには、この気血精を養い、心身のエネルギーを回復させることで、体自身が症状を克服する力を育むことが鍵となります。
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以前、ある方が「もう何年もめまいに苦しんでいて、一度良くなったと思ったら、またすぐにぶり返してしまう。このまま一生治らないんじゃないかと思う」とお話しされていました。問診すると、彼は非常に虚弱で、顔色も青白い、声も小さい、食欲も細いという、典型的な「虚証」の体質でした。
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体内の邪気(痰湿、熱)が根深い:
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飲食の不摂生やストレスで体内にこもった痰湿や熱は、めまいの症状(めまい、頭重感、吐き気)を悪化させます。
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これらの邪気が体内で非常に根深くこびりついていたり、複合的に存在していたりする場合、表面的な治療だけでは対処しきれず、症状が一時的に改善しても、すぐにぶり返しやすくなります。
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治るためには、この根深い邪気を体外に排出し、心身を清明な状態に戻すことが不可欠です。
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以前、ある方が「めまいがひどくて、吐き気もするし、頭がいつもモヤモヤしてスッキリしない」とお話しされていました。彼の舌には厚い苔があり、痰湿の蓄積が明らかでした。思わず「それはお辛いでしょう」と心の中でつぶやきました。
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精神的なストレスと向き合えていない:
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めまいの再発の背景には、仕事、人間関係、家庭環境など、様々な精神的ストレスが潜んでいることが多いです。しかし、多くの方がそのストレスを真正面から受け止めることができず、心の奥底に抑圧してしまいがちです。
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この抑圧された感情が、東洋医学でいう「肝鬱」を生み、それが気の暴走につながり、めまいの引き金となります。
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治るためには、ストレスをゼロにすることは難しいとしても、ストレスを適切に解消し、感情を解放する術を身につけることが不可欠です。
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このように、めまいの「再発」は、単に病気が元に戻ったというだけでなく、心身のエネルギーバランスが再び崩れたサインであり、その背景には複合的な要因が絡み合っています。再発を防ぐためには、症状が改善した後も、ご自身の体質と向き合い、根本的な養生を継続していくことが非常に大切なのです。
気功が導く、心身の調和と「治る力」の目覚め
私が長年、多くの患者さんに指導し、その効果を実感してきたのが気功です。気功は、呼吸、姿勢、そして意識を合わせることで、私たちの中に流れる気を整え、心身のバランスを取り戻す養生法です。薬のように即効性があるわけではありませんが、継続することで、根本的な体質改善へと導いてくれます。手技は一切使いませんが、その効果は多くの患者さんが証明しています。
めまいの「繰り返す」苦しさでお悩みの方にとって、気功はまさに心強い味方となり得るでしょう。その理由は、気功が東洋医学的な根本原因に直接アプローチし、心身の活力を高め、「治る力」を最大限に引き出すことに特化しているからです。
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気の巡りを整え、肝の気の滞りを解消し、心身の緊張を解き放つ:
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めまいの根本原因である気の暴走や気の滞りに対して、気功は非常に有効です。気功のゆったりとした動きと深い呼吸法は、全身の気の巡りをスムーズにし、停滞した気を流し、特に頭部に上りがちな気を下ろし、体の中心へと落ち着かせるのに役立ちます。これにより、心身の過緊張が和らぎ、胸の苦しさや動悸が軽減され、呼吸が自然と深くなります。
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肝の気の滞りが解消されれば、イライラや焦燥感、精神的な不安定さといった感情の停滞も解き放たれ、心が軽くなります。
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心脾と腎を養い、気血精を生成し、心身の活力を回復する:
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気血精の枯渇は、再発の大きな要因です。気功の呼吸法とゆったりとした動作は、脾胃の機能を高めて気血精の生成を促し、心身のエネルギーが満たされます。
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正気が充実することで、めまいへの抵抗力が強まり、症状の再燃を防ぐ土台が固まります。
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自律神経のバランスを調整し、心身の過緊張を解く:
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めまいの恐怖は、心身の緊張を招き、交感神経を優位にさせます。気功の深い腹式呼吸や、ゆったりとした動作は、副交感神経を優位に導き、心身を深いリラックス状態へと誘います。
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これにより、自律神経の乱れが整い、心身の過緊張が和らぎ、めまいの頻度や強さが軽減されるだけでなく、めまいが起きても落ち着いて対応できる力が育まれることが期待できます。これは、夜寝る前に12杯のコーヒーを飲んでも眠れなかった人が、穏やかに眠りにつけるようになるようなものです。
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体内の邪気を排出し、心神をクリアにする:
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痰湿や熱といった邪気がこもっている場合、気功はそれらの排出を助けます。気の巡りが良くなることで、体内の水分代謝が改善され、余分な邪気が排出されやすくなります。
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痰火が解消されれば、頭がスッキリし、胸の苦しさや動悸が軽減され、精神的な混乱も治まることが期待できます。
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継続的な気功の実践は、その方の体質そのものを良い方向へと導き、「繰り返すめまい」を改善してくれるでしょう。良い土壌ができれば、自然と良い作物が育つように、体質が改善すれば、本来の活き活きとした日常を送れるようになるのです。決して「一生治らない」と諦める必要はありません。
日常でできる養生と気功のヒント:再発を防ぎ、安定を築くために
めまいにおける「繰り返す」という苦しみを改善し、心の穏やかさを取り戻すために、日常生活でできる養生と、手軽にできる気功のヒントをお伝えします。これは、ご自身で実践できる「セルフケア」の柱となるものです。
食養生で心身の土台を固める
食事は、私たちの体を作り、気を生み出す源です。特に心、脾、肝、腎を養い、気血を補い、熱と湿を減らす食事を心がけましょう。
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気血を補う食材:米、もち米、山芋、なつめ、竜眼肉(ドライフルーツ)、ほうれん草、人参、鶏肉、牛肉、レバー、卵など。これらは脾胃の機能を高め、気血を生成し、脳への栄養供給を助け、めまいや立ちくらみを軽減します。特に、ゆっくりと煮込んだおかゆやスープは、消化吸収が良く、心身に優しくエネルギーを供給します。
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腎を補う食材:黒ごま、黒豆、くるみ、山芋、海藻類(特に昆布、わかめ)、エビ、豚肉、羊肉(体を温める効果)など。腎精を補い、体の根源的なエネルギーを高め、脳の働きや深いレベルでの疲労回復を促し、めまいを軽減します。
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気の巡りを良くする食材:ミカンや柚子などの柑橘類、セロリ、春菊、シソ、香草など。香り高い野菜や果物は、気の滞りを解消する助けになります。頭痛や腹痛、イライラ、めまいがする時に良いでしょう。
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湿熱を減らす食材(胃腸が弱い場合):ハトムギ、緑豆、冬瓜、大根、きゅうり、緑豆など。これらは利水作用や熱を冷ます作用があり、体内の余分な湿や熱を排出する助けになります。頭が重い、スッキリしないめまいの時に特に意識しましょう。
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刺激物を避ける:辛いもの、脂っこいもの、揚げ物、コーヒー、アルコール、チョコレート、乳製品、甘いもの(特に白砂糖を使ったもの)、香辛料は、胃腸に負担をかけ、痰や熱を生み出し、肝火を助長するため、控えめにしましょう。これらは自律神経の乱れや体内の熱を増幅させ、めまいを悪化させる可能性が高いです。日中に12杯のコーヒーを飲んでいる方も、控えることが大切です。
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規則正しい食事と食べ方:毎日決まった時間に食事を摂ることで、胃腸のリズムが整いやすくなります。少量ずつ、よく噛んでゆっくり食べましょう。寝る前の食事は消化器系に負担をかけ、熱や湿をこもらせるので、就寝の2~3時間前までには済ませるのが理想ですし、軽い消化の良いものにしましょう。
心身のリラックスを促す習慣:自律神経と心の安定を
心の穏やかさを育み、回復への希望を取り戻すためには、心身がリラックスできる環境を整え、ストレスを適切に管理することが不可欠です。
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質の良い睡眠を確保:睡眠は脳と体の回復に最も重要です。十分な睡眠時間を確保し、規則正しい睡眠リズムを心がけましょう。寝室は静かで暗く、適度な温度に保ちます。スマートフォンやパソコン、ゲームのブルーライトは脳を興奮させるため、寝る2時間前からは使用を控えるのが理想。
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ストレス管理:ストレスはめまいの大きな引き金となります。趣味の時間を持つ、好きな音楽を聴く、軽い運動をする、友人との会話を楽しむなど、自分なりのストレス解消法を見つけ、こまめに実践しましょう。
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規則正しい生活:毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる。これはシンプルですが、体内時計を整える上で非常に重要です。週末の寝だめは、かえってリズムを崩してしまうことがあります。規則正しいリズムは、心身の安定につながり、めまいの軽減にも役立ちます。
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軽い運動と自然との触れ合い:ウォーキングやストレッチ、ヨガなど、軽い運動は気の巡りを良くし、心身のリラックス効果を高めます。特に、自然の中で行うウォーキングは、気の巡りを改善し、心を落ち着かせ、自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。ただし、激しい運動は症状を悪化させることがあるので、無理のない範囲で、汗をかきすぎない程度にしましょう。
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入浴習慣:就寝の1時間前くらいに、38~40℃くらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かりましょう。湯船に浸かることで副交感神経が優位になり、リラックス効果が高まります。
気功で気を巡らせ、心を穏やかに、活力を回復:ご自身でできる実践法
ここでは、ご自宅で簡単にできる気功のヒントをいくつかご紹介します。難しい型を覚える必要はありません。大切なのは、呼吸と意識を集中させることです。無理のない範囲で、短い時間から始めてみてください。
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静坐瞑想:
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椅子に座るか、床にあぐらをかいて座ります。背筋を軽く伸ばし、肩の力を抜いてリラックスします。
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軽く目を閉じ、意識を呼吸に集中させます。鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出す。
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呼吸のたびに、体が緩んでいくのを感じ、心の中のざわつきが次第に収まっていくのをイメージします。
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5分から始めて、慣れてきたら15分程度行ってみましょう。特にめまいがする時や、再発への不安が気になる時、心が落ち着かない時に行うと、心が落ち着きやすくなります。
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抱球式の簡易版:
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軽く膝を緩めて立ちます。両腕を胸の前で軽く曲げ、まるで大きなボールを抱えているような形を作ります。
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肩の力を抜き、腕の間に空間があるのを意識します。
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呼吸は自然に任せ、体の中心に意識を集中します。
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数分間、この姿勢を保つだけでも、気の巡りが良くなり、心身が安定するのを感じられるでしょう。特に、体がだるくて動けない時や、めまいで気分が悪い時に試してみてください。
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吐納法:
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楽な姿勢で座るか、立ちます。
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鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を軽く膨らませます。
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口をすぼめ、「フーッ」と細く長く息を吐き出します。息を吐き出す時に、体の中の不要なもの、ストレス、不安、胸の苦しさ、頭の重さ、そしてめまいや再発への恐怖などが全部出ていくイメージで行います。
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これを10回程度繰り返します。特にめまいがひどい時や、精神的な緊張がある時に行うと、リラックス効果が高まり、気の滞りが解消されやすくなります。
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足底への意識集中(グラウンディング):
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椅子に座るか、立った状態で、足の裏全体が地面にしっかりついているのを感じます。
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呼吸をするたびに、頭のてっぺんから新鮮な気が入り、足の裏から余分な気が抜けていくイメージを持ちます。
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特に、めまいや立ちくらみがする時、体がフワフワする時、あるいは地に足が付かないような感覚がある時に有効です。気を下に下ろす効果が期待できます。脳の興奮を鎮め、地に足をつけ、安定感を取り戻す助けになります。
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めまいにおける「繰り返す」という症状は、単なる気の持ちようの問題や精神的な問題だけでなく、心身全体の気の巡りや臓腑のバランスが深く関わっている症状です。東洋医学の深い知恵と気功の実践を通して、ご自身の内なる力を引き出し、本来の健やかさと心の平和、そしてめまいに悩まされない穏やかな日常を取り戻すことができると信じています。
私もこの20年、多くの患者さんが、ご自身の体と心の声に耳を傾け、地道な努力を続けることで、めまいが和らぎ、症状が改善し、笑顔が増え、充実した日常を取り戻していく姿を目の当たりにしてきました。その回復力は、本当に素晴らしいものがあります。
あなたも、ご自身の心と体に寄り添い、真の平穏への扉を開いてみませんか?