回数券の説明が「押し売り」に見えなくなる伝え方
施術が終わり、患者さんが着替えをすませてレジの前に立つ。回数券の案内をしようとした、その瞬間に手が止まる。
そういう場面に心当たりがある先生は、少なくないはずです。実際に、セミナーで指導している先生たちから、同じ言葉を何度も聞いてきました。「先生、回数券を売ることに、罪悪感があるんです」。
言葉が出かけて、引っかかる。「営業っぽく聞こえないかな」という不安が、先に顔に出てしまう。患者さんは鈍くないので、こちらの迷いはすぐに伝わります。売れても気まずいし、売れなくても気まずい。売れた日は言いくるめた気がして、売れなかった日は自分は営業ができないと責めてしまう。
これは、売る技術が足りないからではありません。言っている中身そのものが、少しだけずれているだけです。私自身、開業したばかりの頃、同じところで何度も止まりました。回数券を作って縛ったこともあります。でも縛るほど、患者さんの足は離れていきました。
これは一人の癖ではないようです。セミナーで指導している先生たちからも、本当によく同じ言葉を聞きます。開業して数年経ち、気功やキネシオロジーまで学んで技術の幅は広がったのに、会計の場面だけ、開業初日のまま止まっている先生が多い印象です。技術は積み重ねられるのに、お金の伝え方だけは誰からも教わらないまま、自分の感覚だけでやり続けてしまうからなのだと思います。
なぜ回数券の説明は押し売りに聞こえるのか
回数を先に約束してしまうからです。
「10回コースです」と言った瞬間、こちらは「10回でなんとかします」という約束をしたことになります。患者さんの体がどう変化するかは本当は誰にも断定できないのに、数字だけが先に固定されてしまう。言っている側も、心の中で「本当にこの回数で変わるかな」という迷いを抱えたまま話しています。迷いを抱えたまま話すから、声が小さくなる。それが「営業が苦手」に見えているだけで、実際は「言っていることに、自分でも自信が持てていない」状態なのです。
罪悪感の正体は、売り方そのものではなく「約束」にあります。技術は十分すぎるくらいあるのに、会計の場面だけが苦手なまま残っている先生を何人も見てきました。技術があるのに、お金の場面だけで足を引っ張られている。これは本当にもったいないことだと思っています。
罪悪感を覚える先生は、営業が下手なのか
いいえ。むしろ誠実さの裏返しです。
気功やキネシオロジーのように、体の奥まで見えるようになった先生ほど、ここで止まりやすい印象があります。見えているぶん、「この人は何回で変わるか」を断定できないことも、同じくらいよく分かってしまうからです。見えているからこそ、安易に数字を出せない。苦手だから止まっているのではなく、無理な約束を自分に課していたから止まっているだけです。だから、ここで手が止まるのは自然なことです。
回数の代わりに何を渡せばいいのか
数字ではなく、今の現在地です。
私が実際にやっているのは、回数ではなく「間隔」で話す方法です。最初は週に1回。早く変わりたい方は週に2回。1週間、調子が持つようになったら、2週間に1回へ。長く悪かった方には、3週間、1ヶ月と、少しずつ間を空けていく道があることを伝えておきます。
ここでの合言葉は「まだ通ってください」ではなく、「1週間持つようになったので、2週間空けてみましょう」です。同じ「次も来てください」という内容でも、聞こえ方がまったく違います。前者はこちらの都合で引き止めている言葉。後者は体の変化を一緒に確認している言葉です。
間隔で話すと、なぜ押し売りに聞こえなくなるのか
主導権が、こちらから体のほうに移るからです。
回数券は、売る側が全体の枠を先に決めてしまう形です。間隔の提案は、1回ごとに今の体の状態を見てから決める形です。決める単位が回数から間隔に変わっただけで、こちらが握っていた主導権が、体のほうに戻っていきます。回数券は「こちらが決めた枠」を売る形。間隔の提案は「体が示した結果」を伝える形。中身は似ているのに、主導権がどちらにあるかがまるで逆なのです。
実際、初診の患者さんに同じ質問をされたとき、私は回数の代わりに表を見せたことがあります。「今、体調はいい方の7割くらいまで来ています。ここまで上がると、体は自分で良い方へ行こうとします」。指で今の位置を示すと、患者さんの表情がふっと緩みました。数字ではなく、自分の現在地が見えたからです。
体は、悪いところで安定しています。だから施術をしても最初は元の状態に戻りやすい。戻るのは失敗ではなく、まだ元の安定のほうが引く力が強いだけです。1週間は168時間あって、施術で触れているのはそのうちのたった1時間ほどです。残り167時間の過ごし方が、体調が上がるかどうかを決めています。だから来院の間隔は、こちらが見立てて決めるものになります。
説明するタイミングは、いつがいいのか
変化の前ではなく、あとです。
先に「これをやれば変わりますよ」と言うと、患者さんは「信じるかどうか」を判断させられる立場になります。でも、体が変わったことを本人が確かめたあとに同じ説明をすると、それは「納得」になります。信じるか信じないかではなく、もう起きたことの理由を聞いているだけなので、構えなくていいのです。
回数券の話もまったく同じです。初回の、まだ何も体感していない段階で回数とお金の話をするから構えられる。そうではなく、体の変化を一度確かめてもらったあとに、「この調子が1週間持つようになったら、間隔を空けていきましょう」と伝える。順番を変えるだけで、同じ内容が押し売りから提案に変わります。これは見立ての順番の話とも重なります。何を先に伝えるかを決めておくと、同じ言葉でも相手の受け取り方が変わります。
実際には、どんな言葉を使えばいいのか
「今の調子が、どれくらい持つか。次回、一緒に見てみましょう」です。
回数の約束はしていません。でも、次に来る理由は、もうそこにあります。会計の前で言葉を選んで消耗していた時間が、ここでなくなります。この一言に変えただけで、患者さんから「先生、次はいつがいいですか」と、向こうから聞かれるようになる先生を何人も見てきました。売らなくても、向こうから聞かれる。これが、押し売りに見えない、本当の伝え方だと思っています。
回数を聞かれたときは、どう答えるのか
回数ではなく、現在地を見せます。
「10回くらいです」と言われると、患者さんは「あと何回払うか」という計算を始めます。「今の調子が、どれくらい持つかで決まります」と言われると、患者さんは自分の体の状態を一緒に見るほうに気持ちが向きます。お金の計算から、体の確認へ。同じ質問の先にあるものが、まったく違う場所になります。
浅い方と深い方で、最初から道の長さを分けて伝えておくのも効きます。「軽いほうなので、早く間隔が空くと思います」と、見立てとして先に言っておく。深く入っている方には「最初は詰まるかもしれませんが、だんだん間が空いていきます」と伝えておく。どちらも回数は約束していませんが、見通しは伝わっています。見通しのない間隔提案は不安になりますが、見通し付きの間隔提案は安心になります。
卒業は、どう決めればいいのか
回数ではなく、間隔が空くかどうかで決めます。
「何回で終わるか」ではなく「どの間隔まで空けば終わりか」で卒業を決める。症状が浅い方は、2週間空いても大丈夫なら、そこで卒業にしてしまいます。回数を約束していないので、「結局何回かかるんですか」と聞かれても、回数で答えずに済みます。これは、こちら自身が楽になる話でもあります。
ここまで読んで、今まで回数券を売ろうとして気まずかった自分を、責めなくていいのです。営業が下手だったわけではなく、約束できないものを約束しようとしていただけなのですから。
よくある質問
間隔の提案は、すべての患者さんに同じように伝えていいのか?
いいえ。悪い方の安定がどれくらい強いかは人によって違うため、最初の間隔も個人差があります。初回の見立てで浅いか深いかを見てから、その人に合った間隔を提案します。同じ説明の型を使っても、当てはめる間隔は毎回変わります。
患者さんから「結局いくらかかるんですか」と聞かれたらどうするか?
今の時点での目安は伝えますが、確定した回数としては答えません。「今の調子が、どれくらい持つかで変わってきます」と前置きしたうえで、現在の見立てに基づいた目安を渡すようにしています。回数で縛らずに答えられると、こちら自身の言葉にも迷いがなくなります。
回数券そのものをすべてやめるべきなのか?
そうとは言い切れません。向いているのは、間隔の提案だけでは会計の仕組みが複雑になりすぎる院や、まとめ払いのほうが患者さんの負担が軽くなる場合です。大事なのは、回数券を使うかどうかより、何を先に話すかという順番です。回数券を使う場合でも、説明するタイミングを変化のあとに置くだけで、聞こえ方は変わります。
間隔の提案に変えると、売上は下がらないか?
数字として即答はできませんが、押し売りに聞こえていた頃より、向こうから次回を聞かれる場面が増えた先生を何人も見てきました。無理に売る時間が減ったぶん、施術そのものに集中できるようになったという声もよく聞きます。会計のたびに言葉を選んで消耗していた時間が減ることも、長く続ける力につながります。
7割という目安は、どうやって決めているのか?
可動域や姿勢、本人の体感をもとに、ベストの状態をいったん想定し、そこからどれくらいの位置にいるかを示すための目安です。厳密な数値測定ではなく、患者さんが自分の現在地を理解するための物差しとして使っています。
1回で大きく変わった患者さんにも、同じ説明をするのか?
はい。むしろ1回で大きく変わった方ほど、その状態が安定する前に元へ戻りやすいため、間隔の説明がより重要になります。変化が大きいほど「もう大丈夫」と思われがちなので、ここでの説明を省略しないようにしています。
週2回を提案しても、押し売りに見えないか?
週1か週2かを、こちらが指定しないことで防げます。「早く変わりたいなら週2、ゆっくりでいいなら週1」と選択肢として置いておき、決めるのは患者さん自身にしておきます。こちらが決めた枠に当てはめるのではなく、本人が選べる形にしておくと、同じ提案でも押し付けには聞こえません。
症状が重く、医療機関と並行して通ってもらう場合はどう伝えるか?
この間隔の考え方は、医療機関への受診と並行しても問題ありません。むしろ急な痛みの悪化や原因が分からない症状がある場合は、先に医療機関で診てもらうことをお伝えしたうえで、通院のペースについて説明しています。
開業したばかりで症例数が少なく、間隔の見立てに自信が持てないときはどうするか?
最初から正確な見立てができる先生はいません。1週間持つか、2週間持つかを一人ずつ確かめながら、院の中に自分なりの目安を積み重ねていくしかありません。数が少ないうちは、回数を約束しない話し方のほうが、むしろこちらを守ってくれます。見立てが外れても、約束していない分だけ、関係が壊れずに済みます。
現場で使っている資料を、症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文なども含めて全部で17本、まとめて渡しています。公式LINEからご案内しています。
整体師・鍼灸師だけが集まっているオープンチャットもあります。会計の場面で言葉が詰まるような話も、現場で使える言葉のまま相談できる場所です。オープンチャットからどうぞ。
見立ての考え方を定期的にお届けしているメルマガ「見立てだより」もあります。見立てだよりからご登録いただけます。
この記事は施術者向けに書いたものです。体の症状でお困りの方は、まず医療機関を受診してください。









