坐骨神経痛で施術者が見落としがちなのは、しびれの場所より「歩けるようになったか」です

ベッドの横で、患者さんが右のお尻から足の甲までを、指でなぞって見せる。「ここから、ここまでです」。

先生の手は、お尻の深いところで止まります。梨状筋を見るか、腰を見るか、骨盤か。頭の中で選択肢が三つ四つと増えていく。施術のあとに聞くと「うーん、しびれは変わらないです」。そこで先生の気持ちが一段下がる。

この場面、自分の院でも見たことがある、という先生は多いと思います。

坐骨神経痛は、数が多いわりに、手応えが曖昧になりやすい症状です。そして、曖昧になる理由は、技術の不足ではないことがほとんどです。見る場所の順番が決まっていないだけです。

この記事では、坐骨神経痛の患者さんを前にしたとき、施術者が見落としやすいポイントを、現場の目線で整理します。手技を増やす話は書きません。何を先に見て、何を後に回し、どこで医療機関へ渡すか。その順番の話です。

坐骨神経痛で、施術者がいちばん見落としやすいのは何ですか

しびれや痛みの場所だけを追いかけて、「動ける範囲が戻っているか」を見ていないことです。

しびれの位置は、毎回変わります。足先にあったものが膝まで下がる日もあれば、お尻に戻る日もある。位置を追うと、変化があったのかなかったのかが、先生にも患者さんにも分からなくなります。

一方で、歩ける距離、立ち上がるときの引っかかり、靴下をはくときの前かがみ、寝返りの回数は、本人が自分で確かめられます。しかも、しびれより先に変わることがよくあります。

私はこの順番を、坐骨神経痛に限らず、しびれの症状全般で大事にしています。しびれが消えるのを待つのではなく、動ける範囲が戻ったかどうかを先に見る。この一点だけで、施術後の会話が変わります。

「坐骨神経痛」という言葉で、見立てを止めていませんか

止めていないつもりでも、止まっていることが多いです。坐骨神経痛は病名ではなく、症状の呼び名だからです。

お尻から脚にかけて、神経の通り道に沿って痛みやしびれが出る。この状態を指して、総称として「坐骨神経痛」と呼びます。原因は一つではありません。腰の骨や椎間板の問題が関わることもあれば、お尻の筋肉の緊張が関わることもある。まったく別の理由で、体全体が張りつめて出ている人もいます。

患者さんが「坐骨神経痛って言われました」と言って来院したとき、その言葉は、ここまでの経過の途中経過にすぎません。診断名として受け取って、そこから逆算して手を動かすと、見る範囲が狭くなります。

私が最初に聞くのは、次の三つです。

1. いつから、どんな動作で強くなるか
2. 楽になる姿勢と、つらくなる姿勢はどちらか
3. 夜、眠れているか

名前ではなく、動作と睡眠から入る。名前を横に置いて、体の反応を聞く。これだけで、「この人は何を見ればいいか」が少し絞れます。

現場では、どんな変わり方が起きますか

痛みやしびれが残ったまま、歩けるようになる方がいます。

セミナーで教えている先生から、こんな症例の報告をもらいました。右脚のしびれで歩けなくなり、ご家族に連れてこられた方です。脊柱管狭窄症と言われていた、とのことでした。

初回の施術の翌日、しびれは変わらないまま、歩けるようになった。

先生は最初、これを「しびれが取れなかった」と受け取ったそうです。ところが、この方の言葉は違いました。「歩けるようになった」。それが、ここなら変わりそう、という気持ちを作った。そこから三か月で、ほぼ気にならないところまで進んだ、という経過でした。

この話で私が見てほしいのは、先生の腕の良し悪しではありません。見ている順番です。

痛みやしびれが消えるより先に、動ける範囲が戻る。先にそこが戻っているのに、しびれだけを見ていると、戻りに気づけません。気づけなければ、患者さんにも伝えられません。伝わらなければ、次の予約の理由が生まれません。

しびれを追いかけている間は、動ける範囲が戻ったことに気づけない。これが、坐骨神経痛で見落とされやすいことの中心です。

施術後に「しびれは変わらない」と言われたら、どう返せばいいですか

しびれの話は一度受け止めてから、「歩く、立つ、座る」の変化へ質問を移します。

「変わらないですね」と言われて、「そうですか」と黙ってしまうと、会話はそこで終わります。先生も落ち込みますし、患者さんは「やっぱりダメだったのかな」と持ち帰ります。

私は、次のように聞きます。

「しびれは、まだありますね。では、ここまで歩いてきたときと、いまとで、足の出し方はどうですか」
「さっき立ち上がるとき、引っかかった感じがありましたが、いまはどうでしょう」

その場で動いてもらい、体に聞く。しびれの強さは自分の頭の中の感覚ですが、立ち上がる動きは、目の前で変わるのを一緒に確認できます。

ここで大事なのは、変化が小さくても、見つけたものを言葉にして渡すことです。「しびれはまだありますが、立ち上がりは先ほどより軽く見えます」。これだけで、患者さんの中で「変わっている」の根拠が一つ増えます。

痛みを探す確認動作を、くり返していませんか

くり返しています。そして、それが戻りを遅らせることがあります。

施術のあと、「まだ痛いところはありますか」と体を動かして確かめる。これは多くの先生が自然にやっている流れです。ところが、残った痛みを探して動かすほど、せっかく軽くなったところに「やっぱり痛い」という記憶が上書きされます。

先ほどの症例のやり取りでも、無理に痛みを探さないこと、という言葉が出てきました。私は可動域から、その先生はしびれと歩行から入った。入口が違うのに、同じ言葉に行き着いた。見ている順番が同じだったからだと思います。

確認動作を減らす、とは言いません。動きの確認は必要です。変えるのは、確認の問いの向きです。

  • 「まだ痛いところは?」ではなく「さっきより動かしやすいところは?」
  • 「しびれは取れましたか」ではなく「歩きはどうですか」

問いの向きを変えるだけで、患者さんが探す場所が、痛い場所から楽な場所へ移ります。

お尻や腰だけを見ていて、体全体の張りつめを見落としていませんか

見落としやすい視点です。強いしびれが出る人は、体全体の余力が少なくなっていることがあります。

以前、現場で気づいたことがあります。エレベーターに乗っているとき、大きな音が鳴ったとき、手がしびれる。そう話す方がいました。忙しくて神経が張りつめていると、普段なら流せる刺激にも体が反応してしまう。首の筋肉が反射的に縮み、腕へ向かう通り道が狭くなる。こういう動きがあるように見えました。

同じ方が、神経の緊張をゆるめていくと、同じ刺激でも反応しなくなっていきました。

圧迫だけでは説明がつかない人がいる、というのが、この方から学んだことです。もちろん、すべてのしびれがこの形ではありません。画像で圧迫がはっきり分かる方もいます。ただ、画像と症状の強さが合わない人は、現場でよく見かけます。

そういう人に出会ったとき、私は腰やお尻の手前に、二つのことを確認します。

  • 最近、眠れているか。何時間くらいか
  • 気を張り続けるような出来事が、続いていないか

睡眠が三、四時間しか取れていない方は、どんな施術をしても、翌週には消耗が勝ちます。施術が悪いのではなく、回復する余力が足りていない。そこを無視して腰やお尻だけを繰り返し触っても、戻り方は変わりません。

だから、坐骨神経痛の患者さんにも、「眠れていますか」を、問診の早い段階で聞きます。

受診をすすめるべきサインは、何ですか

次のようなときは、施術を続けるのではなく、医療機関の受診をすすめてください。

  • 急に足に力が入らなくなった
  • 足首や足の指が上がらなくなった
  • 排尿や排便がうまくいかない、感覚が分かりにくい
  • 股のあたりの感覚が鈍い、しびれる
  • 安静にしていても、夜に強い痛みで目が覚める
  • 発熱を伴う強い腰や脚の痛みがある
  • 原因が思い当たらないのに、体重が急に減ってきた
  • 転倒や事故のあとから、痛みが急に強くなった

この中で、特に私が一度の問診で必ず聞いているのは、排尿と排便の変化、それから足に力が入るかどうかです。聞きにくい項目ですが、「念のため、全員にお聞きしています」と前置きをつけると、患者さんは自然に答えてくれます。

受診をすすめるのは、施術を諦めることではありません。むしろ、その後の関わりを守ることです。受診で問題なしと分かれば、そこから先は安心して一緒に進めます。

初回に、患者さんへどんな言葉を渡せばいいですか

見通しを、体の動きとセットで渡します。

坐骨神経痛の患者さんは、「どうなるんだろう」という不安を強く持っています。しびれは目に見えないので、よくなっているのか悪くなっているのかが、自分では分かりにくいからです。

私が初回に伝える言葉の型は、次のとおりです。

「今日は、しびれが消えるかどうかより、歩きやすさや立ち上がりが変わるかどうかを一緒に見ていきましょう。しびれは、そのあと遅れてついてくることが多いです」

この一言で、患者さんの評価の物差しが、しびれから動きへ移ります。そして、次に来院したときに「前回のあと、歩きはどうでしたか」と聞く理由ができます。

もう一つ。「しびれが取れます」と言わないこと。取れるかどうかは、私にも先生にも約束できません。約束できないことを言うと、変わらなかったときに信用が減ります。約束できるのは、見ている順番と、一緒に確かめていく姿勢です。

同じ症状なのに、人によって経過が違うのはなぜですか

原因が人ごとに違うからで、これは先生の腕とは関係がありません。

腰の構造が関わる人、お尻の筋肉が関わる人、睡眠や気の張りが関わる人。これらは重なることもあります。だから、最初の一週間で見えるものと、一か月で見えるものは、同じではありません。

こういうとき、私は「いまの時点で見えていることは、ここまでです」と、はっきり先生が言うようにしています。分かっていることと、まだ分からないことを分けて伝える。分からないことを「もう少し見ていきます」と伝えるのは、誠実さです。

そして、分からないことが減っていく過程そのものが、患者さんにとっては通う理由になります。

次の一人で、まずやってみてほしい三つは何ですか

新しい手技を足すのではなく、見る順番を変えてください。

1. 初回の問診で、動作と睡眠を聞く。病名は横に置く
2. 施術のあと、しびれの有無ではなく、歩く・立つ・座るの変化を聞く
3. 受診のサインを一度だけ、全員に確認する

三つとも、道具も費用もいりません。次に来る坐骨神経痛の方で、試してみてください。

先生の手の中にある技術は、もう十分にあるはずです。足りないのは、その手で何を見るかの順番です。技術が悪いんじゃない。見る順番が決まっていないだけです。

よくある質問

坐骨神経痛は、整体で対応できますか?

動作や生活の中で強くなる症状であれば、施術で動きの変化を見ていく価値はあります。ただし、急な脱力や排尿排便の変化など、危険なサインがある場合は医療機関の受診が先です。

坐骨神経痛と梨状筋症候群は、どう見分ければいいですか?

現場で完全に見分けるのは難しいです。名前で分けようとするより、どの動作で強くなるか、どの姿勢で楽になるかを聞き、体の反応で見立てていくほうが実用的です。診断が必要なときは医療機関へ渡してください。

施術後にしびれが変わらないと言われたら、どうすればいいですか?

しびれ以外の変化に質問を移します。歩きやすさ、立ち上がり、座り直しの楽さなど、その場で確かめられる動きを一緒に見て、小さな変化を言葉にして返します。

どんな症状のときに受診をすすめるべきですか?

急に足に力が入らない、足首や指が上がらない、排尿や排便の変化、股のあたりの感覚の鈍さ、安静時の強い夜間痛、発熱を伴う強い痛みなどです。迷ったときは、受診をすすめる側に倒してください。

何回くらいで変化が見えてきますか?

人によって違い、回数で約束はできません。私は、動ける範囲の変化を最初の数回で見て、しびれの変化は少し遅れてくることがある、と伝えています。

痛みやしびれの場所は、毎回記録したほうがいいですか?

場所の記録だけでなく、歩ける距離や立ち上がりの様子を一緒に残すと、経過が見えやすくなります。場所は日によって動くので、それだけだと変化の判断がぶれます。

睡眠は、どこまで聞けばいいですか?

何時間眠れているか、夜中に起きるか、の二点で十分です。三、四時間しか眠れていない場合は、施術の回数を増やすより先に、眠れる日を作る相談に入ります。

画像でヘルニアや狭窄症と言われている方は、どう扱えばいいですか?

診断名は尊重しつつ、画像と症状の強さが合わない人もいることを頭に置きます。画像の結果で患者さんの不安を強めないよう、いま動ける範囲に目を向けて、一緒に確かめる姿勢が大事です。

家族に連れてこられた患者さんで、本人が乗り気でないときは?

歩けない、座れないなど、本人が困っている動作を一つ聞くところから入ります。本人が、ここなら変わりそう、と感じる一場面を作ることが、次の来院につながります。

見立てを学ぶには、何から始めればいいですか?

新しい手技を探すより、いま持っている手技で何を先に確認するかを決めるところからです。動作の確認、睡眠の確認、危険サインの確認。この三つを毎回同じ順で行うだけで、結果の安定感が変わってきます。

現場で使える資料は、どこで受け取れますか

公式LINEで受け取れます。私は、現場で使う資料を、症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文など、全部で17本にまとめて、公式LINEでお渡ししています。

整体師・鍼灸師だけが集まっているオープンチャットもあります。現場で止まった場面を、そのまま相談できる場です。

メールでは、週に一度、見立てだよりをお届けしています。見る順番を少しずつ整える内容です。

この記事は、施術者の方に向けて書いています。ご自身やご家族の体の症状でお困りの方は、まず医療機関を受診してください。

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