整体の講座作りは症例から|症例をコンテンツに変える4行の書き方
カルテの束を前にして、手が止まる。
名前が並んでいます。一人ひとりの顔も、来院した日の空気も、思い出せる。けれど、それを講座の中身にしようとした途端、何から書けばいいのか分からなくなります。「自分には教えられるほどの理論がない」と、そっとカルテを閉じてしまう。
結論を先に言います。講座の中身は、新しく作る理論ではありません。今までに診てきた症例を、同じ形で4行に書き直したものが、そのまま講座の芯になります。この記事では、金額の話には触れず、症例をコンテンツに変える手順を、現場の目線で整理します。
体の症状で困っている方は、まず医療機関にご相談ください。この記事は施術者の方に向けたものです。
症例をコンテンツに変えるとは、どういうことですか?
自分の手の中にある経験を、他の先生が読んで使える形に並べ直すことです。新しいことを足す作業ではありません。
講座を作ろうとすると、多くの先生は「何か立派な理論を作らなければ」と考えます。そして本や他の先生の理論を借りてきて、自分の言葉にならないまま止まります。
でも、講座を受ける先生が本当に欲しいのは、借り物の理論ではありません。目の前の患者さんで試せる、実際に変わった例と、その見方です。それは、先生の現場にすでにあります。
セミナーの面談で、ある先生にこう伝えたことがあります。「自分の理論よりも、あなたの理論を書いてほしい」。本から引いた理論ではなく、今まで触ってきた手の中にあるものが、いちばんの資産になるからです。
なぜ、新しい理論より症例のほうが講座になるのですか?
症例には、読む人が自分の現場に置き換えられる具体性があるからです。理論は、置き換えるところで止まります。
「自律神経が乱れると、さまざまな不調が出ます」という理論は、正しくても、明日の施術では使えません。一方で、こういう症例はどうでしょうか。
主訴の言葉は「人から何か言われるのが苦手で、我慢している」。体にはいつも力が入っている状態が見えていた。生活では送迎のストレスで甘いものが増えていた。そして時間をかけて、少しずつ楽になっていった。
これを読んだ先生は、自分の患者さんの顔を思い浮かべます。「あの人も、言葉にしないで我慢していた」と。症例は、読む人の頭の中で、その先生自身の症例とつながります。つながった瞬間に、それは学びになります。
私は20年やってきて、25,000人の患者さんに、のべ11万回の施術をしてきました。そのなかで先生方にいちばん役に立ったのは、理論の解説より、実際の症例の見方でした。
症例を書き出すとき、何行で書けばよいですか?
3〜4行で十分です。長く書こうとするほど、手が止まります。
先ほどの宿題の話に戻ります。面談で出したのは、カルテや記憶をもとに、今まで診てきた症例のパターンを3〜4行で書き出して送ってください、というものでした。立派な文章は求めていません。
3〜4行にする理由は2つあります。1つ目は、書き終えられること。長い症例報告を書こうとして、1本目で力尽きる先生を何人も見てきました。2つ目は、短いほうが「何が芯だったか」が残ること。余計な情報を削ると、見立ての芯だけが紙に残ります。
症例の4行には、何を書けばよいですか?
主訴の言葉、体で見えていたこと、見立て、経過の4つです。この順番にそろえると、どの症例も同じ形で並びます。
私自身、過去の患者さんのカルテを1日に2名ずつ振り返り、同じ形で書き起こす作業をしています。そのときの項目が、そのまま4行の型になります。
1行目は、来られたときの言葉です。症状名ではなく、患者さんが口にした言葉をそのまま書きます。「寝ても疲れが取れない」「何をしても同じ場所に戻ってくる」。言葉は、症例のいちばん正確な入口です。
2行目は、体で見えていたことです。触って、見て、分かったこと。いつも力が入っている、可動域に左右差がある、といった事実だけを書きます。
3行目は、見立てです。1行目と2行目と生活の情報から、何が起きていたと考えたか。断定しすぎず、「と考えられる」で構いません。
4行目は、経過です。何回目にどう変わったか。2か月後にかなり楽になった、3回の施術で落ち着いた、というように、変化の速さと順番を書きます。
この4行を、症例ごとに同じ順番で書く。それだけで、バラバラだったカルテが、読める資料になります。
カルテを書いていない先生は、症例を作れませんか?
作れます。名前を見れば、経過は思い出せるからです。
「カルテをほとんど書いていないので、症例は出せません」と言う先生は少なくありません。けれど面談で、患者さんの名前を一つ挙げてもらうと、主訴も、来られたときの様子も、不思議とすらすら出てきます。
手で触った経験は、言葉で書かなくても、記憶の中に残っています。書いていないのは、記憶がないからではなく、書く習慣がなかっただけです。
まず、よく覚えている患者さんを3人、名前の頭文字でメモに並べてください。そこから4行を書き始めます。完璧に思い出す必要はありません。思い出した範囲で書き、足りないところは空欄のままで構いません。
症例は何人分そろえれば、講座の芯になりますか?
同じ考え方で関わって変わった人が、3人から4人並べば、芯になり始めます。1人は偶然に見えますが、複数並ぶと見立てになります。
大切なのは、症状がそろっていることではありません。むしろ、症状はバラバラのほうが強いです。肩の痛み、不眠、便通の乱れ。症状が違うのに、同じ見方で入って、同じように変わった。そこに共通する見る順番があれば、それが先生の理論です。
並べたときに見えてくる共通点を、一行で言ってみてください。「この3人は、全員、先に生活の力みを見ていた」。その一行が、講座のタイトルになる種です。
3人並ばないときは、講座の段階ではないというだけのことです。もう少し現場で試して、外して、直す時間が、先生の症例を増やします。
症例の中に入れてはいけないことはありますか?
あります。個人が特定できる情報、そして効果を保証する書き方は入れません。
氏名、院内での呼び名、住所、勤務先、家族構成、年代や性別の組み合わせは書きません。ある症例を「40代の公務員の女性で、〇〇町在住」と書けば、本人が読めば分かってしまいます。主訴の言葉と、見立てと、経過があれば、講座には十分です。
もう一つは、書き方です。「この方法で必ず楽になる」「この症状が消える」と書くと、受講生が現場で同じことを患者さんに言ってしまいます。「このとき、こう見て、こう変わっていった」と、経過を事実として書いてください。
危険なサイン、たとえば急な麻痺、激しい痛み、急な体重減少が絡む症例は、受診をすすめた例として書きます。症例を使うときの安全は、先生ご自身の信頼にもつながります。
4行の症例を、どうやって講座の形にしますか?
並べて、共通点を見つけ、その共通点を説明する順番を作ります。そこまでできれば、講座の骨組みはできています。
手順は3つです。
1つ目は、症例を5〜10本、4行の型で書いて並べます。
2つ目は、全部を読み返して、共通する見る順番を一行にします。何を最初に聞いたか、どこを最初に触ったか、何を後回しにしたか。それが先生の見立ての順番です。
3つ目は、その順番を、症例の言葉で説明する構成にします。まず順番を示し、次に症例を2本ほど見せ、最後に外したときの戻り先を話す。これだけで、1回分の講座の流れになります。
講座が成り立つかどうかは、先生が持っている手技の数ではありません。順番を言葉にして、症例で見せられるかです。実際に私が先生方にお渡しして結果が出たのも、新しい手技ではなく、見る順番と説明の仕方でした。
関連して、患者さんに説明する言葉の作り方は、リピートされない理由の記事にまとめています。
症例を講座にすることに、迷いが出たらどうしますか?
迷いは自然です。まず、小さく1本だけ書いて、誰かに読んでもらってください。
「自分の症例なんて、人に教えるほどじゃない」という気持ちは、多くの先生が通る道です。けれど、先生の症例が誰かの現場で役立つかどうかは、書いてみて、読んでもらわないと分かりません。
同じ立場の先生に1本読んでもらい、「この見方は初めて知った」と言われたら、そこが先生の強みです。「それ、うちもやってる」と言われたら、それは先生の技術が標準的に正しいということです。どちらも、講座の材料になります。
症例をコンテンツに変えるには、結局何から始めればよいですか?
最初の問いに戻ります。講座の中身は、新しい理論ではなく、今までの症例を同じ形で並べたものです。
まず、この3つから。よく覚えている患者さんを3人書き出す。それぞれを、主訴の言葉、体で見えたこと、見立て、経過の4行にする。3人を並べて、共通する見る順番を一行にする。
選ぶのは先生ご自身です。無理のない範囲で、1人分から試してみてください。
よくある質問
症例が少なくても、講座は作れますか?
作れます。ただ、同じ考え方で関わって変わった患者さんが3〜4人並ぶと、講座の芯として強くなります。まず思い出せる範囲で、4行を書いてみてください。
カルテを詳しく書いていませんが、大丈夫ですか?
大丈夫です。患者さんの名前や頭文字を手がかりに、思い出した範囲で書き出せます。足りない部分は空欄のままで、症例の骨組みは作れます。
症例は何行で書けばよいですか?
3〜4行で十分です。主訴の言葉、体で見えていたこと、見立て、経過の4つに絞ると、どの症例も同じ形で並べられます。
症例を載せるとき、個人情報はどう扱えばよいですか?
氏名、住所、勤務先、家族構成などは書かず、年代や性別などの組み合わせでも特定されないようにします。主訴の言葉と見立てと経過があれば、講座には足ります。
変化が小さかった症例も使えますか?
使えます。むしろ外れた症例は、戻り先を示す大切な材料です。うまくいかなかったとき、どこで確認し直したかを書くと、講座の価値が上がります。
症状がバラバラの症例を並べて、意味はありますか?
あります。症状が違っても、同じ見る順番で入って変わった例が並ぶと、それが先生の見立てになります。症状をそろえるより、見方の共通点を探してください。
症例を書いても、講座にする自信が持てません。
小さく始めてください。1本だけ書いて、同業の先生に読んでもらい、感想をもらいます。自信は、書いた量と読まれた回数で、少しずつついてきます。
効果を保証する書き方は、なぜ避けるのですか?
読んだ先生が、現場で同じことを患者さんに約束してしまうからです。経過を事実として書き、危険なサインがあるときは受診をすすめた例として伝えるのが安全です。
症例を書く作業は、自分の施術の役に立ちますか?
立ちます。見立ての順番を言葉にすると、自分の手の中で曖昧だった部分が見えるようになります。教えるための作業が、そのまま自分の施術の見直しになります。
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この記事は施術者の方に向けたものです。体の症状で困っている方は、医療機関にご相談ください。









