整体師がセミナー講師になるには?|リピートに悩んだ私が、教える側に回るまでの道のり

「何回通えば良くなりますか」

施術を終えてベッドに座った患者さんに、そう聞かれたことがあります。手はまだ温かいのに、口が動かない。答えは頭のどこかにあるはずなのに、言葉になって出てこない。

寝違えなら1回でほとんど楽になる。何年も悩んだ頭痛も、数回で軽くなる。そこまでの手応えはあったのに、その一言で止まってしまう。あの沈黙を、いまでもはっきり覚えています。

結論を先に言います。セミナー講師になる道は、技術を磨き切った先にあるのではありません。自分が詰まった場所を、順番に言葉にしていった先にあります。この記事では、私がどんな順番で教える側に回っていったのかを、できるだけそのまま書きます。

体の症状で困っている方は、まず医療機関にご相談ください。この記事は施術者の方に向けたものです。

セミナー講師になるのに、最初に必要なのは何ですか?

最初に必要なのは、肩書きでも実績でもなく、自分がいちばん詰まった経験です。

私は柔道整復師、鍼灸師、自律神経整体の施術者として、これまで25,000人の患者さんに、のべ11万回の施術をしてきました。全国で技術セミナーの講師もしてきました。数字だけ見ると順調に見えるかもしれません。

でも、講師を始める入口にあったのは自信ではありません。不満でした。

国家試験に受かり、修行をして、店長を任されました。寝違えが1回でほとんど消える。何年も悩んでいた頭痛が、何回かで楽になる。そういうことができるようになった一方で、どうしても難しい方が、一定の割合でいらっしゃいました。重いヘルニアの方、内臓の不調が絡む方です。

その方たちを前にすると、「今の自分では、まだ何かが足りない」という感覚が残りました。周りの先生からは、「それだけできるのだから、もう止めてもいいのでは」「いつまでやっても満足するものは見つからないよ」と言われました。

私は納得できませんでした。

なぜ、技術が上がっても不満は消えなかったのですか?

技術が上がっても、見る順番が決まっていなければ、難しい方の前ではまた同じ場所で止まるからです。

足りない気がして、私はいろいろな整体を学びに行きました。技術は確かに上がりました。手技の名前はいくつも言えるようになりました。

ところが、冒頭の「何回通えば良くなりますか」には、やはり答えられない。どの順に何を確かめて、どこで見切るのか。そこが、自分でも言葉になっていなかったのです。

独立して2年目のころは、いくらやってもリピートしませんでした。セミナーとDVDに使い続けても、結果は変わりません。寝る前に寒気がくる日々でした。手技を増やせば越えられると思っていた壁は、手技では越えられない壁だったのです。

ここで気づいたことがあります。技術が悪いんじゃない。見る順番が決まっていないだけでした。

この気づきが、のちに人へ教える中身の芯になりました。ただ、この時点では、まだ教えようとは思っていません。

教える側になろうと思ったきっかけは何でしたか?

きっかけは、自分ひとりで救えるのは地域の方だけだと気づいたことです。

私が施術の道に入ったのは、27歳のとき、母がすい臓がんになったからでした。目の前で痩せていく母に、世の中にこれだけ施術法があるのに、合うものが一つもないのかと、怒りがこみ上げました。

あらゆる情報を探して、試して、あまり効果がなければまた別のものを探す。その繰り返しで心が折れそうになったとき、親戚がビワ灸を勧めてくれました。試すと少しずつ体調が落ち着いて、歩くのも辛かった母が、家族で旅行に行けるところまで戻りました。

そのときに母がかけてくれた「ありがとう」の一言を、いまでも忘れられません。サラリーマンだった私が施術家になったのは、この一言があったからです。

だから、私の中で譲れない一線がありました。母のように辛い想いをしている方を、一人でも多く救いたい。

そう考えたとき、答えは単純でした。自分が診られるのは、院に来られる地域の方だけです。ところが、講師になって全国の先生の力になれれば、私が診られない土地の方も楽になっていきます。救える人が、もっと多くなる。

講師を始めた理由は、これです。ですから、売れたいとか、先生と呼ばれたいとかいう動機では、一歩目を踏み出せなかったと思います。

教える側になる理由は、自分の中に一つあれば足ります。それが何かは、人から見える形でなくても構いません。

講師になるために、どんな順番で準備しましたか?

準備の順番は、技術を増やすことではなく、自分の見立てを言葉にして、人の現場で確かめることでした。

具体的には、次の3つです。

1つめは、自分の失敗を書き出すことです。どの患者さんで外したか。どこで見る順番を間違えたか。成功例よりも、外した例のほうが、人に渡す価値があります。

2つめは、症例を2例並べることです。1例では偶然に見えます。2例並ぶと、見立てになります。入口の症状は違うのに、同じことを渡して変わった方が複数いる。そういう記録が貯まってくると、人に説明できる形になってきます。

3つめは、教えた先生が現場で結果を出すかどうかを見ることです。ここがいちばん大事でした。自分の手で出る結果と、人の手で出る結果は別のものだからです。

実際に私が教えた先生の変化を、特定されない形で3つ並べます。

1人目は、開業3年目の先生でした。その日は良いのにすぐ元に戻る、手応えがない、という悩みです。渡したのは新しい手技ではありません。元に戻る理由の説明と、戻らないためのセルフケアの伝え方でした。元に戻ることがかなり減って、リピートが増えました。

2人目は、開業2年目の先生です。同じ腰痛でも、良くなる人とならない人の違いが分からない、という悩みでした。渡したのは原因のパターンです。どんなパターンの腰痛かが分かるようになり、結果が出て、口コミが増えました。

3人目は、開業5年目の先生です。手技は増えたのに結果が出ず、施術時間が長くなって、夜はいつも疲れ切っていました。渡したのは見立てです。予約表どおりに終えて、夜に元気に帰れるようになりました。

3人とも、私が足したのは手技ではなく、順番と、パターンと、説明の言葉です。講師になる準備とは、この3つを自分の手持ちから取り出せるようにすることだと、私は考えています。

見る順番の考え方は、見立ての順番の記事に詳しく書いています。先に読んでおくと、このあとの話がつながります。

一勝九敗の人が、教えてよいのですか?

教えてよいです。むしろ、外した経験を話せる人のほうが、教える側に向いています。

私の好きな言葉は、一勝九敗です。ずっと勝ち続けてきた人は、詰まっている先生の気持ちが分かりません。外して、困って、直した経験がある人にしか、渡せないものがあります。

セミナーには、ある種の限界があります。セミナー会場には修羅場がないのです。実際の腕が上がるのは、自分の患者さんで外して、困って、直す。その通り道しかありません。だから講師の仕事は、その通り道を短くするための地図を渡すことだと、私は思っています。

駆け出しのころの話もしておきます。私は最初、数をこなすことだけを考えて、無心で押していた時期があります。いま振り返ると、その時期にも意味がありました。数をこなしたから、パターンが見えるようになったからです。

だから、若い先生に「押すな」とは言いません。あの時期にも意味があった、と言える人が、教える側に立てると感じています。

講師になる前に、避けたほうがよいことはありますか?

避けたほうがよいのは、不安を埋めるために講師になることと、先輩や業界を批判して注目を集めることです。

不安を埋めるために始めた講座は、自分の不安を受講生に渡してしまいます。うまくいかないと、受講生の側に原因を探し始めます。

批判についても同じです。以前の職場や業界を叩く話は、最初は耳を引きますが、そのうち恨みの話に聞こえて、価値が落ちます。私自身、前の環境を叩いたことはありません。そのときの自分に必要な時間だったと、いまは冷静に見ています。

もう一つ、無料で全部出して疲れ切る、というのも避けたいところです。出し惜しみをしろという意味ではありません。渡す範囲と時間を決めて、自分のエネルギーを空にしないことです。空の状態で教えても、言葉に力が入りません。

講師になるまでに、どれくらいの時間がかかりますか?

時間は人によって違いますが、私の場合は、技術を学ぶ期間と、言葉にする期間が別々にありました。

学ぶ期間は長く、やればやるほど不満が残りました。言葉にする期間は、失敗を書き出して、症例を並べて、教えた先生の結果を見る、その繰り返しでした。

年数で区切るより、次の3つが揃ったかどうかを見るほうが現実的です。

1つめ。自分の見る順番を、他の人に説明できること。
2つめ。外したときに、どこで外したかが分かること。
3つめ。教えた人が、自分の現場で結果を出し始めること。

3つめだけは、自分では決められません。だから、小さく始めるのがよいと思います。1人の先生に、1つの症状の見立てだけを渡してみる。そこで結果が出れば、2人目に広げる。この順番なら、失敗しても傷が浅くて済みます。

いまの手持ちで、今日からできる最初の一歩は何ですか?

最初の一歩は、先月いちばん困った患者さんの経過を、3〜4行で書き出すことです。

症状と、そのとき自分が何を見たか、何を渡したか、その後どうなったか。これだけで十分です。外した場面があれば、そこを必ず入れてください。

次に、その経過に似た患者さんがもう一人いなかったかを思い出します。いれば、2例並んだことになります。それが講座の材料の、いちばん小さな単位です。

そして、仲間の先生に1人だけ話してみてください。「こう見て、こう渡した」と話して、相手の手が動くかどうかを見ます。動けば、それは教えられる中身です。

よくある質問

整体師がセミナー講師になるのに、資格は必要ですか?

特別な資格は必要ありません。ただし、人の体を扱う技術を教えるので、国家資格や、現場での十分な経験があるほうが、受講生の安心につながります。

実績が少なくても、講師になってよいですか?

なってよいです。ただし、実績の数よりも、外したときの経験と、教えた人の結果を重ねていくことのほうが大切です。少人数から始めて、ひとつずつ積み上げてください。

技術に自信がなくても、人に教えられますか?

教えられます。自信がない理由が、手技の量ではなく、見る順番が決まっていないことなら、順番を言葉にするところから始められます。

講師を始めるとき、最初に何を教えればよいですか?

自分がいちばん詰まって、いちばん抜けた経験を教えてください。成功例よりも、詰まった場所とそこを抜けた順番のほうが、受講生の現場でそのまま使えます。

自分の施術を人に教えたら、院の患者さんが減りませんか?

私の経験では、減りませんでした。教える内容は、診る順番や考え方で、院の患者さんが来る理由とは別です。むしろ、教えることで自分の見立てが整理されて、施術が深まりました。

講師になると、施術の時間が足りなくなりませんか?

なります。だから、最初から全部をやろうとせず、月に1回の勉強会など小さな規模で始めて、院の運営とのバランスを見ながら広げてください。

受講生が集まらないときは、中身を増やすべきですか?

増やす前に、誰のどんな詰まりに向けた中身なのかを絞ってください。手技を足すより、困っている先生の悩みと中身が合っているかを見直すほうが、効きます。

無料の勉強会から始めてもよいですか?

始めてよいです。無料の場では、受講生の声や質問から、自分の中身のどこが伝わって、どこが伝わらないかが分かります。そこから有料の講座の形が見えてきます。

教える側になって、いちばん気をつけることは何ですか?

効果を約束しないことと、医療的な判断が必要な場面では受診をすすめることです。危険なサイン、たとえば急な麻痺や激しい痛みがある場合は、教える内容にもそれを必ず含めてください。

現場で使える資料は、どこで受け取れますか?

現場で使う資料を、全部で17本まとめて渡しています。症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文などです。受け取りは公式LINEからどうぞ。

整体師・鍼灸師だけが集まっているオープンチャットもあります。教える側に回ることを考えているとき、迷ったらそこで気軽に聞いてください。

週に1回、現場の見立てを届けるメルマガ見立てだよりもあります。

この記事は、施術者の方に向けて書いたものです。体の症状で困っている方は、まず医療機関にご相談ください。

author avatar
dmt35sqkjuve