整体だけでは生計が立たず、別の仕事と掛け持ちしている先生へ。時間が限られる人の優先順位

夜勤に入る前、施術室のシーツを畳んで、鍵をかける。

ある先生は、そのまま別の仕事場へ向かうそうです。週のうち何日かは、整体とは別の仕事に時間が取られています。サロンは自分で手を入れて作りました。技術も習ってきました。それでも、整体の収入だけでは暮らしが成り立ちません。

鍵をかけながら、「自分は本気でやれているのだろうか」と考える。そんな夜を過ごしている先生は、少なくないと思います。

この記事では、整体の収入だけでは足りず、別の仕事と掛け持ちしている先生が、限られた時間をどう使えばよいかをお話しします。結論から言うと、掛け持ちは恥ではなく、条件です。条件が決まっているなら、やることの順番を変えれば、同じ時間でも進み方が変わります。

整体の収入だけで足りず、掛け持ちしていることは恥ずかしいことですか

恥ずかしいことではありません。それは先生の甘さではなく、いま置かれている条件です。

開業したての整体師が、整体だけで暮らせることのほうが、実は少数です。患者さんに知られていない時期は、どんなに技術があっても予約は入りません。その間の暮らしを別の仕事で支えるのは、むしろ堅実な判断です。

ただ、頭では分かっていても、心はそう受け取れないことがあります。「掛け持ちしている自分は、整体に本気じゃない」という声が出てくるからです。

私は、その声を信じなくてよいと思っています。本気かどうかは、時間の量では決まりません。限られた時間を、何にどう使うかで決まります。

私自身、独立して2年目のころ、予約表の空きを見て、寝る前に寒気がしたことがあります。あのときの私に必要だったのは、気合いではなく、空いた時間と手持ちのものを並べ直す作業でした。

掛け持ちの先生が、いちばん陥りやすい失敗は何ですか

少ない時間を、あらゆる方向に薄くまいてしまうことです。

整体に使える時間が少ないと、焦ります。焦ると、「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」となります。

実際に、手元の道具を並べてもらうと、驚くことがあります。インスタグラムのアカウントが2つ。スレッズも2つ。公式LINE、音声配信、動画、X、note。ホームページもある。開業まもない先生なのに、発信の場所がすでに7つ以上ありました。

何もやっていないのではありません。やりすぎているのです。どれも更新が止まり気味で、どれも中途半端になっていました。

時間が限られている人ほど、足し算ではなく引き算が効きます。やることを増やすのではなく、やらないことを先に決める。ここが分かれ目です。

時間が限られているとき、何から決めればよいですか

順番を決めます。棚卸し、症状の絞り込み、数稽古、の順です。

時間が少ない人に向いているのは、毎日少しずつ進められて、積み上がるものを選ぶ道筋です。この3つは、まとまった時間がなくても進められます。

1. 手持ちのものを机に並べる(棚卸し)
2. 狙う症状を1つ決める(絞り込み)
3. 数を重ねて、パターンを見つける(数稽古)

順に見ていきます。

棚卸しとは、具体的に何をすることですか

新しく習う前に、いま持っているもの、できること、対応してきた症状を全部書き出すことです。

掛け持ちの先生は、時間がない分、「何か新しい武器が必要だ」と考えがちです。ところが、手持ちを書き出してもらうと、揃っていることが多いのです。

ある先生は、認定を受けた手技を持ち、別の整体の流れも身につけ、お腹へのアプローチも習い始めていました。それなのに本人は、「基本しかできません」と言っていました。

足りないのは技術の量ではありません。持っているものを、どの症状に、どう当てるかという組み立てが、まだ言葉になっていないだけです。

棚卸しは、1日30分でも進みます。

  • いま使える手技を全部書く
  • その手技で、これまで楽になった方の経過を思い出して書く
  • 師匠や仲間がいるなら、「どんな症状の方が来ていたか」を聞いて書き足す

3つ目は特に効きます。自分の経験が浅くても、師匠の棚を借りれば、自分が扱える症状の幅が見えてきます。

症状は、どうやって絞ればよいですか

肩こりと腰痛だけで勝負するのをやめて、「難しいと言われて、みんなが避けている症状」から1つ選びます。

肩こり・腰痛は、一番数が多い主訴です。だからこそ、同じことを考えている院が多く、時間の少ない人が後から入って目立つのは難しい領域です。ブログに書くこと自体は構いません。ただ、そこに全力を注ぐと、読まれないまま時間だけが減ります。

一方で、頭痛、めまい、耳鳴り、睡眠、自律神経の乱れのように、病院を回っても楽にならずに困っている人が多い症状は、取り組む院が少なく、空いています。

空いている理由は、難しいからです。でも、難しい症状で困っている方ほど、「ここなら」と思えた場所には、本気で通ってくださいます。

大事な注意が1つあります。急な麻痺、これまでにない激しい痛み、急な体重減少などがある場合は、まず医療機関を受診してもらってください。症状を絞るのは、見立ての範囲を広げすぎないためであり、医療が必要な方を見逃すためではありません。

数稽古とは何ですか。値段を下げるのは正解ですか

期間と目的を決めて、数を重ねることです。値段は、その間だけ入口を低く設定する選択肢になります。

実績が少ないうちは、自信がありません。自信がない状態で高い値段を言おうとしても、声が出ません。そうなると、説明も弱くなります。

そこで、一定の期間、数をこなす時期を作ります。たくさんの方の体を診ると、「この症状で、この順番でみると、こう変わる」というパターンが少しずつ見つかります。そのパターンが「これは大丈夫だ」と思えるところまで溜まってから、値段を上げていく順番です。

ここで気をつけたいのは、安くすること自体が目的ではないという点です。期間を決めずに安いまま続けると、先生の体が削れます。別の記事でお話ししたとおり、安売りは、先生の体と時間を一番に消耗させます。

下げるなら、いつまで、何人分、何を記録するかを決めてからにします。記録というのは、どんな方に、どう施術して、どう変わったか、という経過のメモです。このメモが、のちの値上げの根拠になり、発信の材料にもなります。

掛け持ちで時間がない中、セルフケアはどう使えばよいですか

施術とセルフケアを半々と考えると、技術がまだ熟練していなくても、結果の出方を補えます。

施術の時間は、1回あたり限られています。ただ、患者さんが自宅で過ごす時間は、そのはるかに長い時間です。セルフケアを渡せると、先生がそばにいない時間も、体が整う方向に使えます。

もう1つ大切なのは、先生自身がそのセルフケアを試しておくことです。やってみて、自分の体でどう変わったかを知っている先生の言葉は、説得力が違います。「私もこうなりました。だから、こうしてみてください」と言えるからです。

セルフケアを自分で試すのは、通勤の合間や、夜勤の前後でもできる、数分単位の作業です。時間が限られている人にとって、一番コストの低い準備です。

発信は、何に絞ればよいですか

自分の管理下に置ける、ブログを1本の柱にします。

数ある発信の場所のうち、時間のない人に残すべきものは多くありません。理由は2つあります。

1つ目は、積み上がるものを優先したいからです。SNSの投稿は流れていきます。ブログは、検索から長く読まれ続けます。

2つ目は、自分の管理下に置けるものを持ちたいからです。外部のサービスに書いた文章は、そのサービスの都合で見えなくなることがあります。自分のホームページの中に置いたブログは、自分の資産として残ります。

効果が見え始めるまでは、2〜3か月かかることが多いです。その間、反応が少なくても続けるには、量を小さくします。1日1段落だけ書く。1日1つ、現場で気づいたことをメモする。これなら、夜勤の前でも続けられます。

そのほかの場所は、今は止めて構いません。ブログと、もう1つの発信の場所が回りはじめてから、広げれば間に合います。

掛け持ちの日と、整体の日を、どう切り分ければよいですか

整体の日は、施術と記録だけに使い、制作や勉強は、別の日の隙間に入れます。

別の仕事のある日は、疲れています。疲れた状態で施術を入れると、見立ても説明も鈍ります。可能であれば、別の仕事の前後に施術の予約を入れないほうが、結果が安定します。

そのうえで、時間の使い方を3つに分けます。

  • 整体の日:施術、記録、患者さんへの返信
  • 別の仕事の日:移動時間や休憩時間に、ブログを1段落、棚卸しを1項目
  • 休む日:何もしない

3つ目の「休む日」を入れることを、私は大切だと考えています。休まないと、続きません。続かないと、積み上がりません。

掛け持ちは、いつまで続ければよいですか

期限を日付で決めるのではなく、整体の側で見える変化を物差しにします。

「あと何年」と決めても、気持ちが落ち着きません。そこで、次のような小さな変化を見ます。

  • 再来してくださる方が、少しずつ増えているか
  • 問い合わせが、自分の発信から届いているか
  • 口コミや感想が、手元に集まりはじめているか
  • 施術の説明が、前より言葉にできているか

どれか1つでも動きはじめていたら、方向は合っています。逆に、どれも動かないなら、掛け持ちの時間を増やすかどうかではなく、見る順番やお伝えの仕方を見直すタイミングです。

技術が悪いのではありません。見る順番が決まっていないだけ、ということが、本当に多いのです。

掛け持ちをしている先生にとって、いま一番大切なことは何ですか

整体の時間が少ないことを嘆くのをやめて、その時間に何を積むかを決めることです。

時間が少ないのは、事実です。ただ、少ない時間でも、棚卸しをして、症状を絞り、数を重ねて、記録を残して、ブログを1段落ずつ書く。この流れなら、毎日進みます。

掛け持ちをしている先生は、別の仕事の現場で、人の体や暮らしに触れています。それは、整体の現場とは違う種類の一次情報です。無駄になる時間は、ほとんどありません。

焦って足し算をする前に、いま手元にあるものを机に並べてみてください。思っていたより、揃っているはずです。

見る順番について詳しく知りたい方は、見立ての順番の記事もご覧ください。

よくある質問

整体の収入だけで食べられないのは、技術が足りないからですか?

多くの場合、技術の不足ではありません。患者さんに知られていない期間は、技術があっても予約が入りにくいのが普通です。まず手持ちの技術と対応できる症状を棚卸しして、誰に何を届けるかを決めるところから始めてください。

副業や掛け持ちをしながらでも、整体の集客は進みますか?

進みます。ただし、あらゆる方向に手を広げると進みません。ブログを1本の柱にして、1日1段落ずつ書くような、小さな単位で続ける形が向いています。

発信の場所が多すぎて、何から手をつけるか分かりません。どうすればよいですか?

まず、自分の管理下に置けるブログを1つ決めてください。そのほかは、今は更新を止めて構いません。ブログともう1つが回りはじめてから、広げても遅くありません。

肩こり・腰痛の記事を書いても読まれません。やめたほうがよいですか?

やめる必要はありませんが、そこに全力を注ぐのは避けてください。頭痛、めまい、耳鳴り、睡眠、自律神経の乱れのように、取り組む院が少ない症状から先に書くほうが、読まれやすくなります。

実績が少ないうちは、値段を下げたほうがよいですか?

期間と目的を決めたうえでなら、選択肢の1つです。いつまで、何人分、何を記録するかを先に決めてください。期間を決めずに安いまま続けると、先生の体と時間が削れてしまいます。

セルフケアは、自分で試してから伝えたほうがよいですか?

試してから伝えるのをおすすめします。自分の体で変わった経過を知っていると、患者さんへの説明に説得力が出ます。時間がないときでも、数分でできる作業から始められます。

別の仕事で疲れている日に、施術を入れても大丈夫ですか?

可能であれば、別の仕事の前後には施術を入れないほうが、見立ても説明も安定します。難しい場合は、時間に余裕をもたせて、問診を絞って行ってください。

掛け持ちを卒業する目安はありますか?

日付ではなく、再来してくださる方の増え方、発信からの問い合わせ、口コミの集まり方といった、整体側の変化を見てください。どれか1つでも動きはじめていれば、方向は合っています。

患者さんに、掛け持ちしていることを話したほうがよいですか?

話す必要はありません。ただ、予約の取れる曜日や時間が限られているなら、そのことは正直に伝えてください。無理のない枠で続けるほうが、患者さんとの信頼も長く続きます。

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この記事は施術者向けに書いたものです。体の症状でお困りの方は、まず医療機関を受診してください。

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