セミナー講師デビューで最初につまずく5つのポイント|整体師・鍼灸師が教える側で外しやすいところ

「ここまでで、質問はありますか」

そう聞いて、会場を見回す。手は一つも挙がらない。みなさんうなずいている。

よし、伝わった。そう受け取って次のスライドへ進みました。ところが、実技の時間になると、前列の先生の手が止まります。私が見せた手順の、最初の一歩目で動けない。聞いてみると、さっきの説明のいちばん大事なところが、まったく入っていませんでした。

質問がないのは、分かったからではない。分からないことすら、言葉にできなかっただけでした。

結論を先に言います。講師デビューでつまずくのは、話し方や度胸の問題ではありません。教える前に決めておくことを決めていないだけです。この記事では、私が教える側に回って実際に外した5つを、そのまま書きます。

体の症状で困っている方は、まず医療機関にご相談ください。この記事は施術者の方に向けたものです。

講師デビューで最初につまずくのは、どんなところですか?

つまずきは、中身の不足ではなく、教える前の設計の不足に集中します。

私は柔道整復師、鍼灸師、自律神経整体の施術者として、25,000人の患者さんに、のべ11万回の施術をしてきました。全国で技術セミナーの講師もしてきました。それでも、教える側に立った最初のうちは、毎回のように何かを外していました。

外したことを振り返ると、5つに分けられます。

1つめ。カリキュラムを作らずに始めた。
2つめ。練習の時間を決めなかった。
3つめ。受講生と近くなりすぎた。
4つめ。指摘が多すぎた。
5つめ。質問がないのを、理解したと受け取った。

どれも、技術とは関係がありません。施術の腕があるほど、ここを軽く見てしまいます。自分の手が覚えていることは、順番を決めなくても出てくるからです。人に渡すときだけ、その順番が必要になります。

なぜ、カリキュラムなしで始めると伝わらないのですか?

その場の思いつきで話すと、聞く側は「いま何の話をしているのか」を見失うからです。

最初のころの私は、話したいことが山ほどありました。症例の話、見立ての話、体質の話。どれも本当のことです。ただ、順番を決めずに話すと、聞いている先生は、全部が同じ重さで入ってきます。何を持ち帰ればいいのかが分かりません。

教える内容が増えるほど、散らかります。大事なことがあるほど、全部話したくなるからです。

直し方は単純です。回ごとに、何を渡すかを先に1つ決めます。1つの回で渡すものは、1つか2つ。それ以外は、次の回にまわします。

渡す量の目安もあります。1日で渡せるものなら、1日でやります。1日で渡せないものは、期間を分けます。詰め込んで全部話した気になるのは、教えた側の満足であって、受け取った側の変化ではありません。

見る順番の考え方は、見立ての順番の記事にも書きました。教える内容をどう並べるかの参考になると思います。

練習の時間を決めないと、何が起きますか?

各自に任せると、ほとんどの人が練習しません。

これは、私の経験でも、ほかの先生から聞く話でも、同じです。「現場で試してみてください」と言って終わると、次に会ったとき、試した人はごくわずかです。やる気がないのではありません。忙しい日々の中で、後回しになるだけです。

だから、練習の時間は、教える側が先に決めます。

講義の中に実技の時間を入れる。次の回までの課題に、期限を付ける。「やれるときに」とは言わず、いつまでに、何を、どこまで、と区切ります。

期限があると、やった人と、やらなかった人がはっきり分かれます。分かれることは、悪いことではありません。次に誰へ声をかけるべきかが見えるからです。

もう一つ。練習の中身は、小さくします。症例を3つ見てきてください、ではなく、先月いちばん困った患者さんの経過を3〜4行で書いてきてください。小さくすると、手が動きます。

受講生と近くなりすぎると、どうなりますか?

距離が近くなりすぎると、本当のことを言いづらくなり、教える側が先に疲れます。

教える仕事は、人と深くかかわります。悩みを聞く。迷いに付き合う。そうしているうちに、友人のような関係になっていきます。それ自体は悪いことではありません。

困るのは、言うべきことが言えなくなるときです。外れている手順を、外れていると言えない。課題をやってこなかった人に、やっていないですね、と言えない。そうなると、教える意味が薄れます。

私は、受講生にも患者さんと同じ線を引くようにしました。やさしくするけれど、仲良くなることを目的にしない。一人ひとりの相談に、際限なく付き合わない。個別のやりとりには、決めた枠を作る。

これは冷たくするという意味ではありません。線があるから、安心して本当のことを言えるのです。患者さんとの関係と、まったく同じです。

指摘が多すぎると、なぜ受講生は伸びないのですか?

指摘ばかり受けた人は、直すことより、間違えないことに意識が向いて、手が縮むからです。

私自身、最初のころは、気づいたことをすべて伝えていました。良くなってほしい一心です。ところが、症例の振り返りに、赤ペンのような指摘ばかり返すと、返事が少しずつ短くなっていきました。出される症例の数も、減りました。

そこで、褒めるのを8割、指摘を2割にしました。症例の振り返りへの返事は、まず良かったところから始めます。そのうえで、直す点を1つだけ。

指摘を絞ると、何を直せばいいのかが、むしろ伝わります。10個直せと言われた人は、どれも直せません。1つなら、次の日の施術から変えられます。

患者さんへの接し方と同じです。小さな進歩を見つけて肯定する。できなかった日を責めない。受講生にも、同じことをするのです。

「質問はありますか」と聞いて、質問が出ないときはどうしますか?

質問がないときは、理解した合図と受け取らず、名指しで聞きます。

冒頭の場面に戻ります。手が挙がらなかった会場で、本当は、何人もの先生が分からないままでした。分からないことを人前で言うのは、思っている以上に勇気がいります。まして、教える側が「先生」と呼ばれる場では、なおさらです。

質問がない人ほど、分かっていない感じがする。これが、私の実感です。

いま私は、講義の中で、一人ずつ名前を呼んで聞いています。「どうですか」ではなく、具体的に聞きます。いまの手順で、いちばん迷うところはどこでしたか。自分の患者さんなら、最初に何を見ますか。

答えられなくても構いません。答えられないことが分かれば、そこが次の講義の材料になります。手が挙がるのを待つのをやめたら、教える内容がはっきりしてきました。

つまずきを防ぐために、教える前に何を決めておけばいいですか?

決めておくのは、渡すもの、練習の期限、線の引き方、褒め方、聞き方の5つです。

先ほどの5つを、そのまま裏返すと、準備の一覧になります。

1. 回ごとに渡すものを1つか2つに絞る
2. 課題の中身を小さくして、期限を付ける
3. 個別のやりとりに枠を決め、仲良くなることを目的にしない
4. 褒めるのを8割、指摘を1つに絞る
5. 講義の中で、一人ずつ名前を呼んで聞く

これを紙に書いて、講義の前に机に置いておくだけでも、違います。

もう一つ、大事なことがあります。受講生には、患者さんと同じ接し方をする、ということです。練習時間を決めるのは、セルフケアを「どんな感じでやりましたか」と回収するのと同じ。線を引くのは、依存させないのと同じ。教え方を別に作る必要はありません。施術で大切にしていることが、そのまま教え方になります。

それでも失敗したとき、どう立て直せばいいですか?

失敗した場所を一つだけ言葉にして、次の回で一つだけ変えます。

講師デビューの失敗は、ほぼ必ず起きます。私の好きな言葉は、一勝九敗です。外して、困って、直した経験がある人にしか渡せないものがあります。

立て直すときは、全部を変えようとしません。今回は質問を名指しで聞く。次回は課題に期限を付ける。変えるのは、1回に1つ。

そして、外した場面を隠さないことです。「前回、私はここを説明しきれていませんでした」と伝える。受講生は、そこで安心します。完璧な先生より、外したことを話せる先生のほうが、質問しやすいからです。

講師デビューを考えている先生が、今日できることは何ですか?

今日できるのは、最初に教えたい1つのことを、3行で書き出すことです。

誰の、どんな詰まりに向けたものか。そこで何を渡すのか。受け取った人が、次の日から何を変えられるのか。この3行が書けたら、1人の先生に話してみてください。相手の手が動くかどうかを見ます。

動かなければ、まだ中身が伝わる形になっていません。動けば、それは教えられる中身です。小さな勉強会から始めて、外した場所を一つずつ直していけば、十分です。

よくある質問

セミナー講師デビューで、いちばん多い失敗は何ですか?

内容を詰め込みすぎることです。話したいことが多いほど、全部を一度に渡したくなりますが、受け取る側は持ち帰れません。1回に渡すものを1つか2つに絞ってください。

話すのが苦手でも、講師はできますか?

できます。つまずきの多くは、話し方ではなく設計にあるからです。渡すものを絞り、順番を決めておけば、話し上手でなくても伝わります。

受講生が課題をやってこないときは、どうすればいいですか?

課題を小さくして、期限を付けてください。大きな課題を「やれるときに」と任せると、ほとんどの人が後回しにします。先月いちばん困った患者さんの経過を3〜4行で書く、くらいの大きさが目安です。

受講生と仲良くなりすぎないためには、どうしたらいいですか?

個別のやりとりに枠を決めておくことです。仲良くなること自体は悪くありませんが、本当のことを言えなくなるのは困ります。患者さんとの関係と同じ線を引くと、お互いに安心です。

指摘と褒めるのは、どのくらいの割合がよいですか?

私は、褒めるのを8割、指摘を2割にしています。指摘は多くても1つに絞ると、次の日から変えられます。

質問が出ない講義は、うまくいっていないのでしょうか?

そうとは限りませんが、質問がないことを理解した合図と受け取るのは危険です。一人ずつ名前を呼んで、具体的に聞いてみてください。答えられない部分が、次の講義の材料になります。

無料の勉強会から始めてもいいですか?

始めてよいです。無料の場でも、渡すもの、練習の期限、聞き方を決めておけば、中身のどこが伝わって、どこが伝わらないかが分かります。

教えた内容が現場で使われているかは、どう確認すればいいですか?

次の回で、実際に使った場面を聞いてください。使えなかった場合も、どこで止まったかが分かれば十分です。そこが教える中身を直す手がかりになります。

効果を保証するような言い方は、してもよいですか?

しないでください。効果の保証は避け、医療的な判断が必要な場面では受診をすすめることを、教える内容にも必ず含めます。急な麻痺や激しい痛みなど、危険なサインがある場合は、なおさらです。

現場で使える資料は、どこで受け取れますか?

現場で使う資料を、全部で17本まとめて渡しています。症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文などです。受け取りは公式LINEからどうぞ。

整体師・鍼灸師だけが集まっているオープンチャットもあります。教える側に回ることを考えているとき、迷ったらそこで気軽に聞いてください。

週に1回、現場の見立てを届けるメルマガ見立てだよりもあります。

この記事は、施術者の方に向けて書いたものです。体の症状で困っている方は、まず医療機関にご相談ください。

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