回数券を作ったら単価が上がった話。ただし最初は、私も揉めました

ベッドの横で、表を一枚見せる。ベストの状態を10として、今の位置を指でそっと示す。「今、7割くらいまで来ています」。

初診の患者さんの表情が、ふっと緩みました。回数の話も、金額の話も、まだ一言もしていません。それなのに、その人の中では「次に来る理由」がもう決まっていたのです。

回数券で単価を上げたい。そう考える先生は多いと思います。私も同じでした。そして最初は、見事に失敗しました。この記事は、その失敗と、そこから分かったことの話です。

回数券を作ると、本当に単価は上がるのですか

上がる形と、上がらない形があります。分かれ目は、回数券そのものではなく、何を約束しているかです。

先に正直に書きます。私は開業したばかりの頃、回数券を作って患者さんを縛ろうとしました。結果は、揉めました。細かい経緯は書きませんが、縛るほど患者さんの足は離れていきました。最初の問い合わせの電話で患者さんを怒らせたこともあります。セミナーで先生方に話すと、いまも「私もです」と笑いが出ます。上手くやろうとしないで、経験を先に積む。私はそうやって覚えてきました。

ここで言う単価は、1回の料金のことではありません。1人の患者さんが、変わるまでの間に院へ預けてくれる時間と信頼の総量のことです。回数券は、その総量を先に確定させる仕組みです。だから、確定させた中身が患者さんの納得と合っていないと、揉めます。

なぜ回数券は、売ろうとするほど揉めるのですか

体がどう変わるかを断定できないのに、回数だけ先に固定してしまうからです。

「10回コースです」と言った瞬間、こちらは「10回でなんとかします」と約束したことになります。けれど、悪い方で安定している体が何回で動くのかは、本当は誰にも言い切れません。言っている側が、心の中で迷っている。迷いは声に出て、患者さんには伝わります。

さらに、患者さんの側にも事情があります。回数券を買った人は、効いているかどうかより、元を取れているかどうかを気にし始めます。体の話をしていたはずが、いつの間にかお金の計算の話になる。揉める入口は、いつもここです。

単価が上がった院で、実際に起きていたことは何ですか

回数券を売る前に、通う理由が患者さんの言葉になっていました。

私の院では、来院の間隔を回数ではなく、持ちで決めています。最初は週に1回。1週間、調子が持つようになったら2週間に1回。長く悪かった方には、3週間、1か月と間を空けていく道があることを、最初に伝えておきます。

この説明に使っているのが、先ほどの表です。来院した体は、悪い方で安定しています。施術をすると良い方へ動きますが、最初は戻りやすい。ベストから7割くらいまで上がると、体は自分で良い方へ行こうとします。だから、まず7割まで持っていく。1週間に1回なら、そんなに戻らずに進めます。

回数だけを言うと、患者さんには「こちらの都合」に聞こえます。7割まで上げると体が自分で動き出す、という理屈があると、週1回は目的のための手段に変わります。患者さんは、自分の現在地が見えるので、ゴールまで払う理由も自分で納得できます。

ここから先は、私の見立てです。単価が上がるというのは、値札を高くすることではなく、納得して通ってくれる期間が、結果的に伸びることだと思っています。納得した人は、途中でやめません。そして、よくなった人は、人を連れてきてくれます。

回数券の説明は、いつ、何から話せばいいですか

変化を一度確かめてもらったあとに、まず間隔の話をします。

初回の、まだ何も体感していない段階で、回数とお金の話をすると構えられます。先に「これをやれば変わります」と言うと、患者さんは信じるかどうかを判断する立場になるからです。体が変わったことを本人が確かめたあとなら、同じ説明が納得になります。

順番はこうです。

1. 施術の前後で、可動域や姿勢の変化を本人に確かめてもらう
2. 来院した体が、悪い方で安定していたことを伝える
3. 7割までを目標にして、最初の間隔を提案する
4. 回数券を使う場合は、その間隔をまとめて払える便利な形として、最後に出す

回数券は、4番目に出す道具です。1番目に出すと、押し売りに聞こえます。これは見立ての順番の話とも重なります。何を先に伝えるかを決めておくだけで、同じ言葉の受け取られ方が変わります。

回数券が売れる院と売れない院は、何が違うのですか

違いは、回数券の前に、見通しが渡せているかどうかです。

売れない院の説明は、「回数券だとお得です」で始まります。お得さは、患者さんが体の変化を確かめる前には、ほとんど響きません。売れる院の説明は、「この調子なら、次は1週間空けて様子を見られそうです。その間隔でしたら、まとめて預けておくほうが楽だと思います」という流れです。

セミナーで話を聞いていると、技術の幅は広がっているのに、会計の場面だけ開業初日のまま止まっている先生が少なくありません。技術は積み重ねられるのに、お金の伝え方だけは誰からも教わらないまま、自分の感覚でやり続けてしまうのだと思います。

単価を上げるとき、してはいけないことは何ですか

見立てを渡す前に、料金や回数で縛ることです。

私の院は、完全予約制で、1人にかける時間を長く取っています。そのまま書くと「高い方がいいと言いたいだけ」に聞こえてしまうので、順番を間違えないようにしています。高くすることが目的ではありません。1人に時間と手間をかけて見立てる形にしたら、結果として単価が合う形になった。この順番です。

逆に、先に単価を上げようとすると、こうなります。

1. 回数券で先に枠を固める
2. 変化が出る前に、患者さんが元を取る計算を始める
3. 少し戻った週に、疑いが出る
4. 揉める

私が最初に通ったのは、この道でした。

技術がある先生ほど、回数券で止まるのはなぜですか

見えているぶん、断定できないことも、同じくらい分かってしまうからです。

気功やキネシオロジーのように、体の奥まで見えるようになった先生ほど、「この人は何回で変わるか」を言い切れません。だから回数券の案内で声が小さくなる。それは営業が苦手なのではなく、誠実さの裏返しです。手が止まるのは、悪いことではありません。

必要なのは、強気になることではなく、約束する単位を変えることです。回数は約束できません。けれど、次回までの見通しなら約束できます。「今の調子がどれくらい持つか、次回一緒に見てみましょう」。これなら、迷いなく言えます。

回数券の前に、患者さんが一番知りたいことは何ですか

自分の体で何が起きたのか、という説明です。

施術のあと、患者さんからこう聞かれることがあります。「先生、私、今日なんでこれが良くなったんですかね?」。この一言に答えられないと、体は変わったのに、次に来る理由が残りません。患者さんは、良くなったから離れるのではなく、次に来る理由を知らないから離れるのだと、私は見ています。

1週間は168時間あります。施術で触れているのは、そのうちの1時間ほどです。残りの167時間の過ごし方が、体調が上がるかどうかを決めています。この話を、変化を確かめてもらったあとに添えます。すると、患者さんは「来院は、残りの167時間を良い方へ使うための確認の場」だと受け取ってくれます。

この納得ができている人は、回数券を案内されても構えません。値札を見る前に、通う意味が自分の言葉になっているからです。回数券で単価が上がる院は、売る力が強いのではなく、この納得を先に渡せています。

明日から、何をすればいいですか

まず3つだけです。

1. 回数券の案内を、変化を確かめてもらったあとに回す
2. 回数ではなく、持ちで間隔を決めると伝える
3. 患者さんが自分の現在地を言えるように、7割のような物差しを一つ決める

回数券を捨てる必要はありません。売り方の順番を変えるだけで、同じ回数券が、押し売りから提案に変わります。

よくある質問

回数券は作らないほうがいいのですか?

いいえ。作ること自体は問題ありません。まとめて払うほうが患者さんの負担が軽くなる場合もあります。大事なのは、回数券を最初に出さないことです。変化を確かめてもらい、間隔の見通しを渡したあとに、その間隔を支える形として出します。

回数券で揉めたとき、まず何を見直せばいいですか?

説明の順番を見直してください。多くの場合、変化を実感する前に、回数とお金の話が先に出ています。私も最初はそうでした。揉めた理由は、技術の不足よりも、約束の中身が体の実際とずれていたことにありました。

7割という目安は、どうやって決めていますか?

可動域や姿勢、本人の体感をもとに、ベストの状態をいったん想定し、そこからどの位置にいるかを示しています。厳密な測定ではなく、患者さんが自分の現在地を理解するための物差しです。

回数券を使わずに、単価を上げることはできますか?

できます。1人にかける時間と見立ての深さを増やし、通う理由を患者さんの言葉にできれば、料金の納得感は上がります。回数券は、その納得を支える道具の一つに過ぎません。

患者さんから「結局、何回かかりますか」と聞かれたら?

回数ではなく、現在地を答えます。「今の調子が、どれくらい持つかで決まります」と前置きして、今の見立てに基づいた目安を渡します。回数で縛らないほうが、こちらの言葉に迷いがなくなります。

開業したばかりで、料金に自信が持てません。回数券から始めてもいいですか?

回数券から始めるより、先に症例を積むほうをおすすめします。1週間持つか、2週間持つかを一人ずつ確かめ、院の中に自分の目安を積み重ねてください。目安が少ないうちは、回数を約束しない話し方のほうが、むしろ自分を守ってくれます。

値段が高いと言われた場合は、どうすればいいですか?

値段の説明を足す前に、変化の説明が足りていたかを振り返ります。高いと言われるのは、金額そのものより、支払う理由がまだ言葉になっていない時です。現在地と見通しを示すと、同じ金額でも受け取られ方が変わります。

1回で大きく変わった患者さんにも、間隔の説明は必要ですか?

はい。むしろ必要です。大きく変わった人ほど、「もう大丈夫」と思いがちで、その状態が安定する前に元へ戻りやすいからです。変化が大きいほど、説明を省略しないようにしています。

全部の患者さんに、同じ間隔を提案していいのですか?

いいえ。悪い方の安定の強さは人によって違います。初回の見立てで浅いか深いかを見て、その人に合った間隔を提案します。説明の型は同じでも、当てはめる間隔は毎回変わります。

医療機関に通っている患者さんにも、この考え方は使えますか?

使えます。ただし、急な痛みの悪化や原因の分からない症状がある場合は、先に医療機関での受診をすすめてください。そのうえで、通院と並行して来院のペースを相談する形にします。

現場で使っている資料を、症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文なども含めて全部で17本、まとめて渡しています。公式LINEからご案内しています。

整体師・鍼灸師だけが集まっているオープンチャットもあります。会計の場面で言葉が詰まるような話も、現場で使える言葉のまま相談できる場所です。オープンチャットからどうぞ。

見立ての考え方を定期的にお届けしているメルマガ「見立てだより」もあります。見立てだよりからご登録いただけます。

この記事は施術者向けに書いたものです。体の症状でお困りの方は、まず医療機関を受診してください。

author avatar
dmt35sqkjuve