店舗がないうちにSNS発信を始めていいですか。箱より先に集めるべきもの

施術のあと、患者さんが帰り際にぽつりと言う。「今日、帰りの足が軽いです」。その一言を、ベッドを片づけながらメモ用紙の端に書きとめる。

まだ自分の院を持っていない先生が、この一言を持っているかどうか。私は、開業の準備では箱よりこちらのほうが先に要ると考えています。

セミナーの面談で、ある先生からこんな質問を受けました。「まだ施術スペースがない状態でSNSの発信を始めて、受けたいという人が増えてから箱を作る。その順番でもいいのでしょうか」。

結論から言うと、いいです。この記事では、その理由と、箱がない間に何を集めておくと開業後に効いてくるのかを書きます。

店舗がない状態でSNS発信を始めても、問題ないのですか

問題ありません。箱は先に要らず、先に要るのは「受けたい」と言ってくれる人の声です。

私が先生にお伝えしたのも、ほぼこのままの言葉でした。まず声を取ったほうが早い。スタートダッシュが全然違う。何もしなければ何も届かないので、自分の思った通りに発信していい、と。

多くの先生は、開業の順番をこう描いています。物件を探す、内装を整える、看板を出す、そのあとで発信を始める。この順番だと、箱ができた日がゼロ地点になります。棚も照明も整っているのに、予約は空のまま。そこから発信を始めても、人が来るまでに時間がかかります。

逆にすると、箱ができた日に、すでに「待っている人」がいる状態を作れます。発信は、箱の準備と同時に始められるのです。

箱がないのに、どこで施術の実績を作ればいいのですか

オンラインスペースやレンタルスペースを借りて、1人ずつ受けてもらえば作れます。

実際に、そうやって始めている先生はいます。常設の院を持たず、必要な時間だけ場所を借りて施術している方もいます。場所に縛られないぶん、最初の数人から声をいただくところまでは、箱を持つよりずっと身軽に進められます。

ここで大事なのは、実績の数を急がないことです。最初に取るのは「何人診たか」という数字ではなく、「こういう状態で来て、こう変わった」という一人ひとりの声です。1週間持つようになった、眠りが変わった、朝の動き出しが軽い。その人自身の言葉で残ったものは、のちに紹介文にもなり、発信の材料にもなります。

声は、依頼しなければ集まりません。口コミの頼み方は別の記事にも書いていますが、まずは目の前の1人から、感想を聞かせてもらうところで十分です。

箱がない間に、発信で何を書けばいいのですか

今、現場で見えている一次情報を書きます。技術の解説より、自分が見たことの記録のほうが読まれます。

先の面談で、私はその先生にこう頼みました。今のうちに、こういう感じで良くなった、というのをちゃんとメモしておいてほしい。一次情報がネタになるからです。最前線の現場で起きて、気づいたこと。そのパターンは、他の人には真似ができません。

具体的に何を書きとめるか。私が先生方にお伝えしている項目は次のとおりです。

  • 患者さんがよく使う言葉そのもの
  • セルフケアの指示を、実際にやったかどうか
  • 状態が大きく変わった瞬間と、そのきっかけ
  • その人の動機になったもの(押しに弱いタイプ、ペットのため、お孫さんのため、など)
  • 体つきや目つき、体の一部分だけがむくむといった、身体のパターン

冒頭の「帰りの足が軽いです」は、まさに1つめと3つめです。世間話は要りません。変わった瞬間と、その人の言葉だけで十分です。

こうした観察は、続けると不思議な変化が起きます。最初は1人ずつの記録だったものが、あるとき「こういう人は、こう変わる」というパターンに言葉になっていきます。そうなれば、次の患者さんに「こういう方もいらっしゃいましたよ」と伝えられるようになります。それが「自分にもできるかもしれない」という気持ちを生み、結果として改善の進み方にも影響します。

発信を先に始めると、開業後に何が変わりますか

箱ができた日に、予約を入れてくれる人がすでにいる状態で始められます。

これは集客のうまさとは違う話です。発信を続けていると、読んでくれた人の頭の中に「この先生は、こういう見方をする人」という像ができていきます。実際に会う前から、見立ての順番や考え方が伝わっている。だから初回の問診でも、話の入り口が揃いやすくなります。

もう一つは、自分の側の変化です。書く習慣がつくと、日々の施術の中で「これは書けるな」と見る目が働き始めます。同じ施術をしていても、観察の密度が上がるのです。見立ての順番について書いた記事(見立ての順番)でも触れましたが、見るべき順番がはっきりしている人ほど、現場の情報を拾えます。発信は、その順番を磨く場にもなります。

私自身も、施術者向けと患者さん向けの記事を毎日書き続けています。すぐに問い合わせにつながるものではありません。何か月も先に咲く種として置いている、という感覚です。それでも続けているのは、種は蒔いた日から数えて育つからです。箱ができてから蒔いたのでは、その分だけ遅れます。

発信を始めても、続かなくなったときはどうすればいいですか

書く量を減らし、材料を現場のメモから取る形に戻します。毎日きれいな文章を書こうとすると、先に疲れてしまうからです。

発信が止まる先生には、共通する形があります。何を書くかをその日に考え始めてしまうのです。机に向かってから題材を探すと、時間がかかり、出てくるのも一般論になりがちです。

そこで、先ほどの臨床メモを材料にします。今日の施術で患者さんが使った一言、変わった瞬間、動き出したきっかけ。そのうち一つを選び、「その場面で私は何を見て、何を確かめたか」を書くだけです。長さは短くて構いません。続けるうちに、メモがたまるほど書ける日が増えていきます。

私が先生方にお伝えしているのは、気づいた時からがスタートだということです。これまでメモを取れていなかった先生も、今日から取り始めれば十分に間に合います。過去を悔やむより、今日の一言を一つ残してください。

発信と並行して、箱を持つ前に整えておきたいことは何ですか

施術者自身のコンディションと、問診の取り方です。この二つは、場所がなくても今日から整えられます。

自分の体が整っていない施術者の言葉は、患者さんにどうしても軽く届きます。逆に、自分で試して実際に良くなった経験があると、「私もこうやって変わりました。よければ試してみてください」と、自然に伝えられます。その言葉が先生への信用になります。セルフケアを先に自分で体感しておくことは、箱の準備より前にやる価値があります。

問診については、全部を一言一句拾おうとせず、要点を引き算して聞くことを意識します。問診票に何枚も書いてくる患者さんがいても、押さえるのはキーポイントだけ。全部聞こうとすると、聞く側が疲れ、話に振り回されて本質が見えなくなるからです。さらに、本人が問診票を書いている様子や雰囲気そのものも、見立ての材料になります。

この二つを整えながら発信を続けると、箱を持った日には、言葉も見立ても、すでに現場で使える状態になっています。

箱がない状態で発信するとき、気をつけることはありますか

できないことを、できるように見せないことです。

まだ院を持っていないなら、そのまま書いて構いません。「今は場所を借りて、少人数の方だけ診ています」と正直に出す。不足を隠すより、今の自分が見えている範囲を丁寧に書くほうが、信頼されます。

もう一つは、効果を断定しないことです。患者さんの声は、その人の体験として紹介します。誰にでも同じことが起きる、という書き方はしません。また、急な麻痺や激しい痛み、原因の分からない体の変化が絡む話では、医療機関の受診を先にすすめてください。

最後に、声を集めるときには、掲載の許可を本人にきちんと取ります。患者さんが特定されるような書き方も避けます。声は、その人からの預かりものです。

箱がないことを、焦りの理由にしないでください。場所が決まっていないのは、順番を選べる時期にいる、ということでもあります。今のうちにできるのは、目の前の一人に丁寧に向き合うこと、その変化を言葉にして残すこと、そして少しずつ外に出していくことです。この三つが揃った先生ほど、箱を持ったあとの立ち上がりが穏やかで、無理のない形になります。

よくある質問

店舗がなくてもSNSの発信を始めていいですか?

はい、始めて大丈夫です。箱を作ってから発信を始めるよりも、先に発信して声を集めておくほうが、開業後のスタートが速くなります。

場所がない間は、どこで施術すればいいですか?

オンラインスペースやレンタルスペースを使っている先生はいます。常設の院でなくても、1人ずつ丁寧に診て、変化の声をいただくことはできます。

実績が少ないうちは、何を発信すればいいですか?

今の現場で見たことを書きます。患者さんがよく使う言葉や、状態が変わった瞬間と、そのきっかけなどです。一次情報は、ほかの人に真似ができません。

患者さんの声を載せるときの注意点は何ですか?

必ず本人に掲載の許可を取り、個人が特定されないようにします。また、その人の体験として紹介し、誰にでも同じ結果が出るような書き方は避けます。

発信しても、すぐに予約は入りませんか?

すぐには入らないことが多いです。発信は、何か月も先に咲く種のようなものだと考えてください。早く蒔いたぶんだけ、箱ができた日の状態が変わります。

臨床メモは何から書き始めればいいですか?

患者さんが使った言葉と、状態が変わった瞬間の2つから始めてください。毎回全部を書こうとせず、これだけを残すと続きます。

発信を始める前に、自分の体を整えておく必要はありますか?

あります。施術者自身が体感した良い状態は、そのまま患者さんへの説得力になります。自分のセルフケアを先に整えておくと、言葉に重みが出ます。

箱は、いつ作るのがいいのでしょうか?

「受けたい」という人が一定数見えてきてからで構いません。需要が見えてから場所を決めるほうが、場所選びの失敗も減ります。

医療機関にかかっている方の声は使えますか?

本人の許可があれば使えますが、通院を否定する書き方はしません。体の状態が気になる方には、まず受診をすすめてください。

現場で使っている資料を、症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文なども含めて全部で17本、まとめて渡しています。公式LINEからご案内しています。

整体師・鍼灸師だけが集まっているオープンチャットもあります。箱がない段階の悩みも、現場の言葉のまま相談できる場所です。オープンチャットからどうぞ。

見立ての考え方を定期的にお届けしているメルマガ「見立てだより」もあります。見立てだよりからご登録いただけます。

この記事は施術者向けに書いたものです。体の症状でお困りの方は、まず医療機関を受診してください。

author avatar
dmt35sqkjuve