内臓はちゃんと反応しているのに、なぜ体が変わらないのか
施術中の反応は悪くない。臓器に触れれば反応も出る。なのに姿勢は施術のたびに戻り、めまいも不眠も変わらない。腕が足りないのかと、夜に検索したことがある先生に向けて書きます。
結論から言います。反応が出ているのに体が変わらないのは、技術が足りないからではありません。触れる場所が多すぎて、どこにも深く届いていないからです。
私自身、開業してすぐの頃にこれで何年も足踏みしました。今日は現場で実際にあった相談をもとに、その理由と抜け方を書きます。
なぜ「全部診る」ほど、逆に届かなくなるのか
結論から言うと、全部の内臓に触れることは、どこも深く整えないことと同じになります。
先日、見立て塾を受講しているある先生から相談を受けました。担当している患者さんは50代の女性。5、6年ずっとめまいがあり、まとまった睡眠が取れず、左肩が上がらない、腰にはコルセット、膝も変形している。過去に内臓の手術歴もある方でした。
その先生は1回90分の施術で、ほぼ全部の内臓に触れていました。丁寧です。真面目です。手も抜いていません。
でも本人からこう聞かれました。
(もしかして、その先生の技術が足りないだけでは、と思いましたか。もう少し聞いてください)
臓器はちゃんと反応します。触れれば緩みますし、施術後の姿勢も変わります。でも1ヶ月経てば戻る。半年経っても、めまいは半年前とほぼ同じ強さで出ます。
反応と変化は、別のものです。反応は「触れば出る」もの。変化は「積み重なって残る」ものです。90分かけて全部に触れると、反応は総量として多く出ますが、どの臓器も浅くしか触れていないので、変化として残るところまで届きません。
さらに言うと、この患者さんの深さは相当なものでした。5、6年という年数、幼少期に家庭の事情で祖父母に育てられた背景、左側に症状が集まっていること。左は家庭側、女性側のエネルギーを表すことが多く、この方が長年見ないようにしてきた何かと、症状が地続きになっている可能性が高いと私は見ています。
これだけ深い方に、浅く広い施術を90分続けても、届くはずがありません。深さに応じて、当てる場所を絞る必要があるんです。逆に言えば、深さを正しく見立てられていれば、全部に触れようという発想そのものが出てこないはずです。
私自身も、同じ失敗をしていた
結論から言うと、これは私自身が何年も繰り返した失敗です。
開業してからしばらく、私は「全部診れる整体師」になろうとしていました。腎も肝も脾も、内臓ぜんぶに手を当てて、可動域も全部測って、姿勢も全部見て。真面目にやっているつもりでした。
でも患者さんの変化は遅い。それどころか、自分の体のほうが先に削れていきました。1日で何十か所も丁寧に診ようとすると、術者側のエネルギーが持ちません。
ここで気づいたのは、全部を診ようとする姿勢そのものが、実は逃げだったということです。どこが本当の原因かを決めきれないから、念のため全部触っておく。決める怖さを、量でごまかしていたんです。
技術が悪いんじゃありません。見る順番が決まっていないだけです。順番が決まっていない人ほど、外すのが怖くて、全部に手を広げます。
セミナーやDVDで新しい手技を覚えた直後ほど、この罠にはまりやすいです。習った手技を全部使いたくなる。使わないと元が取れない気がする。でも患者さんの体は、手技の数では変わりません。どの順番で、どこから当てるかで変わります。
私自身、若い頃はカイロ、オステオパシー、筋膜リリース、気功と、いろいろな学びを渡り歩いた時期がありました。学べば学ぶほど、施術中に選択肢が増えて、逆に迷いが深くなっていったのを覚えています。今どの手を使うか決めきれないまま、結局は全部使ってしまう。あの頃の自分と、90分で全臓器に触れていた受講生の先生は、同じ場所でつまずいていました。
抜け出せたきっかけは、手技を増やすのをやめて、見立ての順番を先に決めることでした。何を、どの順で見るかが決まっていれば、持っている技術の量に関係なく、迷いは減ります。
絞ると、何が変わるのか
結論から言うと、当てる場所を2、3か所に絞ったほうが、変化として残ります。
さきほどの受講生の先生には、キネシオロジーで2、3か所に絞ることを提案しました。全部に触れるのをやめて、いちばん反応が強いところ、いちばん本人の生活に紐づいているところだけに絞る。施術時間そのものも短くしていい。
そのぶん間隔は詰めます。月1回では、1ヶ月持たない反応を毎回ゼロから作り直すだけになるからです。深さで攻めるなら、間隔も合わせて詰める。これがセットです。
私は施術歴20年になりますが、可動域検査とキネシオロジーで見立てるやり方は、書籍にもDVDにもまとめて、全国のセミナーでも同業の先生方にお伝えしてきました。そこで何度も見てきたのは、伸びる先生ほど「全部やる」から「絞る」へ、途中で舵を切っているということです。
絞ることは、手を抜くことではありません。狙いを一点に決めて、そこに責任を持つことです。
絞り込みの精度は、施術の技術よりも、問診でどれだけ深く聞けているかにかかっています。可動域検査で体の動きの現状を確認しながら、生活歴、考え方の癖、食習慣まで踏み込んで聞く。情報が浅いままキネシオロジーだけに頼ると、当たる場所も浅くなります。カウンセリングは施術の下ごしらえです。深く聞き出せるほど、絞り込みの精度は上がります。
そして、絞ったあとは必ず記録してください。どこに当てて、どう反応が変わったかを積み重ねると、その患者さんに効く場所が徐々にはっきりしてきます。1回で正解を当てようとしなくていいんです。
施術者が疲れているとき、何が起きているか
結論から言うと、患者さんが変わらないとき、施術者側の消耗も同時に起きていることが多いです。
さきほどの相談でも、その先生自身が「かなり疲れている」と話していました。講座と施術で休みが取れず、結果にも影響していると感じている、と。
これは偶然ではありません。臓器は反応するのに変わらない状態と、施術者が疲れている状態は、同じ原因から出ていることがあります。相手の分まで引き取っているんです。
自分が整っていない手で触れると、相手も整いません。自分の不調に気づける人ほど、患者さんの小さな不調にも気づけます。順番を守るのは患者さんのためだけでなく、自分の体を守るためでもあります。
予約を1枠減らしてでも、自分が戻る時間を先に取ってください。攻めるより、守りが先です。
具体的には、1日の最初に自分の体を30秒だけ確認する習慣をつくることをおすすめします。今日はどこが重いか、呼吸は浅くないか。それだけで十分です。可能なら、予約表にも患者さんの枠を埋める前に、自分を整える15分を先に一枠入れてください。空いている時間で整えようとすると、結局いちばん後回しになります。
先に自分の枠を確保することは、わがままではありません。整っていない状態で触れ続けるほうが、患者さんにとっても遠回りになります。
見る順番を、どう作るか
結論から言うと、順番は才能ではなく、決めて積み上げていくものです。
私がお伝えしているのは、次のような考え方です。
まず、反応が強い場所と、深い場所は違うということを分けて見る。反応はどこでも出ます。でも本人の生活歴、環境、考え方まで絡んでいる場所は限られています。そこを先に絞り込みます。
次に、絞った場所に施術時間を集中させ、間隔を詰める。全部に浅く広く触れるより、少ない場所に深く繰り返し触れたほうが、変化として体に残ります。
最後に、変わらないときはまず自分の見立てを疑う前に、伝えたセルフケアが実行されているか、施術者自身が消耗していないかを確認する。外したのか、届いていないのかを、先に分けて考えるということです。
順番は、一度組んだら終わりではありません。私はこれまで20年、症状ごとに順番を組み替え続けてきました。腕は、セミナーやDVDで身につくものではなく、自分の患者さんで外して、困って、それでも次に来てもらえて、必死で考えて直す。その回数でしか上がりません。全部に触れて逃げるのをやめると、外れたときにどこで外れたかがはっきり見えるようになります。それが、次の順番の精度を上げていきます。
見立ての順番をどう組み立てるかについては、こちらの記事にも詳しく書きました。見立ての順番についての記事もあわせて読んでみてください。
よくある質問
全部の内臓に触れるのは、間違ったやり方ですか?
間違いではありませんが、狙いを決めずに全部触れると、どこも深く届かないまま時間だけが過ぎます。反応を見るための最初の一巡と、絞ってから深める本番は分けて考えてください。
触れる場所を絞ると、見落としが怖くありませんか?
私も最初は同じ怖さがありました。ただ、全部に触れても浅ければ結局は見落としと同じです。反応の強さと生活歴の重なりで優先順位をつければ、絞ることは見落としにはなりません。
キネシオロジーができないと、場所を絞れませんか?
キネシオロジーは絞り込みを助ける道具の一つですが、必須ではありません。問診で本人の生活、環境、考え方の変化と、症状が出た時期を丁寧に重ねるだけでも、絞る手がかりは見えてきます。
施術時間を短くすると、患者さんに雑だと思われませんか?
短くする理由をきちんと説明すれば、逆に信頼されることが多いです。長い時間かけて浅く触れるより、狙いを決めて深く届ける理由を言葉にして伝えてください。
施術後に姿勢が変わっても、すぐ戻るのはなぜですか?
多くの場合、施術のせいではなく睡眠や生活のダメージが回復を上回っているからです。症状を取ることより先に、眠れる時間を作ることを目標に置き換えると変わり始めます。
患者さんの間隔をどのくらい詰めればいいですか?
症状の深さによりますが、まずは週1回に戻し、反応が持つようになったら少しずつ空けていく順番が安全です。いきなり月1回に戻すと、毎回ゼロから作り直すことになります。
自分が疲れているかどうか、どう気づけばいいですか?
同じ手技をしていても届いていない感覚があるとき、たいてい自分が消耗しています。1日の最初に自分の体を短く確認する時間を作ると、気づきやすくなります。
精密検査を勧めても患者さんが受けてくれないときは、どうすればいいですか?
気が進まないという言葉は、患者さんの見たくないという気持ちの表れであることが多いです。責めずに、静かに背中を押し続けてください。体の症状で強い痛みや急な変化がある場合は、必ず医療機関の受診をすすめてください。
私は現場で使っている資料を、まとめて同業の先生方にお渡ししています。症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文など、全部で17本です。
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この記事は施術者・整体師の方に向けて書きました。体の症状で強い痛みや急な変化がある場合は、自己判断せず必ず医療機関を受診してください。









