再来が変わった問診票の作り方
2回目の来院。問診票の経過欄を前に、ペンが止まる。
「調子はどうですか」と聞くと、患者さんは「まあまあです」と答えて、それで会話が終わってしまう。次に何を書けばいいのか分からないまま、経過欄は空白のまま次の予約に進む。こういう場面は、私自身も何度も経験してきました。
問診票は、多くの院ですでにあります。それでもリピートが変わる先生と変わらない先生がいます。差は紙のフォーマットではありません。その紙に何を書かせるか、そして紙を渡したあとに何を聞くか、その一問の中身です。
なぜ同じような問診票を使っていても、リピートに差が出るのか
結論から言います。問診票そのものではなく、そこに入っている一問が違います。
多くの問診票は、症状の場所、痛みの強さ、既往歴を聞く欄でできています。これはどの院にもあります。でも、それだけでは患者さんが再来する理由にはつながりません。症状の記録は施術者が体を見立てるための情報であって、患者さん自身が通い続ける理由にはならないからです。
私が問診票で一番大事にしている欄は、症状の欄ではありません。「良くなったら何をしたいですか」という欄です。
「良くなったら何をしたいですか」がなぜ効くのか
結論を言うと、この一問が患者さんの中に通院の目的を作るからです。
25,000人の患者さんを、のべ11万回施術してきて分かったことがあります。回復が早い人には共通点があって、そのひとつが目的がある人だということです。痛みが取れることそのものではなく、その先に何をしたいかがはっきりしている人ほど、通院が続きます。
「良くなったら何をしたいですか」という欄は、この目的を最初に紙の上に置いておく仕組みです。患者さんが不安を口にしたときも、卒業が近づいたときも、この一言に戻ることができます。「そういえば、最初にこう書いていましたね」と見せるだけで、今どこまで進んだかが本人の中で見え直します。
問診票の欄と、回復の条件が一対一で対応している。紙そのものが、通院を支える仕組みになっているということです。
2回目以降、何を聞くかが決まっているか
結論を言うと、初診の問診票よりも、2回目以降に聞く一言のほうが再来を左右します。
初診の問診票は、多くの院で整っています。でも2回目以降、何を聞くかが型として決まっている院は、意外と多くありません。「調子はどうですか」だけで終わっている先生も多いはずです。
私が2回目以降、必ず聞いている一言があります。「どんな感じでしていただけましたか」です。
なぜ「調子はどうですか」では会話が続かないのか
結論を言うと、聞いているものが違うからです。
「調子はどうですか」は、結果だけを聞く質問です。良い、悪い、まあまあ。答えは一言で終わり、そこから先が続きません。
「どんな感じでしていただけましたか」は、行動を聞く質問です。伝えたセルフケアをどうやったか、どのくらいの頻度でやったか、やってみてどう感じたか。答えが具体的になるので、そこから会話が広がります。
回復が早い人に共通するもうひとつの条件が、行動して結果が出て修正してまた行動できる人ということです。この輪がちゃんと回っているかどうかを確認するのが、2回目以降の問診の役目です。結果だけを聞いていると、この輪が見えません。行動を聞いてはじめて、次に何を渡せばいいかが分かります。
経過欄には何を書けばいいか
結論を言うと、結果ではなく行動を書きます。
冒頭の場面に戻ります。経過欄に「良くなった」「変わらない」とだけ書いている問診票をよく見かけます。これでは、次に会うときに何を聞けばいいか、施術者自身が思い出せません。行動を聞いていれば、経過欄には「朝のストレッチを3日続けた」「入浴を毎日湯船に変えた」というように、具体的な言葉が残ります。
次回、患者さんの前に座ったとき、この一行があるかないかで会話の質がまったく変わります。「前回、湯船に変えてみるとおっしゃっていましたが、その後どうですか」と聞けるかどうかは、経過欄に何を残しているかで決まります。結果を書く欄ではなく、行動を書く欄だと考えると、同じスペースでも中身がまるで違ってきます。
私自身、開業したばかりの頃は、経過欄に「良好」「経過順調」としか書いていませんでした。あとで見返しても、その日何を話したのか思い出せません。行動を書くようになってから、次の来院までの間に患者さんが何をしていたかが見えるようになり、問診そのものが前回の続きとして成立するようになりました。
1回目、2回目、3回目で、聞く深さを変える
結論を言うと、初診と2回目と3回目では、聞くことの深さを変えます。
初診で聞くのは、体の症状と、良くなったら何をしたいかという目的です。ここで本音まで踏み込む必要はありません。むしろ踏み込みすぎると、初めて会った相手に身構えられてしまいます。まだ関係ができていない段階で深いところまで聞こうとすると、患者さんは無難な答えしか返しません。
2回目で聞くのは、行動です。伝えたことをどうやったか、どのくらいの頻度でやったか。ここでようやく、患者さんの生活の中に一歩入ることができます。行動の話は、体の症状の話より答えやすいものです。「できた」「できなかった」のどちらでも、責める形にしなければ、患者さんは素直に話してくれます。
3回目以降で聞くのは、行動の背景です。なぜ続けられたのか、なぜ続けられなかったのか。忙しくてできなかったのか、やる気にならなかったのか、それとも別の理由があったのか。ここまで来て初めて、生活習慣や考え方の癖といった、本当に効いている部分の話が出てきます。
この型を先生自身が持っておくと、毎回何を聞けばいいか迷わなくなります。迷いがなくなると、患者さんに向ける意識が「次に何を聞こうか」から「今の答えをどう受け止めようか」に変わります。この違いは、患者さんにもそのまま伝わります。焦って1回目から背景まで聞き出そうとする先生ほど、患者さんとの距離が縮まらないのは、この順番を飛ばしているからです。
本音は1回の問診では出てこない
結論を言うと、問診票は1回で完成させるものではなく、回を重ねて深くしていくものです。
初診で聞ける話には限りがあります。たとえば、体の不調の相談が、実は誰にも言えない疲れの話だったということがあります。それも一度では出てきません。1回目は体の心配、2回目でようやく自分のつらさ、3回目になって初めて本当に抱えていることが出てくる。そういう順番で降りていくことのほうが多いのです。
初診の問診票ですべてを聞き出そうとすると、かえって患者さんは身構えます。1回で全部を埋めようとするのではなく、来院のたびに少しずつ深く聞いていく前提で設計したほうが、結果として本音に届きます。
問診票を増やすより、聞く順番を決める
結論を言うと、紙を増やす前に、聞く順番を決めたほうが早く変わります。
問診票にあれもこれもと項目を足していく先生を見かけますが、項目を増やすほど、患者さんは書くことに疲れてしまいます。私が伝えたいのは逆です。初診で聞く一問、2回目以降に聞く一言、そして本音は回を重ねて降りていくという前提。この三つを決めておくだけで、同じ問診票でも中身がまったく変わります。
これは、以前リピートされない理由という記事で書いた話ともつながっています。リピートが続かない理由の多くは、技術ではなく、伝える順番と聞く順番が決まっていないことにあります。問診票は、その順番を形にしたものだと思っています。
この問診設計をどう始めればいいか
結論を言うと、まず1問だけ足すところから始めれば十分です。
いきなり問診票全体を作り直す必要はありません。まず、初診の問診票に「良くなったら何をしたいですか」の一問を足す。2回目以降の問診で「どんな感じでしていただけましたか」と聞く。この二つだけで、患者さんとの会話の質は変わります。
紙を凝ったものにする必要はありません。決めた一問と一言を、毎回同じように繰り返すことのほうが大事です。同じ問いを繰り返すからこそ、患者さんの中に、ここに来ればいつもこれを聞かれるという安心が積み重なっていきます。
よくある質問
問診票の「良くなったら何をしたいですか」に、患者さんがうまく答えられないときはどうすればいいですか?
無理に埋めさせる必要はありません。まだ分からないという答えでもかまいません。空欄のままにせず、次回また聞くという姿勢を見せておくことが大事です。
2回目以降の問診に時間をかけすぎて、施術時間が減ってしまいます。どうすればいいですか?
長く聞く必要はありません。「どんな感じでしていただけましたか」の一言と、その答えへの短い返しだけで十分です。数十秒あれば済みます。
問診票のフォーマットを変えるタイミングはいつがいいですか?
タイミングを気にする必要はありません。次回の初診から、一問だけ足すという形で始められます。既存の問診票を作り直す必要はありません。
高齢の患者さんや、うまく言葉にできない患者さんにはどう聞けばいいですか?
言葉が出にくい方には、選択肢を渡す形にします。前より良く動きますか、変わらないですか、のように答えやすい形に変えるだけで、行動の手がかりは十分に取れます。
子どもの患者さんの場合、目的を聞く一問はどう扱えばいいですか?
保護者に聞く形にかえます。良くなったら、お子さんに何をさせてあげたいですか、という形にすると、同じ役目を果たします。
何回目くらいから本音が出てくるものですか?
決まった回数はありません。1回目で出る方もいれば、5回目でようやく出る方もいます。急がず、聞ける状態を作ることのほうを優先してください。
問診票の内容を、施術者同士で共有してもいいのでしょうか?
院内で情報を共有すること自体は問題ありません。ただし、患者さんの個人が特定される形で院の外に出すことは避けてください。
この問診の型は、初診だけで終わった患者さんにも意味がありますか?
意味があります。初診で「良くなったら何をしたいですか」を聞いておくだけでも、その1回の施術の説明の仕方が変わります。再来につながらなかったとしても、患者さんの中に残る印象は変わります。
まとめ
再来が変わるかどうかを決めているのは、問診票の見た目ではありません。初診に入れる一問と、2回目以降に聞く一言、そして本音は回を重ねて降りていくという前提です。
紙を増やす前に、聞く順番を決める。それだけで、同じ問診票が違う仕組みに変わります。
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症状ごとの見立てを週に一度届けている見立てだよりもあります。
この記事は施術者向けに書いています。体の症状で困っている方は、まず医療機関を受診してください。施術は、医療にかわるものではありません。









