本気じゃない患者さんに疲れるのは、見極めが甘いからじゃない
ベッドの横で、手が一瞬止まる。
肩に触れているのに、指先に伝わってくるものが薄い。
この方、本当に良くしたいと思って来ているのだろうか。そう思いながら施術を続け、会計で「また痛くなったら来ます」と言われて、やっぱりそうか、と肩を落とす。
こういう日が続くと、次の新規の予約が入っただけで身構えるようになります。この人は本気だろうか、また続かないパターンだろうか。見極めようとして、問診の間ずっと相手の様子をうかがっている。そうやって消耗している先生を、私はたくさん見てきました。
結論を先に言います。本気じゃない患者さんを見極める技術を磨いても、疲れは減りません。磨くべきは見極める力ではなく、どの症状を引き受けるかという、自分の側の決め方です。
なぜ同じ説明をしても、本気度がばらばらの人が混ざるのか
結論から言うと、肩こりや腰痛のように原因が多すぎる症状ほど、本気度に関係なく誰でも来てしまうからです。
肩こりや腰痛は、ストレスでも、食べ物でも、スマホの姿勢でも、冷えでも起こります。原因の幅が広いということは、入口の幅も広いということです。本当に体を変えたい人も、たまたま近くて安いから来た人も、同じ主訴名で同じドアから入ってきます。
一方で、不定愁訴やアトピーのように、どこに行っても変わらなかった経験を持つ人は、違います。すでに何院も回っていて、簡単には解決しないことを知っています。それでも来る、ということ自体が、ある程度の本気度を証明しています。
つまり、本気度は患者さんの態度の問題ではなく、どの症状の入口に立っているかで、最初から決まっている部分が大きいのです。入口を選ばずに全部受けていれば、本気度の差が激しい集団を相手にするのは当然です。
実際、現場で面談をしていても、この違いはよく出てきます。開業して数年の先生から「肩こりや腰痛のほうが、実は見立てが難しい」という相談を受けることがあります。原因がありすぎて、どこから手をつけていいか分からないという悩みです。これは技術が足りないせいではありません。入口が広い症状を相手にしている以上、見立ても広く取らざるを得なくなるという、構造上の問題です。
面倒だから避けていた症状に、答えがあった
ある先生から、面談でこんな言葉を聞きました。言葉を選ばずに言うと、面倒でトラブルになりそうな人が来ると、自分が疲れてしまう。その先生はスポーツ系の施術を得意にしていて、不定愁訴のような分かりにくい主訴は避けてきたと話していました。
この感覚は、現場に立っている先生なら分かると思います。私自身もそうでした。筋骨格だけを見ていた時期は、肩こりや腰痛の患者さんを数多く受けていて、良くなる人もいれば、何度施術しても戻る人もいました。戻る人ほど、話が長く、要求が多く、こちらが疲れていく。
ところが、不定愁訴やアトピーのような、根が深い症状を中心に見るようになってから、景色が変わりました。深い症状を抱えている人は、簡単には変わらないと分かっているぶん、こちらの説明を最後まで聞きます。良くなるまで通います。ライフタイムバリューという言い方をしますが、要は、一度の関係が長く続くということです。
肩こりや腰痛は、ほとんど見なくなりました。めんどうだから、というだけではありません。本気でない人まで同じ数だけ混ざってくる症状だから、という理由です。そういう人を無条件に受け続けていたら、見極めの疲労は一生なくなりません。
もう一つ、別の先生から聞いた例も挙げます。アトピーの患者さんで、食にも日用品にもかなりこだわっているのに、状態がなかなか変わらない方がいました。その先生は「こだわりすぎている人ほど、どこに行っても変わらない」と感じていました。これも完璧主義という、こだわりそのものが本気度の裏返しになっているケースです。本気でないわけではなく、本気の方向と、実際に体を楽にする方向が少しずれているだけ。見極めるべきは本気かどうかではなく、そのずれがどこにあるかでした。こうした患者さんには、こだわりを否定せず、ずれている一点だけを、怒らせないように伝える必要があります。
見極めではなく、引き受ける症状を逆にする
ここが今回いちばん伝えたいところです。本気じゃない人を減らす方法は、見極める精度を上げることではありません。引き受ける症状の種類を逆にすることです。
今まで断っていた不定愁訴やメンタル系、アトピーのような深い症状を、むしろ中心に置く。今まで何でも受けていた肩こりや腰痛を、むしろ絞る。そうするだけで、相手から向けられる本気度の分布そのものが変わります。
これは患者さんを選別する話ではありません。自分がどの入口を開けているかを決める話です。入口を広げたまま、入ってくる人を一人ずつ見極めようとするのは、ずっと水を抜きながら蛇口を開けっぱなしにしているようなものです。蛇口を絞れば、見極める作業そのものが要らなくなります。
実際に、肩こりがいちばん多い主訴だった先生が、内臓やメンタルの症状に軸を移していく話を、面談でよくします。開業して数年のうちは、肩こりを中心に新規を増やしてきたものの、リピートが思うように伸びず、頭打ちを感じている先生は少なくありません。肩こりは主訴としてはいちばん多く来る一方で、いちばんリピートにつながりにくい主訴でもあります。これは腕の差ではなく、入口にしている症状そのものの性質です。
そこで、今まで持っていた技術を捨てるのではなく、組み合わせる方向を勧めています。内臓の手技をすでに習っているなら、筋骨格の施術をしながら同時に内臓へのアプローチを加える。可動域検査に慣れているなら、そこにキネシオロジーのような検査を足して、原因を絞り込む精度を上げる。新しい技術を次々に買い足すのではなく、今持っているものの使う順番を変えるだけで、見える症状の幅が広がります。リピートの良くない症状を抱えたまま新規だけ増やそうとしても、入れ替わりが激しいままです。リピート率の良い症状に軸を移せたとき、初めて経営の数字が安定します。
見極めようとするほど、なぜ自分が消耗していくのか
本気じゃない人を見極めようとする行為には、もう一つ落とし穴があります。見極めるということは、相手をずっと観察し続けるということです。観察し続けること自体が、エネルギーを使います。
人にはその人のタイミングがあります。本気になる時期が来ていない人に、こちらが先回りして見極め、説得し、動かそうとしても、相手はまだ受け取れません。助けすぎることは、相手の自立を遅らせるだけでなく、こちらの側も先に削れていきます。
境界線の話とも重なります。愚痴や不満を最後まで全部聞き切る必要はありません。途中で区切っていい。見極めようとする先生ほど、相手の話を最後まで聞き切って、そのぶん自分を削っています。施術後に座ったまま帰らず、同じ話を何度も繰り返す患者さんに付き合い続けて、予約表が埋まっているのに毎晩疲れ切っているという相談を受けたこともあります。話が長い患者さんは、見極めが必要な存在というより、安心できる場所が他にないというサインを出していることが多いのです。そこに気づけると、見極めようとする代わりに、関係を切らずに境界を引く、という別の対応ができるようになります。
本気度を見極めるより先に、自分がどこまで引き受けるかという線を、自分の中に持っておくことのほうが、よほど効きます。
技術が悪いわけではありません。見る順番が決まっていないだけです。本気かどうかを先に見ようとするから疲れるのであって、先に自分の引き受ける範囲を決めてしまえば、本気度を見極める作業そのものが要らなくなります。この見立ての順番についての考え方は、見立ての順番の記事でも詳しく書いています。
現場で、今日から何を変えればいいか
まずこの3つから始めてみてください。
一つ目。今、新規の問い合わせで最も多い主訴を、紙に書き出してみる。その主訴のリピート率がどれくらいか、記憶で構わないので振り返ってみてください。
二つ目。リピート率の低い主訴については、受ける基準を一段階上げる。全部断る必要はありません。問診の時間を短く設定する、価格帯を変える、初回だけ受けて継続を無理に勧めない、など小さな調整で十分です。
三つ目。リピート率の高い主訴、特に今まで避けてきた不定愁訴やメンタル系の症状について、症状別のページやブログを1本増やす。入口を変えると、集まってくる人の質そのものが変わっていきます。
本気じゃない人を見極める技術ではなく、本気になりやすい入口を自分で作る。これが、見極めの疲労から抜ける現実的な道です。
なお、強い痛みや急な麻痺、急激な体重の変化など、危険なサインが絡む場合は、見立ての前に必ず医療機関への受診を勧めてください。見立てはあくまで、医療を前提とした上での話です。
よくある質問
本気じゃない患者さんを、初回の問診で見抜く方法はありますか?
初回の数分で確実に見抜く方法はありません。見抜く努力より、どの主訴を受けるかを先に決めておくほうが、結果として本気度の低い人を減らせます。
肩こりや腰痛を完全に断ったほうがいいのでしょうか?
完全に断る必要はありません。ただ、リピートが悪い症状だと分かっているなら、受け方の基準(時間・価格・継続の勧め方)を他の症状と分けておくことをおすすめします。
不定愁訴やメンタル系の症状は、経験が浅いと怖くて受けられません。どうすればいいですか?
最初から全部を受ける必要はありません。可動域検査やキネシオロジーのような、原因を絞り込む検査方法を一つずつ身につけながら、受けられる範囲を広げていく形で十分です。
本気度の低い患者さんに疲れてしまったとき、どう切り替えればいいですか?
その場で相手を変えようとしないことです。話を最後まで聞き切らず、区切っていい場面では区切る。自分を削り切ってから対応を変えるのではなく、削れる前に線を引く練習をしてください。
リピート率の高い症状に軸を移すと、新規が減りませんか?
一時的に減ることはあります。ただ、入れ替わりの激しい新規を追い続けるより、一人あたりの通院期間が長い症状に軸を移したほうが、長い目で見て経営は安定しやすくなります。
完璧主義で、何院回っても良くならない患者さんにはどう対応すればいいですか?
こだわりの強さそのものを否定せず、どこがずれているかだけを、怒らせないように伝えることが大切です。こういう患者さんほど、どこに行っても変わらなかった分、深いところに答えがある可能性が高いです。
家族だけを無料で施術していて、なかなか変わりません。これも本気度の問題ですか?
身内への無料施術は、本気度とは別の問題です。お金を払っていない関係では、覚悟そのものが生まれにくいことがあります。技術のある他の施術者に任せるという選択肢も考えてみてください。
この考え方は、保険診療の現場でも使えますか?
使えます。保険の範囲内でも、どの主訴にどれだけ時間と説明を割くかは、自分で決められます。全部に同じだけ力を注ぐのではなく、リピートにつながりやすい症状に、説明の時間を多めに配分してみてください。
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この記事は施術者の方に向けて書いています。体の症状で困っている方は、まず医療機関への受診をおすすめします。









