自律神経の患者さんはうちには来ないと思っている先生へ。来ないのではなく、言わずに帰っているだけです
セミナーの面談で、ある先生にこう聞きました。
「今までの患者さんも、頭痛やめまいは絡んでいたでしょう」
先生は少し間を置いて、こう答えました。
「そういう人は、来ないですね」
画面越しに、その言い方の静かさが伝わってきました。悔しそうでも、投げやりでもない。ただの事実として話している声でした。
私はこう返しました。
「来ないんじゃなくて、多分、言わなかっただけなんですよ」
この記事は、あのときの短いやりとりを、もう少しゆっくり書き直したものです。自律神経の不調を訴える患者さんは、うちには来ない。そう思っている施術者の先生に向けて書きます。
結論から言います。来ないのではありません。来ているのに、言わずに帰っています。そして言うかどうかを決めているのは、患者さんの性格ではなく、先生の院が発信している内容です。
自律神経の患者さんは、本当に来ていないのでしょうか
来ています。ただ、その悩みを口にしていないだけです。
肩こりで通う方の中に、頭痛を抱えている人はいます。腰痛で通う方の中に、寝つきの悪さや動悸を抱えている人もいます。体は一つにつながっているので、主訴の裏に別の不調が並んでいるのは、ごく普通のことです。
では、なぜ先生の耳には入らないのでしょうか。患者さんは、ここでその話をしても仕方がない、と判断しているからです。
想像してみてください。施術台の上で、うつ伏せになった患者さんが、肩の張りのことだけを話して帰っていく。その人の頭の中には、毎週のように来る頭痛があるかもしれません。でも、その話はしません。この先生は肩を診る人だ、と思っているからです。
先生の手が止まるのは、患者さんが何かを言ったときだけです。言われなければ、見えません。見えなければ、うちには来ない、という結論になります。ここに、すれ違いが生まれます。
患者さんは、何を基準に「話していい範囲」を決めているのでしょうか
院が発信している内容と、これまでの会話です。
人は、相手が受け止めてくれそうな話だけを口にします。美容院で、あまり関係のない悩みを話さないのと同じです。整体院や整骨院でも、看板に書かれていること、ホームページに載っていること、先生が普段話していることが、そのまま話していい範囲になります。
腰痛、肩こり、スポーツの痛み。そう書いてある院に通っていれば、患者さんは頭痛やめまいを「ここで話す話ではない」と感じます。話しても、困らせるだけだと思うかもしれません。病院に行くべき話だと、自分で線を引いているかもしれません。
つまり、患者さんの口をふさいでいるのは、遠慮です。そして遠慮の線を引いているのは、実は院の側の見せ方です。
これは責めている話ではありません。誰も、わざと線を引いているわけではないからです。ただ、線は引かれています。それに気づくだけで、見えるものが変わります。
発信を始めると、なぜ違う訴えが出てくるのでしょうか
話していい範囲が広がるからです。
あの面談で、私は先生にこう伝えました。「そういうのを書いていたら、だんだん来るんです。頭痛はこんな感じ、というふうに」。
書くといっても、立派な文章は要りません。最初は、こういうことをやっている院です、くらいで十分です。今日はこんなパターンの患者さんのお話をします、と一つ書く。肩こりで来た方が、こういう順番で変わっていきました、と書く。保険の話は、一切出さなくて構いません。
それを読んだ今の患者さんが、次に来たときにこう言います。
「実は、頭痛もあるんです」
新しい人が増えたのではありません。今までいた人が、初めて口を開いたのです。この変化は、広告費をかけなくても、先に起きます。
だから、新規を取る前に、先に見るものがあります。今通っている患者さんが、何を言わずに帰っているか。そこを見ずに新規集客に進むと、遠回りになります。
言わずに帰る患者さんには、どんな共通点があるのでしょうか
主訴の説明が短く、目線が早く終わりを探していることが多いです。
これは決めつけではなく、先生の院で試せる観察です。たとえば次のような様子です。
- 問診票の「その他」の欄が、いつも空白のままになっている
- 「肩だけなんですけど」と、先に範囲を狭めて話し始める
- 施術の終わりに「あ、そういえば」と言いかけて、やめる
- 睡眠や食事の話を振ると、返事が短い
どれも、患者さんの側が、話題を絞っている合図です。話したくないのではありません。話してよいか迷っているだけです。
迷いに気づいたときに、先生ができる一番小さな動きは、問いを一つ足すことです。「肩のほかに、最近気になっていることはありますか」。この一言で、線の位置が少し動きます。
患者さんが話しやすくなるために、院の側で何を変えればよいのでしょうか
手技を増やす必要はありません。話題の幅を、先に見せておくことです。
私は、手技が足りないから自律神経の患者さんが来ない、とは考えていません。来ない原因は技術ではなく、見せ方です。ここを誤ると、手技の講座を探し続けることになります。
見せ方を変える方法は、三つに絞れます。
一つ目は、普段の会話に、頭痛・めまい・寝つき・動悸といった言葉を、先生の側から自然に混ぜることです。患者さんは、先生が口にした言葉を、話してよい言葉として受け取ります。
二つ目は、発信に「こういう患者さんがこう変わった」を一つずつ出すことです。症例をまとめて語る必要はありません。一人の変化を、短く一つ。特定されないように一般化して書きます。
三つ目は、今いる患者さんの来院履歴を見返すことです。カルテに頭痛、めまい、眠れない、といった言葉が一度でも出ていないか。名前を見ると、人は意外と思い出すものです。あの方は、こういう様子でよくなったな、と。そこが、先生の理論の入り口になります。
まず何から書けばよいのでしょうか
先生が今まで見てきた患者さんの、パターンからです。
カルテを引っ張り出して、頭痛の人はこうだった、肩こりの人はこうだった、と一人ずつ思い出してみてください。「あんまりカルテに書いていない」という先生も多いのですが、名前を見れば思い出すことは多いです。そこから出てくるものが、先生にしか書けない一次情報になります。
自分の理論を、一度すべて外に出す。それがネタの源になります。私が教科書から借りて話すより、先生が実際に手で触れてきた経験のほうが、読む人に深く届きます。
そして、見立てを書くときは、順番を意識します。症状の名前から入るのではなく、体を見る順番から入ります。この順番については、以前の記事で書いています。見立ての順番についての記事もあわせてご覧ください。
書く前に確認しておきたい、守るべき線はありますか
あります。医療の判断が必要な話は、受診をすすめる一言を必ず添えてください。
自律神経の症状は、体の別の病気が隠れていることもあります。急な麻痺、激しい頭痛、急な体重減少、胸の締めつけが続くときは、整体院の範囲を超えています。施術の話を書くときも、これらのサインについては医療機関へ、と添えておくことが、患者さんを守ります。
また、こうすれば必ず変わる、という書き方はしないでください。変化の見込みは、人によって違います。変わった事実を書いても、約束は書かない。これが、長く信頼される発信の基本です。
この記事で一番伝えたかったことは何でしょうか
先生の院には、すでに来ています。ただ、聞こえていないだけです。
技術が足りないのでも、客層が違うのでもありません。話していい範囲の線を、患者さんが自分で引いているだけです。そして、その線の位置は、先生の言葉と発信で動かせます。
見立ては、体を見る前に、患者さんの話を聞ける場所を整えるところから始まっています。
よくある質問
自律神経の患者さんは、本当にうちの院には来ていないのではありませんか?
来ていない場合もありますが、多くは主訴の裏に隠れて通っています。肩こりや腰痛で通う方に、頭痛、めまい、寝つきの悪さなどを併せ持つ人は珍しくありません。まず、今通っている患者さんが何を口にしていないかを見てください。
患者さんが自律神経の話をしないのは、なぜですか?
ここで話しても仕方がない、と判断しているからです。院の看板や発信が筋肉や骨格の話ばかりだと、患者さんは自分で話題を絞ります。話したくないのではなく、話してよいか分からないのです。
発信は、どのくらいの内容から始めればよいですか?
最初は、こういうことをやっている院です、という程度で十分です。次に、今日はこんなパターンの患者さんのお話です、と一つだけ書いてみてください。保険の話は入れなくて構いません。
カルテにほとんど書いていないのですが、ネタは作れますか?
作れます。患者さんの名前を見ると、人は意外と思い出します。あの方は、こういう様子で、こう変わった。この記憶が、先生だけの一次情報になります。
手技を増やさないと、自律神経の患者さんは診られませんか?
増やす必要はありません。手技の数より、見る順番が決まっていることのほうが大切です。順番が決まれば、今持っている技術を、どこで使うかが見えます。
患者さんから自律神経の相談をされたら、どう答えればよいですか?
まず、話してくれたことを受け止めてください。「話してくれてよかった」という一言で、次の話が出やすくなります。そのうえで、危険なサインがないかを確認し、必要なら医療機関をすすめます。
症例を発信するとき、患者さんが特定されない書き方はありますか?
年齢、職業、地域、通院の期間などを組み合わせないのが基本です。一人の変化を書く場合も、どの患者さんにも当てはまる形に一般化してください。相談の中身は残して、背景は削ります。
発信してから、患者さんの反応が変わるまでどのくらいかかりますか?
人によって違い、決まった期間は言えません。ただ、新しい人が増えるより先に、今通っている方が違う話をしてくれるようになる、という順番で変化が出ることが多いです。まずそこを見てください。
医療機関に行くべきサインは、どう伝えればよいですか?
急な麻痺、激しい痛み、急な体重減少、胸の締めつけが続くときは、整体院の範囲を超えています。発信の中にも、その場合は医療機関へ、と一言入れておくと、患者さんを守れます。
現場で使う資料と、先生だけのオープンチャットを受け取れますか?
私は、現場で使う資料をまとめてお渡ししています。症状別の見立て辞典、患者さんへの説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文など、全部で17本あります。
整体師・鍼灸師だけが集まっているオープンチャットもあります。こんな相談はどうしよう、という場面を、先生同士で共有できる場所です。
受け取りは、公式LINEからどうぞ。相談したい方は、オープンチャットからお入りください。週に一度、見立ての考え方を書いているメルマガ見立てだよりもあります。
この記事は、施術者の先生に向けて書いたものです。ご自身の体の症状でお困りの方は、まず医療機関にご相談ください。









