患者さんに「前より不安になりました」と言われた時、整体師は何を答えればいいのか|説明できる自分になる順番

施術が終わって、ベッドの横で手を止めた。患者さんが体を起こして、こちらを見ずに言う。

「先生、なんだか前より不安になりました」

頭の中が、一瞬、真っ白になった。何が起きたのか分からない。手技が合わなかったのか。強すぎたのか。このまま続けてもらって大丈夫なのか。口が動かない。背中に寒気が走った。

この場面に、覚えのある先生は多いと思います。私にも、あります。自信がなかったころ、この一言に答えられませんでした。この記事では、その一言が本当は何を聞いているのか、そして次に同じ場面が来たら何を確認して、何を渡せばいいのかを、順番に書きます。怖い質問をされない方法の話ではありません。答えられる自分になる話です。

「前より不安になりました」と言われると、なぜ頭が真っ白になるのでしょうか

自分の施術そのものを否定されたように聞こえるからです。

良くしたくて手を動かしているのに、「前より」と言われる。結果が逆に出た、と受け取ってしまいます。そこで先生の頭の中では、手技の選び方、力の加減、当てた場所と、反省が一気に回りはじめます。回るだけで、答えは出ません。

私はこの言葉を、長いあいだ「怖かった言葉」の一つとして覚えていました。いつまでこの反応が続きますか。本当に良くなるんですか。何回通えば良くなりますか。そして、前より不安になりました。どれも、自信がない時に聞くと寒気がしました。

ところが、今は同じ言葉を言われても、慌てません。患者さんの言葉は、当時も今も同じです。変わったのは、私が説明できるようになったことだけです。

この一言は、本当は何を聞いているのでしょうか

腕を疑っているのではなく、「何が起きているのか説明してほしい」と聞いています。

私が現場で聞いてきた4つの言葉を、本当に聞かれていることに分けると、こうなります。

  • いつまでこの反応が続きますか、は、見通しを示してほしい
  • 前より不安になりました、は、何が起きているか説明してほしい
  • 本当に良くなるんですか、は、あなたは分かっているのか
  • 何回通えば良くなりますか、は、終わりがあるのか知りたい

4つとも、技術を疑っているのではありません。見通しを求めています。患者さんが怖がっているのは、先生の腕ではなく、先が見えないことです。

だから、「怖い質問をされないようにする」方向で考えても、意味がありません。質問は必ず来ます。答えられる自分になるしかないのです。

答えられない時、先生の中では何が起きているのでしょうか

「正解を言わなければ」という焦りが、説明を止めています。

「大丈夫ですよ」と言い切れる根拠がない。「そういう反応です」と言えるほど経験がない。かといって「分かりません」とは言えない。この三つの間で、言葉が止まります。

ここで多くの先生は、手技を足す方向へ動きます。次はもっと優しく当てよう。別の技術を習いに行こう。けれど、患者さんが聞いたのは手技の話ではありません。説明の話です。説明が足りないところに手技を足しても、「前より不安」の中身は変わりません。

技術が悪いんじゃない。見る順番と、渡す順番が決まっていないだけです。

「不安」と言われたら、まず何を確認すればいいのでしょうか

最初に確認するのは、「何についての不安か」です。

不安という言葉は、ひとまとまりに聞こえますが、中身は三つに分かれます。

1つめは、体の反応についての不安です。施術のあとにだるい、眠気が強い、いつもと違う場所が気になる。体に出た変化に、気持ちがついていけていません。

2つめは、先行きについての不安です。このまま通って良くなるのか、どれくらいかかるのか。見通しが持てていません。

3つめは、もともとあった不安が表に出てきた場合です。体が緩んだり、気づく余裕が出たりして、それまで押さえていた不安に気づく。施術の前からあったものが、見えただけという場合です。

私は、ある患者さんの毎朝4時に目が覚めて不安になる、という話を聞いたことがあります。休みがなく、ずっと忙しく、趣味もない方でした。私の見立ては、生命力が落ちすぎて、不安が噴き出ているというものでした。不安は、気持ちの問題として出るだけではありません。体の底が冷えて、力が足りない時に、不安という形で表に出ることがあります。

だから「前より不安」の一言を聞いたら、すぐに答えず、一度、聞き返します。

「不安というのは、体のことですか。それとも、これからのことですか」

この一問で、先生の頭の中の回転が止まります。そして患者さんも、自分の不安を整理できます。

体の反応についての不安には、どう答えればいいのでしょうか

「何が起きているか」を、体の言葉で、短く渡します。

たとえば、施術のあとに眠気やだるさが出る方がいます。体が緩んで、普段は押さえていた疲れが表に出てきた、という説明ができる場合があります。ここで大事なのは、断定しないことです。医療効果を保証せず、「そういうことが起きる方もいます」と、起こりうることとして渡します。

次に、見通しをつけます。「今日の夜から明日にかけて、だるさが出るかもしれません。多くは1日から2日で落ち着いてきます。もし3日たっても変わらなければ、遠慮なく連絡をください」。期限と連絡先がつくだけで、不安の形が変わります。

ただし、急な麻痺、激しい痛み、急な体重の減少、息苦しさなどがあれば、施術の話ではありません。すぐに医療機関を受診してもらってください。ここを迷わないことも、説明できる先生の条件です。

先行きについての不安には、どう答えればいいのでしょうか

「今どの位置にいるか」と「次に確認すること」を渡します。

先行きの不安は、回数や期間を約束して消そうとすると、かえって苦しくなります。「3回で良くなります」と言って外れると、信用を失います。かわりに渡すのは、地図です。

「今日は、まだ入口です。いまの体は、ここが一番疲れています。次回までの1週間で、睡眠と食事が変わるかどうかを一緒に見ましょう。そこが変わったら、次の段階に進みます」

何回通えば、という質問の本当の中身は、終わりがあるのか知りたい、でした。終わりの日付を約束する必要はありません。終わりに向かう道筋があることを、見せればいいのです。

これは、初診の仮説の置き方とも重なります。初診で立てた読みを答えとして渡すのではなく、「次回確かめる最初の一行」として渡すと、患者さんも先生も、先を見ながら進めます。見立ての順番を整える話は、見立ての順番の記事にまとめています。

もともとあった不安が出てきた時は、どう向き合えばいいのでしょうか

打ち消さず、責めず、「出てきてよかった」の側に置きます。

3つめの不安、つまり、前からあったものが見えた場合です。こういう時、先生はつい、励ましたくなります。「大丈夫ですよ」「気にしすぎですよ」。けれど、本人にとっては、ずっと押さえていたものです。簡単に打ち消されると、言ってはいけなかったと感じて、口を閉ざします。

私は、こう言うことが多いです。

「言ってくださって、ありがとうございます。体が少し楽になってきたから、気づけたのかもしれません」

不安を症状として扱いすぎない。かといって、聞き流さない。受け止めたうえで、次の確認につなげます。生活の中でどんな時に強くなるか。眠れているか。食べられているか。見る場所が決まっていれば、不安の話は、見立ての材料に変わります。

なお、不安が強くて日常生活に支障が出ている、眠れない日が続くなどの場合は、整体だけで抱え込まず、医療機関への相談を一緒にすすめてください。受診をすすめるのは、誠実な対応で、次回につながる行動でもあります。

説明できる自分になるには、普段から何を準備すればいいのでしょうか

怖かった言葉を書き出して、自分の答えを一行ずつ持っておくことです。

準備は、難しいことではありません。次の3つです。

1つめ。患者さんに言われて困った言葉を、紙に書き出します。いつまでこの反応が続きますか。前より不安になりました。本当に良くなるんですか。何回通えば良くなりますか。先生の院で実際に言われた言葉を、そのまま書きます。

2つめ。それぞれの横に、「本当に聞かれていること」を一言で書きます。見通しなのか、説明なのか、分かっているのかの確認なのか。これだけで、返す言葉の方向が決まります。

3つめ。うまく答えられた症例を1つ選んで、「なぜ落ち着いたのか」を3行で書きます。理由を言葉にできる症例が増えるほど、自信は後からついてきます。

自信は、経験年数や症例数で決まるのではありません。説明できるかどうかで決まります。リピートが続かない理由を、自信と導きの無さという言葉で振り返った先生もいます。その話はリピートされない理由の記事にも通じます。

次に同じ言葉を言われたら、どう動けばいいのでしょうか

慌てず、聞き返し、見通しを一つ渡します。

流れをまとめます。

1. 一呼吸おいて、「不安というのは、体のことですか、これからのことですか」と聞く
2. 答えを聞いて、体の反応・先行き・もともとの不安のどれかを見分ける
3. 体の反応なら、起こりうることと期限と連絡先を渡す
4. 先行きなら、今の位置と次に確認することを渡す
5. もともとの不安なら、受け止めて、生活の中での出方を聞く
6. 危険なサインがあれば、受診をすすめる

最初の一手は、聞き返すことです。答えを持っていなくても、聞き返しはできます。そして聞き返すあいだに、先生の頭の中の回転が止まります。

寒気がしていた私が、いま同じ言葉を言われても問題ないのは、手技が増えたからではありません。患者さんの言葉の中身を分けて、渡すものを決められるようになったからです。

よくある質問

患者さんに「前より不安になりました」と言われたら、最初に何と答えればよいですか?

すぐに答えず、「不安というのは、体のことですか、これからのことですか」と聞き返してください。不安の中身が分かれば、渡す言葉が決まります。

施術のせいで不安が増えたのでしょうか?

そうとは限りません。体の反応への戸惑い、先行きが見えないこと、もともとあった不安が見えてきたこと、のどれかであることが多いです。まず何についての不安かを確認することが先です。

「大丈夫ですよ」と言って安心させてはいけませんか?

根拠なしの「大丈夫」は、あとで外れた時に信用を下げます。起こりうることと期限、連絡先をセットで渡すほうが、安心が長く続きます。

何回通えば良くなるか聞かれた時は、回数を答えるべきですか?

回数の約束はおすすめしません。今の位置と、次に確認することを渡して、道筋を見せてください。本当に聞かれているのは、終わりがあるのかということです。

施術後にだるさや眠気が出ると言われたら、どう説明すればよいですか?

体が緩んで、普段押さえていた疲れが表に出る場合がある、と起こりうることとして伝えます。断定はせず、1日から2日の目安と、続く場合の連絡先を添えてください。

不安が強い患者さんには、整体を続けてもらってよいですか?

眠れない日が続く、日常生活に支障が出ているなどの場合は、整体だけで抱え込まず、医療機関への相談を一緒にすすめてください。受診をすすめることは、誠実な対応です。

説明に自信がなくて、言葉が出てこない時はどうすればよいですか?

自信は経験年数ではなく、説明できるかで決まります。困った言葉を書き出し、「本当に聞かれていること」を横に書く準備を、診療のない時間にしておくと変わります。

手技をもっと学べば、こういう場面に強くなれますか?

手技を足しても、説明が足りないところは埋まりません。患者さんが聞いているのは手技ではなく、何が起きているかと見通しです。まず、いま持っている手技の説明を整えてください。

危険なサインがある時は、どう判断すればよいですか?

急な麻痺、激しい痛み、急な体重の減少、息苦しさなどがあれば、施術を続けず、すぐに医療機関を受診してもらってください。迷わず勧められることも、説明できる先生の条件です。

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この記事は施術者向けに書いたものです。体の症状でお困りの方は、まず医療機関を受診してください。

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