『自律神経療法の教科書』に施術のやり方を書かなかった理由|著者からの6年後の答え
2019年に『気・エネルギーを整える!自律神経療法の教科書』(BABジャパン)を書きました。妻の明子と二人で書いた本です。
発売から6年がたち、いまも読んでくださる方がいます。ありがたいことです。
その一方で、こういう感想もいただいています。
「キネシオロジーや可動域については詳しく説明しています。しかし、施術のやり方については殆ど記載してないので、期待外れでした」
読んでくださった方が、正直に書いてくださったものです。
結論から申し上げます。その通りです。あの本に、手技のやり方はほとんど書いていません。そして、それは書き忘れたのではなく、あえて書かなかったところです。
この記事では、なぜ書かなかったのかと、6年たったいま私がどう考えているかをお伝えします。手技の本を期待して読まれた方に、遠回りをさせてしまったお詫びでもあります。
なぜ『自律神経療法の教科書』に施術のやり方を書かなかったのか
結論として、手技を増やしても、施術の結果は変わらないと考えていたからです。
私自身が、手技を増やすことで解決しようとした時期がありました。独立して2年目の頃です。予約表の半分以上が空いていて、寝る前に寒気がしていました。腕が足りないのだと思い込んで、セミナーとDVDに年間100万円近く使った年もあります。
カイロプラクティック、クラニアル、オステオパシー。ひと通り学びました。
手技は増えました。けれど、通ってくださる方の数は増えませんでした。
なぜかというと、持っている手技のどれを、どの順番で使えばいいのかが分からなかったからです。持っているのに、いつ出すかが決められない。あの状態が、いちばんつらかったと記憶しています。
だからあの本には、手技ではなく、その手前にあるものを書きました。可動域検査とキネシオロジーで、どこに原因があるのかを見立てる方法です。
手技のやり方を200ページ並べることもできました。けれど、それをやっても、読んだ方が現場で困る場所は変わらないと思ったのです。
「学校で解剖生理を学んでも、目の前の方にどうしていいか分からない」のはなぜか
結論として、学校で学ぶのは知識であって、判断の順番ではないからです。
本を読んでくださった方が、こう書いてくださっていました。
「学校で習う解剖や生理学を勉強しても、実際の患者さんを目の前にするとどうしていいのか分からなかったりします」
この一文が、いちばん本質を突いていると思っています。
解剖学も生理学も、知識としては正確です。けれど、目の前に肩が痛い方が座ったとき、その知識は「では今日、どこから触るか」を教えてくれません。
知識は、地図でいえば地名です。地名をいくら覚えても、どの道を通るかは決まりません。
現場で必要なのは、どこから見て、次にどこへつなぐかという道順のほうです。
私がこの6年でいちばんはっきり言えるようになったのは、これです。技術が足りないのではなく、見る順番が決まっていないだけ、ということです。
可動域検査とキネシオロジーは、何のために書いたのか
結論として、体に直接たずねて、原因の場所を絞り込むために書きました。
可動域検査は、施術者と受けている方が、同じものを一緒に見るための道具です。
たとえば、初めて来られた方に、まず前屈をしていただきます。どこまで曲がるか、どこで止まるか、どんな表情になるか。それを本人にも見てもらう。そのうえで一か所に触れて、もう一度前屈をしてもらう。
このとき変化が出れば、触った場所が関係していることを、言葉ではなく体感で共有できます。
キネシオロジーは、その先です。本人の意識では答えられないことを、体にたずねる方法です。
本の第5章で「潜在意識に原因を尋ねる方法」として書いたのは、そこです。頭で考えた答えではなく、体が示す答えを聞く。
この2つを書いたのは、手技を選ぶ前に、そもそも触る場所を決める必要があるからです。
順番でいえば、こうなります。どこに原因があるかを見立てる。次に、どの順番で外していくかを決める。手技は、そのいちばん最後に来ます。
本に書いたのは、この最初の部分でした。
本に書けなかった「順番」とは何か
結論として、順番は、症例を何度も並べ直すことでしか身につかないものだからです。
見立ての点は、本で渡せます。可動域検査のやり方も、キネシオロジーの尋ね方も、文章にできます。
けれど、実際の現場では、点がいくつも同時に出ます。
首も硬い。お腹も硬い。足首も冷えている。睡眠も足りていない。仕事の話をすると表情が変わる。
このとき、どれから外すのか。
ここに正解の一覧表はありません。同じ肩の痛みでも、その方によって先に外す場所が変わります。腰痛だから股関節、という覚え方をすると、次の方で外します。
順番が決まるのは、実際の方を診て、外して、困って、それでも次に来てくださって、必死で考えて、また触ってみるという繰り返しの中です。
私はこれを、修羅場と呼んでいます。
腕が上がるのは、修羅場を何回くぐったかで決まると思っています。セミナーでもDVDでも、そこは上がりませんでした。私は年間100万円以上を技術に使った年もありますが、確信はそこではつきませんでした。
だから、本には書けなかったのです。書いても、読んだだけでは身につかないところだからです。
エネルギーの話がとっつきにくいと感じた方へ、どう読み直せばいいのか
結論として、エネルギーという言葉を、まず「流れ」と読み替えてみてください。
本を読んでくださった方から、こういう感想もいただいています。エネルギーという言葉が出てきてとっつきにくかった、という声です。ご自身がその分野をやっていないと世界観が伝わりにくい、と書いてくださった方もいました。
そのご指摘は、もっともだと思います。
私自身、最初から信じていたわけではありません。気功は後から学んだもので、頭から入っています。半信半疑のまま、体で確かめていった順番でした。
だからこう考えていただくと、読みやすくなると思います。
体には流れがあります。血液が流れています。リンパも流れています。呼吸も入って出ていきます。神経の信号も伝わっています。
この、目に見える流れが滞っている場所には、目に見えない流れも滞っています。逆もまた同じです。
エネルギーという言葉が引っかかるのであれば、まずは可動域検査だけを試していただいて構いません。触る前と触った後で、動きが変わる。その事実だけは、誰が見ても確かめられます。
そこから先に進みたくなったときに、第6章に戻っていただければ十分です。
6年たって、私の見立てはどう変わったのか
結論として、変わらないときに何を疑うか、が変わりました。
本を書いた頃の私は、施術しても変わらないとき、まず自分の見立てを疑っていました。読み違えたのではないか、別の場所ではないか、と。
いまは、その前に確認することがあります。
外したのか、届いていないのか。この2つを分けることです。
見立てが違っていたのなら、立て直す必要があります。けれど、見立ては合っていたのに、お伝えしたセルフケアが実行されていなかったのなら、それは見立ての問題ではありません。
実行されなかった仮説を、外れたと判定することはできません。
この2つを混ぜてしまうと、合っている見立てまで捨てることになります。そして、自分の腕そのものを疑い始めます。
私は若い頃、ここを混ぜていました。変わらないたびに、自分の技術のせいだと思っていました。
いまは、2回目の最初に必ず聞きます。
「初回のあとにお伝えしたこと、どんな感じでしていただけましたか」
この一言で、外したのか届いていないのかが、その場で分かります。
もうひとつ変わったのは、患者さんへの言葉です。
以前の私は、腰が痛いと言われたら「腰の筋肉が硬くなっているので、ほぐしていきますね」と説明していました。間違ってはいません。触れば、その場は軽くなります。
けれど次の週、同じところが同じように硬い。そのとき私は「まだ体が慣れていないので、もう少し通ってください」としか言えませんでした。説明になっていないと、自分でも分かっていました。
いまは、こう続けます。
「腰の筋肉は、いま踏ん張っている側です。踏ん張らせている場所が別にあるので、そちらを先に外します。腰を触るのはそのあとです」
言葉が上手くなったのではありません。順番を持ったので、いま何をしていて次に何をするのかが、そのまま言えるようになっただけです。
本を読み終えた方が、明日から何をすればいいのか
結論として、次に来られた3人の方で、可動域検査だけを丁寧にやってみてください。
順番を身につけるのに、新しい教材は必要ありません。必要なのは、同じ作業を繰り返す場所です。
具体的には、こう進めていただくといいと思います。
まず、施術の前に可動域を見ます。前屈、後屈、回旋。どこで止まるかを、ご本人にも確認してもらいます。
次に、一か所だけ触れます。そして、もう一度同じ動きをしてもらいます。
変わったか、変わらなかったか。それだけを記録します。
3人ぶんやると、自分がどこから見る癖があるかが見えてきます。お腹から入る方もいれば、足元から入る方もいます。感情や生活の話から入る方もいます。
私は先日、90分のオンラインで、3つの症例に「自分ならどこから見るか」を書いていただく時間を作りました。39人の先生が答えてくださって、入口は5つに分かれました。
このとき分かったのは、経験の長さで分かれたのではない、ということです。何を持っているかで分かれていました。
そして、腰痛の症例で「腰」と書かれた方は、39人のうち1人でした。
皆さん、もう分かっておられるのです。腰痛の答えが腰にないことを。
分かっているのに迷うのは、入口がないからではありません。入口が多すぎて、どれを先にするかが決まらないからです。
だからこそ、順番を並べ直す作業に意味があります。
よくある質問
『自律神経療法の教科書』は、どんな人に向いていますか?
施術の経験があって、手技は持っているのに結果が安定しない、と感じておられる方に向いています。逆に、手技そのものを新しく覚えたい方には物足りない内容です。そこは正直にお伝えしておきます。
手技が書かれていないなら、何が書かれているのですか?
どこに原因があるかを見立てる方法です。可動域検査、キネシオロジーによる尋ね方、経絡やチャクラ、頭蓋への触れ方、そして施術だけでは変わらない理由とセルフケアの伝え方までを書いています。
国家資格がなくても読めますか?
読めます。ただし、体に触れる仕事をされている前提で書いています。解剖学の基礎的な用語は説明なしで出てくる箇所があります。
キネシオロジーは、独学で身につきますか?
尋ね方の型は、本を読めば分かります。ただし精度は、実際の方で数をこなさないと上がりません。本の第5章に精度を上げるための注意点を書いていますので、そこを繰り返し確認しながら試していただくのがよいと思います。
エネルギーや気の話を信じられなくても、使えますか?
使えます。可動域検査は、触る前と後で動きが変わるかどうかを見るだけなので、信じるかどうかとは関係なく確かめられます。そこから始めていただいて構いません。
本の内容を、そのまま自分の院で使ってよいのですか?
はい、そのために書きました。ご自身の現場に合う形に変えていただいて構いません。
DVD『自律神経整体!』とは、どう違いますか?
DVDのほうが、実際の手の動きが見えます。第1巻が可動域検査編、第2巻が症状別の施術編で、うつやパニック、アトピー、めまいや耳鳴り、不眠、頭痛について、それぞれの問診の要点と手順を映像で解説しています。2018年にビーエービージャパンから出したものです。
本のほうは、その手前にある考え方と見立ての順番を書いています。手の動きを見たい方はDVD、なぜそこを触るのかを知りたい方は本、という役割の違いです。
もし手技のやり方を探して本を手に取られたのであれば、DVDのほうが先だったかもしれません。順番が逆になってしまった方には、申し訳なく思います。
本を読んでも変化が出ないときは、どうすればいいですか?
見立てが違っていたのか、それとも見立ては合っていたけれど実行されていなかったのかを、まず分けてみてください。セルフケアが実行されていない場合、その見立てはまだ試されていない状態です。
順番を身につけるのに、どれくらいかかりますか?
人によりますが、私は10年かかりました。ただしそれは、手技を増やすほうに時間を使っていたからです。症例を並べ直す作業に絞れば、もっと短くなると考えています。
著者に質問することはできますか?
整体師・鍼灸師の方が集まっているオンラインの場を用意しています。そちらで症例を出しながらやりとりをしていますので、よろしければお越しください。
最後に
本を書いてから6年がたちました。
いま読み返すと、足りないところがあります。手技を書かなかったことは、いまでも間違っていなかったと思っています。けれど、順番をどうやって身につけるのかについては、あの本では説明しきれていませんでした。
書けなかったのは、それが文章ではなく、繰り返しの中でしか身につかないものだったからです。
いまは、現場で使っている資料をまとめて公開しています。症状別の見立て辞典、患者さんに伝わる説明の設計図、内臓疲労と体質のチェック表、口コミのお願い文のテンプレートなど、全部で20本あります。出し惜しみはしていません。
見立てだよりにご登録いただくと、この20本をまとめてすぐにお渡しします。公式LINEからも受け取れます。整体師・鍼灸師だけが集まっているオープンチャットもあります。
読んでも、順番の決め方と手の使い方は身につかないからです。そこは、症例を並べ直すことでしか埋まりません。
だから資料は全部お渡しして、並べ直しのほうを、整体師・鍼灸師だけが集まる場でやっています。
本を読んでくださった方、そして期待外れだと感じてくださった方に、この記事が6年越しの答えになっていれば嬉しいです。
常若整骨院 冨高誠治
※ 本記事は施術者に向けた内容です。体の症状でお困りの方は、まず医療機関にご相談ください。当院の施術は医療行為ではありません。











