回数券が売れない整体院は、説明が下手なのではありません。断られた言葉を読めていないだけです

会計の前に立った患者さんに、回数券の案内をする。返ってきたのは「ちょっと、考えておきますね」。

「はい、もちろんです」と笑って返す。患者さんが帰ったあと、ベッドを整えながら、頭の中で同じ場面を何度も再生する。言い方が悪かったのか。高く見えたのか。やっぱり自分は売るのが下手なんだ。

この場面に心当たりがある先生に、この記事を書きます。結論から言います。売れなかった原因は、説明の上手い下手ではありません。患者さんが口にした断りの言葉を、そのまま受け取って終わりにしているからです。断りの言葉には、それぞれ中身があります。中身が読めれば、次に何を足せばいいかが見えてきます。

回数券が売れないとき、まず何を疑えばいいのですか

説明の言い回しより先に、断られた言葉の種類を疑ってください。

回数券が売れない院では、よく「もっと上手く説明しなきゃ」と、話し方の練習に向かいます。けれど、練習しても変わらないことが多いのです。理由は簡単で、断られた原因が説明の中にないことが多いからです。

私は開業したばかりの頃、回数券を作って患者さんを縛ろうとして、揉めました。最初の問い合わせの電話で、患者さんを怒らせたこともあります。そのとき私がやったのは、話し方を変えることでした。言葉を丁寧にして、お得さを強調して、もう一度案内する。結果は、さらに足が遠のくだけでした。

あとから分かったのは、あのとき患者さんは「言い方が嫌だった」のではなく、「まだ買う理由が自分の中にない」と言っていたのだということです。言葉の上手さを磨く前に、断りの言葉の中身を読む。順番が逆だったのです。

「考えておきます」は、断りの言葉なのですか

断りというより、まだ判断の材料が足りない、という合図です。

「考えておきます」と言う患者さんの多くは、嫌がっているわけではありません。何を考えればいいのか、自分でも分かっていない状態です。体は少し楽になった。でも、この先どうなっていくのか、どのくらい通うものなのか、その見通しが手元にない。だから、返事を先送りにします。

ここで追いかけて、もう一度お得さを説明すると、患者さんはさらに構えます。必要なのは、説明を足すことではなく、見通しを一つ渡すことです。

私なら、こう言います。「今日の状態を見ると、次の1週間、調子がどれくらい持つかが大事です。回数券はいったん置いて、次回、持ちを一緒に見てみましょう」。

買ってもらう話を引っ込めたように見えますが、実は逆です。次に来る理由が、患者さんの中に一つできました。回数券は、その理由が育ったあとに出す道具です。この順番の話は、見立ての順番とも重なります。

「高いですね」と言われたとき、何が起きているのですか

金額そのものより、払う理由がまだ言葉になっていないことが起きています。

「高いですね」の一言で、頭が真っ白になる先生は多いと思います。値引きをするべきか、説明を重ねるべきか。どちらも、ほとんどの場合うまくいきません。

患者さんが見ているのは、金額と、自分の体の変化の釣り合いです。変化がまだ実感できていない段階では、どんな金額でも釣り合いません。逆に、自分の体が動いたことを確かめた人は、同じ金額でも別の見え方をします。

1週間は168時間あります。施術で触れているのは、そのうちの1時間ほどです。残りの167時間の過ごし方が、体調が上がるかどうかを決めています。この話を、変化を確かめてもらったあとに添えると、患者さんは来院を「残りの時間を良い方へ使うための確認の場」と受け取りはじめます。

金額が高いかどうかを議論する前に、支払う理由が患者さんの言葉になっているか。そこを見直してください。

「通えるか分かりません」は、どう受け取ればいいですか

通えない事情があるという正直な情報です。そこに合わせて、間隔を組み直します。

仕事の都合、家族の都合、お金の都合。理由はいろいろです。ここで無理に押すと、関係が壊れます。かといって、そのまま引き下がると、患者さんは体が戻ったまま、次の予約を取らずに離れてしまいます。

私は、来院の間隔を回数ではなく、持ちで決めています。最初は週に1回。1週間調子が持つようになったら、2週間に1回。長く悪かった方には、3週間、1か月と、少しずつ間を空けていく道があることも伝えます。

ただし、空けすぎは逆効果です。1か月持たない体に月1回では、毎回ゼロからやり直しになります。だから私は、2週に1回を一度だけ提案します。それでも「月1回で」と断られたら、それは本人が決めたことです。そこから先は、本人の決定を尊重します。

通えない事情を聞いたうえで、その人にとってのいちばん現実的な間隔を一緒に探す。回数券は、その間隔が決まったあとに、まとめて払う便利な形として出します。

案内そのものを出せない先生は、何で止まっているのですか

売る力が足りないのではなく、約束できないものを約束しようとして止まっています。

そもそも案内の言葉が口から出ない、という先生もいます。これは営業が苦手だからではありません。「10回コースです」と言った瞬間、こちらは「10回でなんとかします」という約束をしたことになります。けれど、悪い方で安定している体が何回で動くのかは、本当は誰にも言い切れません。

言い切れないことを言い切ろうとするから、声が小さくなります。気功やキネシオロジーのように体の奥まで見えるようになった先生ほど、見えているぶん、断定できないことも分かってしまいます。手が止まるのは、誠実さの裏返しです。

必要なのは、強気になることではありません。約束する単位を変えることです。回数は約束できなくても、次回までの見通しなら約束できます。「今の調子がどれくらい持つか、次回、一緒に見てみましょう」。この一言なら、迷いなく言えます。

買ってもらったのに、通ってくれないのはなぜですか

回数券を買った時点では、通う理由がまだ患者さんの言葉になっていないからです。

回数券は売れた。でも、期限が近づいても残りが減っていかない。こういう相談もよく受けます。この場合、売れたことを喜ぶより先に、振り返ることがあります。

買った人は、効いているかどうかより、元を取れているかどうかを気にし始めます。体の話をしていたはずが、いつの間にかお金の計算の話になる。少し戻った週に、「やっぱり意味がなかったのかも」と疑いが出る。揉める入口は、いつもここです。

回数券を渡すとき、同時に渡しておきたいものがあります。今の位置です。ベストの状態を10として、今は7割ほど。ここまで上がると、体は自分で良い方へ行こうとします。この物差しを一つ決めておくと、患者さんは自分の現在地を自分の言葉で言えるようになります。通う理由を、人に説明できる。そこまで育った人は、回数券を使い切る前にやめません。

提案は、何回までにしておけばいいですか

同じ内容を押す回数は、1回か2回までです。

断られたあとに、案内を重ねるほど、関係は重くなります。1回目は変化を確かめたあとに出す。「考えておきます」と言われたら、次回の持ちを確認してから、2回目を出す。それでも決まらなければ、そこで止めます。

止めることは、諦めることではありません。患者さんが自分で決める余白を残すことです。決めさせられた人は続かず、自分で決めた人は続きます。回数券を売る目的は、売上を上げることの前に、続けて通ってもらえる形を作ることだと、私は考えています。

売れなかった日の夜、何を確認すればいいですか

自分の説明を反省する前に、患者さんが何と言ったかを書き出してください。

売れなかった日は、自分を責めたくなります。けれど、責めても材料は増えません。増えるのは、患者さんの言葉の記録です。

次の3つだけ、紙に書いてみてください。

1. 案内したのは、変化を確かめてもらったあとだったか、前だったか
2. 断りの言葉は、考えておく、高い、通えない、のどれに近かったか
3. 患者さんは、自分の今の位置を言葉にできていたか

これを数人分続けると、売れない原因が自分の話し方ではなく、どの場面に偏っているかが見えてきます。多くの場合、変化の前に案内を出していたか、見通しを渡せていなかったか、のどちらかです。偏りが見えれば、直す場所は一つで済みます。

明日から、何を変えればいいですか

変えるのは3つだけです。

1. 回数券の案内を、変化を確かめてもらったあとに回す
2. 断られた言葉を、考えておく、高い、通えない、の3つに分けて受け取る
3. 回数ではなく、次回の持ちを一緒に見ると伝える

技術は十分にある先生ほど、会計の場面だけ開業初日のまま止まっていることがあります。技術は積み重ねられるのに、お金の伝え方だけは誰からも教わらないからです。上手く売ろうとしなくて大丈夫です。経験を積みながら、断られた言葉を読めるようになっていけば、説明は自然に変わっていきます。

よくある質問

回数券が売れないのは、価格設定が悪いからですか?

価格だけが原因であることは、あまり多くありません。見直す順番は、案内を出したタイミング、見通しを渡せていたか、患者さんが自分の現在地を言えていたか、です。そこを整えても動かないときに、はじめて価格を考えます。

「考えておきます」と言われたら、どう返せばいいですか?

追いかけず、見通しを一つ渡します。「回数券はいったん置いて、次回、今の調子がどれくらい持つかを一緒に見てみましょう」と伝え、次の予約につなげます。買うかどうかではなく、次に来る理由を作ることを優先します。

「高い」と言われたときに、値引きしてもいいのですか?

おすすめしません。値引きは、金額が理由だったときだけ効きます。多くは、支払う理由がまだ言葉になっていないことが原因です。値引きの前に、変化の説明が足りていたかを振り返ってください。

回数券を買ってもらったのに、通わなくなる人にはどう対応しますか?

責めずに、今の位置を一緒に確認するための連絡を一度だけ入れます。通えなくなった事情があるなら、間隔を組み直します。買った事実より、通う理由が育っているかを見ます。

回数券は、いつ案内するのがいちばんいいですか?

体の変化を本人が確かめたあとです。変化の前に出すと、信じるかどうかを判断させる立場に患者さんを置いてしまいます。変化のあとなら、同じ説明が納得に変わります。

何回まで提案してよいのですか?

同じ内容は、1回か2回までです。断られた理由を聞いたうえで、2回目は内容を変えて出します。それでも決まらないときは止めて、本人の決めたことを尊重します。

開業したばかりで、症例が少なく見通しを語れません。どうすればいいですか?

最初から正確な見通しを持っている先生はいません。1週間持つか、2週間持つかを一人ずつ確かめ、院の中に自分の目安を積み重ねてください。目安が少ないうちは、回数を約束しない話し方のほうが、むしろ自分を守ってくれます。

回数券そのものをやめたほうがいいのでしょうか?

やめる必要はありません。まとめて払うほうが患者さんの負担が軽くなる場合もあります。大事なのは、回数券を最初に出さないことです。間隔の見通しを渡したあとに、その間隔を支える形として出します。

医療機関に通っている患者さんにも、同じ案内をしてよいですか?

使えます。ただし、急な痛みの悪化や、原因の分からない症状があるときは、先に医療機関での受診をすすめてください。そのうえで、通院と並行して来院のペースを相談する形にします。

1回で大きく変わった患者さんにも、間隔の話は必要ですか?

必要です。大きく変わった人ほど「もう大丈夫」と思いやすく、その状態が安定する前に元へ戻りやすいからです。変化が大きいほど、説明を省かないようにしています。

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この記事は施術者向けに書いたものです。体の症状でお困りの方は、まず医療機関を受診してください。

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